『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章(下)』ついにフィナーレの最終巻!(感想とネタバレ)
ついに『響け!ユーフォニアム』も最終巻。
約6年で短編含め全10巻。
黄前久美子の高校三年間の物語もこれにて完了となります。
最初は初々しい新入生だった黄前久美子が、三年生の部長になった『決意の最終楽章』も後半戦となります。
頼れる先輩が眩しく見える後輩だった黄前久美子が、頼れる先輩になりつつも今までとは違う吹奏楽部に戸惑い、悩み、頑張る姿が尊いです。
また、一年生二年生の時はどちらかといえば、巻き起こるトラブルに関わりつつも当事者ではなかった黄前久美子が、似たようなトラブルの当事者になってしまっているところが興味深いですね。
黄前久美子と黒江真由のソリを巡る争いは、かなり形は違えども一年生時の高坂麗奈と中世古香織のソロを巡る争いを彷彿とさせますし、黄前久美子と高坂麗奈の対立は傘木希美と鎧塚みぞれのことを思い起こさせます。
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本作の概要
転校生・黒江真由の登場で不穏な空気ができそうな雰囲気だった前巻でしたが、関西大会のユーフォニアムのソリが黄前久美子ではなく黒江真由になったことで、それが一気に顕在化し始めます。
コンクールにこだわりがなく黄前久美子にソリを譲ろうとする黒江真由に、黄前久美子がソリであるべきだと滝に不信を抱く部員がいたり、絶対実力主義で行くべきだという考えに既に納得している黄前久美子の苦労は絶えません。
また、絶大な信頼を得ていた滝の判断に対する不信感を持つ部員が増えてきたことが原因で、ついに黄前久美子は高坂麗奈とすらぶつかってしまうことになります。
部長失格。
そう言われてしまった黄前久美子が、それを乗り越えるキッカケは最も信頼する先輩でした。
本作の見所
コンクールへのこだわり
関西大会のオーディション。
京都府大会でのユーフォニアムパートは2年生の久石奏を含む3名でしたが、関西大会ではチューバが1人増えた代わりにユーフォニアムは久石奏を除いた2名になってしまいました。
また、ソリを吹くのも黄前久美子だったのが黒江真由に変更され、それが一波乱の原因となるのですが・・
特に黄前久美子を悩ませるのが黒江真由のコンクールに対する温度感の違いです。
実力があるのに一歩引きたがる性格の黒江真由は、転校生だからというよりもそもそもの性格がそうなのだと思われますが、自分がソリに選ばれつつもそれを辞退しようかと何度も黄前久美子に問いかけます。
悪気が無いのが始末に負えないという感じです。
全国大会金賞を目指すために、完全実力主義を貫こうとしている吹奏楽部なだけに、実量がありながら遠慮しているように見える黒江真由の考えは黄前久美子に理解しがたいもので、それが本心だとは思えなかったのだと思います。
しかし、一方で黒江真由と同じような考え方の人間は本来とても多いものだと思います。
北宇治高校吹奏楽部の中では異分子でも、頑張りたい人に譲ってしまうような人間は実は少なくありませんしね。
部長失格
ソリを譲ろうとする黒江真由のことだけでも悩ましいのに、今の黄前久美子は他の部員に慕われている部長です。
黄前久美子がソリを吹くべきではないのか?
