『私以外人類全員百合(1)』百合と王道SF設定の融合漫画の感想(ネタバレ注意)
『私以外人類全員百合』。
なかなか強烈なタイトルの漫画ですが、友人に勧められたのと絵柄が好みだったこともあって読んでみました。
ある時期から急激に増えましたよね。
『百合』というキーワードを前面に押し出したり感じさせたりする作品が。
僕の場合、例えば『ゆるゆり』のような日常系の作品の中で女子たちが仲良くしている作品は嫌いではありませんが、百合っぽさが強すぎたりリアリティがありすぎる作品はあまり好きではなくて、実はタイトルに『百合』が入っている作品を読むこと自体が稀だったりします。
少なくとも記憶に残っている作品は、それこそ『ゆるゆり』くらいかもしれません。
なので『私以外人類全員百合』も友人に勧められたというキッカケが無ければ、恐らく手に取ることも無かった作品なのですが・・
これが想像以上に面白かった!
タイトルからは分かりづらいですが、『私以外人類全員百合』はいわゆる並行世界を題材としたSF作品になっています。
主人公は男性も存在する普通の世界の住人で、いつの間にか女性しか存在しない並行世界に迷い込みます。
男性が絶滅して存在しないその世界では、単性生殖の手法が確立され女性のみで人類が繁栄しているのですが、突然そんな世界に放り込まれた主人公の困惑が面白いですし、「元の世界に戻るためには?」というシリアスでSF的なテーマも興味深い作品だと感じました。
『百合』というキーワードは強烈で、僕と同じでそのキーワードを苦手とする人も多いような気もするのですが、『私以外人類全員百合』はそういう苦手意識がある人が読んでも面白い作品なのではないかと思います。
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本作の概要
主人公の潤野茉莉花はごくごく普通の女子高生ですが、ある日気が付けば周囲が普通ではなくなっていました。むしろ、普通であるはずの茉莉花の方が異質になるくらいに何かがおかしい日常。
なぜか女子同士のカップルが当たり前のように存在して、そして見当たらない男性たち。
茉莉花の知る男性は居ないかよく似た女性になっている。共学のはずの高校には女子生徒しかおらず、挙句の果てに弟は妹になってしまっている。
そんな普通なようでいて普通ではない世界に放り込まれた茉莉花は、香散見リリという理解者を得ながらも元の世界に戻るために奔走します。
本作の見所
女性しかいない世界
「”ある日突然友人ふたりが女の子同士で付き合いだしていたんだが”とか、ラノベのタイトルじゃあるまいし・・」
確かにラノベのタイトルにありそうな潤野茉莉花のモノローグから始まる『私以外人類全員百合』。
文字通り、茉莉花の友人同士(両方女子)のキスを目撃したところから、茉莉花はその日常に違和感を覚え始めます。
共学校なのに男子はいなくて、当たり前のように女性芸能人同士の婚約発表が報道されている。
「私の知っている世界とちがーうー!!」
そして茉莉花は気付きます。
今自分がいるのは女性しかいない、自分が知っているのとは別の世界であることを。
そんな中、茉莉花はたまたまチンピラ(これも女性)から助け出した同級生である香散見リリが並行世界について書かれた量子力学の本を読んでいたのを見て、もしかしたら理解が得られると思ったのか自らの置かれた状況を相談します。
「男性がいる世界から来た? 信じられませんね。ま、あなたの頭がおかしいってのが一番蓋然性が高いかと」
まあ、とりあえずは信じてもらえません。(笑)
そりゃあそうですよね。現実の並行世界について書かれた本を読んでいたり、それこそ真剣に量子力学を研究している人の中でも、いきなり自分が別の世界から来たと言われたら一笑に付すところです。
稀にいそうではありますけど、リリはそういう感じのキャラクターではありませんしね。
「初めて見ました変態って」
同性愛者という言葉ならまだしも異性愛者という言葉は初めて聞きましたが、いわゆるノーマルである茉莉花の方がこの世界では変態扱いですらあります。
しかし、こうして変態扱いするということは良くも悪くもリリが茉莉花に興味を持ったということ。
「気が変わりました。信じた気になってあげてもいいです。あなたの話」
リリと付き合うことを条件に、とりあえず茉莉花は問題を共有する理解者を得ることができました。
それにしても、女性しかいない世界というのはなんとも想像し難いものがありますね。
そもそも、一応もともとは男性がいたという歴史があるからなのだとは思いますが、女性しかいない世界に性別という概念があるというのにも違和感がありますし、どのような手法なのかは知りませんが単性生殖できる時点で果たしてそこに性別があるのかというような気もします。
フィクション作品なので細かいことは気にせず楽しめば良いのですけど、女性しかいない世界というものが意外と興味深いテーマだったのでちょっと気になってしまいました。(笑)
近年では異世界転生ものの作品が主流ではありますけど、よく似た並行世界というのも使い古された手法であるものの面白いですよね。
僕の場合、初めてそういう作品に触れたのは『ドラえもん』のあべこべ世界ミラーのエピソードでしたが子供心にものすごく興味を惹かれた記憶があって、『私以外人類全員百合』にも同じような興味を惹かれる何かがあるのは確かだと思います。
同性間の恋愛
突然ですが同性間の恋愛ってどう思いますか?
