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『りゅうおうのおしごと(8)』感想戦の2人が雅に活躍する一冊です(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

山城桜花。親友同士の三番勝負を描いた8巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

春はプロ棋士も春休み。八一は女流棋士になった一番弟子の雛鶴あいを連れて京都に行きます。

しかし、その目的は観光ではなく女流タイトルの山城桜花戦の観戦でした。

八一はそこであいに、アマチュア時代のあいに教えていた礼儀とは違う、たとえ相手の心を傷つけることでも少しでも勝利に繋がることであれば積み上げていくプロとしての覚悟を教えようとします。

そんな山城桜花戦のカードは、タイトルホルダーであり永世称号であるクイーン山城桜花がかかる供御飯万智と、同じく女流玉将のタイトルを持つ挑戦者。供御飯万智の親友でもある月夜見坂燎となります。

親友同士でありながら、相手の心を痛めつけあうようなタイトル戦。

華やかで雅やかな公開対局でありながら、互いに葛藤しながらも意地をぶつけ合う熱戦が繰り広げられます。

特に三局目の、互いを認め合っているからこそ互いの得意戦法を用いる展開が素晴らしいと思います。

また、8巻は供御飯万智と月夜見坂燎による山城桜花戦。対局者の二人の心情を描くと同時に、二人と仲の良い八一から対局者への景気付けのような過去の面白いエピソードが語られるという短編集の側面もあります。

ピックアップキャラクター

7巻が大人の男の渋みを描いた内容だったのに対して、8巻では雅やかな女流タイトル戦の模様が描かれています。

そのカードは、1巻からあとがきの後に描かれていた感想戦の2人。

作者によるとメインで登場させるつもりは無かったキャラクターだそうですが、あまりにも人気が出たためこうして登場してきたようです。

月夜見坂燎

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(「りゅうおうのおしごと!(8巻)」より)

通称「攻める大天使」。口や態度は悪いが、自戦記という形で対戦相手である供御飯万智や九頭竜八一への素直な尊敬を示したり、意外な一面をのぞかせます。

供御飯万智

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(「りゅうおうのおしごと!(8巻)」より)

通称「嬲り殺しの万智」。観戦記者の鵠としてはおなじみですが、観戦記者の時とは違った勝負師の顔を見せてくれます。

ネタバレ含む感想

短編3つ

やきにく将棋

一日中練習将棋を指して疲れている八一とあいは、何か外食をと焼き肉に行くことになりました。そして、二人だけでは寂しいということで他の棋士を誘うことになったのですが・・

同席することになったのは八一の姉弟子の銀子。

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空銀子

今年も竜王戦の賞金が入って来るから、対局に全部負けても年収四千万以上は確定だし。タイトル失冠しても番勝負に出るだけで千五百万くらいもらえるんだっけ? いいわよねーお金持ちで。そりゃあ家で小学生を飼おうって気にもなるわよねー

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あい

・・おばさんには聞いてないんですケド

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空銀子

誰がおばさんやコラ?

相対するたびに喧嘩腰になるあいと銀子ですが、個人的にはこの二人の関係性が地味に好きだったりします。

焼肉屋さんでのこのやり取りも、険悪ではありつつもなぁ~んか後々良好になっていくんじゃないかって空気を感じるからです。

険悪な二人の間にいるのは八一であることは恐らく間違いなく、だとすればある意味で似たもの同士だとも言えますからね。

それにしても、八一にある種の好意を持っているであろう二人が言い争うことで、何故か当の八一の評判が著しく下がっていく展開は面白いと思います。

将棋アイドル

近年、現実でも将棋の世界の注目度は高まっています。

どんな世界でも一人のスターが飛躍的にその世界の注目度を上げることはよくあることで、そんな時期だからこそそのスターだけではなく業界全体の理解者(ファン)を増やそうという考え方はある意味自然なことだと思います。

注目されているからこそのテコ入れって感じでしょうか?

