『落第騎士の英雄譚(15)』ヴァーミリオン戦役決着の感想(ネタバレ注意)
『落第騎士の英雄譚』の最新15巻の感想です。
実は、何度も「もういいかな」と見切りをつけようとして、しかし最新刊を読んだ後に「いや、やっぱり面白いな」と切り捨てられずにいる、個人的にちょっと複雑な思いを抱いていた作品となります。
七星剣武祭編までは面白かったのですが、この作品にそんなものは求めていないというのに9巻の「夜の一刀修羅」という下品なシーン。そういうシーン自体を否定する気はありませんが、『落第騎士の英雄譚』の一番の見所は少年漫画的なバトルシーンだと思っていて、しかも主人公の黒鉄一輝は硬派な所が格好良いキャラクターなのに・・
しかも新章に突入して、ちょっと退屈になりかけた所での刊行ペースの低下。
乱読派の僕が読み進めるのはちょっと辛い感じになっていたので、何度か購読するのを止めようと思っていたのですが、それでもライトノベルの主人公としては珍しいレベルの格好良さを誇る黒鉄一輝が好きだったので何となく購読し続けていたのですが・・
このヴァーミリオン戦役決着の15巻が読めるのであれば購読し続けて良かったと思うことができました!
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本作の概要
13巻で開幕したヴァーミリオン戦役がついに決着します。
オル=ゴールの姉で、KOK世界ランキング第4位の実力者である黒騎士アイリス・アスカリッド(アイリス=ゴール)の裏切りで、ヴァーミリオン側の優勢だった局面は覆されます。
オル=ゴールを追うステラと、アイリスと対峙する黒鉄一輝。
相応しいと言えば相応しい布陣で迎えた最終局面。
いつものように唯一の勝ち筋を見出す黒鉄一輝に、どこまでもしぶといオル=ゴールに注目です!
本作の見所
アイリスのエゴと決着
黒騎士アイリスの裏切り。
誰もに非難されることがわかっていながら、弟オル=ゴールを見捨てることができずに黒鉄一輝と対峙します。
その今更すぎる行動はどうしたって誉められたものではありませんが、それでも弟のことを思ってそうすることしかできなかったアイリスが切ないですね。
互いのエゴを賭けた真剣勝負は、一見すると良い勝負に見えたのですが、無敵甲冑アイリスに対して有効な攻撃は隙の多い「追影」のみ。
発動条件が厳しく、しかも「追影」のことを知っているアイリスには通用しない。
一方で、いつものこととはいえアイリスの攻撃はかするだけでも黒鉄一輝にとっては致命的。
しかも、アイリスは強化再生で最初は徐々に身体能力を向上させていく。
まるでゲームの負けイベントのような状況ですね。
良い勝負をしているように見えても、相手の攻撃だけが一方的に通り、しかも激しさが増していくという・・
しかし、昔のゲームだと工夫に工夫を重ねて負けイベントをクリアできてしまうようなこともあったらしいです。
黒鉄一輝は、最初から最後までアイリスのことを戦略の糸で絡めとっていて、「追影」と真っ向勝負せざるを得ない状況を作り上げていました。
ステラにオル=ゴールを追わせてアイリスと1対1の状況にした所から掌の上だったと考えると恐ろしいですね。
エゴを貫いて死んでいくアイリス。
「貴女のこと、この先いろんな人が避難して、罵って、きっと歴史は・・貴女を極悪人として記録するんでしょうけど、僕は覚えています」
黒鉄一輝の優しさにこれ以上甘えないために、最後の力を振り絞って「私のことはわすれていい」というアイリスに黒鉄一輝は言います。
アイリスが、たった一人の家族を救うために必死で世界を敵に回した優しい人だったということは忘れない。
「ごめんね・・。お姉ちゃんがんばったんだけど・・勝てなかった・・よ・・」
最後にそう思いながらアイリスは力尽きました。
いやはや、良い意味で『落第騎士の英雄譚』ってこんな作品だったっけ?
