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ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】13巻

 

ついに頂上決戦が始まる13巻です!(前巻の書評はこちら

前巻で念願の、しかし不本意な形で塔矢行洋と対局することになった佐為でしたが・・

今巻では、いよいよちゃんとした形での対局が実現します!

ヒカルの碁』は、基本的にはヒカルやアキラ、囲碁部や院生仲間といった思春期の子供をメインに据えた物語ですが、今巻は塔矢行洋の入院から始まり、佐為と塔矢行洋の頂上決戦まで、大人の碁打ちがメインに据えられたエピソードになります。

佐為はいわずもがなで主人公の一人ではありますが、実のところこれまでヒカルと一緒にいるだけで活躍の機会は非常に少なかったです。

キャラクターの属性上、致し方ないところではありますがかなり不遇な扱いを受けてきたと言えます。

相手の塔矢行洋は入院していて若干不謹慎な感もありますが、ようやく佐為が報われる描かれるエピソードがあって良かったと思います。

まあ、佐為と塔矢行洋の間に立つヒカルは、なかなかに大変な立場になってしまっていますが。(笑)

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本作の概要

プロの世界のことを何も知らないヒカルの、プロ棋士としての生活がついに始まります・・と言いたいところですが、ヒカルのプロ棋士としての生活は始まりそうでなかなか始まりません。(笑)

初対局の相手は塔矢アキラ。

因縁の相手に奮い立つヒカルでしたが、塔矢アキラが対局場に現れないまさかの事態が発生します。

塔矢行洋の入院。父親が倒れて入院してしまったのでは流石に仕方ないですね。

そして、この塔矢行洋の入院という出来事が、偶然にも佐為と塔矢行洋の頂上決戦という好カードを実現するキッカケになっていきます。

本作の見所

初対局の相手は?

新入段の免状授与式、アキラに無視されて悔しがるヒカル。

以前に実力不足だったヒカルなら悔しがることすらできなかったでしょうが、ある意味アキラと対等に肩を並べて恥ずかしくないと思えるまで努力し、実力を付けてきたからこそ感じる悔しさなのかもしれませんね。

そう考えるとヒカルも成長したものです。

しかし、アキラがヒカルを無視したのには理由があります。

アキラはこの段階で、ヒカルの最初の対局相手が自分であることを認識していたようです。

つまり、話をするなら対局を通してだという意思表示だったのではないかと考えられます。

宣戦布告。既にヒカルのことを歯牙にもかけない相手だとは思っていない証拠ですね。

そして、その後ヒカルも初対局の相手がアキラだと知り奮い立ちます。

塔矢行洋の入院

アキラとの対局。

座して待つヒカルは、囲碁部の大会の三将戦の時のアキラを彷彿とさせるほど緊張しています。

しかし、何故か対戦相手のアキラは対局開始時間を過ぎても現れません。

聞けばアキラの父親である塔矢行洋が倒れて入院してしまったとのこと。さすがにそれで冷静に打つことはできないとアキラが対局を休んだという事情でした。

相手がヒカル、もしくはヒカルかもしれないと思うと、プロ試験の初日をサボってしまうほどのアキラですが、さすがにこの状況では対局できないようですね。

トップ棋士へのお見舞い

佐為に急かされ塔矢行洋のお見舞いに行くことになったヒカル。

しかし、塔矢行洋ほどの棋士ならお見舞いに多くの人が訪れることになるのでしょうけど、面識の少ないペーペーであるヒカルがお見舞いに行くというのはどうなのでしょうか?

