ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】18巻
シリーズ初の短編集の18巻です!(前巻の書評はこちら)
塔矢アキラ、加賀鉄男、奈瀬明日美、三谷祐輝、倉田厚、藤原佐為。
この6名を主人公とした番外編的な位置付けの短編が6本。
魅力的なキャラクターが多い作品には短編、あるいは短編という形でなくとも一話読み切りの番外編的なエピソードが多い印象があるのですが、そういう魅力的なキャラクターが多いという特徴を持っているはずの『ヒカルの碁』にそういったエピソードはあまりありません。
それだけに非常に貴重な短編集。いつもとは違った雰囲気の『ヒカルの碁』に注目ですね!
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本作の概要
ヒカルと出会う直前の退屈している塔矢アキラ。
囲碁部OBである筒井先輩のフリをする加賀鉄男。
たまには遊びたい院生の奈瀬明日美。
ダケさんにカモられる直前の三谷祐輝。
中学時代の倉田厚。
花器にも詳しい藤原佐為。
・・などなど、6つのエピソードからなる短編集となります。
本作の見所
塔矢アキラ
アキラがヒカルと出会う直前のこと。
塔矢アキラが不在の子ども名人戦で優勝したことを不満に感じている磯部秀樹は、アキラのいる碁会所を知ってアキラの元を訪ねます。
「みんなにボクの力を認めてもらうには、おまえに勝たないと!」
少々小生意気な少年ですが、これくらいの気概がある子じゃないと強くなれないのかもしれませんね。
一方のアキラは同世代の実力者の登場を嬉しがっていますが・・
「たいしたことないな・・」
磯部秀樹の表情が徐々に曇っていくのに対し終始冷静なアキラでしたが、その表情は何とも寂しそうなものです。
見た目では磯部秀樹に比べて表情の変化が少ないのに、同じくらいアキラの表情が変化しているように見えるのは小畑健先生の表現力が凄いですね。
それにしても、この時のアキラの様子を見るに同世代のライバルを欲していたのであろうことは明らかです。
後にヒカルを追いかけることになった時に見せた熱意の根源が、この寂しそうな表情に現れていたのだと思いました。
加賀鉄男
加賀の短編ですが、全く登場しない筒井さんの短編でもあると思っています。
「ここの囲碁部を1人で作ったっていう伝説の筒井先輩ですね!」
三谷やあかりの囲碁部の後輩の小池のセリフですね。
かなりのモブキャラですが、このセリフは『ヒカルの碁』の作中でもかなり有名な部類に入るのではないでしょうか?
三谷やあかり達も三年生になり、これからは後輩で二年生の小池が囲碁部の中心になっていくという所で、部員集めに奔走する小池と入部を渋る一年生の元に加賀が現れます。
それを小池が筒井先輩だと勘違いしたというエピソードです。
入部を渋る一年生たちを圧倒する棋力で無理やり入部させてしまうのですが・・
「優しいっていうかすっごくカッコイイです!」
「碁もものすごく強いし!」
その後、筒井先輩(加賀)を絶賛する小池の言葉を聞いて、仲たがいしているはずのヒカルと三谷が一緒に首を傾げているシーンが地味に好きです。
奈瀬明日美
ヒカルの院生仲間の奈瀬明日美の短編ですね。
ヒカル・和谷・越智と年下連中がプロ試験に合格したことを少々憂鬱に感じている奈瀬。
「遊びたいよ。16歳の女の子だよ」
そりゃあ遊びたいですよね。
気晴らしなのか院生研修をサボって遊びに出かける奈瀬。
しかし、男が興味を持ったからって初対面の相手と碁会所に突撃するとはね。(笑)
「この人相手なら楽勝ね。よーしカッコイイとこ見せちゃうぞ」
そして見事に引かれてしまいました。
いや、所詮ゲームとはいえ強面のオッサンをビビらせる女の子、普通の高校生男子からすると「なにもんだ!?」ってなりますよね。
それで「すげ~、カッコイイ!」って思うのは、そもそも囲碁好きのヤツだけだって。
そういえば『ヒカルの碁』の中で誰かが誰かと明確にデートしているシーンがあるのって、このエピソードだけだったと思いますが、これは本気で囲碁をやるなら恋愛なんてやってる場合じゃないよという警告なのでしょうか?(笑)
三谷祐輝
三谷の短編ですが、本編でヒカルが三谷を勧誘していた頃の三谷視点のエピソードとなります。
そういうわけで何となく展開が分かっているのでストーリーそのものに驚きは少ないですが、三谷が何を思って整地の誤魔化しを行っていたのかが分かるようになっています。
また、三谷のお姉さんにダケさんと、1エピソードにしか登場していない気で地味に人気のあるキャラクターが2人も登場するという点にも注目の短編ですね。
「時々、私がバイト代から少しあげてるでしょ」
社会的にはまだまだ子供であるはずの三谷のお姉さんですが、家のこと、弟のことをしっかり考えている良いお姉さんですよね~
