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ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】15巻

 

ハンカチの準備はよろしいでしょうか?

哀しい別れの15巻です・・(前巻の書評はこちら

ヒカルと佐為の別れ。

露骨にフラグが立ちまくっていたので、これは予想された展開ではありましたが、そうだとしても胸が痛いものがありますね。

しかし、これは今まで佐為の影響を大きく受けているはずのヒカルが独立していくことを意味します。そういう意味でこの別れは、本当の『ヒカルの碁』の始まりであるとも言えるのかもしれません。

ヒカルと佐為の不思議な師弟関係の終わりを最後まで見届けましょう!

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本作の概要

プロとしての初手合を快勝して上機嫌のヒカルに対して不機嫌な佐為。

もはや些細な予感などではなく、自分が消えることを確信している佐為に対して、ヒカルはそんなことを想像すらしていません。

想像すらしていないからすれ違ってしまう2人でしたが、とうとう佐為が本当に消えてしまってから初めてヒカルは慌てふためきます。

佐為を探して右往左往。

そして、最後に日本棋院でかつての本因坊秀策、つまりは佐為の棋譜を見て改めて佐為の凄さを実感します。

同時にそれは今まで佐為に囲碁を打たせてあげられなかったことへの後悔へと繋がります。

本作の見所

佐為には勝てないヒカル

塔矢行洋、塔矢アキラ、緒方九段、それにsaiとして対局した世界中の人々に対して大きな影響を残し、そして勝利してきた佐為は名実ともに『ヒカルの碁』の作中で最強の棋士となります。

しかし、囲碁とは強い者が必ず勝利するゲームではなく、ある程度実力が伯仲してくるとジャイアントキリングも珍しくありません。

つまり、佐為がこのまま現世に残っていたら、いつまでも最強の棋士ではいられなかったのではないかと思われます。

「ヒカルなんか私に勝てないくせに」

これは決して強者のセリフではありませんが、この言葉の裏側には消えたくないという佐為の本心が現れていたのではないでしょうか?

前述したように、プロ棋士になるレベルまで棋力が向上しているヒカルなら、既に相手が佐為クラスでもマグレ勝ちしていて不思議ではないくらいの棋力になっています。

最強の棋士としてヒカルを導くことが佐為の役割だったのだとしたら、まだ消えたくない佐為にとってヒカルは、まだまだ自分には及ばないヒヨッコの棋士でいて欲しいという思いがあっての発言なのかもしれませんね。

一流の者が決して口にしないような言葉を、まして佐為ほどの者が絶対に口にしないような言葉を、それでも言わずにはいられなかった佐為の心情を思うと胸が痛くなります。 

佐為との唐突な別れ

出会いは劇的であっても別れとは唐突なものです。

泊りでの囲碁イベントの仕事中、既に自分の最後を悟っている佐為は、以前saiと打つことにこだわりを見せていた緒方九段と対局するようにヒカルに言う佐為。

酔っぱらった緒方九段相手に満足な対局は望めないと思われる状況ですが、この機会を逃せば二度と緒方九段とは対局できなくなると佐為は気付いているからです。

寂しそうな佐為の表情と、何もわかっていないヒカルの人懐っこい表情のギャップが切ないです。

そして、イベントから帰ってきてヘトヘトのヒカルにも対局を持ち掛ける佐為。

明らかに最後の時を悟っている風ですが・・

この対局中、ふと佐為は消え去ってしまいます。

「神の一手に続く遠い道程。私の役目は終わった」

ヒカルにしてみれば本当に唐突な別れの訪れでした。

いや、正確には佐為はヒカルに自分がもうすぐ消えてしまうかもしれないことを告げているのですが、それだけに全くそれに配慮しなかったことはヒカルの中に大きな後悔として残ってしまったことでしょうね。

佐為を探す旅

ヒカルが自分の不安に向き合ってくれなくて佐為は、「ヒカルなんか私がいなくなってオロオロすればいいんだ」とか思っていましたが、まさかここまでオロオロするとは思っていなかったかもしれませんね。

消える直前の佐為は少々精神が不安定になっていたので、とんでもない読みの力を持っている割には先が読めていませんでした。

ともあれ、ヒカルは佐為を探して本因坊秀策ゆかりの地である広島は因島まで足を延ばします。

なかなか羨ましい小旅行ではありますが、もちろんヒカルはそれどころではありません。付いてきた河合さんは楽しそうですけど。(笑)

東京にも本因坊秀策の墓があることを知って、アマの日本代表である周平との対局も相手を圧倒して早々に終わらせ、東京にとんぼ返りします。

しかし、そこでも佐為は見つかりません。

そして最後、日本棋院の資料室で本因坊秀策、つまりは佐為の棋譜を見て気付きます。

佐為の才能、そして本因坊秀策は最初から佐為の才能を見抜いていて佐為に打たせていたこと。

「誰だってそう言う。オレなんかが打つより佐為に打たせた方がよかった!」

ヒカルにとって囲碁は佐為の影響で始めたようなもので、もともとは全く興味の無いものでした。それにちょっと惹かれてしまったために、結果的に佐為が消えることになってしまったのだとヒカルは後悔します。

「もう打ちたいって言わねェよ!」と、いつだったか佐為が言っていたのと同じセリフなのがまた哀しさを煽りますね。

もちろん、佐為にしてみてもヒカルが囲碁に興味を持ってくれたこと。自分を師匠に仰いでくれたことは嬉しかったはずですが、ヒカルの後悔は尽きません。

佐為に戻ってきて欲しいヒカル

自分が囲碁を打つから佐為が消えた。

じゃあ打たなかったら戻ってくるかもしれないとヒカルは囲碁を打たなくなります。

手合をサボったりしているものだからアキラが葉瀬中まで乗り込んで来たりしていますが、そんなアキラからも・・

「オレなんかが打ってもしょうがないってことさ!」

と、逃げてしまいます。

明らかにヒカルの中に佐為を見ているアキラに、自分の価値を認めるようなことを言われてしまったら、自分のせいでその価値ある佐為が消えてしまったと思っているヒカルにとっては、そりゃあ辛いですよね。

本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!

