ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】19巻
いよいよ新シリーズが始まる19巻です!(前巻の書評はこちら)
佐為がいなくなって吹っ切れたヒカルの、一皮も二皮も剥けて成長した姿に注目ですね。
また、佐為がいた頃にも洪秀英と対局したりと囲碁の国際的な部分が描写されていましたが、新シリーズでは囲碁の国際的な部分、そして日本の立ち位置がどのようなものなのかが強調して描かれています。
19巻はまだほんの序章と言った感じで、今後の伏線が張られるのみに留まっていますが、今まではライバルキャラだったアキラが仲間的な立ち位置にもなっていたりと、見所の多い内容になっています。
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本作の概要
『ヒカルの碁』の新シリーズは、シビアなプロの世界というところが前面に押し出されています。
最初は無邪気な子供という感じだったヒカルも、大人っぽい・・というより勝負師の顔付きをしていることが多くなってきました。
プロの世界で、かなりのスピードで成長していくヒカルですが、その裏では若手棋士による国際戦の計画が進行しています。
本作の見所
ヒカルとアキラの関係
17巻までは、お互いに追いかけて追いかけられてという関係だったヒカルとアキラ。
一度はヒカルに幻滅したアキラが、最後にはヒカルのことを生涯のライバルだと認めたシーンは痺れましたね。
そして、新シリーズはヒカルとアキラが塔矢行洋の碁会所で一緒に勉強しているシーンから始まります。
こうライバルでもあり、仲間でもあるというような関係性が、今までのことを思い返すと感慨深くありますね。
超絶レベルの高い囲碁の話をしているかと思えば、徐々に子供っぽい喧嘩になっていくのが、プロの囲碁棋士のライバル同士のようでもあり、普通の中学生の友人同士のようでもあり、何だか良い関係だなぁと思います。
「フン、えらそーにしているのも今のうちだぜ。いつか公式戦でおまえに勝ってやる」
saiによるネット碁無双事件の時に、「今から打とうか?」とアキラに言われた時のヒカルの何も言い返せない寂しそうなセリフが懐かしいですね。
今のヒカルは、堂々とアキラに対してこういうことが言えるまでに成長しています。
「公式戦で」と言っているということは、恐らく練習対局くらいでは何度もアキラに勝ったことがあってもおかしくなさそうですよね。
とはいえ、その関係性で一番上位であるのはライバルとしての関係性。
その証拠に、アキラが北斗杯の予選を免除されていることを知ったヒカルは、最初は文句を言いつつも・・
「リーグ入りしているヤツと、ただの初段の差か・・。だけど、力の差じゃねェ」
そう言って納得を示します。
そして、北斗杯の予選を突破するまでは塔矢行洋の碁会所には来ないと言います。
恐らく、素直にアキラと自分は並んでいないと実績の差を素直に認め、北斗杯の予選を突破して日本チームの一員になってアキラに並んでやるぞという意気込みなのだと思います。
ただの初段から、日本チームの一員に。
そうして、また並ぶまでは来ないという関係はライバル以外の何ものでもないですよね?
ヒカルとアキラの躍進
ヒカルの目指すべきライバルとしてずっと強キャラとして描かれてきたアキラですが、ヒカルと同じくらいその成長がわかりやすく描かれてきました。
19巻では、ついにタイトルホルダーである一柳棋聖に勝利する姿が描かれていました。
また、成長曲線だけでいえばヒカルの方が上回っているようです。
佐為が失踪したと思っていた時に手合をサボっていたせいで、その実力に反して昇段まではまだまだ遠いヒカルですが、ギャップのある実力に対局相手の棋士には「最強の初段だ」と評されたくらいです。
これはわかりやすい部分ですが、全体的に堂々としてきたというか、余裕があるような感じにもなってきていて、棋力のみならず精神的にも成長してきているという印象を受けますね。
御器曽七段
『ヒカルの碁』には珍しい、恐らくは唯一の明確な悪人である御器曽七段。
だから印象に残りやすいのか、地味に人気のあるキャラクターな気がします。
「なァ華麗な打ち回しだろう。ギャラリーがいれば歓声があがるところだぜ」
御器曽七段のこのセリフは有名ですね。
ヒカルの成長を実感させる当て馬的な役割のキャラクターでしたが、このセリフから滲み出る露骨な当て馬感が面白かったです。
国際戦の予感
『ヒカルの碁』の新シリーズは、若手による新しい国際戦を巡る物語が中心になります。
国際戦の取材帰りの記者たち、スポンサーの思惑といったものが描かれていて、これらは今までの『ヒカルの碁』には見られなかった描写です。
何だか新しい何か(というか国際戦)を感じさせられますね。
19巻では、かなり計算高くドライな感じの主催企業の実行委員の担当者の態度が後々変わっていくところも面白いと思います。
新しい囲碁部
閑話休題的な話題で、ヒカルの知る人のいなくなった新しい囲碁部の様子が描かれています。
18巻の短編の続きですね。
加賀に騙されて入部した二人がちゃんと囲碁部をやっていて大会を目指している所が微笑ましいですが、小池君と1年生2人で団体戦のメンバーが揃っている状況だったところにまさかの新入部員が!
