『りゅうおうのおしごと(13)』JS研まみれの閑話休題(ネタバレ含む感想)
本記事は将棋ラノベの名作である『りゅうおうのおしごと!』の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。
JS研まみれの閑話休題な13巻目となります。
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本作の概要
あらすじ(ストーリー)
特に9巻以降、毎巻今回が一番だと思えるほどの勢いがあった『りゅうおうのおしごと!』ですが、空銀子の三段リーグ編がひと段落したところで13巻は久々の閑話休題となります。
父親のヨーロッパ転勤の影響で引っ越すことになった水越澪との別れを、過去のドラマCDのエピソードを思い出話として絡めながら一冊かけて描いた内容になっています。
というわけで、かつてないほどにJS研に溢れた内容になっているのではないかと思います。
思い出話のエピソードが再録に近い形なので不満に感じている人も多いようですが、個人的にはドラマCDという媒体はあまり好きではなく今まで聞いていなかったこともあり新鮮な気持ちで読めました。
作者の白鳥士郎先生曰く、もともと水越澪との別れはちゃんと描きたかったことと、コロナ禍で本編を進める上での十分な取材ができなかったために13巻はこのような形式になったそうなのですが、三段リーグ編がひと段落したところで結果的にタイミングとしては絶妙だったのではないでしょうか?
とはいえ、ロリコン将棋ラノベといっても実のところ将棋成分の方に魅力がある作品なので、ロリコン成分が多めの13巻は少々消化不良は否めないかもしれません。逆にロリコン成分を求めている人には嬉しい内容かも?
ただし、将棋の対局シーンは水越澪と雛鶴あいの対局の一つだけですが、こちらは三段リーグの人生を賭けた対局とは別種の、少女たちの友情を確かめ合うような熱さがある魅力的なシーンになっていました。
なお、次巻の14巻からは最終章となるようです。
同じく過去の短編の再録であった8巻を振り返ると、力を溜めていたかのようにその後の9巻から12巻の物語の勢いは凄かったので、最終章となる14巻以降はそれ以上の勢いが期待できるのではないかと思っています。
ピックアップキャラクター
実のところJS研は本編のストーリー上そこまで重要な役割を果たしているキャラクターではありませんが、主人公の九頭竜八一のロリコン指数を示す上での重要なバロメーターになっています。(笑)
というのは半分冗談にしても、雛鶴あいに同世代の仲間が必要だったことがJS研の大きな存在理由だったのではないかと思います。
しかし、物語が進むにつれJS研のストーリーも深掘りされてきました。なにわ王将戦のエピソードもそうでしたが、13巻の水越澪の旅立ちのエピソードもまた『りゅうおうのおしごと!』におけるJS研の役割が想像以上に高いことを示しているのではないかと思います。
水越澪
雛鶴あいの初めての将棋友達でJS研のリーダー格。とても明るい人懐っこい性格ですが、将棋指しとしては雛鶴あいに対して少々複雑な思いも抱えていたようです。「あいちゃんの友達になんてなりたくなかった」と水越澪が雛鶴あいに放った言葉の真意。そして水越澪が雛鶴あいに送った本当の贈り物は何だったのか。その辺が13巻の見所にもなってきます。
ネタバレ含む感想
JS研の思い出話
誰が天●飯よ!?
思い出話は本編には直接関係が無いので個人的に気になったエピソードを振り返ってみたいと思います。本編ではいつの間にか雛鶴あいからも「天ちゃん」と呼ばれていた夜叉神天衣ですが、ドラマCDのエピソードで水越澪が「天ちゃん」と呼んだのが最初だったのですね。
本編では最初から自然に受け入れていたのが夜叉神天衣の性格的に不思議に感じていたのですが、既に仇名に対するひと悶着は終えた後だったようです。
馴れ馴れしいと文句を言う夜叉神天衣の反応を受けて「じゃあ・・天さん?」と言われた後の夜叉神天衣の反応がまた面白い。
お嬢様、ドラゴンボールを読んでるんですね。(笑)
なんとなくですけど、付き人の池田晶の影響な気がします。
小童。桂香さんは?
