『りゅうおうのおしごと(10)』竜王の雛の殻にヒビが入る最新巻の感想(ネタバレ注意)
『りゅうおうのおしごと』もついに大台に乗りましたね。
10巻という節目的な巻だからでしょうか?
各巻ごとに誰かスポットが当たるキャラクターがいるのが定番になっている『りゅうおうのおしごと』ですが、メインヒロインである雛鶴あいにスポットがあたるのはかなり久しぶりな気がします。
ひょっとして4巻の『マイナビ女子オープン将棋トーナメント』のエピソード以来ではないでしょうか?
最近は他のキャラクターがずっと目立っていて存在感が薄かった雛鶴あいでしたが、今巻では久々に「こうこうこう・・」って大活躍しています。
また、言い方は悪いけど雛鶴あいのおまけ的にしか捉えていなかったJS研にもスポットが当たったエピソードもあって、最初は正直前巻の激熱展開を読んだ後にJS研のエピソードがあってもなぁとか思っていましたが・・
そこはさすが白鳥士郎先生。
いつもに引けを取らないエンターテイメントに仕上がっていました。
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本作の概要
今巻ではメインヒロインである雛鶴あいの弱点と才能、そしてJS研メンバー、銀子の三段リーグ。
この三点にスポットが当たった内容になっています。
あいの師匠である八一がどのように弟子を育てようとしているのか、その思惑が芽を出すと同時に明らかになるところが最大の見所です!
本作の見所
あいの進学と担任変更
1巻時点で小学三年生だった雛鶴あいも、いつの間にか小学五年生に進級しました。
担任も今までの将棋に理解のあった先生から変わってしまったことで、例え竜王だろうと年齢的には十代の少年でしかない八一があいの保護者であることが・・
まあ、問題視されないわけがないですよね~
若い女性の担任である鐘ヶ坂操先生は、将棋界のことなんて何も知らなくて、ただ単純に十代の少年が保護者になっていることを問題視していました。とはいえ、知らない世界のことを理解しようとすらしないタイプではなかったようで、条件付きで八一をあいの保護者として認めることにしたようです。
「九頭竜さん。あなたが水越澪さんを指導して、その大会で優勝させてあげてください。そうすれば雛鶴さんの保護者としての資格ありと認めましょう」
最初から八一が才能を見込んで弟子にしたあいではなく、JS研の水越澪を優勝に導くことができれば、八一の純粋な指導力が測れるという考えのようですが・・
水越澪だって女流棋士を目指す研修生。
普通に才能ある女の子のはずなんですけどね。(笑)
銀子の三段リーグ
いよいよ銀子の三段リーグでの戦いが始まります。
前巻では女王戦で圧倒的な力で天衣を退けた銀子ですが、そんな銀子でも三段リーグの環境は厳しいようですね。
僕は将棋の世界のことはあまり知りませんが、それでも三段リーグが大変な場所なのだということは漫画の影響か何かで知っています。
銀子は初戦、どうやらかなり格上っぽい三段リーグの順位が一位の坂梨に何とか勝利し、その後も連勝こそするものの、負けの許されない泥試合の連続にかなり精神的に参ってしまっているようです。
女性初の三段リーグ入りだとかで周囲の期待がストレスになっているというのもあるのかもしれませんね。
かつて三段リーグ入りを決めた直後にも精神的に参っている様子を見せていましたが、今巻の銀子はそれ以上です。
今巻ラストでは、あまりにも壮絶に精神を病んでしまった銀子の姿が見られるのですが・・
「だから、斬り落とさなくちゃいけないの」
自分の思い通りの手を指せない右てを斬り落とそうと包丁をにぎり・・
「もう無理なの。将棋なんて指せない。大阪にいたくない。おねがい━━私を殺して」
私を殺せと八一に懇願する銀子。
苦しいこともあるけど、基本的には熱く楽しい将棋が描かれている『りゅうおうのおしごと』で、こんな壮絶なシーンが描かれるなんて・・
それだけ三段リーグという場所が壮絶だってことが言いたいんでしょうね。
竜王戦の時の八一や、女流棋士になれるかの瀬戸際だった時の桂香も壮絶でしたが、2つくらいレベルが上の壮絶さだと思います。
この銀子が今後どうなっていってしまうのか、めっちゃ気になりますね。
・・てか、大丈夫なのか?
小学校の教壇に立つ竜王
八一が小学校の教壇に立つことに、周囲の冷たいような生暖かいような視線もあるようですが、普通に考えるとこの小学生たちって超絶凄いというか、羨ましい経験していますよね?