今回は佐為が終局まで打ち切った最後の対局。

酔いどれ緒方九段との対局の棋譜を検討していきたいと思います。

元ネタは武宮正樹九段(黒)と王銘琬九段(白)の20年近く前の棋譜です。今気づきましたが、ヒカルの碁の元ネタに20年くらい前(2018年から見て)の棋譜って結構多いですね。

それにしても、偉大な棋士に対して本当に失礼なことかもしれませんが、王銘琬先生が酔いどれ緒方九段の元ネタになっているのにちょっと納得してしまいました。

もの凄く強い先生なのですが、本因坊戦のシチョウ間違いのエピソードなどもあって、超強い人でも人間味あふれるミスをすることがあるということを示してくれている棋士だからかもしれません。

(図1)

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何でもない黒の三連星に対する白の二連星。

まさに武宮先生の棋譜って感じですが、アマチュア棋譜も含めて今まで山のように打たれ続けてきた布石で、一体なぜこの盤面を検討しようとしたのか疑問に思う人もいるかもしれません。

囲碁をあまり知らない人にはピンとこないかもしれませんが、かなりの囲碁ファンであれば、佐為が本因坊秀策の棋譜を残した張本人であるという設定を思い出したらピンとくるのではないでしょうか?

だって、本因坊秀策と言えば小目の連打の秀策流が有名で、星を連打する三連星のような布石を打つようなイメージは全くありません。

一方で、本因坊秀策と言えば簡明な打ち回しで戦わずして勝利する棋風でも有名です。それは自然流とも言われる武宮先生の打ち方に通じるところがあるのではないでしょうか?

つまり、この三連星を打つ武宮先生の棋譜が、僕には佐為の変化・成長と、佐為の棋風の変わらない部分の両方を表現されているように感じてならないのです。

まあ、検討じゃなくて完全に佐為の成長記録の考察になってしまっていますが、そういう象徴的な盤面なのではないかと思ったという話です。

ちなみに、最近ではAIの影響もあってもっとも基本的な三連星の打ち方として囲碁の教科書に示されている通りの展開になることはほぼありません。

LeelaZero先生が図1の盤面で示している白の次の手も、いきなり右上の三々に入るというもの。一応、それでも黒は従来の三連星と同じように右辺から中央を意識した打ち方をしていくことはできるような気がしますが、右辺が広くなりすぎて白が打ち込みやすくなるため、その良し悪しは僕にはわかりません。

(図2)

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ここまで非常にわかりやすい展開ですね。

一手一手がある程度の碁打ちなら誰でも思いつける範囲の手の積み重ねで、自然な流れに感じられます。

囲碁を知らない人にそんなことを言うと、何だプロだ佐為だといってもそんな簡単な打ち方をしているのかと思われるかもしれませんが、それは簡単で自然な打ち方がどういうものなのかを軽視してしまっています。

例えば僕の場合、難しい打ち方でてんやわんやしている内に誤魔化して勝つような棋風なのですが、それは単に僕の力量が不足しているから簡明な打ち方だけをしていたら勝てないからだったりします。

難しい手を打つことが、イコール強さではないということなのですね。

そして白が右下の三々に入った場面です。

最近は三々入りイコールAIの手のイメージが強くなってきていますが、これは昔から打たれている普通の三々入りですね。黒は両翼を広げているので、タイミングを見て入っていくのは普通の考え方となります。

ちなみに、LeelaZero先生の候補手も同じ三々入りでしたが、LeelaZero先生の場合はもう少し早いタイミングからこの手を示し始めていました。

(図3)

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右下の打ち回しの意味が僕には全く理解できません。

白の露骨な生ノゾキに反発し、ツガずにノビた黒。そしてその下にツケた白石が意味不明です。

利かしているのだとしても、その効果が良くわからない。LeelaZero先生も示しているように右下の白を取りに行くような手を打ってはいけないのでしょうか?

実戦でも黒も取りに行きませんが、この辺が僕には理解の及ばない所です。(誰か強い人に教えて欲しい!)

まあ、右下はそこまで大きくないので、一度取りに行った以上は取り切らなければいけなくなる黒の負担が大きいということなのかもしれませんね。それに、この後に白が打った場所も模様の接点となる好点です。そこが右下以上に大きいという判断なのだと思いました。

いやはや、打たれてみたらそういうことなのかと思えるけど、僕が実戦で打っていたら間違いなく右下ばかりを気にしてしまします。

広い視点の大切さが伺えますね。

総括

いかがでしたでしょうか?

ついに、ヒカルと佐為の別れの時が来てしまいました。

この別れは、成長したヒカルの独り立ち、佐為を必要とせずとも成長していけることを意味しているのだと思いますが、そのヒカルはまだ立ち直れていません。

そして次巻は、もう一人の立ち直ろうとしているキャラクターが主人公のエピソードです。

プロ試験の合格を後少しのところで逃し挫折を味わった伊角さんもまた、次のプロ試験合格に向けて突き進んでいこうとします。

そして、そんな伊角さんがどうヒカルに絡んでいくのかも見所ですね!(次巻の書評はまだ)