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ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】17巻

 

第一部完結の17巻の感想です!(前巻の書評はこちら

佐為がいなくなったり何やらで、プロになってから少ししかプロとしての仕事をしていないヒカルでしたが、今巻から本格的にプロ棋士として歩き始めます。

これまでのレビューでも度々同じようなことを言及してきましたが、第一部の完結巻にしていよいよ『ヒカルの碁』が始まりだしたという印象する受けます。

いや、何というかこの作品における節目の出来事って、大体「あぁこれが『ヒカルの碁』の始まりなんだな」と思えるような出来事である気がするんですよね。

ヒカルが囲碁を打ち始めた時。

院生になってプロを目指し始めた時。

そして、佐為と別れてプロ棋士として歩き始めた時。

そして、ライバルキャラである塔矢アキラとの本当の初対局が、第一部最後のエピソードになっているという所も・・

始まりというか、これからを予感させるようなエピソードが多いように感じられるのです。

囲碁というゲームの特性上、主人公に全てを極めさせることはできないわけだから、常にこれからを予感させるような物語になっているのかもしれませんね。

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本作の概要

再スタート。伊角さんとの対局を通して自分の打つ碁の中に佐為を見つけたヒカルは再び碁打ちとして歩きだすことを決意します。

アキラに続く若手有望株の登場や、自由に動き回る塔矢行洋と、大きく変動しようとしている囲碁界の中で、ついにヒカルとアキラのライバル対決が始まります。

始まりを感じさせる終わりに注目ですね!

本作の見所

二人要る

伊角さんとの対局後、ヒカルはすぐさま日本棋院に向かいます。

伊角さんと対局する直前にアキラの現状を聞いていたので、日本棋院でアキラが対局中であることを知っていたヒカルは、アキラに自分が碁を辞めないことを宣言しに行きます。

それは良いんですけど、それよりこの時の桑原本因坊の名言が忘れられませんね。

「1人の天才だけでは名曲は生まれんのじゃ。等しく才たけた者が2人要るんじゃよ」

あまりにも当たり前のことではあるのですが、改めて言われるとハッとしてしまうセリフですね。

この内の1人の才能は勘でしか認めていないとはいえ良いことを言います。

確かに、どんなに強い人が1人だけ存在しても、常に相手を一方的にいたぶるだけでは面白くありません。囲碁における名局の棋譜は、勝負であると同時に一種の芸術のように見えたりもします。それを作るのには2人必要だというのはまさしく真理ですね。

まあ、2016年末のアルファ碁マスター無双然り、一方的な唯一の強さというものも見てみたいと言えば見てみたいのですけど。

そういう需要もあることは、2016年末のアルファ碁マスター無双の盛り上がりが証明していますしね。

低段者との対局

サボっていたのに復活後に強くなっている印象があるヒカルですが、実際問題これは『sai vs toya koyo』の対局を通して得た経験値が影響しているのだと思われます。

若獅子戦で敗北した村上プロに危なげなく復帰戦を制し、続く辻岡プロにも連勝します。

辻岡プロは、アキラがヒカルをライバル視しているといううわさを聞いていて、村上プロとヒカルの対局を観察していますが、一方のアキラは見向きもしません。

「まさか低段者との対局など見るに及ばないとでも?」

それを見た辻岡プロは、どこまで確認しているのかわかりませんがそのようなことを考えています。

確かに、アマチュアでも力量差がある対局では上手が力半分に勝ってしまったりするので正確な力量は計れませんが、そんな風に思われるとはヒカルの評価も高くなってきていますね。

「進藤の力はもうボク自身でしか計れない」

そして、辻岡プロの予想は当たっていて、アキラも自分が実際に対局しなければヒカルの力は計れないと思っているようです。

まあ、例えばヒカルとsaiの関係性や、最初に出会った時の対局など、間違いなく佐為の影も見ていたのことだとは思われます。

そういう意味では、既に用意されている直接対決がヒカルにとってまさに正念場であることが伺えますね。

あかりとの対局

ついにアキラとの対局という前日。

ヒカルはあかりに声を掛けて対局を持ち掛けます。

塔矢行洋との対局の前には、大一番の前だからと怒っていたヒカルでしたが、その時はあかりと打つことでピリピリとした気持ちを落ちつかせようとした佐為が打つことになりました。

