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ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】11巻

 

ついにプロ試験編のクライマックスの11巻です!(前巻の書評はこちら

いやはや、連載当時このプロ試験編はかなり長いエピソードだと感じていましたが、レビュー記事を書いていると思っていた以上に短く感じました。

それだけ密度の濃いエピソードだということですね。

印象的なのはプロ試験の間にヒカルの院生仲間の個性が一段と際立ったこと。

和谷に関してはヒカルと会う前から登場していただけあって最初からキャラが立っていましたが、伊角さん・越智あたりはプロ試験の間に一気に目立つようになってきました。

プライドが高くて他の院生など歯牙にもかけず根拠ある自信を持って突き進もうとする越智。

実力はあるけどヒカルを始めとした年下世代の台頭に焦りを抱いて躓いてしまった伊角さん。

考えてみれば、ヒカルが何だか強くなってプロ試験を突破しましたというだけじゃあ盛り上がりに欠けるので、そこを盛り上げるための越智のアキラに師事するエピソードや、伊角さんとの碁会所修行のエピソードだったのでしょうね。

ともあれ、プロ試験編を通して伊角さんや越智といった個性の尖ったキャラクターが完成しました。

プロになった越智と、プロになれなかった伊角さんの今後には要期待ですね!

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本作の概要

プロ試験も終盤、1人また1人と明暗が分かれていく緊張感のある展開となります。

そして1人目は前巻でアキラに師事した越智の勝ち抜けで決まります。越智の一抜けは大方の予想通りの展開でしょうが、越智に関してはプロ試験の合格はクライマックスではありません。

越智とヒカルの対局。今巻の見所の一つでしょうね。

そして後2人の合格枠を賭けた戦いは最後の最後にヒカル、和谷、伊角さんという碁会所でチームを組んだ3人の三つ巴に突入します。

「これで進藤が合格してオレ達が落ちたら確かにマヌケかもな」

和谷と伊角さんの雑談でのセリフですが、これが現実になるかもしれない熱い展開です!

果たして3人の中で誰が合格するのか?

それが今巻最大の見所ですね!

本作の見所

佐為だったら

3敗しているヒカルと、2敗で2人目の合格者に一番近い所にいる和谷との対局。

和谷の優勢で進み、ヒカルは決断力を持って踏み込まないといけない絶体絶命の状況になってしまいます。

どう踏み込むのか?

必死に考えるヒカルは、佐為だったらどう打つのかを考え、何とか勝利への道筋を見つけることができました。

「このあたり、ヒカルの打ち方が私みたいで」

「あ、わかった? おまえだったらどう打つかなって考えてそこ打ったんだ」

和谷との対局の前日も、ヒカルは佐為の考えをトレースするような打ち方を試していましたが、佐為の考えをトレースするとはヒカルも成長したものですね。

しかし、こういう誰それだったこういう手を打ちそうだと考えることは、アマチュアレベルでも結構普通にやっていることなのではないかと思われます。

まあ、あくまでも「ぽさ」があるだけで、深い読みによる裏付けがあったりするわけではなかったりするのですけど、そういう他人の真似をしていくような打ち方は囲碁の練習としてはかなり有効な部類である気がします。

最近だと、AIっぽい手をそれこそトップ棋士クラスが試しているのも、レベルが段違いに高いとはいえ同じことなのだと思います。

越智の目標

アキラに師事することになり、今まで気にもしていなかったヒカルをライバル視するようになってきた越智。

早々とプロ試験の合格を決めましたが、全く油断するそぶりはありません。

いくらアキラにヒカルの謎めいた強さを力説され、どうやら自分の知っているヒカルよりも強くなってきていることが分かっているとはいえ、一度も負けたことの無い相手にここまで万全に備えることのできる越智は、メンタル面も相当強いことは間違いありませんね。

一度も負けたことの無い相手を目標に、プロ試験の合格すら通過点と捉えるとは・・

プライドは高いけど相手を認めることもできる越智は、『ヒカルの碁』の登場人物の中でもトップクラスに勝負師らしいと思います。

しかし、現時点での雌雄はヒカルの勝利で決することとなりました。

三つ巴の結末

越智が合格して残り2枠を、ヒカル、和谷、伊角さんの3人が取り合う展開となりました。

ヒカル、和谷が3敗。伊角さんが4敗の状況、ヒカルと和谷のどちらかが負ければ伊角さんとのプレーオフが発生するという状況。

伊角さんの待つしか無い状況は相当に辛いものだと想像されますね。

苦手なフクを相手取り、負ければ強敵である伊角さんと対局することになる和谷にも相当なプレッシャーが掛かっていたことが想像されますが、何とかそれを跳ねのけて和谷が2人目の合格者となります。

そして、3人目は越智に勝利したヒカル。

伊角さんは残念ながら不合格となってしまいました。

ちなみに、個人的にはヒカルが負けて伊角さんとプレーオフになる展開も読んでみたかったと思います。

ヒカルと伊角さんの対局は微妙な感じで終わってしまったので、その仕切り直しという意味でも読者的に盛り上がる展開だったかと思います。

いや、しかしそうなってしまうと随分後にあるとある名シーンが生まれなくなってしまうので、伊角さんには悪いですけど作品的にはこうなって良かったのかもしれませんね。

本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!

