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『iメンター(1)』AIに支配される世の中の黎明期感が面白い漫画の感想(ネタバレ注意)

 

AIの進化が著しくその真価が問われる時代に突入しつつあり、シンギュラリティ(技術的特異点)という言葉を耳にする機会も増えてきた昨今ですが、それだけにAIをテーマに据えたフィクション作品も増えてきたように感じられます。

iメンターもそういったフィクション作品の一つだと思いますが、今よりはAIが日常に溶け込んでいるがシンギュラリティという程までは至っていないような近未来を舞台としたSF作品となります。

いや、数十年前であれば間違いなくSF作品と言って差し支えなかったと思いますが、現代であれば最早想定しえる現実であるような気もするので、そういった作品をSF作品と称するべきなのかは議論の余地がありそうですが、いずれにしてもSF作品と呼ばれているような作品がSF作品でなくなっていくことには一種のロマンがありますよね。

SF作品はSF作品であるからこそロマンがあるはずですけど、SF作品でなくなっていくことにもロマンがあるというのは興味深い話です。

前置きが長くなりましたが、AIとは『人間のように思考・学習してそれをアウトプットする機械』であると僕は認識しています。そして、それが近代になって急速に進化している背景には思考・学習に必要な膨大なデータを処理する技術が伴ってきているからという理解です。ド素人の理解なので雑な部分はあるかもしれませんが、大筋は外していないかと。

それだけに、iメンターでテーマにされている『遺伝子情報からその人間の様々な適正・可能性を数値で教える』というシステムは実現可能な未来であるようにも感じられるところです。もちろん、遺伝子という膨大な情報をコンピューターが処理しきれるものなんかには議論の余地はあるものの、考え方は現代のAIの延長線上にあるのが面白いところです。

もっと面白いのは、そのiメンターというシステムの学習には人間の手助けがある程度加わっているようで、そういう意味ではシンギュラリティへの過程の段階が描かれているとも言えます。

また、人々の行動がiメンターの示す確率に左右されているのはAIに支配される未来を示唆しているようで怖さもあって、それはAIの進化を語る上で度々議論されるテーマではありますが、本作品ではそのAIに人間の手が加わっているという途中の過程が描かれていることで、なるほどこれはAIに支配される未来を語る前にやはり人間の手が入っている状態のAIについて考えさせられる良い機会となる作品だとも感じました。

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本作の概要

国民に「iメンター」と呼ばれる遺伝子情報を元に結婚相性や犯罪、職業適性といったその人の可能性を可視化するタブレットが配布される近未未来が舞台です。

「iメンター」はその人の未来まである意味可視化されているようなもので、そのような世の中がどのようなものなのかが描かれています。

1巻は婚姻遺伝子、犯罪遺伝子、就職遺伝子の3つのエピソードが描かれており、本記事では各話ごとの感想を紹介したいと思います。

考察してみたくなる内容なので、感想というよりは考察になっているかもしれませんが。(笑)

本作の見所

婚姻遺伝子

異性との結婚相性をパーセンテージで可視化されるというのは、恋愛・結婚の在り方そのものに影響を与えそうですよね。

異性に対して「いいな」と思う要因は本来とても多種多様なもので、趣味が同じだったり、会話のペースが心地良かったり、容姿が好みだったり、一緒に何かをした経験だったり、分かりやすいのはこの辺として、いずれにしてもとても複雑なものです。

しかし、そうして「いいな」と感じた異性と恋人や夫婦になったとして必ずしも良好な関係を保てるかといえばそうでもないのが難しいところ。

相性が良いと思っていた人と付き合って別れたような経験、多かれ少なかれ誰にでもあるのではないでしょうか?

そして、興味深いのは現代における恋愛の「いいな」のほとんどは趣味にしろ経験にしろ遺伝子とは無関係そうなものであるという点。例えば趣味が一致していても遺伝子レベルで相性が悪ければいずれ上手くいかなくなるという論理には一定の説得力がありそうです。

逆に、何で共通点も何も無いこの人とこんなに相性が良いんだろうと思うような人間関係もありますよね。

恐らく、遺伝子レベルの相性というものが存在するとすれば、長い付き合いの中で行き着く先の相性であるとも言えるのではないかと思います。最初は様々な共通点による仲間意識とか、見えていない部分もあったり、本当は相性が悪くても取り繕えている部分があったりするものの、遺伝子レベルで相性が悪いと最終的には上手くいかない・・みたいな?