そして、作中でも語れるように最近では観る専の将棋ファンや囲碁ファンってのも増えてきているようですね。

昔ながらのファンは普通、自分自身もプレイヤーであるのが常だと思いますが、そうではない人もいるというのはそれだけ裾野が広くなり、多様的になってきたとも言えます。

マイナー競技であればあるほど、それに関わるのはプレイヤーに偏ってくるのはある意味当然の帰結ですからね

そういうわけで、というわけでもないのかもしれませんが、八一は月光聖市の秘書の男鹿ささりの指示で、あいを中心とするJS研のメンバーを将棋アイドルとして売り出すことになります。

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あい

でも師匠。それでどうして、わたしたちがアイドルになるんです?

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八一

要するに、関西でも将棋ブームを起こしたいと。その起爆剤として女子小学生のみんなに女流棋士を目指す将棋アイドルユニットを結成してもらいたいっていうのが、上層部の意向なんだね

・・とまあ、こんな感じの経緯で結成され分けなのですが、いくら可愛くてもアイドルにはそれなりの才能が必要でしょうし、いくら将棋が強くてもアイドルのプロデュースがまともにできるわけではありません。

アイドルなのに曲も無い。

準備する時間も無い。

そんな状況で行われたライブは、まさかの公開目隠し将棋。

なんといいますか、将棋イベントと考えたら割と盛り上がりそうだとは思いつつも、アイドルのライブとしてはシュールこの上ないですね。(笑)

ゲームの監修

将棋のプロ棋士が将棋以外の仕事をしていることもあるのは、意外といろいろな所で名前を見かけるので知っている人も多そうですね。

将棋以外のイベントに登場することもありますし、漫画やゲームの監修なんてのも定番だと思います。

そして、八一にもついにゲームの監修の仕事が舞い込んできました。

依頼者は夜叉神天衣の付き人の池田晶。夜叉神天衣も小学校に通っていたりと、常に付き人できるわけではないので他の仕事もしているようですね。

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八一

それで今回は将棋ゲームを作る・・ということですね? もちろん力を貸しますよ! 俺にできることなら何でも言ってください!

将棋ゲームの監修。プロ棋士にとってそれが嬉しい仕事であることは想像に難くないですが、八一もかなり嬉しそうで、かなり食い気味に協力姿勢を見せるのですが・・

結論からいえば池田晶の作ろうとしているゲームは将棋ゲームではありませんでした。

どうやら八一の幼女を育てる手腕を買って、割と危険な発想の幼女ゲームを作ろうとしていたようです。

巧妙(?)な説得で篭絡されていく八一が面白いエピソードとなります。

山城桜花戦

閑話として過去の短編やドラマCD脚本を小説化したエピソードが語られる短編集の側面もある8巻ですが、基本的には山城桜花戦一色の内容となります。

りゅうおうのおしごと!で一つのタイトル戦が余すところなく描かれているといえば、やはり名著である5巻が思い出されるところです。

九頭竜八一竜王に最強の名人が挑戦する竜王戦は最高峰で激熱の素晴らしいタイトル戦でした。

そして、8巻における山城桜花戦もそれに劣らない・・いや、別種の熱さがあったように思います。

八一の竜王戦の場合、八一はタイトルホルダー側であったもののまるで挑戦者であるかのような一面があったと思います。二回り以上年上の目指すべき大棋士が相手だったのでそりゃあそうって感じでしょうか?

一方の山城桜花戦は、互いに女流タイトルを一つずつ保持する同格・同世代の、しかも幼い頃から付き合いのある親友同士のタイトル戦となります。

そういう意味ではまったく別種の魅力があるカードとなりますし、雅やかな雰囲気は竜王戦には無かった魅力となります。

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八一

二人とも自分の得意戦法を捨てて、むしろ相手の得意な形を採用してるようにも見えます。長年にわたって戦い続け、相手を深く研究してきたからこそ・・相手のことを尊敬し、その指し手に価値を認めたからこそ、こういうことになっているんだと思います

