ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】10巻
アキラ、最大の名言が生まれる第10巻です!(前巻の書評はこちら)
ついにプロ試験本戦が始まってその進行も楽しみな所ですが、ヒカルの院生仲間たちのキャラも徐々に立ち始めています。
和谷や伊角さんあたりは既にかなり目立っていますが、やはり勝負の世界を描いた漫画なだけあって、真剣勝負が始まることで更にキャラに深みが出てきているような気がしますね。
今巻では最も注目株の伊角さん。
アキラに師事することになった越智。
何というかヒカルの院生仲間たちって、ずっと前から登場しているけどヌルっと主要キャラ枠に入ってきて、だけど不自然さが無いという変わった目立ち方をしている気がしますよね?
そして、ついにヒカルのことが気になりすぎて行動に移すことになったアキラにも注目です!
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本作の概要
碁会所修行の甲斐もあって順調に勝ち進むヒカル。
着実に勝ち進みますが、思わぬ出来事に精神的不調に陥ったりもしてしまいます。
ヒカルだけではありません。ヒカルの院生仲間たちも厳しいプロ試験本戦に様々な思いを抱いています。
そんな中、余裕綽々の越智はアキラに師事することになるのですが・・
一方で、勝ち上がるヒカルの様子を越智を通して知りたいアキラ。ヒカルのことしか気にしていないアキラの態度が面白くない越智を相手に果たして上手くいくのでしょうか?
本作の見所
修行の成果
6連勝した後の第7戦目。ヒカルの対局相手は因縁の椿敏郎だったのですが・・
対局前の前哨戦では成長を見せつけ、対局そのものは描写すらなく勝利に終わりました。
メタっぽい話ですが、ヒカルより格下相手との対局は描写されない傾向の強い『ヒカルの碁』という作品。プロ試験予選で苦労した椿敏郎も今のヒカルにとっては格下になってしまったということなのでしょうね。
佐為もやっぱり勝負師
プロ試験も中盤に差し掛かり、ヒカルの集中力も増しています。
自宅での佐為の指導にも真剣そのものです。
「おまえの番だぞ佐為。集中しないと負けるぜ?」
どこまで本気なのかわかりませんが、佐為までもを食いかねない程の気迫のヒカル。
とはいえ、今のヒカルにとってはそこまでの大口というわけでもないのかもしれませんね。これからプロ棋士になろうというヒカルにとって、例えトップ棋士レベルの佐為であってもいつかは対等に勝負していけるようにならない相手なわけですから。
「私がヒカルに負ける?」
「今まで一度だって負けたことがありましたか?」
「ちょーしにのってェェェ」
佐為も、ヒカルに「負ける」と言われて勝負師の目になっています。穏やかで可愛らしい所があっても、やっぱり勝負師なのだということがわかりますね。
しかし、佐為のこの反応は「佐為が勝負師であること」を示しているだけではありません。
恐らく、もっと昔のヒカルが言った所で佐為もこんな反応はしなかったのではないでしょうか?
思い返せば、若獅子戦では一時的にでも佐為を驚かすような打ちまわしを見せていたヒカル。佐為には勝てないまでも、一発入れるくらいの勝負ができるくらいまでには成長しているのだと思います。
ヒカルの実力が相当な所まできているからこそ、佐為も勝負師の目になったのではないか。僕はそんな風に感じています。
短いシーンであまり注目されていないような気がしますが、個人的にはかなり好きなシーンです。
ハガシの反則
もう囲碁を始めて長いですが、『ヒカルの碁』を読んでいなかったら「ハガシの反則」という囲碁用語は知らないままだったような気がします。
ヒカルを警戒するあまり、慎重になりつつもどこか対局に集中しきれていない伊角さんが、一度打ち間違えそうになって打ち直し際に、実は指が離れてしまっていたという反則ですね。
ネット碁専門の僕には縁のない反則ですが、普通に打つ人にはあったりするものなのでしょうか?
