『りゅうおうのおしごと(1)』名作将棋ラノベの魅力(ネタバレ含む感想)
本記事は将棋ラノベの名作である『りゅうおうのおしごと!』の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。
まずは最年少竜王の九頭竜八一と、その弟子である雛鶴あいの物語のプロローグとなる1巻目となります。
?
本作の概要
あらすじ(ストーリー)
将棋界の2大タイトルのひとつである竜王に史上最年少の16歳でなった若き天才。それが主人公の九頭竜八一となります。
しかし、竜王になってからはタイトルホルダーらしい将棋を求めるあまり、公式戦11連敗してしまうほどの大きなスランプに陥ってしまっていました。
そんなある日、八一の自宅に見知らぬ女子小学生が押しかけてきます。
八一に憧れる彼女の名前は雛鶴あい。八一の竜王戦を見て将棋を始めた初心者ですが、弟子にしてほしいと遠路はるばるやって来ました。
最初、弟子を取るつもりなどない八一は「力を見るため」の対局であいを打ちのめすつもりでいました。
しかし、初心者であるにも関わらずあいの指す将棋は、泥臭くも熱いもので、特大のスランプに陥っていた八一が奮起するキッカケにもなったほどです。
スランプ中とはいえ現役の竜王に一発入れかけるほどの天才少女の行く先を見てみたい。そう思った八一は、何故将棋界では師匠は無償で弟子を取るのかを理解するとともに、最終的に自らあいのことを弟子にしたいと思うようになります。
若き天才と幼き天才の師弟関係が、これから始まっていきます。
ピックアップキャラクター
第1巻ということもあり、今後各巻でメインを張るような主要登場人物が多数登場していますが、最初なのでやっぱり主人公の九頭竜八一と、メインヒロインの雛鶴あいが今巻でのピックアップキャラクターになるのではないかと思います。
九頭竜八一
(「りゅうおうのおしごと!(9巻)」より)
主人公の九頭竜八一は、史上最年少で竜王になった天才少年です。
1巻では、竜王になってから大スランプに陥っているところに突如現れた弟子志望の女子小学生・雛鶴あいに振り回されつつも、最後には幼き才能に惚れ込んで自ら弟子にしたいと思うようになります。
雛鶴あい
(「りゅうおうのおしごと!(1巻)」より)
メインヒロインの雛鶴あいは、九頭竜八一が竜王戦を戦う姿に憧れて将棋を始めた初心者となります。
初心者ですが、若干9歳にしてたったひとりで北陸から関西まで八一の弟子になるためにやって来るバイタリティだけでもすごいのに、スランプ中とはいえ現役竜王である八一に一発いれかけ、熱くさせるほどの才能を見せます。
実はあいが将棋を指すことを快く思っていない両親から逃げるように家出してきたわけなのですが、最後にはひとまず八一の弟子になることが認められることになります。
ネタバレ含む感想
師匠への恩返し
オシッコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
主人公の九頭竜八一。その師匠である清滝鋼介のそんな叫びから『りゅうおうのおしごと!』は始まります。
僅か数ページの間に何度「オシッコ」という単語が出て来たのか分からないくらい、小学生男子が好きそうなギャグですね。(笑)
本記事を書いている時点で僕は『りゅうおうのおしごと!』の世界に10巻まで触れていますが、だからこそこの幼稚な始まり方はちょっと意外だったりします。
この清滝鋼介、最初の印象こそオシッコおじさんという感じ・・というかそれ以外に一体どんな印象を持てば良いんだという感じですが、後々このオシッコ事件が霞むほど格好良いオッサンだということが分かってくるからこそ、読み返すたびに笑えてきます。
しかし、実のところコレは『りゅうおうのおしごと!』という作品においてかなり重要なエピソードなのではないかとも思うのです。
弟子が師匠に勝利する『恩返し』。
このエピソードは、弟子の成長は嬉しいけどやっぱり悔しいという清滝鋼介の思いが・・
オシッコでりゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
まあ、文字通り溢れ出してしまった。(笑)
・・というお話なのですが、そもそも『りゅうおうのおしごと!』は将棋における師匠と弟子の物語です。
このエピソードでは弟子の立場である九頭竜八一が、師匠になっていくわけですからね。
そう考えた時、この弟子が師匠に勝利して、師匠が悔しさを溢れさせるというエピソードは、何かしらの『りゅうおうのおしごと!』の結末を示唆しているのではないかとも思うのです。
現実には、現役トップ棋士である九頭竜八一を相手に女子小学生である雛鶴あいを勝利させることはいくら何でも無理があるはずなので、勝利をもっての『恩返し』という展開にはならないような気もしますが、何かしらこの『恩返し』を彷彿とさせるような結末があるのだと思えてなりませんね。
押しかけ弟子の入門試験
約束どおり、弟子にしてもらいにきました!!
