『俺を好きなのはお前だけかよ(10)』アニメ化決定直後の最新刊の感想(ネタバレ注意)
10月、秋の電撃祭りでTVアニメ化が発表されたばかりの『俺を好きなのはお前だけかよ』の最新巻です。
何というか、今までにもサンちゃんが主人公の特殊な巻もありましたが、今回はあくまでもジョーロが主人公でありながら、いつもとはちょっと違う雰囲気になっています。
何と言っても、ジョーロ自身があまり追い詰められていない!?
いつもはジョーロ自身が話の渦中にいることが多いですが、今回はどちらかと言えばヒロインたちの方が渦中、いつもで言えばジョーロのような立ち位置にいます。
そして、そんなヒロインたちの巻き込まれる今巻で起きる事件は、よくよく考えると実に大したことの無い事件なのですが・・
非常に多くのキャラクターの行動が絡み合って、最後までなかなか先の展開が読めない、続きが気になってどんどん読み進めてしまうような、とても面白い内容になっています。
実際問題、今巻で起きた事件は普通ならライトノベル1冊分かけて語られるような事件ではないような気がします。せいぜいが短編のネタレベルでしょうか?
それを、ここまで大きなエンターテイメント性のある事件にまで膨らませる作者の駱駝先生の力量には感服ですね。
もともと、毎巻必ず新キャラが継続的に登場しているにも関わらず個性的に書き分けることのできる、高い力量を持った作家先生だとは思っていましたが、ここまでとは・・
しかし、そういうわけで今巻は先に結末を知ってしまっていると十全に楽しめない可能性が高いです。
本記事にはネタバレも含まれるため、未読の方はご注意ください!
ちなみに、1巻の発売時期が近いラブコメであるということもあって、ガガガ文庫の『弱キャラ友崎くん』と『俺を好きなのはお前だけかよ』を並べて、個人的にはここ最近のライトノベルのラブコメの中では2台巨頭だと思っています。
『弱キャラ友崎くん』の最新刊レビューはこちら
?
本作の概要
西木蔦高校の一大イベント。
年に一度の繚乱祭。
その前夜祭で灯花式で使われるイルミネーションが無くなった所から物語は始まります。
どうやら、これが繚乱祭の開催が危ぶまれるほどの事態なのだとか。
そういうわけでイルミネーションの捜索に乗り出すジョーロたちだったのですが・・
いつもなら何やかんやでジョーロが悪者扱いするような所なのですが、今回はちょっと様子が違います。
コスモス(秋野桜)、ヒマワリ(日向葵)、サザンカ(真山亜茶花)らヒロインの面々にまつわる黒い噂。
パンジー(三色院菫子)の意味深な態度。
一見すると事件とは何ら関係の無さそうな事柄のほとんどが実は今回の事件の伏線になっています。
実は、イルミネーション自体は壊れた状態で早々に発見され、それと同時にその直接の原因となった人物も明らかとなるのですが・・
事はそんなに単純な問題ではなかったようです。
本作の見所
本当の犯人は・・
壊れたイルミネーションが発見され、その直接の原因となった人物はスグに明らかになります。
ゴミと誤ってイルミネーションを捨ててしまったヒマワリが犯人で、もちろん悪意は無かったものの針の筵のような状況に置かれることになってしまします。
これだけなら単純な事件なのですが・・
どうやらヒマワリの様子がおかしい。それに、いつもならクールぶっていてもヒマワリのことを助けそうなパンジーも何だか冷たくて様子がおかしい。
どっちも何かを知っていて、何かを隠していそうな感じですね。
実は、この最後の直接な原因になってしまったのは不幸なことにヒマワリだったという事実は変わらないものの、巡り巡って間接的な原因になってしまっている人間が数多く存在します。
しかも、これが悪意を持ってヒマワリを陥れようとしたという事件なのであれば、ヒマワリにとってはある意味まだ救いがあったのかもしれませんが、そんな事実は存在しません。
そう、この事件に悪意のある犯人・悪役は存在しないのです。
いや、ちょっとした悪意を持った人間は2人ほど混じっていましたが、それすら些細な悪意で、それだけなら今回の事件の結果に直接繋がるようなものではありません。
もちろん、ヒマワリにも悪意はなく・・というか最初は自分が犯人だと気付かず乗り気でイルミネーション探索に取り組んでいたくらいで、運悪く一番わかりやすく吊るし上げられやすいポジションになってしまっただけでした。
悪意ある犯人が不在の事件の落とし前
誰が悪いわけでも無いのに、誰かが悪者になってしまう。
こういう種類の事件は、例えば学校のような小さな社会の中では、現実でも稀に良くあることのような気がします。
例えば、全校生徒を巻き込んだ今巻の事件ほどのことは稀でも、ジョーロが過去に経験したシールの盗難騒ぎくらいのことは、誰でも1度や2度は経験しているのではないでしょうか?
解決できない事柄に対して、人は責任の所在を自分以外に求める性質があって、それは大人でも子供でも変わりません。
だから誰も悪くないのに誰もがわかりやすい1人の犯人を求めてしまう。
だから今回のような事件ではどんなに原因を突き詰めても、責任の所在が変化するだけで、悪意の無い誰かが犯人になるということは回避できないということなのでしょう。
ヒマワリ、パンジー、コスモス。
ヒロインたちの中で、何かしらの形で今回の事件の原因になった3人の誰もが自分がその役割を被ろうとするのですが、それは結局わかりやすい犯人を祭り上げるだけの、この類の問題の解決策としては愚作中の愚策。
「人は責任の所在を自分以外に求める性質」に対する諦めでしかありません。
厄介なのは、このような問題では悪意は無くても責任を感じてしまう人間が少なからず発生することで、そういう人間が割を食うことになりがちであるということでしょうか?