例えば、小さな零細企業ならともかくある程度大きな企業の幹部が入院したからって、新入社員がお見舞いに行ったりするかと言えばそんなことは無いでしょう。

幸いにも、塔矢行洋はヒカルに注目していて知っているのでおかしな空気にはなりませんでしたが、例えば和谷や越智が訪れたら微妙な空気が流れそうな気がします。

というか、佐為に急かされたとはいえ堂々とお見舞いに訪れるヒカルの度胸はなかなかのものだと思います。

僕にはとてもできません。

「キミがお見舞いに来るとは意外だな」

せっかくお見舞いに来たヒカルに対して流石に失礼ですが、緒方先生の疑問ももっともですよね。

そして、どうやら塔矢行洋が入院中の手なぐさみとしてネット碁を打つらしいことを知ったヒカルは、病室で塔矢行洋と2人きりになった時に・・

ネット碁でsaiと打ってもらえないかと塔矢行洋に提案します。

今まで、佐為に関することはひた隠しにしてきたヒカルが、佐為のためにリスクを冒します。

塔矢行洋のことを信頼したからというのもあるのかもしれませんが、これは今までに無かった大きな動きですね。

ところが、さすがに人が良い塔矢行洋も素性を隠して打とうとするsaiのことは好ましく思えないようで、何とか対局を取り付けることができたものの、何だかついでのような対局になってしまいました。

「先生が負けた時、真剣じゃなかったからって言われちゃやだし」

しかし、ヒカルの失言が塔矢行洋を挑発する形となり、ついでのような対局から、塔矢行洋の引退を賭けた真剣勝負にグレードあっぷしました。

「ヒカル!感謝します!」

塔矢行洋ほどの棋士が引退を賭ける。ヒカルにしてみれば今まででも最大クラスのやらかし、失言だったのではないかと思われますが、佐為にとっては待望の対局の実現となります。

いよいよ頂上決戦が始まります!

toya koyo

約束の日に向けて、塔矢行洋はネット碁に慣れるためにtoya koyoとして打ち続けます。

インターネット上最強の棋士であるsaiに相対するtoya koyoが、以前のsaiのようにネット上で猛威を振るっている様は、何だか物語じみていて熱くなる展開ですね。

saiの場合は匿名の盛り上がりでしたが、toya koyoの場合は有名すぎて盛り上がるという、対照的な盛り上がり方をしているのも面白いと思います。

しかし、こういう展開が面白くなるのはインターネットが世間に普及しだした時期という時代背景もあったかと思われますが、そういう意味では『ヒカルの碁』は時代にも恵まれたヒット作だったのかもしれませんね。

まあ、このsaiのエピソードが無くても十分に名作なんですけど。

佐為とアカリの対局

一応プロであるヒカルに打ってもらおうとヒカルの自宅に訪れたあかり。

幼馴染とはいえ意外と図々しいですね。(笑)

しかし、佐為と塔矢行洋の対局の前日ということもありヒカルは断ろうとするのですが・・

「私、打ちますよ。私、打ちたい」

佐為があかりと打ちたがります。

「あかりちゃんと打ってピリピリした気持ちを落ち着かせるのも悪くありません」

一応ヒカルは、大一番を控える佐為を気遣ってあかりを追い返そうとしたのですが、なるほど・・

そういう考え方もあるのですね。

というか、さすがの佐為の塔矢行洋との大一番を控えて緊張していたのですね。

しかし、ヒカルの心配ももっともです。

極端に実力差がある相手とばかり対局していると、同格の相手と対局した時に勘が鈍っていることに気付くことが僕にも経験があります。

まあ、佐為ほどの実力者ならその辺のコントロールはそこまで心配いらないのかもしれませんね。

頂上決戦

そして、ついに始まる頂上決戦!

sai vs toya koyo

徐々に世界中の人々がこの好カードに気付き始め、ネット碁とは思えないほどの注目を集めます。

そして、アキラもこの対局に気付き・・

という所で、良い所ですが今巻は終わります。

4話もかけて描かれる『ヒカルの碁』の作中でも屈指の名局の結末は次巻のお楽しみに!

本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!