現実的に考えて、無名のプロ棋士が指導してくれるだけでも凄いと思うのに、それが最高峰のタイトルホルダーとか、ヤバすぎます。
そして、その八一の指導力が地味に高い。
ふざけはじめて収拾がつかない生徒たちの興味を引いてまとめ上げる手段が意外なほどうまく、鐘ヶ坂先生も感心しています。
・・ですが、最後はいつものロリ竜王的なオチでした。(笑)
あいの弱点と強さ
今巻では終始あいの弱点について触れられています。
序盤が苦手。
花立薊に鹿路庭珠代、釈迦堂里菜などなど。
多くの登場人物があいの序盤の弱さを指摘し、どんなに詰将棋が得意でも実践では無意味だと言われてしまっています。
「あの一線がきっかけになって、あいの弱点が序盤にあるって露呈した・・花立さんや鹿路庭さんが言うように序盤の知識を詰め込めば多少は有利に戦えるんだろうけど」
「それをやってしまうと・・あいは間違いなくタイトルを獲れない」
しかし、八一はそれを分かった上で、頑なにあいには序盤の勉強をさせません。
あいも序盤の弱さを自覚していて、なぜか実戦では役に立たないと指摘された詰将棋ばかりを八一にやらされて少々不安になったりしているのですが、八一には師匠として何か考えがあるようです。
今までも散々強調されてきたあいの詰将棋力の高さが、より一層強調されてくるほどあいに難問を解かせ続ける八一。
その八一の思惑が芽を出したのは女流名跡のリーグ入りをかけた対局でした。
「捌きとも違う! 従来の終盤力とは文字通り次元が全く違う力・・二次元であるはずの将棋盤で三次元を表現できる想像力! それが、あいの翼(さいのう)です!!」
興奮気味にあいの将棋を指して「空を飛んだ」と語る八一。
「終盤を強くするには、逆転のテクニックを得るには、絶体絶命にならないといけない。終盤で命を賭けて斬り合いをしなくちゃいけない。つまり序盤でリードしちゃいけないんだ」
そして、八一の思惑が明らかになっていきます。
序盤の知識がない真っ新な状態であることを、終盤を鍛えるためのあいの才能だと八一は捉えていたようです。
ということは、花立薊に鹿路庭珠代が揶揄していた逆転勝ちが多いあいの不安定さは、そもそも師匠である八一の思惑通りだったということですね。
格下であるJS研のメンバーと駒落ち対局させていたことすら、詰将棋的な構図のできあがる入玉の打ち方に慣れさせることが目的だったようです。
八一は、あいと最初に将棋を指したその瞬間から、こんな風にあいを導こうと決めていたと言います。
しかし、翼を得たあいがどこまで行けるのか?
それは八一にもわからず、あいが決めることなのだとそう言います。
いやはや、しばらくメインヒロインにしては空気だったあいですが、ようやくメインヒロインらしい活躍を見せてくれました!
釈迦堂里菜が『竜王の雛』とかいう意外と格好良い異名を付けていましたが、これが完全に孵るところが、この『りゅうおうのおしごと』の終着点になりそうな予感がしますね。
なにわ王将戦
あいや天衣という才能が近くにいるせいで軽視してしまいがちなJS研ですが、一応は女流棋士を目指す子供たち。
八一は全国レベルではまだまだとか言っていましたが、かなりの実力者揃いであることは間違いないでしょう。
そんなJS研メンバーが挑むのは、神鍋歩夢の妹である小学生名人の神鍋馬莉愛も出場する『なにわ王将戦』。
実は海外へ転校することになっている澪が、両親に強くなった自分を見てほしくて優勝を目指します。
あいには内緒にしていた転校ですが、偶然にもそれを知ってしまっていたあいが、自分が嫌われ役になってでも澪を優勝に導こうとしていたのが熱いですね。
熱い勝負の多い本作品ですが、熱い友情も良いものです。
「こうこうこう・・」と、あいの真似をしながらも、小学生名人相手に泥臭い勝利をもぎ取る展開もまた熱いですね。
今巻の夜叉神天衣
前巻で活躍しすぎた天衣は、今巻は小休止という感じで出番は少なかったのですが、その少ない出番が可愛すぎました。
「最近・・うちのお嬢様が、べらぼうにかわいいのである」
晶さんのモノローグがすべてを物語っていますね。
前巻で明らかに八一を異性として意識しだした節のある天衣でしたが、押しの強いあいとはまた違って完全に乙女です。
靴や髪型が気になって、変だと思われたくなくて八一に会いに出かけられなかったり、スマホで棋譜を見る振りをしながらデートスポットを検索したり。
いわゆるデレたってヤツですね。
めっちゃ可愛いのに出番が少なくて残念でしたが、八一からJS研のメンバーが『なにわ王将戦』に出ると聞いて「興味無い」とか言ってたのに、気付けば『ぶらっくきゃっと』というハンドルネームでネット将棋で澪を鍛えたりしていました。(笑)
どうやら、あいが頼んだらしいのですが、ちゃっかり澪にはバレてしまっていたようです。
総括
いかがでしたでしょうか?
前巻の大活躍で好きになった夜叉神天衣の出番が少なめだったのが寂しいような気もしますが、こうして登場人物の1人1人を大事にしているのが『りゅうおうのおしごと』の良いところなのでそれは仕方ないですね。
ラストでは銀子が壮絶なことになっていて、もしかしたら次巻あたりは銀子メインのエピソードになる感じでしょうか?
女流名跡の挑戦者決定戦にリーグ入りしたあいも気になるところです。
まだまだ見所が盛りだくさんで、続刊が楽しみです!