王銘琬先生の書いた囲碁ルールの本が面白い!
みなさんこんにちは!
弱いくせに囲碁が大好き。あるいはと申します。
長かった2019年のゴールデンウィーク。
実家に帰省中、暇な時間には直前に発売されていた王銘琬先生の『こんなに面白い世界の囲碁ルール』を読んでいました。
囲碁の本といえば定石に布石。様々な戦術について書かれた本にどうしたって惹かれるものです。
だって強くなりたいですからね。(笑)
だけどたまには、そういうのとは趣向の違った囲碁の本を読んでみるのも良いものですね。
『こんなに面白い世界の囲碁ルール』は、そのタイトルの通り囲碁のルールについてのみ一冊たっぷりと語られた書籍となります。
ですが入門書というわけではありません。
普通、囲碁のルールの本といえば入門者向けの書籍がイメージされますが、『こんなに面白い世界の囲碁ルール』は既に囲碁に慣れ親しんでいる人向けの書籍だと思います。
囲碁には大きく日本ルールと中国ルールがあるということは、囲碁ファンには周知の事実でしょうけど、その違いを漠然としか分かっていない人は意外と多いのではないでしょうか?
かく言う僕も、例えば囲碁クエストを始めとしたアプリは中国ルールで打たれていることを知っているものの、中国ルールのことはあまりよく分かっていません。
日本ルールすら「ほんとにちゃんとわかってるの?」と問われたら、自信を持って肯定はできないような気もします。(笑)
しかし、『こんなに面白い世界の囲碁ルール』がそういう細かい囲碁のルールの違いについて書かれている本なのかといえば、そうでもないような気がします。
様々な囲碁のルールを紹介し、何でそういうルールになったのかという、囲碁の打ち手からすると一見すると「何だこれ?」と思ってしまうようなルールにも実は合理的な理由があることが丁寧に説明されています。
ルールをこういうものだと割り切ってしまっても囲碁は十分楽しめるゲームではありますが、『こんなに面白い世界の囲碁ルール』を読むと何気ないルールの合理性、または不完全な部分も含めて気付かされることになります。
まあ、なかなかに難しい内容も含まれているので、一度読んだだけではイマイチ理解しきれていない部分もあったりするのですが、囲碁のルールに対する理解を深めるために、囲碁ファンなら一度は読んでおきたい書籍なのではないかと思いました。
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ルールへの理解は教える側にも役立ちそう
本書を読んで一番に感じたことは、ルールへの理解を深めることは囲碁を教える立場になった時にこそ役立つのではないかということです。
ちなみに、僕も僭越ながら全くの初心者に囲碁を教えようとした経験があります。
そして、その時にこそが囲碁のルールにある不合理な部分をもっとも感じられる瞬間なのではないかと思います。
例えば、日本ルールにある終局の合意なんて最たるものですよね。
ある程度強くなった人ならそういうものと分かって違和感も覚えなくなっているような不合理さに、初心者の人こそが指摘してくるのは興味深いところです。
「なんでそれで終局なの?」
経験者ならほとんどの人が終局と断じる場面でも初心者は理解できなかったりするものです。
王将を取れば勝ちだという将棋に比べると、確かに何とも曖昧で感覚的なルールだって気がしますね。
「この石って生きてるんじゃないの?」
また、二眼作れるスペースがあったら生きるという概念も、初心者には理解しがたいものであるに違いありません。
実際に「二眼作ったら生き」なら理解できるのでしょうけど、「二眼作れるスペースがあったら生き」というところが曖昧なポイント。
簡単な形ならまだしも複雑な形だと初心者に「これは生きているよ」と説明してもなかなか納得してもらえません。
かといって実際に二眼を作ってみせることは、二眼を作る側が損しますからね。
経験者にとっては自明の局面が、実は経験で獲得してきた感覚によるものでしかなく、初心者にとっては不合理に映るわけで、実際に不合理ではあるのだと思います。
しかしこの例の場合、中国ルールであれば実際に二眼を作ってみせることは損にはなりません。
日本ルールでは合意が必要だったところが実戦解決できてしまうわけです。
もちろん、これは中国ルールの方が優れていいることを示しているわけではなく、『こんなに面白い世界の囲碁ルール』の中ではむしろ日本ルールの良さを主張することの必要性が繰り返し問われていましたが、少なくとも中国ルールの方が初心者が感じている不合理は薄れるのではないかと考えられますね。
ルールの違いは、実際にはルールではなくその場の環境に応じたスコアの集計方法の違いでしかないことも本書内で語られていましたが、初心者に囲碁を教えるという状況の時には中国ルールの方が向いていそうだということも、そういう「環境」のひとつなのだと思いました。
また、『こんなに面白い世界の囲碁ルール』には純碁という入門方法についても言及されています。
本書を読んで囲碁ルールへの理解を深めることは、これから誰かに囲碁を教えようという人にこそ必要なことなのかもしれませんね。
思っていたよりルールのバリエーションが多い
日本ルールと中国ルールの2つがあることは囲碁ファンには周知の事実なのだと思いますが、それらが成立する過程で廃れたルールも含めて、意外にも囲碁のルールのバリエーションが多岐に渡ることが『こんなに面白い世界の囲碁ルール』には示されています。
近年でも開催されていて僕でも聞いたことのある世界大会の応氏杯なんて、そういえばどのルールで打たれているのかは知りませんでしたが、なんと日本ルールでも中国ルールでもなく、応氏ルールという独特なルールで打たれています。
着手禁止点がなく、コウ材に使ったりと着手の幅が広がるのが特徴だそうですが、着手禁止点が無いというのはなかなか衝撃的でした。
また、ルールのバリエーションもさることながら、なんでそのようなルールがになったのかまで含めて説明されています。
非常に細かい話なので意外と難しく、僕も一度読んだだけで理解しきれたわけではないのですが、それでもとても興味深くて面白かったです。
ルールによって勝敗に違いが出る部分についても語られています
正直なところ、僕くらいの棋力なら多少のルールの違いがあったところで、それ以前のミスによる勝敗の変動が大きすぎるので全く気にするようなことではないのですけど、囲碁ファンとしてはこういう細かい違いは知っておきたいところですね。
ネット中継と報道での結果に差が生じたことで話題となった中国の柯潔九段とアルファ碁の第二局や、日本ルールと中国ルールの違いで勝敗の変わった2015年の日中韓名人戦の井山九段と陳耀燁九段の対局など、実際の例を交えて分かりやすく説明されています。
最近では囲碁クエストなどのアプリでは中国ルールが採用されていることで、セキが絡むと日本ルールとは違う結果になることがあることが何となく分かってきていましたが、それがキッチリと説明されていたので非常に勉強になりました。
総括
いかがでしたでしょうか?
今まで一冊の囲碁の書籍のみを対象としたレビュー記事を書いたことはありませんでしたが、『こんなに面白い世界の囲碁ルール』が非常に興味深い書籍だと思ったので書いてみました。
著者がこういう囲碁ルールを深掘りしたような内容に造詣が深そうなイメージのある王銘琬先生だったからこそ惹かれた書籍だったのですが、そのイメージ通り非常にマニアックな内容になっていてものすごく面白かったです。
参考までに本レビュー記事を書いている僕の棋力はアマチュア低段レベルですが、それくらいの棋力があれば十分に楽しめる本であったと思います。