そして、今はヒカルがその佐為の真似をしています。

些細なエピソードですが、ヒカルの碁の中だけではなく、こういう所にも佐為が残っているように感じられる良いエピソードですよね。

ヒカルとアキラ

ヒカルとアキラの本当の初対局。

アキラがヒカルを生涯のライバルだと認めるに至った対局になりますが、ヒカルにとってはそれ以上の意味がある対局になりました。

「もう1人いるんだキミが。出会った頃の進藤ヒカル。彼がsaiだ。」

ヒカルとの対局に、やはりsaiの影がチラついて見えたアキラはそう結論付けます。自分がおかしなことを言っていると自覚しつつも、アキラはヒカルの碁の中に佐為を見つけました。

「おまえが打ちたかった佐為はもういないけれど、オレの碁の中に佐為はいるから、おまえが気付くかどうかはわからないけれど」

対局前にヒカルが感じていた想いに、アキラが最も正解に近い形で本当に気付いてしまったワケですね。

これは、既に自分の碁の中に佐為がいると気付いているヒカルにとっても嬉しい事この上なかったに違いありません。

「おまえには、そうだな━━。いつか話すかもしれない」

またそういうことを言ってアキラをもやっとさせる~

しかし、第一部最後の失言ですが、ヒカルの嬉しさが溢れているセリフに思えて感慨深くもありますね。

本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!

都合五度目のヒカルvsアキラですが、佐為が一切打っていない対局としては初対局となります。

本田邦久九段(黒)と中野寛也九段(白)の20年ほど前のNHK杯での対局が元ネタとなります。

作中では勝敗については語られずに第1部完結という、それはそれでアリだと思えるような結末を迎えていましたが、元ネタを知っている人には勝敗がネタバレになってしまっています。(笑)

まあ調べたらわかることなのですが、知識量の差で感じ方が変わるのは『ヒカルの碁』の面白い所ですよね。

(図1)

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「カカリに受けずにカカリ返してきた」とヒカルが言及している盤面ですが、今だとカカリに対して普通に受けない打ち方も珍しくないような気がします。

この盤面も特に珍しさは感じませんね。

連載当時の僕はほとんど囲碁を知りませんでしたが、こういう打ち方は珍しかったのでしょうか?

ちなみに、LeelaZero先生の候補手もカカリ返しですが、位置が違って右上のケイマカカリが候補手になっていました。

カカリ返すなら実戦の位置がぼんやりとハサミも兼ねているような感じがしてバランスが良いように思いますが、右上のカカリは右下の形とのバランスが良くないようにも感じてしまいます。

しかし、こういう打ち方も最近ではちょくちょく見かけるようになり、実は僕もよく打っています。

10年20年も違えば随分と棋譜から受ける印象にも変化がありますね。

ちなみに、ヒカルがこの碁に対して「とても持ち時間5時間打ち方じゃねェ!早碁だ」と言及していますが、実際に元ネタがNHK杯の早碁だというのが面白いですね。ひょっとして気付く人にだけ気付かせるメタいネタだったのでしょうか?

(図2)

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ヒカルが瞬間的に攻め合いを読んでスベリを打ち、アキラがヒカルの実力を認めた場面での盤面です。

ここは打つ手の選択肢として、右下の方向にハネるのもあったと思いますが、これは石塔シボリの形になって黒の一手負けになります。

作中にヒカルの読み筋が断片的に描かれていますが、有名な手筋の形になっているので有段者くらいなら手順が想像できることと思われますが、これをノーヒントで瞬間的に読めるというのは、ヒカルの実力が相当ヤバいところまで来ているのがわかりますね。

ちなみに、LeelaZero先生の候補手は石塔シボリで一手負けするルート。長手数の読みは囲碁AIの苦手にする所で、石塔シボリといえば李世ドル先生との対局でアルファ碁も読めていなかったことで有名ですが、石塔シボリはLeelaZero先生も読めていないようです。

(図3)

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作中に描かれている最後の盤面ですね。

双方安全策をとらない緊張感のあるねじり合いのような攻防が続いています。

白の左辺黒へのカタツキを打った場面ですが、明らかに中央黒に対してプレッシャーをかける目的の手でしょうね。白も結構薄そうに見える状況でかなり厳しい迫力のある手ですが、この盤面の至るまでも、そしてこれからもこんな感じの手の応酬が続いていくという印象を受ける棋譜です。

見る分にも、自分で打つ分にも、一番見応え打ち応えのある碁だと思います。

まさに最終決戦と呼ぶにふさわしいですね。

総括

いかがでしたでしょうか?

いよいよ第一部が完結してしまいました。最後には哀しい物語もありましたが、読者的には大満足の名作であることに違いありませんね。

そして、第二部として北斗杯編も始まるのですが、その前に次巻はサブキャラクターに焦点を当てた短編集となります。

いつもとはちょっと違った角度から読める『ヒカルの碁』もまた面白いですよ!(次巻の書評はこちら