僕は長男なのですが、上の兄弟。特に姉がいたら良かったなぁと時々思うのですが、三谷のお姉さんは個人的にはまさに理想の姉って感じがします。
倉田厚
倉田プロの中学生時代。囲碁を始める前に競馬にハマっていた倉田少年のエピソードですね。
正直、最初にこの短編を読んだ時には「何で倉田の短編?」って不思議に思いました。
ヒカルがプロになった後に多少活躍の場があったキャラクターではありますが、他の短編5本に登場したキャラクターに比べると、どうしても印象が落ちます。
プロ棋士の誰かの短編にするにしても、例えば緒方九段や塔矢行洋や桑原本因坊など、今までにもっと印象深いキャラクターがいたはずです。
ですが今になって思えば、19巻以降の北斗杯編では日本チームの団長としてヒカルたちの保護者的な立ち位置のキャラクターになって、活躍の場が広がっていくことの伏線だったのかもしれませんね。
ちなみに、短編の内容的には倉田が何だか競馬で凄い能力を発揮しているというものですが、僕には競馬のことは全くわからないので正直よくわかりませんでした。(笑)
藤原佐為
『ヒカルの碁』の序盤頃の佐為のエピソードです。
もう本編には登場しない佐為が登場するとあって、ファン的にはとても嬉しい短編ですね。
しかも佐為が対局で無双する系の話なので、かなりスカッとする内容になっています。
ヒカルが割ってしまった加賀の湯飲みの代わりを探すために訪れた骨董屋の店主は、なかなか狡い商売人ですが、幼い女の子にまで酷い対応をする店主にキレた佐為が店主と碁で対局することになります。
「おまえっ、この子ダシにして打ちたいだけだろ!」
ヒカルのツッコミが何割かくらいは当たっていそうで面白いですね。(笑)
ちなみに、この対局は佐為の強さが囲碁を知らない人にとっても最もわかりやすく伝わるエピソードだったのではないかと思います。
最初は女の子が割ってしまった茶碗の弁償代を賭けての対局で店主を投了させ、その後女の子の家から盗まれた慶長の花器を賭けて、黒白入れ替えて店主が投了した盤面から逆転してみせた佐為。
相手が負けを認めた盤面からの逆転とは、完全に心を折りにいっていますね。
しかし、実際のところはどうなんでしょうね?
店主はアマ五段クラスだったようで、アマ五段といえば正直相当な実力者です。(最近の免状の価値がどれほどのものなのかという問題もありますが・・)
例えばトップ棋士が実際にアマ五段クラスを相手に佐為と同じことをやったとして、これは実現可能なのでしょうか?
かなりレベルを落として考えてみました。
アマ五段とトップ棋士のハンディキャップを五子くらいと仮定し、自分が五子置かせる棋力差の相手に対して同じことができるかを考えてみると・・
相手の投了時の盤面の状態、どこまで手数が進んでいるかにもよりますが、相当厳しいような気がしますね。
そして、作中の店主が投了した盤面はかなり手数が進んでいるようだったので、いくら最強の棋士でも普通は難しそうです。
これはさすが佐為としか言いようがないエピソードだったと思います。
本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!
今回は番外編の短編集ということで、棋譜紹介はお休みです。
総括
いかがでしたでしょうか?
番外編の短編集ということで、いつもとはちょっと違ったヒカルの碁が楽しめる巻ということで、僕は結構18巻が好きです。
こういうストーリーに絡まない短編は好き嫌いがわかれるところですが、僕が勝手に思っている理論で、短編が面白い作品は魅力的なキャラクターが多いという法則があります。
やはり短編では、サブキャラクターにスポットを当てたいつもとは違ったエピソードが好まれがちだと思うので、どうしたってキャラクターが魅力的じゃないと成立しないと思うからです。
そういう意味でヒカルの碁は脇役を含めてどんな登場人物もキャラが生きている感じがして個性的ですよね。
ヒカルの院生仲間なんて特に顕著で、そこまでストーリーに絡んでいるわけではないキャラクターも含めて、まるでそこにいるのが当然であるかのように違和感なく登場してきていたのが凄いです。
本編では伊角さんあたりがそんな感じで台頭してきて16巻では主役を張っていましたしね。
そんな魅力的なキャラクターが多いヒカルの碁にはもっと短編があっても良いような気もするのですが、残念ながらあまりありません。
そういう意味で18巻は貴重ですね!
ともあれ、短編集を挟んで次巻からはセカンドシーズンとも言うべき北斗杯編が始まります。
佐為が不在になってしまったからか、かなり賛否のある北斗杯編ですが、個人的にはある意味本当の『ヒカルの碁』の始まりとも言えるような気がしていて、実は19巻以降のストーリーの方が好きだったりします。(次巻の書評はこちら)