そして、それが今回の事件の場合はヒマワリ、パンジー、コスモスだったのだと思います。
いや、ジョーロも言っていましたが、今回少なからず悪意を持った行動を取った2人はもっと責任を感じてもよさそうな気がしますが・・
プリムラ(早乙女桜)の場合、コスモスたちにまつわる悪い噂の原因になっただけで、イルミネーションが無くなったことの遠因であるとはいっても、そこに対して自分が責任を感じることは難しいでしょう。僕も自分が同じような立場でも同じだったと思いますし、多くの人がそうではないでしょうか?
実際、プリムラは悪い噂のことについては相当責任を感じて反省しているようです。
赤井撫子の場合は、ちょっと微妙ですね。少なくともパンジーよりは責任を感じて良い立場にいるような気がします。赤井撫子がタンポポ(蒲田公英)に対しての悪意で余計なことをしなければ、今回の事件はそもそも起きなかったかもしれないのですから。
・・と、考えてしまうのも「わかりやすい犯人を求める」という人間の悪い性質なのかもしれませんけどね。
山田の活躍
そして、そんな事件を解決するに至った立役者の一人が、ずっと前から登場していたコスモスの右腕。
山葵こと山田です。いや、山葵というニックネームから「こいつ山田じゃね?」って最初から思っていましたが、やっぱり山田でした。
知らない人のために説明しておくと、ずっと前からコスモスの右腕のような扱いで名前だけは登場していたけど、ある意味わざとらしくモブ扱いされていたキャラクターですね。
それが今巻でついに表に出てきました。
こうやって新キャラが登場する時、実は前から登場しているんだよと、昔の巻から伏線を張っているのは本作品における常套手段になっていますが、山田は事実上、今までで一番タメられたキャラクターになりました。
こういう遊びも長く続く作品ならではで面白いですね。
そんな山田がコスモスのために、最後に大活躍します。
ライバル視しているのにピンチには助けてくれる、こういう感じの友達・・というか好敵手がいるコスモスが羨ましいですね。
パンジーが良いヤツすぎる!
パンジーが最初から何かしら察しているのは毎度のことですが、今回もパンジーは最初からほとんどのことを察しています。
中盤、パンジーが保身のために黙っているのかと思われましたが、考えてみればパンジーが保身に走るのであれば全部喋ってしまう方が良かったはずです。
なぜならば、最後にコスモス、ヒマワリ、そしてパンジーが悪者という雰囲気になってしまいますが、ただの伝言役であったパンジーは明らかに他の2人に比べると罪が軽いはずだと思うからです。(人によって感じ方は違うかもしれませんけど)
であれば、後からバレるリスクを考えれば全て喋ってしまう方が良かった。
しかし、それだと自分も原因になっていることを察していないコスモスにも気付かれてしまう。ただでさえ追い詰められているコスモスに追い打ちをかけることを避けるために、ある意味悪役を買って出たパンジーは、思っていた以上に友達思いの良いヤツなのだと思いました。
ジョーロの特別
大きな進展。ジョーロの特別大好きな女の子の選択肢が狭まりました。
「貴方は今回の一件で、たった一人だけ、どんなことになってもその子だけは必ず無事でいられるように行動をしていましたよね?」
「全ての真実を知った後に、貴方が発した言葉。それが全ての答えでした」
ジョーロの特別大好きな女の子が誰なのか。その答えに気付いたアスナロがジョーロに振られたことで、選択肢からアスナロが外れました。
そのアスナロの発言から、ちょっとジョーロの特別が誰なのかについて考察してみたいと思います。
「やっぱり、素直に全部伝えたほうがいいのかもな・・」
恐らくですが、これがアスナロの言っていたジョーロの発した言葉なのではないかと推察します。
となれば、事実を全て話した時に安全圏内にいるのはやはりパンジーである気がします。
直接の原因となったヒマワリや、それにただでさえ立場の危ういコスモスに比べ、パンジーは原因の一端というには弱いですし、コスモスのように悪目立ちしているわけでもないので被害も少なく済むでしょう。
まあ、パンジーがメインヒロインだからというメタい推理も混じっていますが、それなりに的を得ているような気がしています。
総括
いかがでしたでしょうか?
「イルミネーションが無くなって見つかったけど壊れていた。繚乱祭が開催できないかもしれないけど悪いのは誰だ?」という比較的シンプルなエピソードを、ここまでのエンターテイメントに仕立て上げる作者の駱駝先生の力量がヤバいですね。
今巻は、ジョーロのことが好きなヒロインの一人であるアスナロ(羽立絵菜)が、明確にジョーロに振られてしまう所で終わります。
最初に今巻はジョーロではなくヒロインたちが事件の渦中にあるという点でいつもとは違うと述べましたが、ジョーロが誰かを振るようなシーンも今までには無いもので、このアスナロ(羽立絵菜)が振られたエピソードも、本作品にとって大きな意味があるように感じられました。
何となく、『俺を好きなのはお前だけかよ』も「終わりに向かっての折り返し」という大きな進展を見せているということなのかもしれませんね。
個人的には、二学期の終わりを待たずに1人ずつヒロインたちが脱落していくような流れを想像しています。
ジョーロの特別が誰なのか?
続刊も楽しみにしています!