僕自身はいたってノーマルですし、周囲にいわゆる同性愛者の人はいません。(いてもなかなかカミングアウトできるものではないですし、知らないだけかもしれませんけど)
とはいえ、世の中にはそういう人がいることを知っていますし、それを否定するつもりもありません。自分自身が同性に恋愛対象にされない限りはですけど。(笑)
・・で、なんでいきなりこんな話題をしたのかというと、現実の同性愛者と『私以外人類全員百合』に登場するキャラクターでは同じ同性愛でも種類が違うのではないかと思ったからです。
これはあくまでも同性愛のことについてよく知らない個人の見解で、もしかしたら誤解や偏見だと思われるかもしれませんが、現実の同性愛は一般的な恋愛とは種類の違う感情なのではないかと僕は思っています。
元も子もないことを言えば恋愛感情とは生殖のために起きる感情のはずで、だとしたらどうしたって生殖には至らない同性愛は非常に似てはいても根本のところでは別の感情だという考えですね。
しかし、どういうわけか『私以外人類全員百合』の世界では単性生殖を可能としている。
ということは『私以外人類全員百合』の女性キャラクター同士の恋愛は、もしかすると本物の恋愛に限りなく近いものなのかもしれないと思ったわけです。
リリが茉莉花にかなり好意を持っていることはひしひしと伝わってきますが、同性を好きになったことによる戸惑いなんて一切なく、当たり前のように恋愛している感じになっているのも興味深いですね。
三つの伏線と予想
茉莉花は、なぜ女性しかいない並行世界にやってきたのか?
その答えに繋がっていきそうな伏線が1巻には三つあったと思います。三つというか、それらはすべて同じ答えに繋がっているヒントという感じな気もしますが・・
一つ目は、元の世界で付き合っていた茉莉花の彼氏。茉莉花は探したようですがこの並行世界では見つからなかったようです。
「向こうのイメージしてる私と実際の私って別人みたいで、向こうもそう感じてる気がして手も繋げないままで・・」
かみ合わないとか、別人のようだとか、もしかすると茉莉花とその彼氏は最初から別の並行世界同士の相手だったことを示唆しているような気がします。
二つ目は、ちょっと普通ではないくらい茉莉花が「ふつう」に固執する性格であること。
「私が「ふつう」に拘るようになったのって理由があったんだよね。子供の頃ちょっとしたことが原因で友達から距離置かれててさ、それで「ふつうでいたい」ってすごく思うようになった」
意味深に語られた茉莉花の「ちょっとしたこと」が非常に気になるところですが、僕はこれが茉莉花が過去にも並行世界に行ったことがある。あるいはもともと並行世界の住人だったことを示唆しているのではないかと思っています。
三つ目は、リリの発言と大阪。
「あるいは、もしかしてこの事象自体がこちらの潤野さんを発端としている可能性もあるのでは」
リリの発言の中にある「こちらの潤野さん」というキーワードが、いずれにしても両方の世界の茉莉花が何かしら関係していることを示唆していますね。
もう一つ「大阪」がどうこう言ってもいましたが、これの意味は今のところよく分かりませんね。リリがもともと関西に住んでいたということが関係するのかもしれませんが、関西といっても大阪ではないようですし、今のところ何のヒントになっているのかは分かりません。
これらのヒントからなんとなく持てる個人的な答えの見解はあるのですが、さすがにヒントが少なすぎるので現時点での言及は避けたいと思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
読後、もしかしたら知っている人もたくさんいるんだけど何かが違う世界に迷い込むことは、気付いたら知っている人が誰もいない世界に迷い込むことよりも不気味なのではないかと少し考えてしまいました。
茉莉花の困惑が徐々に強まっていく感じが良かったと思います。
あと、個人的にはリリのキャラクターが面白くて好きでした。自分の言動に一人になってから関西弁で後悔しているところが可愛らしいです。
さて、1巻では『私以外人類全員百合』という作品の設定と謎がとりあえず提示されたという内容でしたが、これらがどう回収されていくのかが楽しみですね。