九頭竜八一が最年少で竜王を獲得した最終局。あと一歩で竜王に手が届くという局面で極度に緊張している八一に、一杯のお水を渡して緊張を解した少女。
それが後に八一の弟子となる雛鶴あいでした。
タイトル獲ったら何でも言うこと聞いてあげる
・・なんて、極限状態に言ったお礼だとしても、真に受けられたとしたらかなり強烈なことを言ってしまっている八一。
この辺は八一のラノベ主人公らしい一面だと思います。
また、八一には失言王じみたところがありますが、それはお隣囲碁の世界を描いた名作漫画『ヒカルの碁』の主人公である進藤ヒカルを思わせますね。性格はかなり違いますけど。(笑)
しかし、何でも言うことを聞くとはいっても、八一にもできることとできないことがあります。
少なくとも、この時点で八一は自分に誰かの師匠になれるほどの余裕があるとは思っていませんでしたし、才能の有無も分からない女子小学生を安易に弟子にして厳しい勝負の世界に招き入れるのも憚られたことだと思います。
だからこそ、あいの力を見るために入門試験を実施する形をとったものの、それは半分以上が口実で、この時点で八一はあいを追い返す気満々だったのだと思います。
力には自信があります! 手加減なしの全力でお願いします!!
身の程知らずの生意気なクソ餓鬼……いいぜ。やってやる。来いよ!
この辺、非常に面白いところですよね。
たった四手の間で行われる手談。僕は、将棋こそやらないもののお隣の世界の囲碁はかなりやっているので何となく分かりますが、たった一手からでも相手の考えが伝わってくるということは確かにあるものです。
『りゅうおうのおしごと!』は、その手談を上手く表現して読者に伝えるのが上手な作品だと思いますが、その最初のシーン。最初の手談がこの八一とあいの四手だったのではないかと思います。
そして、この対局の結末はあまりにも予定調和。スランプ中とはいえ現役の竜王に女子小学生が、それも初心者が敵うわけもなく、八一も一思いに決着を付けようとします。
・・そこまでは予定調和でした。
勝負を早く終わらせるために八一が放った無理気味の手。
・・こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう・・・・
その緩みをあいは見逃しませんでした。
あいが深い集中力を発揮している時の「こう、こう・・」という代名詞のようなボヤキも、ここで初めて登場します。
八一の無理気味の攻めを咎めたあい。意図的に指したとはいえ、現役竜王の緩手を咎めて一発入れかけるとは、その時点で間違いなく普通の初心者ではないのでしょう。
もちろん、さすがに初心者が平手で現役竜王に勝てるわけもなく、この対局にあいは敗北してしまいます。
しかし、この対局はスランプ中だった八一に将棋の楽しさを思い出させるキッカケになるほど熱い対局でした。
名局とは程遠い稚拙な対局。しかし、どんなに強くてもツマラナイ将棋よりも、ミスだらけの泥仕合だけど想いの込められた対局の方が人を熱くさせることもあります。
僕も囲碁をやるから、この辺の感慨はよく理解できるところです。
八一とあいの入門試験。この対局はまさにそういう対局でした。
タイトルホルダーらしい綺麗な将棋を求めるあまりそういう泥臭さや粘りが無くなってしまっていた八一は、このあいとの対局で見失いかけていた自分の将棋を取り戻します。
その結果、公式戦11連敗という中々に残念な成績から、泥臭い将棋をもって抜け出すことに成功して復活を遂げることになりました。
あいの金沢カレー
本題からは逸れたエピソードなのに強烈に印象に残っているのが、あいが夕飯に金沢カレーを作るエピソードです。
もっと、具材の全てが形を失ってルーに溶け込むくらいドロッドロに……やっぱり圧力鍋やないと煮込み足らんがよ……お皿も銀のステンレスやないと締まらんがいね・・
あいはもともと感情的になると方言が飛び出すキャラクターですが、カレーを作っている時も例外ではないようです。
そして・・
もってかれないでくださいね?