そして、そんな遺伝子レベルでの相性が可視化されるとすると誰にとっても人間関係が大きく変化しそうですよね。

本作品でも「iメンター」に示された結婚相性が高いことを理由に付き合ったのに、僅か1%高い他の男性が見つかったことであっさりと乗り換えるシーンが描かれていますが、もしかしたらこうして選んだ相手と結ばれることは幸せなのかもしれないけど、少々味気ない恋愛だとも感じます。

その証拠に、本作品ではとある理由で結婚相性が僅か3%しかない男女のハッピーエンドが描かれていて、そこに感動がありました。

これは「iメンター」は確かに便利だけれども、温か味があるわけではないと示唆していたのだと思います。

確かに、結婚に限らず人間関係が遺伝子レベルので相性で可視化されてしまったら、極端な話初対面の人間相手でも、「あの人は90%超えてるから好ましい」とか「あの人は10%無いから嫌いだ」とか、良く知りもしないはずの人間の好き嫌いの根拠にもなってしまいそうで怖いですよね。

犯罪遺伝子

この人は犯罪を犯すということが分かるのは安定した社会のためにはとても頼もしく感じられる一方、何も悪いことをしていないが犯罪を犯す可能性が高いと判定された人物の取り扱いがとてもデリケートな問題として生じてきますよね。

本作品では、長い時間を掛けて対象者を自発的に犯罪を犯させるという罠に嵌めて社会的に抹殺してしまったりしていますが、それが道徳的に許されるのか否かが興味深い議論点ですね。

いくら犯罪者となる遺伝子であってもそれだけでは犯罪者ではありません。

そして、教唆されて犯した犯罪も犯罪であることに間違いはありません。

しかし、犯罪者になる遺伝子だからと言って意図的に犯罪を起こすであろう状況を作って犯罪を犯させるというのは、果たしてアリなのでしょうか?

もちろん、犯罪を未然に防ぐ意味では良いことなのかもしれませんが、この対象者に選ばれた時点ではまだ犯罪を犯していないのに裁きが始まってしまっているとも言えます。

それに、どんな状況でも絶対に犯罪を犯さないほど潔白な人間など存在しないのではないかとも思ってしまうんですよね。

なぜなら、犯罪とは日常生活の不足が良心を上回った時に起きるものだと思っていて、だとすれば状況によっては誰にでも犯罪を犯すというか、犯さざるを得ない可能性があると考えるからです。

だとしたら、どのレベルの犯罪遺伝子であれば犯罪を犯す前に裁くことになるのかとか、その辺のさじ加減は恐ろしく難しいはずですし、感情的には許されざることのような気もします。

一方で、犯罪遺伝子というものが分かるのに何の手も打たずに犯罪が発生してしまっては、それはそれで問題がありそう。

もし犯罪遺伝子というものが本当に明らかになったら、清廉潔白な人ですら裁かれることを不安に思わなければならないわけで、怖い世の中だと感じました。

就職遺伝子

婚姻遺伝子は温か味が無さそうですし、犯罪遺伝子には怖さもありますが、就職遺伝子は人によっては嬉しいところですよね。

目指すものがある人にとってはそれをバッサリと切り捨てられる恐れがあるものの、そうではない人にとっては最も適切な未来を選ぶことができると考えられるからです。

それに、人は何かを目指す時には必ずキッカケがあるはずです。それは憧れの人だったり過去の経験だったり様々でしょうけど、あらかじめ就職遺伝子で様々な職業遺伝子が分かっていたら、そもそもそれが一番の目指すキッカケになりそうなものです。

・・と、比較的平和な遺伝子ですがこのエピソードの興味深いところは「iメンター」の運営側で様々な適正の数値の操作が行われていることが詳らかになる点です。

未知のものに対する人間の行動は様々ですが、可視化されたものに対する人間の行動は著しく制限されます。

赤信号で立ち止まるように、低い可能性に賭ける人は少ないでしょうし、その逆もまた然りです。

つまり、「iメンター」の数値の操作ほど簡単に人間を操作できるものはありません。

それを世の中を良くするためという名目があるとはいえ、人為的に数値を操作するということの意味、その結果がもたらすものは何なのか、その辺が今後気になるところだと思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

AIをテーマにしたフィクション作品は増加傾向にあるような気がしますが、身近になりつつあるからこそちょっとあり得そうなところがあって、どの作品も非常に興味深くも面白いものに感じられます。

iメンターもとても面白かったので、こんな作品を描く人が他にどんな作品を描いているのかと調べてみたらサイコろまんちかという知っている作品が出てきたので少し納得しました。

こちらも心理学をテーマにしたギャグマンガという興味深い漫画で、なるほどちょっと興味深いテーマを面白く描くことが上手な作家さんなんだと感じました。

そんなiメンターも1巻目は設定の説明に留めているようなところがありますが、これからその設定を生かしてどのような物語が展開されていくのかというワクワク感があります。そういうわけで2巻は相当楽しみにしています。