う~ん、やっぱり『sai vs toya koyo』の棋譜を検討していきたい気持ちでいっぱいですが、ヒカルの碁の作中でもトップクラスに1局にかける時間が長い対局。巻を跨いでしまって今巻では終わっていないんですよね。

というわけで、はやる気持ちを押さえて今回は『LL vs toya koyo』の対局です。

塔矢行洋がネット碁で打った対局で、武宮正樹九段(黒)と小林光一(白)の20年ほど前の棋聖戦挑戦手合の棋譜が元ネタですね。

(図1)

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黒番のLLは武宮先生です。黒番では三連星からの宇宙流を打つことで有名な先生ですね。この対局は三連星ではありませんでしたが、石が中央へ中央へ向かうのには棋風が現れていますね。

特に右上の黒。この形で白にカタツキしていく手はなかなか思いつかないような気がします。というか、何も知らなければ位高く打っている黒に対して後から白が二間にヒラく手を打ったのではないかと、順序が逆だったのではないかと思ってしまいますね。

ちなみに、武宮先生は三連星を打つ前に先にカカリを打ったりもしていて、この棋譜でもそうだったのですが、白の小林光一先生はすかさずワリ打ちして三連星を封じています。

棋風が極端な人の棋譜では、そういう相手の土俵には上がらないような駆け引きもあって面白いですね。

ちなみに、この段階でのLeelaZero先生の評価はほぼ五分。僕のような低段者の対局では序盤から良くも悪くも形勢が揺れ動きますが、ある程度以上強い人の対局ではなかなか形勢が傾きません。

(図2)

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囲碁ファンにこの局面を見せて、どちらが武宮先生かと問いかけたら大体正解するのではないでしょうか?

中央の宇宙が広大ですね。まるでブラックホールのようで、白を打ち込んだら吸い込まれてしまいそうです。

白の小林光一先生が塔矢行洋側で、LLが塔矢行洋の強さに戦慄するシーンで使われている棋譜ではありますが、実はこの段階でのLeelaZero先生の形成判断は黒に傾いています。

囲碁AIは中央志向気味で、武宮先生の棋風は囲碁AIに近いと言われていることもあり、好みの問題もあるのかもしれませんけど。

ただ、結論から言えば恐らく中央を囲おうとした手(赤丸の部分)が敗着だった可能性があります。

(図3)

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中央を囲った黒石の右上に、カタツキのような形で打たれた白石に黒地を上手く制限されてしまいました。黒も大きいので形成判断が難しい所ですが、どうやらこれで白が勝っているようです。

LeelaZero先生激オコですね。

厚みは囲うなと言いつつも、タイミングよく囲わなければいけない時もあります。

結果から見ると、恐らくその囲いが小さかったので白から制限された時に敗勢になってしまったということなのだと思われます。

つまり、囲うなら囲うでもっと大きく囲んで白が打ち込んでくるしかない状況にし、打ち込まれた白を攻めていくような打ち方を目指すべきだったのかもしれませんね。

そう、まるでブラックホールに取り込んだ光を逃がさないようなイメージです。(宇宙流なので宇宙的な表現にしてみました)

もちろん、白に打ち込ませて黒が優勢ではあるとは思うものの、リスクの大きな打ち方でもあると思います。

武宮先生のような棋風は格好良いのでアマチュアには似た棋風(中央志向)の人も多いですが、プロ棋士には地に辛い棋士の方がやっぱり多いです。そんな中、自分のスタイルを貫く武宮先生は格好良いですよね。

ちなみに、今回の検討が若干武宮先生押しな感じになっているのは、武宮先生が僕の好きな棋士の一人だからです。(笑)

総括

いかがでしたでしょうか?

いよいよ塔矢行洋との対局で佐為も少しは報われましたかね。

次巻ではいよいよ決着となります。

しかし、この決着で必ずしも佐為が報われたかと言うと、それは微妙な所。

14~15巻はまだ佐為のエピソードが続きます。

必ずしも幸せなハッピーエンドとは言えないような結末に向かうエピソードは、読んでいてツライ部分も確かにありますが、佐為が好きなら最後まで目を背けずに読みましょう。(次巻の書評はこちら