山城桜花戦の第三局を解説する八一のコメントですが、勝負の世界でこのように相手を認めてしまうようなことは本来あまり良くないような気がしますし、そのようなことでは強くはなれないという意味もあると思われます。

しかし、そんな中でも互いに認めることのできるライバルが存在して、ここ一番で勝利するために使った戦法が相手の得意戦法という展開は素敵すぎると思います。

とはいえ、これが例えば八一と神鍋歩夢。雛鶴あいと夜叉神天衣といったキャラクター同士であれば若干説得力に欠ける展開だったような気もします。

供御飯万智と月夜見坂燎。

長年の親友同士のカードだったからこそ、ある意味では勝負師の世界においては違和感のある展開が素敵に感じられたのではないかと思います。

自戦記

8巻の要所では、山城桜花戦の対局者による自戦記が記されています。

なるほど山城桜花戦一色の8巻には相応しい幕間ではあると思うのですが、それがりゅうおうのおしごと!においては珍しいミスディレクションになっているのが興味深いところ。

そのミスディレクションとは、この自戦記が一見すると供御飯万智によるものだと思わされてしまうのですが、実際には月夜見坂燎によるものだということです。

りゅうおうのおしごと!の幕間では、頻繁に鵠(観戦記者でもある供御飯万智のペンネーム)による観戦記が描かれています。

つまり、普段は観戦記を書いている本人が対局者なので8巻では自戦記になっているということかと、恐らく多くの読者が勝手に納得・理解させられたのではないかと推察します。

少なくとも、僕はそのように思っていました。

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月夜見坂

穴熊を採用することは最初から決めていた。

しかも、この自戦記の書き出しがコレでした。

穴熊という戦法に対する愛に溢れているような、そんな内容だったのですが、そもそも穴熊は供御飯万智の得意戦法であり、この自戦記の筆者である月夜見坂燎の棋風とは反するものとなります。

その点もこの自戦記が供御飯万智によるものだという説得力を高めていました。

とまあ、これだけを聞いた人はもしかしたら「ミスディレクションするために無理やり月夜見坂燎に穴熊愛を語らせているのは卑怯だし、不自然では?」みたいに感じる人もいるかもしれません。

しかし、8巻を最後まで読んだ人にはこの自戦記がすんなりと受け入れられる。どころか素敵なものに感じられるのではないかと思います。

ライバル同士である対局者が、互いを認めているからこそ相手の得意戦法で戦うという展開は激熱でした。

それに対して月夜見坂燎は、インタビュー時にそれはただの奇襲だったと答えていますが、なんとなく本心ではないような雰囲気も醸していました。

そんな月夜見坂燎が、実は相手の得意戦法に対して大きな敬意を持っていたということが、実は8巻の初っ端から語られていたのがこの自戦記となります。

ちなみに、僕は初めて8巻を読み終えた直後、つい自戦記の部分だけ読み返してしまいました。

最後の自戦記のみ、明らかに筆者が月夜見坂燎であることが分かるように書かれていますが、それを読んだ後に他の自戦記を読むと、そこから受ける印象がかなり変わるのでとても興味深いです。

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月夜見坂

だが、それよりも、私は穴熊という囲いや、穴熊の将棋を指す棋士に、憧れてきたという理由の方が大きい。

最初の自戦記の中に、第三局へと続く伏線が含まれていたことにも気付くはずです。

そもそも最初の「穴熊を採用することは最初から決めていた」という一文も、実際に一番の要所で穴熊に組んだのは月夜見坂燎でしたし、憧れてきたという「穴熊の将棋を指す棋士」とは恐らく供御飯万智のことだったのであろうことも伺えます。

8巻において一番大事なところが、実は一番最初に描かれていたということに、最後に気付くことができるような構成になっているのが面白いです。

ちなみに、僕は気付きませんでしたが、聡い人なら山城桜花戦第三局で月夜見坂燎が穴熊に組んだ展開になった時点でこの自戦記の筆者に気付いたかもしれませんね。

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