あるいは 迷った 困った

漫画、ラノベ、映画、アニメ、囲碁など、好きなものを紹介する雑記ブログです。

『幽遊白書(8)』短めだけど濃密な名作の感想(ネタバレ注意)

 

暗黒武術会編もいよいよクライマックス。浦飯幽助と戸愚呂弟の最終決戦を残すのみとなりました。最後らしく今までにない長い長い戦闘シーンになりますが、もちろんただ戦っているだけではなく一波乱も二波乱も起きるので飽きることはありません。

そして、暗黒武術会編から間を置くことも無く次は魔界の扉編が始まります。

暗黒武術会編が戸愚呂編だとしたらラスボスの名前から仙水編とも呼べる魔界の扉編ですが、今までの『幽遊白書』の力が強い方が勝利するといったシンプルなバトルではなく、工夫というか戦術の幅が広がるような能力が登場したことでトリッキーさを帯びてきます。

それは同じく冨樫義博先生の次作となる『HUNTER×HUNTER』の念能力を使ったトリッキーなバトルを彷彿とさせますが、なるほど『幽遊白書』の時点でそういう方向性の傾向はあったのだということが分かって興味深いですね。

いずれにしてもこの8巻では既にそのトリッキーなバトルが読める点に注目してほしいです。

?

本作の概要

暗黒武術会編の決勝戦中の決勝戦浦飯幽助と戸愚呂弟の死合がついに始まります。

互いが互いにハンデを付けた状態から徐々にヒートアップしていく展開が熱いですが、最後には互いに全てを出し合った決着となります。

そして、暗黒武術会が閉幕してその後、間髪入れずに浦飯幽助の誘拐事件が発生します。暗黒武術会の優勝Tのメンバーが誘拐されるという衝撃の事件から次の魔界の扉編が始まります。

本作の見所

ハンデを付けた状態で試合開始

戸愚呂弟は『幽遊白書』の作中では珍しく自分の強さを分かりやすく数値で示しているキャラクターとなります。

垂金の別荘では20%の力で戦う戸愚呂弟に浦飯幽助は苦戦し、その後暗黒武術会に誘われた際には60%の力に恐怖します。暗黒武術会での戦闘シーンでは45%の力で圧勝するところを見せつけていますが、対戦相手もこれまで浦飯Tが苦戦してきたチームと同レベルクラスであると仮定すれば実力差が分かりやすいですね。

それに、幻海を相手にした時こそ相手への敬意から80%までの力を出していますが、浦飯幽助に力を継承した後とはいえ幻海も45%の戸愚呂弟を相手に苦戦しています。

そういうわけで45%の戸愚呂弟にすらまともに闘えたキャラクターは他にいない状況なわけですが、果たして幻海から力を継承した浦飯幽助はどうなのかというところ。

結果は80%の戸愚呂弟と良い勝負を繰り広げることになり相当なパワーアップを遂げたらしいことが垣間見えるのですが、戸愚呂弟は80%と言及している通りまだ全力ではありません。そうすると浦飯幽助の方が不利なのか・・と思いきや、どうやら浦飯幽助も呪霊錠という幻海に施された修行用の技を身に付けたまま闘っていました。

つまり、両者とも自らにハンデを付けた状態で試合していたということで、呪霊錠を外した浦飯幽助は80%の戸愚呂弟を圧倒し、ついには100%の実力を引き出すまでの強さを見せつけます。

このように両者が徐々に隠していた手札を順番に見せていくというか、ギアを上げていくような展開はもどかしくも熱いですよね。

戸愚呂の全力と桑原の犠牲

さて、80%の戸愚呂弟は圧倒した浦飯幽助でしたが、100%の戸愚呂弟は単に20%力が増したというだけではない凄みを感じるほどに進化し、性格的にも分かりやすく冷酷なものへと変わっていきます。それに浦飯幽助は苦戦するのですが、戸愚呂弟の目的は単なる勝利ではなく自分と闘える者を見出すことです。

つまり浦飯幽助の力を引き出す事なわけで、ここで今までの戸愚呂弟であればしなかったであろう浦飯幽助の仲間を犠牲にする方法を取ろうとします。

そしてそのターゲットに選ばれたのは桑原で、浦飯幽助は必死で戸愚呂弟を止めようとするのですがそれも敵いませんでした。

そんな自分が許せない怒りと哀しさから浦飯幽助は100%の戸愚呂弟に迫るほどにパワーアップするのですが、よくある怒りでパワーが爆発するみたいな展開とは少し異なっているのが興味深いところです。

