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『ティアムーン帝国物語(1)』わがまま姫のやり直しの物語の感想(ネタバレ注意)

 

ティアムーン帝国物語はいわゆる「やり直し」の物語です。

全くの別人になって生きていくタイプの異世界転生・転移ものの作品も面白いですが、ティアムーン帝国物語の場合は行き着くところまで行き着いての大失敗。処刑されてしまうほどの我儘の限りを尽くして生きてきた主人公が幼い頃の自分に転生して、今度は処刑されないように生きていくという物語で、あくまでも同じ人生のやり直しであるという所に面白さがあります。

断頭台の回避という目標は、一度経験したことなら簡単に回避できてしまいそうな気もしますが、主人公のミーア姫が大国の皇女様であるという事情はミーア姫が自身の行いを改めるだけでは断頭台の回避は困難な状況に追いやっています。

そして、ティアムーン帝国物語の最も面白いと思える部分は、転生した後のミーア姫はあくまでも自分ファーストな我儘皇女様のままという所です。

それでは断頭台は回避できないのではないかと思われるかもしれませんがそういうわけではなく、全てが言動が断頭台の回避の、如いては自分のためのものになっているので結果的に人格者のような言動に見えてしまうのが面白いんですよね。

つまり、簡単に言ってしまえば主人公のミーア姫はその本質とは裏腹な評価を次々を獲得していくことになるわけです。

考えてみれば、我儘だけではなく帝国の崩壊をキッカケに処刑されたわけなので、それを回避するための言動が帝国を良くしようとするものになっていくのは必然。だからこその裏腹な評価なわけですが、この主人公の本質を人格者にすることなく、人格者のように見えるような構図が上手いなぁと思いました。

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本作の概要

我儘の限りを尽くして生きてきたティアムーン帝国の皇女であるミーア姫は、帝国の崩壊の中で投獄され、ついには処刑されてしまいます。

しかし、それは物語の終わりではなく始まりで、12歳の頃の自分に転生したミーア姫は二回目の人生では断頭台を回避するために、帝国を良くしていくことを決意します。

本作の見所

断頭台から始まるやり直し

断頭台から始まる物語と聞いて個人的に真っ先に思い浮かんだのは『ONE PIECE』でした。(笑)

あれで断頭台から始まるのは大海賊時代ですが、別に処刑されたゴールドロジャーの人生のやり直しが始まるなんてことはなく、その意思を継ぐ海賊たちの物語という感じですよね。

そして、ティアムーン帝国物語では処刑されたミーア姫が12歳の幼い子供に戻って人生のやり直しを始めます。

主人公のミーア姫は、我が身の安全が第一というギロチン回避のためにしか行動しない自分本位なお姫様ですが、そのギロチン回避のための言動が結果的に良い方向に向かうという物語で、それだけ聞くと大海賊時代のように壮大な物語ではないように聞こえるかもしれません。

しかし、大国のお姫様にとってのギロチン回避のための行動とは結果的に国を良くしていくものに繋がるわけで、実は何も考えていないのに国を動かしていく意外と壮大な物語になっていくことを予感させます。

そうでなくても「過去の経験をやり直せたら」とか「今の自分がやり直せたらもっと上手く生きていけるのに」とか、誰でも一度は考えたことがあるのではないでしょうか?

そういうイフを疑似体験させてくれる作品でもあると思います。

信頼できる人間

さて、断頭台送りになる前には劣悪な環境で投獄されていたミーア姫にとって、庶民の一か月分の給金並みの食事は、それがたとえかつては嫌いな食べ物であったとしても美味しく感じられるようになっていました。

「堪能いたしましたわシェフ。わたくしのためにこんなにも美味しい料理を・・ご苦労様でした」

前回の人生ではクビにしてしまったシェフが、実はミーア姫の健康をとても気遣っていることに気付いて労うところからはじめ、あくまでも自分に素直な言動をしているだけで本質が変わっているわけではないのですが、ミーア姫は徐々に人徳を獲得していきます。