黒江真由との実力差が好み程度の差しか無かったことで、顧問である滝への不信感まで生じつつあります。
これで滝によるオーディション結果が一本筋の通ったものになっていたらまだ良かったのかもしれませんが、未成年の吹奏楽部員にとっては頼りになる大人の教師であっても、まだまだ若輩の人間である滝にも迷いはあります。
自分の好きな音楽と、コンクールに媚びた音楽の間でオーディションによるメンバー選出の基準に揺らぎが多少みられるようになっています。
それに目ざとく気付いているような部員もいて、滝に対する不信感を口にする生徒がいることに憤りを覚えているのが高坂麗奈です。
絶対的な実力者であり、絶対的な滝信者であり、絶対的に正しい高坂麗奈。
誰もが絶対的に正しくはいられないのは当然の所で、いくら全国大会金賞を目指して、納得の上で厳しい環境に耐えていたとしても、誰もが同じ考え、同じ温度感で一致団結していくことは、本当の意味では絶対に無理なことだと思います。
だからこそ高坂麗奈の考え方はどんなに正しくても、対立の種になり得てしまう。
しかし、まさか黄前久美子とぶつかってしまうようなことになるとは思いませんでした。
いや、高坂麗奈の潔癖すぎるほどに正しい性格からして、ぶつかる時は誰とでも、どんな時でもぶつかってしまうのかもしれません。
恐らく、黄前久美子に対して部長失格だと言ってしまったのは本人にとっても本意ではなかったような気がしますが、本意ではなくても本心だったのではないかと思いますが、結果的に悩める部長の黄前久美子が、更に苦しい状態になる結果となってしまいました。
田中あすかのチケット
黄前久美子が最も慕っていて、信頼している先輩といえば田中あすかであることは間違いないと思います。
数々の苦難に主人公である黄前久美子が自力のみで切り抜けるという展開でも良かったような気がしますが、田中あすかをはじめとする誰かの助けを得て、それでやっと満足のいく結果を出せる。
そんな展開も等身大な感じがして素敵ですよね。
実は、田中あすかはリアリティのある『響け!ユーフォニアム』のキャラクターの中では最もフィクション作品のキャラクターっぽさが強くて、あまり好きになれないところもあったりするのですが、やっぱり田中あすかがこういう問題解決のキーになってくると、黄前久美子の物語っぽいような感じがしてしまうから不思議です。
1個上の先輩たちも登場します
『波乱の第二楽章』で物語の中心だった鎧塚みぞれに傘木希美。
そして前部長で一年生時には高坂麗奈と衝突した吉川優子。
卒業してしまった先輩キャラクターも僅かですが登場します。
個人的に『響け!ユーフォニアム』で好きなキャラクターといえば黄前久美子の1個上の先輩たちに集中しているので、大学生になってちょっと変わっているけど、やっぱり変わっていないこれらのキャラクターの登場は嬉しい限りです。
物語の本筋に関わってこないのは寂しいですが、『決意の最終楽章』はどう考えても黄前久美子のための物語なので仕方がないですね。
しかし、本書の序盤で1個上の先輩たちが登場したことは、最後まで読んだ後だとちょっとした示唆が含まれていたのではないかと思います。
なぜなら、本書で黄前久美子が悩まされる原因になるトラブルは、1個上の先輩たち4人が当事者だったトラブルと非常に似通っているからです。
ソリを譲ろうとする黒江真由は、中川夏紀にAメンバーを譲ろうとオーディションで手を抜いた久石奏を思い起こさせますし、黄前久美子がソリを吹くべきだという部内の空気は、中世古香織がソロを吹くべきだと主張していた吉川優子が作り上げた空気に近しいものです。
また、黄前久美子と高坂麗奈がぶつかってしまったことは、非常に仲の良かった者同士でうまくいかなくなってしまうという意味で鎧塚みぞれと傘木希美の関係性を思い起こさせます。
そう考えると、そんな先輩たちが遭遇したトラブルの全てに見舞われた黄前久美子は災難そのものですが、最後には納得のできる形になって良かったというところでしょうか。
いずれにしても、これが1個上の先輩たちの序盤での登場が、これから黄前久美子に降りかかるトラブルの示唆だったと感じた根拠となります。
総括
いかがでしたでしょうか?
僕は本書を読み終えて大いに感動したものですが、何が凄いってやっぱり『響け!ユーフォニアム』は良くも悪くもとてつもなく普通の物語だというところです。
それは前巻のレビューでも触れたところではありますが、いわゆるエンターテイメント作品であるはずなのに、そのストーリーがあまりにも普通なのが『響け!ユーフォニアム』という作品なのです。
普通の高校生の、普通の青春が描かれている。
もちろんそこにはドラマがあるのですが、それもいわゆる普通のドラマなんです。
だけど、だからこそ『響け!ユーフォニアム』は面白い。
正直なところ、『響け!ユーフォニアム』の黄前久美子ほど充実した青春を過ごせていたという人はそれほど多くは無いような気がします。
しかし、あくまでも普通の、あったかもしれない青春が描かれているからこそ『響け!ユーフォニアム』は読む人を共感させ、そして感動させるのかもしれません。
そして、そんな『響け!ユーフォニアム』もこれで読み納めかと思うと寂しい限りですが、どうやらこの『決意の最終楽章』もTVアニメ化が決まっているようです。
今は最終巻を読み終えた余韻に浸りつつもTVアニメ化を楽しみにしたいと思います。