それに浦飯幽助はどこかで戸愚呂弟の強さに憧れていた部分があったようですが、桑原の犠牲で得た自分の強さに哀しさを覚えたからか、全てを捨てて強さを手にしようとする戸愚呂弟の考え方をここで始めて否定します。

しかし、これは桑原の犠牲で手にした自分の強さも否定しているわけで、そんな哀しい強さは不安定でパワーアップした直後は闘う姿勢があまり見えないような状態になっていました。

ですが、自分はもう捨てないと決意したところで本当の意味で吹っ切れます。

単に仲間が死んだから怒りで強くなったというよりも、こういう葛藤があってはじめて力を発揮できるという展開が面白いですよね。

決着とその後

さて、浦飯幽助が吹っ切れて強くなってついに全力の戸愚呂弟とまともに闘えるようになりましたが、その決着は互いに全てをぶつけた上でのギリギリのものでした。

ギリギリだったわりには吹っ切れた後の浦飯幽助には謎の安心感があったのが興味深いところです。

ともあれ、言うまでも無く浦飯幽助の勝利で暗黒武術会は幕を閉じ、実は戸愚呂弟が殺しきれていなかったけど死んだふりをしていた桑原も復活して大団円・・って、幻海は戸愚呂弟に殺されたままじゃん!

実は幻海の遺体は、浦飯Tが優勝した場合に幻海の復活を望むであろうと予想してコエンマが冷凍保存されていたこともあり、浦飯Tの優勝後に復活を遂げることになるのですが、この遺体を保存しておくことを提案したのは敗者である戸愚呂弟だったということらしい。そこからは戸愚呂弟が実は最初から自身が負けることを、ただし全力を出し尽くした上で負けることを望んでいたことが窺えますね。

「たいしたもんだよ。あんたのバカも。死んでもなおりゃしないんだから」

そして、幻海がよみがえる前にあの世で地獄への道へと向かう戸愚呂弟と交わした会話がとても印象的でした。

戸愚呂弟は自分のポリシーを通すために手段を択ばないキャラクターだったものの、死んでも自分を負かした対戦相手の心配をするようなところもあるからこそ魅力的にも感じられるキャラクターなのかもしれません。

不思議な能力を持った三人組

暗黒武術会編で戸愚呂弟にまで勝利した浦飯幽助ですが、読者視点でも最早敵なしの強さになっているように感じられます。

しかし、そんな浦飯幽助が人間の不良風の学生に誘拐されるという事件が発生してしまいます。そもそもが浦飯幽助は霊能力者になる前の普通の人間だった頃ですら無敵の不良だったわけなので、その頃であったとしても意外に感じられる事件ですね。

もちろん、ただの学生が浦飯幽助を誘拐できるはずもなく、何やら不思議な能力を持っているようなのですが、その能力がまた今まで戦ってきた妖怪の能力と比較しても何だか掴みどころのない不思議なものになっていました。

そして、浦飯幽助を助けるために桑原、蔵馬、飛影、ぼたんの4人は誘われるままに浦飯幽助が捕らわれた洋館へと向かいます。

「この家に入った者は決して『あつい』と言ってはいけない。もし言えば・・」

洋館の入り口にはこれまた不思議な忠告の貼り紙があるのですが、なんと本当に『あつい』と言ってしまったら魂を抜き取られてしまうことになります。面白いのは『熱い』のような意味のある言葉だけではなく『あ』と『つ』と『い』を続けて言ってはいけないという厳しめのルールになっている点なのですが、これに蔵馬以外の三人は全員やられてしまいます。

この行使者の設定した禁句を言った者の魂を抜き取る能力の持ち主である海藤優は偶然にも蔵馬の同級生で、蔵馬なみの成績を誇るインテリ優等生でした。というわけでこの二人のインテリ対決になるのですが、両者ともにジッと座ったまま徐々に会話が無くなっていくという言葉にすれば地味な勝負なのに妙な緊張感のある対決になっていました。

まさに今までの妖怪との戦いでは見られなかった特徴的な対決ですが、それだけに海藤優と蔵馬のこの対決は『幽遊白書』の全編通してもかなり記憶に残るものだったのではないかと思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

暗黒武術会編とは打って変わった雰囲気で始まった魔界の扉編ですが、『HUNTER×HUNTER』が好きな人ならこのエピソードを最も面白いと感じるのではないかと思います。

また、相手が妖怪ではなく人間であるという点も今までと異なる興味深いところで、どんな戦いが描かれることになるのかが楽しみですね。