今回はヒカルと和谷のプロ試験本戦での対局です。

元ネタは30年近く昔の名人戦

趙治勲八段(黒)と大竹英雄九段(白)の対局です。

ヒカル、和谷、伊角さん。

あと二枠ある合格枠が、一緒に碁会所で団体戦をした仲である3人の三つ巴になってきた中、その内2人の対局という重要な局面ですね。

(図1)

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序盤はゆっくりとした囲い合いで、黒は下辺方向に、白は上辺方向に大きな地が付きそうな展開ですね。

互いに地に辛い展開ですが、こういう展開になるとコミがある白の方が若干有利な気がします。

実際、このあと数手で上辺白が少し固まりますが、その時点でLeelaZero先生の形成判断もかなり白に傾きます。

作中で和谷が「この白模様を全部オレの地にすればおまえの負けは必至」と思っていますが、ある意味ではシンプルな展開なのかもしれません。

形勢が悪い方が形勢が良い方の模様に踏み込んでいく、そして荒せば勝ちで、成果を上げることができなければ負けというわけですね。

しかし、それ以上に形成判断の重要性が問われるような局面でもある気がします。

なぜなら、本図の上辺白に踏み込むのは相当なリスクを伴う行為であり、仮に黒が優勢なら、恐らくそこまで強烈に踏み込むことはしなかったであろうと考えられるからです。

つまり、相当正確な形成判断能力が無ければ上辺の白に踏み込む決断はできないわけですね。

僕くらいの低段者だと、形成判断の誤りで勝負すべき局面で勝負を避けて僅差負けしてしまうこともしばしばです。(笑)

まあ、さすがに本図くらいの局面だとラインがハッキリしているので、少し白が良さそうだとわかりますけど。

(図2)

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図1から少し進んで、黒が上辺白に踏み込んでいった局面です。

星の基本定石の弱点っぽい場所なので思いつきやすい手だとは思いますが、これだけ白石が多数ある場所だとどうなのでしょうか?

僕のような低段者に高度な読みは難しいのですが、正直白が固く打っていれば黒が生きるのは相当難しいような気がします。もちろん、生きられたらほとんど黒の勝ちなので油断はできませんが・・

実際、実戦では打ち込みに対してハネましたが、LeelaZero先生の候補手はノビで黒に綾を与えないような打ち方となります。ちなみに、僕もLeelaZero先生と意見が一致していたので嬉しかったです♪

しかし、最後に読み落としがあったとはいえ「黒に生きる道は無い」と断言する和谷も、「1本だけ黒の生きる道はある」と呼んでいる佐為も、結果的にその道を見つけることができたヒカルも、尋常じゃないくらい凄いですよね?

本図からそれがわかる人ってどれだけいるのでしょうか?

少なくともLeelaZero先生は上辺を白地と見ているようで、しばらくずっと白優勢の形成判断で進行することとなります。

ちなみに、試しに本図の局面からセルフ対局してみましたが、白が成功する図の方が多かったです。

(図3)

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そしてこれが終局図ですが、踏み込んだ黒石が丸ごと生還しましたね。

形成判断も何もない黒が圧勝の形成で、さすがに白の投了となりました。

和谷が「このヨミが抜けてた!」と思っているのは、恐らく上辺の白を次に取りに行くぞという手を利かされて、上辺白を生きているスキに左上に一眼作られてしまったことだと思います。

つまり、上辺の白を生きるために打った手が不要だと勘違いしていたということなのだと思われます。

そして、こういうギリギリの勝負で1手の価値はあまりにも大きい。

いや、ヨミ落としも何も、ここまで読めている時点で十分人外だと思うのですが、ヒカルがそれ以上の人外だったというわけですね。

そして、元ネタの趙治勲先生も。(失礼!)

地に辛く、相手の地に踏み込んでシノギ勝つ。趙治勲先生のイメージ通りの棋譜でした。

総括

ついにプロになったヒカル。

塔矢アキラが歩き始めた道を1年遅れてヒカルは追いかけます。

1年遅れてとは言いますが、考えようによっては「たった1年遅れ」。アキラも相当先に行ってしまっていますが、間違いなく差は縮まっていることでしょう。

今後、プロでどのようなヒカルが活躍していくのかが楽しみな所ですが、ヒカルのプロ生活は序盤から波乱万丈なものとなります。

序盤は「初心者が囲碁を覚えて・・」という物語だった『ヒカルの碁』ですが、ヒカルがプロになっても、まだまだ盛り上がりますよ!(次巻の書評はこちら