出来上がったのは八一の意識を飛ばしてしまうほどの強烈な金沢カレーでした。
なんというか、僅か数ページの女子小学生がカレーを作っているだけのエピソードなんですけど、ちょっと普通ではないレベルで記憶に残ってしまうエピソードだったと思います。
実は、初めてこのエピソードを読んだ時点で僕は金沢カレーというものを食べたことが無かったのですが、『りゅうおうのおしごと!』を読んだことをキッカケに初めて金沢カレーを食べたのです。(美味しかったです)
そんな風に、今まで食べたことが無い人が食べてみたいと思うくらい強烈なエピソードでした。(グルメ漫画か!)
そして、僅か数ページのこのエピソードの強烈さの証拠として、チャンピオンカレーが『りゅうおうのおしごと!』とコラボして『あいちゃんの金沢カレー』なる商品を販売していたことは、結構話題になったので知っている人も多いのではないでしょうか?
研修会試験とあいの両親
1巻のハイライトはあいの研修会試験のエピソードとなります。
女流棋士を目指して研修会試験を受けることになるのですが、恐らくこの時点のあいの実力なら合格そのものは難しくなかったのではないかと思います。
それを緊張感のあるエピソードに変えたのがあいの両親。母親の雛鶴亜希奈と父親の雛鶴隆ですが、特に雛鶴亜希奈ですね。
実は家出して八一に弟子入りしに来ていたあいを追いかけて来たわけなのですが、娘が内弟子として八一と二人暮らしをしていることについては、意外にもそういうものだと理解しているようです。
しかし、そもそもあいが女流棋士を目指すことには反対している。
これはまあ、よっぽどの放任主義か理解のある両親でもない限り、当然といえば当然の反応で、しかもあいの場合は本来、温泉旅館『ひな鶴』の女将としての教育を受ける安定のレールが最初から敷かれていたわけなので、あえて不安定な世界に飛び込もうとする親の気持ちは分からなくはありません。
あいさんの才能が圧倒的だからです
それを八一が、あいに限っては大きな才能があるから安心しても良いと両親を説得するのですが、それならばと研修会試験で3連勝することを将棋を続ける条件として提示されてしまいます。
八一が作中で語っている通り、こういった盤上遊戯のゲームはなんであれ上手が必ず下手に勝てるほど甘いものではありません。全戦全勝できる実力差とは、思っている以上に大きな差があるはずです。
そして、研修会試験の相手の中には現役のプロ棋士である久留野七段や、八一の姉弟子で歴史上でも最強と言われる女性である空銀子がいます。
つまり、駒落ちのハンデ戦とはいえ、あいに課せられた条件は相当に厳しいものとなります。
そこであいは「折れない心」という大きな才能を発揮して、最後の相手である空銀子に食らいつき続けるのですが、一歩、届きませんでした。
・・次は最短で殺す
負けはしたものの、ずっとあいが八一の弟子になることを好ましく思っていない様子だった空銀子が、遠回しにあいが再び自分の前に立ちふさがる「次」がある存在なのだと認めるほどの才能を見せつけたあい。
しかし、母親との約束の3連勝はできませんでした。
今の将棋を拝見して、俺は何が何でもあいさんを弟子にしたいと思いました。ですから──今度はこちらからスカウトさせていただきます
それを、八一が非常に強引な理論でスカウトという形であいを弟子にしたいのだと、あいの両親を説得します。
最初は一方的な押しかけ弟子でしたが、この時には八一の方からあいを弟子にしたいと思うほどの関係が出来上がっていて、それに見合う才能をあいは見せていました。
そして、八一にとってはちょっと不本意な条件を付けられてしまったものの、あいはこのまま八一の内弟子として女流棋士を目指すことになりました。