『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(14)』過去最大の読み応えの最新巻の感想!(ネタバレ注意!)
お久しぶりの『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の最新巻の発売です!
600ページオーバーと実に単行本2冊分の大ボリュームで、10カ月待たされた甲斐があったというものです。
これは読み応え抜群!
・・かと思いきや、ずっと息つく暇のない急展開で、とっても濃厚な内容であるにも関わらずスラスラと読み進めてしまい、すぐに読み終わってしまいました。
思ったより『ダンまち』の世界に長く浸れなかったのは残念ですが、これはこの14巻がそれだけ面白かったからに他なりません。
大きくは前巻で深層に落ちたベルとリューの、もはや冒険とも呼べないようなサバイバルと、ヒロイン感のレベルアップが留まることを知らないリューさんが最大の見所です。
これはもう本作のタイトルへの回答を回収してしまっているんじゃないのかと思ってしまいしました。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていなかったと。
まあ、主人公のベルにとってというより、リューさんにとっての出会いだったのかもしれませんけど。
ほぼ同時発売のリューさんが主人公のスピンオフ作品のコミカライズ版のレビューはこちら
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本作の概要
前巻のラスト、満身創痍の体で深層に落ちてしまったベルとリューさん。
前半はベルたちの救出に向かおうとするヘスティアファミリアの団員を始めとするキャラクターたちの奮闘が実に200ページオーバーの大ボリュームで繰り広げられ、後半はベルとリューさんが実に400ページ近い大ボリュームのサバイバルを繰り広げます。
深層・・
ダンジョンの37階層に落ちたベルたちの冒険にはピンチしか無く、作中でも最大のハラハラ感と最大のドキドキ感を得ることができます。
そして、今までどちらかといえばクールな女性として描かれてきたリューさんが、作中でも最大限にヒロインチックに描かれています。
本作の見所
春姫の活躍
ヘスティアファミリアの中でも春姫は、個人的にはもっと活躍して欲しいと思いつつもその機会が少ないキャラクターなのですが、今巻では遺憾なくその実力を発揮してくれました。
いや、恐らくは春姫の『階位昇華(レベルブースト)』がチート過ぎるので、春姫が活躍しすぎるとベルを始めとした他のキャラクターの成長が描きづらいというか、何だかズルい感じがしてしまうというか、そんなメタい事情があるのだと想像されます。
だからこそ春姫が活躍できるのは本当にピンチの時や、相手が人間ではなく総力戦が必要になるような魔物の場合くらいになるのだと考えられます。
そして、今回はその条件の両方に当てはまっているからか、いつも以上に春姫が活躍している印象がありました。
支援担当とはいえ、階層主との戦闘の最大の立役者であることは間違いないでしょう。
ヘスティアファミリアに入ってからもしばらくは箱入り娘感の拭えない春姫でしたが、これは完全に1人の一人前の冒険者という感じです。
春姫の冒険者としてのレベルは1ですが、今までずっと詠唱だけを繰り返したという経験から上級魔導士を凌駕する高速詠唱という個性も出てきました。
これは『ダンまち』という作品の最大の長所ですが、レベルやステータスという数値でキャラクターの強さを示しながらも、数値だけでは測れない強さをちゃんと表現していて、低レベルのキャラクターが高レベルのキャラクター以上に強く、そして魅力的に見えることがあるのが最高に良いですね。
ヴェルフの活躍
今巻、どうしても後半のベルとリューさんのエピソードに目がいってしまいますが、最大の成長を見せてくれたのはヴェルフになります。
珍しくヴェルフが表紙を飾っているのも、そういうことだったのかと納得です。
ベルを助けるためにダンジョンを下に下に目指す一同でしたが、その道程は困難を極めます。
「鎚と鉄、そして燃えたぎる情熱さえあれば、武器はどこでも打てる━━」
そんな中、ヴェルフは敬愛する女神ヘファイストスの言葉を思い出します。
元は魔剣を打つことを求められることを嫌ってすらいたヴェルフが、仲間のためにできることとして思い立ったのは・・
「ここで、『魔剣』を打つ」
ただでさえ厳しい環境の中、仲間のために『魔剣』を打つ自分を守るようにヴェルフは進言します。
いやはや、これほど勇気のいる自分を守れ宣言があるでしょうか?