中でも、前回の人生で我儘姫として振舞っていた頃には辛く当たっていたのに、断頭台に送られる直前まで甲斐甲斐しくミーア姫の世話を焼いてくれた恩人アンヌとの再会は、ミーア姫にとってはどんな権力者よりも信頼できる人との出会いになり得ました。

「あなたを今からわたくしの専属メイドにいたします。以後わたくしの身の回りを担当なさい」

かつて忠義に報いることのできなかったアンヌに、今回の人生では報いることにしたミーア姫でしたが、アンヌはあくまでもドジなところのあるメイドでしかなく、この時点のミーア姫にとっては使用人の一人でしかないハズなので、この取り立てに驚く周りの反応が面白いですよね。(笑)

聡明な皇女

ところで本当に賢い人とはどういう人のことを指すのでしょうか?

様々な解釈があるでしょうし、その場面によっても違いは出てくるものとは思いますが、しかし将来を見越せる人は少なかれ聡明であるのではないかと思います。

過去を学ぶことができても、そこから先を見出せなければ過去を学ぶ意味が無いし、そもそも過去を学ぶ意味は先を見出すところにあるはずだからです。

そういう意味でミーア姫の頭はそこまで良くはないようですが、過去が未来であるミーア姫にとって将来を見越す必要はそもそもなく、答えの書かれた日記帳と自分自身の記憶から将来を見越すように見える言動ができるわけですね。

「帝室にあなたのような聡明な方がいるとは感服いたしました」

アンヌからもですが、有能だけど賢すぎて疎まれている若手役人であるルードヴィッヒからも聡明な皇女として認識されてしまうのが面白いです。

当の未来のルードヴィッヒからの受け売り、それも今より情報量が豊富になっているであろう未来のルードヴィッヒからの受け売りなので、そりゃあ評価されますよね。

ルードヴィッヒからしてみれば、知らないとはいえいずれ自分が思い至ることをミーア姫が仄めかしてきているわけで、いずれ自分が思い至ることだから察しは良いし、仄めかしているだけのミーア姫のことは自分を試しているように見えるわけです。

もっと簡単に言えば未来の自分からのヒントを与えてくれる存在がミーア姫になっているという構図と言えますね。

しかも、これもまあミーア姫からしたらギロチン回避のためのことを言っているだけなのですが・・面倒くさいので言ってしまうと、この作品におけるミーア姫の周囲に影響を与える行動のほとんどはギロチン回避の目的になっています。

その場その場では様々な効果を生んでいるように見える言動ですが、その目的だけはとにかく一貫しているのが面白いですね。

慈悲深い皇女

貧民街に足を運び、ひどい匂いに嫌な顔一つせず、飢えた少年には施しを与え、この地区を良いものにすべくための費用の足しにとお気に入りの櫛を差し出す。

これがかつて我儘姫として振舞い、帝国崩壊後には処刑された人物の行動です。(笑)

その言動が実は自分本位なものであるところは変わっていないものの、前回の人生の経験も活かされているのが面白いところですね。

ひどい匂いに嫌な顔一つしなかったのは、自分がそれ以上に劣悪な環境に投獄されていたことによる慣れもありましたし、飢えた少年に施したのも自身の飢えの経験があったからこそです。

お気に入りの櫛もいずれ奪われるならギロチン回避の足しにさっさと手放した方がマシという考えでしたね。

ともかく、この地区で将来発生する流行病が帝国の財政を圧迫しないようにするための行動なのですが、このことはミーア姫の人物像を聡明かつ慈悲深いものに変えていきます。

総括

いかがでしたでしょうか?

原作小説も面白いと感じましたが、このコミカライズ版を読んでティアムーン帝国物語はとても漫画に向いている作品なのではないかと思いました。

ミーア姫の周りのキャラクターがミーア姫に心酔していく過程が、その表情が描かれていることで文字だけの表現より分かりやすくなっているからなのだと思いますけど、いずれにしてもこの手の作品のコミカライズ版は成否がハッキリすることも多いものの、少なくともティアムーン帝国物語の場合はかなりの成功例であることは間違いないと言えるクオリティでした。

原作小説も面白いですが、コミカライズ版も追っていきたいと思います。