二度とこんなことを思いつかないよう制裁を加えておきました
本編でも何となく空銀子贔屓の気がある清滝桂香ですが、最近はちょっと面白いキャラ扱いになっていることも多いですよね。当初は主人公の九頭竜八一が慕っていることもあって憧れのお姉さん的なキャラだったのに、ちょっとオジサン化が進んでいる上に他のキャラからの扱いも酷いことが増えてきているような気がします。(笑)
その分親しみもありますけど、どうしても思わずクスリとしてしまいますね。
ちなみに、これは空銀子の誕生日に空銀子と九頭竜八一が二人きりで食事できるように画策したことで、空銀子本人からも雛鶴あいからも怒りを買ったというシーンでした。
いずれのドラマCDのエピソードも、何故か基本的には九頭竜八一がロリコンであるということを本編以上に強調するようなものでしたが、まあJS研まみれの13巻らしい内容といえばそんな気もします。
強烈な努力
水越澪とJS研の別れのエピソードに何故か登場してきたのは本因坊秀埋こと天辻埋でした。放送禁止用語を連呼する酔っ払いのお姉さんですが、将棋のお隣囲碁の世界で女性でありながら本因坊のタイトルを保持する凄い人です。
今まで誰もなし得なかったことをなし得た女性として空銀子に関連したエピソードに登場するなら分かるのですが、何故彼女がJS研のエピソードに絡んできたのか?
それは恐らく、今回雛鶴あいに悔しさをプレゼントするために「強烈な努力」を行った水越澪の見届け人として本因坊秀埋が相応しいキャラクターだったからなのではないかと思います。
なぜ本因坊秀埋が相応しいのかといえば、「強烈な努力」とは本因坊秀埋の元ネタである囲碁界の大棋士、藤沢秀行名誉棋聖の言葉だからです。
そして、そんな水越澪の「強烈な努力」の結果こそが13巻の最大の見所なのではないかと思います。正直なところ、僕は水越澪に限らずJS研のキャラクターはあまり好きではありませんでしたが、今回のエピソードで結構好きになったかもしれません。
雛鶴あいに対して非常に友好的だった水越澪でしたが、もちろん雛鶴あいに対する感情の中に友情も含まれていたのでしょうけど、そうではない嫉妬もあったことが語られています。
でもね? だったらもっと頑張ってみようって思ったの! 一番になれないからこそ、いっぱい負けて悔しい思いをたくさんするからこそ、もう一度だけ全力で頑張ってみようかなって思ったんだ!
しかし、その嫉妬こそが水越澪のモチベーションにもなったようです。
この別れの対局に向けて水越澪がしてきた努力。徹底的な雛鶴あいの研究と番外戦術まで駆使したとはいえ、本来駒落ちの実力差のある相手を負かすのは並大抵のことではなかったのではないかと思われます。そう考えると、悔しさという感情はその人に諦めをもたらすこともあるかもしれませんが、それ以上に成長を促す可能性を秘めているとも言えますね。
澪は、あいちゃんの友達になんてなりたくなかった
みお・・ちゃん・・?
だって澪が本当になりたかったのは・・あいちゃんのライバルだから!
今まで自分より格上に追い付いて、追い抜いていくばかりであった雛鶴あいにとっては初めて本気の本気で格下相手に敗れた経験となるわけですが、なるほどそういう経験を与えるというか、追い抜き合うことができる関係をライバルというのであれば、水越澪はここで初めて雛鶴あいのライバルになり得たのかもしれませんね。
・・わたしは、強くなる。強く・・なりたいっ!!
そして、この雛鶴あいの決意こそが水越澪によってもたらされた贈り物でした。
水越澪は、空銀子がプロになれてもなれなくても雛鶴あいのモチベーションが下がり、最悪将棋を辞めてしまう原因になるのではないかと危惧していました。それを心配して・・というだけではないとは思いますが、少なくとも雛鶴あいが将棋を辞めることは無いでしょうし、今まで以上に高いモチベーションを得たことは間違いないと思います。
また、水越澪によってもたらされた大量の雛鶴あいの研究成果もまた雛鶴あいの将棋に大きな影響を与えることが予想されます・・が、気になるのはこれらの研究成果を以って強くなることは師匠である九頭竜八一の意図からは外れてしまう可能性があるということですよね。
AIにしても序盤の勉強にしても、九頭竜八一は圧倒的な終盤力を伸ばすために意図的に雛鶴あいの修行からは省いていたところとなるはずです。
雛鶴あいは大好きな師匠の意に反したことをするタイプの少女ではありませんが、今度は一体どうでしょうか?
いつかは雛は羽ばたいていくものですし、もしかしたらその時は近いのかもしれませんね。
14巻からは最終章ということですしね。(笑)