絶対にこの状況を何とかしてみせるという決意なのか、自信なのか、いずれにしてもなかなか言えることではありません。
そして、死地を切り抜けるためにヴェルフが打った魔剣は、今までの数振りで壊れてしまうようなものではなく、恒常的な魔剣でした。
ただでさえ魔剣を打つ技術だけならオラリオ最高であるヴェルフでしたが、その技術をさらに超越してきました。
深層に落ちたベルとリュー
スピンオフ作品の『ソード・オラトリア』を読んでいるからこそ知っている深層の恐ろしさ。満身創痍のレベル4が2人が何の準備も無く臨める場所ではないことは火を見るよりも明らかでしょう。
ベルは片腕を失っており、脚の骨折で身動きすら困難なリューさん。
さしもの英雄もそう簡単には生き残れそうにありません。
いやはや、今巻の前半のヘスティアファミリアの団員を始めとした一同の奮闘も、まさに大変な死線でしたが、ベルはしょっぱなからそんな死線が天国に見えるほどの環境に放り込まれてしまいました。
主人公(英雄)はいつだって誰よりも大変な状況に置かれてしまうということなのでしょう。
深層で、作中歴代でも最も死に近い冒険が始まります。
生き残るための術
深層において、ベルとリューはお互いに協力し合いながら紙一重で生き抜きます。
しかし、これだけ協力し合っていても実は根本のところでその想いは違っていました。
何が何でも2人で助かろうとするベルと、自分の持つ生き残るための術をベルに託し、自分が犠牲になってでもベルを逃がそうとするリューさんの間にある微妙な認識のズレが良い方にも悪い方にも働いているように感じられるのが興味深かったです。
闘技場で自分を犠牲にベルを逃がしたつもりが、ベルが戻ってきてしまった時のリューさんの心情は想像もできませんが、この時ベルが取った行動が、あくまでも偶然にも安全地帯の発見につながったのが面白いですね。
過去への贖罪から若干自罰的が過ぎる嫌いのあるリューさんですが、それが徐々にベルにほだされていく感じはするのに、なかなか自分を許せないリューさん。
「ベル! 私は・・湖の妖精にはなれない」
それだけに最後の最後に、大切な者に守られるだけの妖精にはならないと、ベルと肩を並べるリューさんの姿は感動的でしたね。
深層のラヴコメ
ベルとリューさんの深層での冒険は、過去最大のピンチであると同時に、過去最大のラブコメでもあったと思います。
あとがきで作者の大森藤ノ先生も「決死のラヴコメに挑戦した」と言っていますが、なるほど納得の『ダンまち』らしさを失わないラヴコメとなっております。
究極の吊り橋効果といった感じのラヴコメですね。
回復のため、体温を失わないため、肌を寄せ合うベルとリューさん。
魔物を騙し討ちするために力尽きたフリをしているベルを本気で心配するリューさん。
あくまでも死地中の死地であるという雰囲気を全く壊さずにラヴコメを描いていく大森藤ノ先生の力量が凄いですね。
特に力尽きたフリをしているベルに呼びかけるリューさんはあまりにも可愛すぎました。
いつの間にかベルを呼ぶ声が「クラネルさん」から「ベル」に変わり、疾風のリオンと恐れられたエルフの仮面も剥がれ落ち、少女のように情けなくベルに縋ってしまったことの羞恥に悶えるリューさんは、今までには見られなかったものです。
ありふれた表現ですが、クールなキャラクターがこういう形でキャラ崩壊していくのは個人的にはめっちゃ好きです。
リューさんは元々好きなキャラクターでしたが、一層魅力的に感じられるようになりました。
しかし、深層でそんな風にラヴコメを繰り広げていましたが、リューさんは最後の最後までベルのことを英雄だとは思っていなかったのではないかと思います。
なぜなら、本当に不可能なことを可能にしてしまう存在がいたら、それこそ英雄なのだと過去にアリーゼは語っていました。
最後、ジャガーノートに勝利し、これで帰れると喜び合うベルとリューはその実ただの現実逃避だったのだと思います。
ですが偶然にもこのタイミングで、ギリギリ仲間たちの救助が間に合い、ベルとリューさんは本当に助かってしまいました。
四日間の決死行。
そのような描写はありませんでしたが、本当にギリギリに助かったことで始めてリューさんはベルを英雄のようだと認識したのではないかと僕は思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
今巻、前半では表紙でメインを飾っているヴェルフをはじめとするベル以外のヘスティアファミリアの面々も、ハッキリといつも以上に大活躍していたと思います。
そして、そんな大活躍したキャラクター以上にベルが活躍するのはいつものことです。
しかし、前巻のラストからリューさんの活躍は予想されたものではありますが・・
まさかここまで魅力的な活躍を見せてくれるとまでは思っていませんでした。
今までリューさんのことがあまり好きではなかった人でさえ、今巻を読んだら好きになったのではないでしょうか?
リューさんはメインヒロインというわけではないので流石に続けてメインを張ることはないような気がしますが、今巻のような終わり方をしたからには次巻も何かしら出番があって欲しいものですね。
次巻がいつになるのかは不明ですが、ソード・オラトリアの最新巻の発売は直近に控えているので、まずはそちらを楽しみにしたいと思います!