黒鉄一輝とアイリスの戦いを読めただけで、ここまで読んできて良かったと思えました。
こんなに切なさが溢れるような戦い、間違いなくシリーズ屈指の名シーンだと思います。
黒騎士アイリス・アスカリッド(アイリス=ゴール)。
そんなに好きというわけでも無い、その他大勢くらいに思っていたキャラクターでしたが、最後の最後に好きになりました。
オル=ゴールの死と復活
一方でオル=ゴールは追い詰められに追い詰められ、一旦は四肢を切り落とされ、頭部も吹き飛び、これ以上ないほどの死を迎えることになりました。
しかし・・
死んだはずのオル=ゴールの不意打ち。
ステラはオル=ゴールの傀儡の糸に絡めとられてしまいました。
死ぬことで発動する自身を傀儡とする伐刀絶技「死霊遊戯」。
一国の国民すべてを支配下に置ける総量を1か所に集めたた力をステラは振りほどけません。
あっさり終わるかと思いきやなかなか終わらないオル=ゴールとの戦いに注目です!
自己犠牲とステラの覚醒超過
ステラのピンチにアイリスとの戦闘を終えた黒鉄一輝が駆けつけます。
黒鉄一輝VSオル=ゴール。
「今のボクはステラちゃんよりも強いんだ。捕まえさえすれば━━」
そう言うオル=ゴールですが、既にアイリスとの戦いを経て満身創痍であるはずの黒鉄一輝を捕まえることができません。
しかし、主導権を握っているからと言って今の黒鉄一輝にオル=ゴールを壊しきる力は残されていませんでした。
「ああ、わかっているとも。だから、━━僕は勝てなくていい」
オル=ゴールの指摘に、黒鉄一輝は答えます。
後のことはステラに託し、自身は時間稼ぎの捨て駒になることを選んだ黒鉄一輝は、ついにガス欠でオル=ゴールに殺害されてしまいました。
そしてステラは、オル=ゴールにキレたからなのか、それとも安易な自己犠牲に走った黒鉄一輝にキレたのか、覚醒超過で暴走することになりますが・・
自力で自我を取り戻して、オル=ゴールに対峙することになりました。
そして、今度こそオル=ゴールに完全勝利しました。
黒鉄珠雫の死者蘇生
珠雫の登場ってかなり久しぶりな気がしますね。
しかし、最後の最後に主人公である黒鉄一輝の蘇生という最大級の活躍を見せてくれました。
最愛の兄のピンチに駆けつけた珠雫は「青色輪廻」で黒鉄一輝の蘇生を試み、そして成功します。
体細胞不足で元の大きさの体は保てなくなったものの、黒鉄一輝は復活しました。
しかし、勝手な判断で自己犠牲を選んだ黒鉄一輝に対して、珠雫は静かな怒りを示します。
「お兄様が今回ステラさんにしたことは、そういう最低のことですよ」
目覚めて最初、珠雫が自己犠牲の元に自分を復活させたのだと勘違いしていた黒鉄一輝は、自分が同じことをステラに対して実際にしてしまっていたということに気付かされます。
しかし、珠雫が言いたいことを全て言ってくれたことでステラの留飲は下がります。
そこまで見越して最愛の兄に怒りをぶつけたのだとしたら、珠雫は何て尊い妹なんだろうと感じました。
総括
いかがでしたでしょうか?
次巻以降は新章になるはずですが、一体どのような話になるのか楽しみです。
小さくなった黒鉄一輝がどう戦うのかにも注目ですね!
本当にピンチになったら珠雫と合一したりみたいな展開が予想されます。
しかし、割とサクサク読める作品なのでもっと刊行ペースを上げて欲しいのですが、最近は半年に一冊ペースになっています。
まあ、海空りく先生は本作品以外にも『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』を刊行中なのでそこは待つしか無さそうですね。
読むのを止めようとしていた僕の期待を裏切らなかった『落第騎士の英雄譚』が、今度も裏切らないことを期待しています!