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『幽遊白書(9)』短めだけど濃密な名作の感想(ネタバレ注意)

 

憂鬱そうな仙水忍の表情が印象的な『幽遊白書』の文庫版9巻目。戸愚呂弟と並んで『幽遊白書』のラスボス二大巨頭って感じですが、どちらもどこか哀し気だったり儚げだったりする部分があるのに共通点がありますよね。

これは他の著作も含めて冨樫義博先生の特徴である気もしますが、王道バトル少年漫画の作品のラスボスとしては珍しいような気もします。まあ、そういう部分に個性があるのが魅力なのですが。

魔界の扉編に冨樫義博先生の次回作である『HUNTER×HUNTER』を彷彿とさせるところがあるというのは8巻のレビューでも触れましたが、いよいよそういう雰囲気が強くなってきました。

仙水忍自身も能力的には王道的な感じですけど、性格的には『HUNTER×HUNTER』っぽさがあるのが興味深いところ。

最後の仙水忍は別として、強いから勝利するという単純な構造になっていないのが魔界の扉編の真骨頂ですよね。

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本作の概要

力では劣っていてやり方次第で浦飯幽助たちを貶めることのできる人間は存在するということを幻海のエッジの聞いた諭し方で認識することとなった浦飯幽助たちですが、不思議な能力を持つ人間に次々と翻弄されていきます。

また、相手が妖怪ではなく人間であるが故にトドメを躊躇ってしまうなど、今までにない葛藤があるのも興味深いところ。

そして、そんな不思議な能力を持つ人間を配下に魔界の穴をこじ開けようとする黒幕である仙水忍もついに登場します。

本作の見所

首謀者が似合う幻海

さて、前巻で浦飯幽助を誘拐した上で桑原、蔵馬、飛影を呼び出した三人の学生。その首謀者が明らかになるのですが、まさかの幻海がそこで登場します。

蔵馬は途中から薄々気付いていたと言っていましたが、読者的には割と驚き予想外の展開でした。まあ、説明されてみれば三人の学生は能力を見せつけるだけで相手を害するような様子はありませんでしたし、「試す」という表現がピッタリの戦い方をしていたように感じられます。

そして、そういうことをしそうなキャラクターの筆頭が幻海なのは間違いありませんし、それに効果もありそうですね。

指定した言葉を口にしたら魂を抜かれる。

相手の影を踏んで動きを止める。

触れた相手の姿だけではなく性格や記憶までコピーする。

そういった能力は確かに使いようによっては力だけが強い者にも有効なものに思えます。

何というか、力が全てだと謳っていた暗黒武術会編の戸愚呂弟とは対極に位置するような能力ですが、そういうキャラクターが登場してきたことで暗黒武術会編とは違った面白さが出てきた感じがしますよね。

しかし、登場してきたキャラクターはそういうトリッキーな奴らですが、魔界の扉編の背景にあるのは戸愚呂弟以上の力であるとも言えます。

魔界の扉を開けようとしている奴らがいて、もし魔界の扉が開かれたらB級妖怪である戸愚呂弟以上の力を持つA級、S級の妖怪が脅威として控えているのです。

そんな両極端な脅威が混在しているところに魔界の扉編の面白さがあるような気がします。

はじめての殺人

不穏な表題を付けてみましたが、浦飯幽助が今まで戦ってきたのは基本的に妖怪であり、人間ではありませんでした。喧嘩はしていましたし、幻海の後継者選考会や暗黒武術会編におけるDr.イチガキTとの試合では人間と戦っていますが、少なくとも幻海の後継者選考会は殺し合いという感じではありませんでしたね。

そういう意味ではDr.イチガキTとの試合のみが唯一の例外だったような気がします。いや、正確には幻海のおかげで相手を殺すにまでは至りませんでしたが、初めて人間を殺さなければいけないかもしれない事態への葛藤が描かれていたエピソードだと思います。

そして、魔界の扉編では敵対勢力が人間であり、しかも厄介な能力を持っていたりするので相手を殺さざるを得ない状況に陥るような場面も出てきます。

9巻に登場するドクターの能力を持つ神谷実も浦飯幽助にとっては非常に厄介な相手でで、実力的には勝利するだけなら難しくなさそうなもののトドメを刺さざるを得ない状況に陥ります。

しかし、結果的に幻海がトドメを刺された後の神谷実を蘇生したため浦飯幽助は殺人者になることはありませんでしたが、浦飯幽助の手を汚させないようにしたのがDr.イチガキTとの試合の時と同じ幻海であるところが良いですね。

次元刀

浦飯幽助、蔵馬、飛影の3人に比べると、最重要のメインキャラ4人の中では実力的に見劣りする感が否めない桑原ですが、魔界の扉編においてはかなり重要なキーパーソンにもなっています。

元より霊気の剣という特徴的な技を使っていますが、どうやら桑原には次元そのものを切るような能力が潜在していたらしく、魔界の扉にある結界を切れる能力者として仙水陣営から狙われることになるわけですね。

仙水忍の仲間である御手洗清志に襲われた際にその能力が開花し、それでピンチを逃れたものの同時に狙われるようにもなったのは皮肉な気もしますが、いずれにしても浦飯幽助に遅らせながら桑原も本領を発揮するようになりました。

黒の章と仙水忍

戸愚呂弟はミステリアスな部分がありつつも最初からいわゆるパワーファイターらしい雰囲気はありましたが、仙水忍の場合は浦飯幽助もそう感じているように魔球を使ってきそうな掴みどころの無さがあります。そして、そういう所が仙水忍というキャラクターの特性であり魅力でもありますよね。

コエンマからもたらされた情報により仙水忍が浦飯幽助の先輩にあたる霊界探偵であることが判明しますが、もともと人間を守る立場でありながら何故現在は人間に仇名す立場にいるのか?

その理由がまた興味深いところです。正義感が強すぎるが故に融通が利かない性格で、だからこそその正義感を揺るがす出来事、守ろうとしていたはずの人間のあまりにも醜い部分に触れてしまったが故に考え方を大きく変えてしまったわけですね。

人間には醜い部分があると知ったが故に黒の章という人間の最も残酷な部分のみを保存したビデオテープに興味を示したのではないかと思われ、現在の配下たちにはその黒の章を通して自分と同じ価値観の変化を疑似体験させたのだと考えられます。

御手洗清志なんてまさに強い正義感のある人間らしく、黒の章を見たことで価値観が代えられた典型であることがわかりますよね。

もしこのようなビデオテープ、ビデオテープというところに時代を感じますが、それはともかく存在したとしたら興味はありつつも怖さの方が先立ちそうです。蔵馬の説明にちょっとビビっている浦飯幽助の姿が少し珍しくて面白かったです。(笑)

総括

いかがでしたでしょうか?

浦飯幽助の先輩にあたる元霊界探偵である仙水忍がどのようなキャラクターなのかが少しずつ分かってきますが、まだまだ分からない所が多いですし最後の最後までミステリアスを損なわない魅力的なキャラクターですよね。

そして、次巻はいよいよ核心へと迫っていくことになります。