将棋部に入りたかったのに加賀の怒りをかって囲碁部に入ることになった岡村、経験者で強者の風格のある上島が、実は弱くて良かったですね。
勉強熱心なヒカルの保護者
勉強熱心なヒカルというか、ヒカルのお母さんが良いお母さんですよね。
トイレの電球が切れて夜中に買い物に行っている所をあかりと遭遇し、「ヒカルに行ってもらえばいいのに」と言うあかりに対してこう返します。
「あの子の部屋から碁石の音が聞こえるの。今日だけじゃないいつものことだけどね。本当にいつも遅くまで。そんなあの子には頼めなくって」
最初は囲碁のプロ試験を受けることに戸惑いを見せ、プロになったらなったで色々と調べ、手合をサボりだしたら今後のことを心配し、意外と一番ヒカルに振り回されている感のあるヒカルのお母さん。
恐らく、状況的には素直に応援しきれなくてもおかしくないヒカルのお母さんですが、こうして息子のことを見守るような形でちゃんと応援してくれるお母さんって良いですよね。
門脇さんとの対局
伊角さんの新初段シリーズ。ヒカルとしても大事な仲間の新初段シリーズを観戦したいはずですが、それ以上にヒカルとしては門脇さんに以前の自分(佐為)と比べてもらうことの方が大事なようですね。
「大変な一局だな。1年半前の自分と比べられるから」
ヒカルの方から持ち掛けた野良試合的な対局ですが、ある意味大一番であると感じているようですね。
数少ない佐為の指示で打つヒカルと対面で対局したことのある門脇さんは、ヒカルが認めて欲しいと感じている棋士の一人であることは間違いなさそうですね。
本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!
今回紹介する対局が終局するのは20巻ですが、ヒカルと門脇さんの対局ですね。
作中での描写は地味ですが、意外と作中でも重要度の高い対局なのではないかと思っています。
佐為のいないヒカルと、佐為と打ったことのある門脇さんとの対局。
アキラに対してもそうであったように、ヒカルからしたら佐為と比べられてしまう相手。
個人的には、新シリーズが始まってその転換点としての象徴になっている対局なのではないかと思っています。
元ネタは彦坂直人九段(黒)と今村俊也九段(白)の20年ほど前の対局ですね。
意外とゆっくりした碁に時代を感じさせられます。
(図1)
右下の黒の形が素敵ですね。
最後に打った赤丸の位置は模様を囲うような手で、LeelaZero先生も良いとは思っていないのか候補手にもありませんが、ケシを打つにも白の勢力圏(上辺)と分断されやすそうなイメージの位置なので、意外と白も打つ手に困る良い手なのだと思われます。
結果、この後赤丸の位置の左下にカタツキのような手を白は打ちましたが、上辺方向を目指していくもののもがき苦しむ展開になります。
さすがに取られるような石ではありませんが、もがいている隙に黒がポイントを稼ぎ、黒の優勢の展開となりました。
(図2)
作中で門脇さんが「オレが打った好形のハネに食いつかれた!」と反応している盤面ですね。
門脇さん、「ここからか!」と身構えてもいますが、この時点で実はLeelaZero先生的にはかなり黒の優勢になっていることもあってか、実戦よりはおとなしめの手が候補手になっています。
後の展開から推測するに、中央白にプレッシャーをかけつつ、左辺黒を少しでも大きく囲おうという手なのだと思われます。
ちなみに、問題のツケを打った後の展開は意外と限られているような気がします。実際、途中で手抜くまではLeelaZero先生の候補手と完全に一致していました。
(図3)
LeelaZero先生の形成判断によると、作中でヒカルが言っていたほど黒は苦しくなく、終始優勢を保っている印象の棋譜でした。
ちなみに、僕は地合いを数えるような形成判断はかなりどちらかに偏っていなければできないので、どちらかと言えば対局の流れで形成判断をするタイプです。
「こっちがずっと攻めてるんだから、こっちが優勢なはず」といった具合ですね。
そういう形成判断に基づくと、黒が先に右下に大きな模様を作り、何とかそれを消そうとカタツキしてきた白を攻め立て、そして図3の盤面では右辺の小さい白がギリギリ生きているものの苦しい生き方をさせられていて、終始黒のペースといった印象を受けました。
右辺の白なんて、かなりシビアな生き方をしていて、恐らく赤丸以外の場所に打っていたら死んでいたのではないでしょうか?
僕の場合、こういうツライ生き方をさせられると、それだけで自分が劣勢だと感じてしまいます。
まあ、これは必ずしも当てはまるわけでは無く、気持ちよく攻めてて流れは自分にあると思っていて、最後まで自分の優位を疑っていなかったのに、結果を見たら僅差で負けているなんてこともあるのですが、一定の指標にはなると思います。
作中でも門脇さんが、自分のパンチが効いているのか効いていないのかを気にしていましたが、これも要は対局の流れに基づいた形成判断をしようとしているということなのかなぁと思いました。
総括
いかがでしたでしょうか?
次巻以降、『ヒカルの碁』は北斗杯に向けて徐々に国際色豊かな内容になっていきます。
囲碁の国際色豊かな部分は、将棋には無い囲碁の強みだと思うので、その辺が盛り上がっていく点には是非とも注目して欲しいですね。
日本では将棋に比べて社会的地位の低い囲碁ですが、こういう国際的な部分は将棋には無い強みなのですから。
連載当時、佐為がいない新シリーズって何だか寂しいなぁと初めは思っていましたが、それはそれとして新シリーズも全然面白いと思います。
というか、個人的には佐為がいないという一点を差し引いても北斗杯編の方が好きなんですけどね。(次巻の書評はこちら)