しかし、反則をした伊角さんも、された側であるはずのヒカルも、この後大きく調子を崩してしまいます。
伊角さんは言わずもがな、ヒカルも反則勝ちに縋ろうとしてしまったことが前向きな挑戦心に水を差されたような形になってしまったということなのだと思います。
その結果、ヒカルは得意としていたフクを相手に9目半という大差での負けを喫してしまいます。
そのことにヒカルは荒れてしまいますが・・
「昨日のような碁も、今日のような碁も、二度と打つもんか!」
反則勝ちに縋ろうとした弱さと、それに引きずられる弱さは、もう見せないという決意表明ですね。
そう決意して立て直しを図るヒカルが、今までで一番格好良いと思いました。
越智とアキラ
プロを自宅に招いて勉強している越智の元にアキラが指導しに来ることになりました。
最初は断るつもりだったアキラですが、ヒカルの実力を測るために院生でプロ試験を受けている越智に接触したかったという意図なのですが・・
あまりにもアキラが露骨なものだから越智からしたら面白くないですよね。
そういうわけで最初は追い返されたアキラでしたが、ヒカルの躍進に危機感を感じた越智はアキラに師事することを決意します。
しかし、アキラも本気ですね。
今までほとんど誰にも話していないはずの、最初期のヒカル(佐為)との対局の棋譜を越智に見せつけます。
「ここで僕が投了!」
ひょっとしなくても作中で最も有名なセリフなのではないでしょうか?
最初はヒカルのことなど歯牙にもかけていなかった越智ですが、さすがに警戒MAXになったことでしょう。
越智クラスの相手に最大限に対策されることになってしまったヒカル。
ヒカルと越智の対局が楽しみですね!
本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!
今回はヒカルと伊角さんのプロ試験本戦での対局です。
元ネタは30年近く前の女流名人戦、宮崎志摩子二段(黒)と青木喜久代三段(白)の対局です。
ヒカルにとっても、伊角さんにとっても苦々しい局面。伊角さんがハガシの反則を行った盤面はどうやら元ネタと手順と進行が違っているようで、正確な進行は不明になっています。
しかし、「悪意の無い反則」で勝負が決するという珍しい対局、かつ物語的にも重要な対局なので、一部推測混じりの進行もいれつつも本対局を検討していきたいと思います。
(図1)
作中では黒が慎重な打ちまわしで優位に進めているように描写されていますが、LeelaZero先生によるとほぼ五分の形勢で、なかなかどちらにも傾かない良い勝負になっているようです。
ただし、感覚的には確かに黒の方が打ちやすそうな気がしますね。
白は左辺が大きいですが左辺だけなのに対して、黒は下辺から右下にかけて大きな模様が作れそうですし、上辺の形も悪くありません。
実際、この後白が左辺を囲って右下に大きな黒模様ができた段階で若干ですが黒に形勢が傾きます。
とはいえ、左辺の白も広大なので僕程度では形成判断はできませんが・・
右下黒を全て地にすることはさすがに難しそうですし、まだまだこれからの勝負なのかもしれません。
(図2)
左下から中央にかけての形が独特、かつ反則が行われたこともあってじっくりと描かれた盤面なので、作中に描かれた盤面が印象に残っている人も多いのではないでしょうか?
そして、本図の中央の形なんか違うと思った人も多いのではないでしょうか?
実はこれが元ネタの進行となります。
LeelaZero先生は黒持ちで、確かにここまでくれば若干黒が良さそうに見えます。
ただ、こういう大きく囲い合う感じの勝負の形成判断は本当に難しいと思います。個人的には、お互いギリギリ二眼できるくらいの地ばかりができるような、攻め合いの続くような碁の方が形成判断しやすいです。
なぜならば、地が小さくて数えやすいからですね。
(図3)
推測交じりですが作中の盤面を作り上げました。
右上はチラッと描かれていて、手順が違うだけで実戦の進行と同じ形だったのでその通りに再現しました。
右下は一部だけ描かれていましたが、どうも実戦で出来上がる右下の形とは違っていそうだったので、推測で並べました。
恐らく、右下を黒が先手で切り上げて中央のトビを打つはずなので、一応そうなる手順を考えた上で、作中に描かれている部分は一致するようにしてみました。
それなりにそれっぽい形になっていると思います。
そして問題の局面。
白が中央に打ったワリコミをアテる手ですね。
右からアテるか左からアテるか・・
伊角さんは一旦左からアテて、間違えたと気付いて右からアテていますね。
確かに、これは右からアテる方が自然で、左からアテるのはいかにも露骨な手に見えますね。
ですがなんと!
LeelaZero先生は伊角さんがミスだと思った左からアテる手を候補手にしています。
しかし、考えてみれば不自然な手に見えるものの悪くないような気がしてきました。
左からアテて、ポン抜かれるのはさすがに白がつらいから逃げて、アテた手を左辺方向にノビて・・
お互いに模様に侵入されたような形ですが、別に極端にどちらが良いというような感じはしませんね。いや、LeelaZero先生がそう言うもんだからさぁ~(笑)
総括
プロ試験本戦も終盤。
ヒカルは合格圏内にいますが、まだまだどうとでも転ぶような状況です。
どういう結果になるのか、楽しみですね!(次巻の書評はこちら)