『テロール教授の怪しい授業』という怪しい漫画を読んでみた感想(ネタバレ注意)
『テロール教授の怪しい授業』という漫画の1巻。
何だか異質な雰囲気の漫画が書店に並んでいるのが気になって何気なく購入したら意外と面白かった作品です。
独特な雰囲気の漫画でしたが、どこかで感じたことのあるノリだと思ったら作者が『幼女戦記』と同じカルロ・ゼン先生なのですね。
内容的にはテロやカルトとは何ぞやということを面白おかしく、そして過激に問いかけるようなものになっています。
こういうのを良くも悪くも問題作って言うんでしょうかね?
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本作の概要
泣く子も黙るローレンツ・ゼミには、今年もそうとは知らない学生たちが集まっている。「あなたたちはテロリスト予備軍です。」予想だにしない一言に愕然とする生徒たち。脱落=テロリスト認定。恐ろしすぎる授業が始まる――。そもそもテロリズムとは何か? 日常に潜むテロの根っことは? 今までメディアで語られてきたテロ論は全部ウソ。テロ教授が教える、知るのは怖い、知らないのはもっと怖い「テロとカルト」の真実。
※出版社書籍情報より引用
テロリストとは何なのか、どのような人間がテロリストになってしまうのか、そういった先入観や思い込みで曖昧に理解できているようで実はできていないことを教えてくれる漫画になります。
ティム教授の時に過激で、時に過激で、そして時に過激な授業が非常に興味深く面白いですね。
本作の見所
騙されやすい人間とテロリスト予備軍
大学で新入生を勧誘するサークルに混じり、いかにも怪しい奴らから助けてくれた、いかにも良さそうな若い男女。そして彼らもまた実は怪しい勧誘者でした。
僕も大学生の頃、いかにもな連中に声を掛けられたことがあります。
子供と大人の間。それなりに自立しているつもりだけど実はまだまだ子供である大学の新入生というのは、ぶっちゃけこういう連中にとって良いカモなのかもしれませんね。
そんな新入生を助けたのはティム教授。
そして、そんなティム教授の使った新入生の心を掴むための手法がまさにアレな連中の常套手段であることに気付いた人は多いと思います。
「このテロリストどもめー!!!」
そして、ティム教授の行動に対して何の疑問も持たなかった人は、なかなか過激な極論ですが人に騙されやすい、テロリストになり得る資質を持っているということなのだと思います。
本作品ではティム教授の行動がかなり露骨に描かれているので、さすがに何も感じなかった人はほぼいないと思いますが、現実に似たような状況に遭遇することがあったとして、必ずしも騙されない自信は僕にはありません。
「考えたつもりだからこそ騙されますからね」
考えた先に罠を仕掛けるのは騙しの常套手段ということですね。
これは改めて言われるまでもない周知の事実ですが、それでも改めて言われると「考えたつもり」「わかったつもり」「知ってるつもり」になっていることには枚挙に暇がないような気もします。
テロリストとは?
いかにも怪しい人物の写真を見せ「この中でテロリストは誰でしょう?」とティム教授は問いかけます。
これはなかなか興味深い問題ですね。
何というか、いわゆる水平思考を試されているような感じがします。
生徒たちは口々に様々な答えを口にしますが、結局のところこの問題は「テロリストは誰なのか」を問う体で「テロリストとは何なのか」を問うています。
テロリストとは何なのか?
これは作中でも語られている通り、特に9・11事件以降にはテロリストに対して僕も固定概念にも似たイメージを持っていました。
9・11事件のあった頃とほぼ同時期に世界史の授業でロペスピエールのことを学んでいたにも関わらずです。
こういうのって改めて言われるとハッとしますよね。
テロリストの根っこ
知性の伴わない善意こそがテロリストの根っこであるとは、これもまた興味深いですね。
自分が何者なのかも理解できていないと、自分自身を定義付けしてくれそうな正義に飛び付く。善意があるからこそ人は簡単に騙され、自分に正義があると思い込むということでしょうか?
そう考えると、大学生くらいって一番「自分が何者なのか」を分かっていない人間が多そうですよね。
そもそも多くの人にとって大学自体が「自分が何者になるのか」を探す場所になっていますから当然と言えば当然ですけど。
そして、そういう意味では騙されやすい人に老人が多いのも納得がいきます。現役で仕事をしていた時期には確かに何者かであった人も、退職して老人になれば自分が何者なのかがわからなくなってしまうのかもしれませんね。
テロリストに理解を示すこと
「先生! それ危険じゃないんですか!?」
テロリストに理解を示すというと、何だか危険思想を謳っているように聞こえますが、作中でも語られている通り理解することと共感することは別物ですよね。
しかし、これは秋川君のように拒否反応を示す人も多いのではないでしょうか?
テロリストに限らず、異常な犯罪者などに理解を示すなんて言うと、それ自体を危険視する人が確かに多いような気がします。
頭のおかしい人間に理解を示すなんて・・ってね。
しかし、テロリストが社会の敵だと思うのなら、敵のことは知るべきなのでしょう。
テロリストがなぜ自爆テロをするのか?
それを秋川君のように「頭のおかしい狂信者だから」と片付けてしまっていたら、社会はいつ発生するかわからないテロに怯えることしかできません。
だからこそテロリストに理解を示し、彼らが何故テロを起こすのかを知ることが大切なのでしょうね。
総括
いかがでしたでしょうか?
僕は普段から自分の得ている情報に対して「偏りがあるものであること」「真偽が不明であること」「先入観を持つべきではないこと」は分かっているつもりですが、この『テロール教授の怪しい授業』を読んだら、より一層そういった意識が増しますね。
何とも過激な作品ではありますが面白かったと思います。