ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】20巻
ヒカルの碁史上最も印象深い棋譜が登場する20巻です!(前巻の書評はこちら)
北斗杯編前半のハイライトといえば間違いなくヒカルVS社の対局だと思います。
全くの新キャラである社清春が、初手天元や五の五といった趣向的な打ち方をするキャラクター性で、一気に人気者になりましたね。
囲碁の自由度の高さ、魅力的な部分を、囲碁を知らない人にも「何だかわからないけどすげ~」と伝えることに最も成功している巻なのではないでしょうか?
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本作の概要
門脇さんには佐為ではないヒカルの力を見せつけ、北斗杯に向けての準備が着々と進んでいきます。
趣向的な打ち方が特徴の関西棋院の期待の若手・社清春も初登場し、いよいよ北斗杯編も盛り上がってまいりました!
本作の見所
門脇さんとの決着
初登場時はお調子者の強キャラ感のあった門脇さんですが、遥かに年下のヒカル(佐為)の実力を知って憧れを抱けるほどの客観性を持っています。
しかし、ヒカルとの対局では十分にヒカルの実力を計ることができたものの若干不満そうな顔をしています。
「門脇さんさっき、オレと打てて良かったって言ったけど本当はどう思ったの?」
その不満顔の理由を知らないわけがないヒカルは、あえて門脇さんに問いかけます。
誤魔化すのを許さない雰囲気のヒカルに、門脇さんはついつい本音で以前の方が強かったとこぼしてしまいますが・・
「オレもそう思う」
ヒカルはむしろ嬉しそうです。
恐らく、確かに佐為がいたということを実感していることによる感情なのだと思いますが、佐為を知らない人にとってはヒカルの言動は謎ですよね。
門脇さんも、ヒカルの評価を図りかねてしまったようです。(笑)
以前、佐為が門脇さんと対局した後の「千年」というセリフといい、門脇さんとの対局と名言がワンセットなのが面白いですね。
初手天元
社清春の初登場ですね!
初手天元や五の五といった面白い打ち方を見せてくれるキャラクターです。
最初は本田さんの師匠の研究会での練習対局で初手天元を見せてくれました。
初手天元は、特殊な打ち方ではありますが、意外と多くの人が打ったことがあるのではないでしょうか?
初めて囲碁を打つ時、どこに打ったら良いのか分からない初心者にとって盤面のど真ん中である天元は、いかにも打ちやすい場所ですからね。
連載当時初心者だった僕は、「へぇ~そんなに特殊なんだ。だけど、ぶっちゃけ何が難しいのかよく分からないや~」とか思っていましたが、実際問題初手天元はかなり難しい打ち方だと思います。
自分が打つ場合はもちろん、相手に打たれた場合も例外ではありません。
作中では初手天元について、天元の石が働けば勝ちで、役立たずに終われば負けだと、考え方はシンプルなのだと語られています。
実は、僕は今でも初手天元に打ったり打たれたりする時には『ヒカルの碁』のこのセリフを思い出して、この考え方に基づいて打っているのですが、考え方のシンプルさに反して、それを目指して打つのは非常に難しいことであると思います。
どちらかと言えば盤面の端の方から打ち始める囲碁において、本来中央は徐々に目指していく場所であるはず。
そこに最初から石を置いて、遥か遠い隅の打ち方から中央の石を意識するのは、例えば途中計算式を書かずに数式を解くような難しさがあるような気がするからです。
そんな初手天元を平気で打ってくるような社清春、連載当時もどんな活躍をするのか楽しみにしていた記憶があります。
師弟対決
ヒカルvs森下。
アキラvs緒方。
ライバル同士であるヒカルとアキラの師弟対決(片方は兄弟子)を並べて描かれている演出が地味に良いですね。
それぞれが自信を持って臨み、しかし勝負の場での師匠(兄弟子)に阻まれてしまうという展開が面白い!
やっぱり勝負師にとって、普段の練習対局と公式対局では全然違うということなのでしょうね。
しかも、師匠側が明らかに弟子側の実力を認めた上で万全に臨んでいるというのが熱い!
意外と『ヒカルの碁』では、こういう上の世代との対局エピソードが少ないので、そういう意味では貴重なシーンだったと思います。
卒業式
厳しい勝負の世界の話とは打って変わって、のほほん平和な葉瀬中卒業式のエピソード。
高校に行ってからも囲碁を続けると意気込むあかりと、教えに行ってやるとイケメンなヒカルのツーショットがなかなか良いですね。
残念ながら、ヒカルと三谷が仲直りすることはありませんでしたが、これは仲違いするに至った状況が状況だったので、致し方ないのかもしれませんね。
ヒカルvs社清春
そして北斗杯編前半のハイライト。
ヒカルvs社清春ですね。
本田さんから社清春が初手天元を打ってくる奴だと聞いていたヒカルは、初手天元を期待して待っていますが・・
打ってきたのは、まさかの初手五の五でした。
そしてヒカルが意趣返しも兼ねた二手目に白番の天元を打ちます。
乱戦狙いだから盤面全体にシチョウ有利な天元はありだと合理的な理由も語られていますが、どちらかといえば挑発の意味合いの方が強そうな手ですよね。
それに対して、更に五の五で応じる社清春。
これは囲碁を知っている人にとっては、普通にビックリする展開ですし、知らない人にもその驚きが分かるように描写されているのが凄いですね。
定石も布石も無い、最初から最後まで読み合いの捩り合いの超乱戦。
9路盤でならよくある盤全体の乱戦が19路盤で行われているような印象で、メチャクチャ面白いですね。
この棋譜を使おうとする発想も凄いですが、こんな棋譜が実在していることも凄いと思います。
本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!
今回はもちろん『ヒカルの碁』史上最も記憶に残る棋譜、北斗杯予選のヒカルと社の棋譜を検討していきたいと思います。
元ネタは若き日の平成四天王のお二人。
高尾紳路先生(黒)と山下敬吾先生(白)の20年ほど前の対局となります。
(図1)
最初の三手がもはやハイライト。
五の五に天元、そしてまた五の五。連載当時の僕は初心者に毛が生えた程度の棋力だったので何だかよく分からないけど凄いんだということだけ認識していました。
今ならわかりますが、この三手はいずれも絶対に勝つつもりの対局では打てない類の手だと思います。
級位者クラスでの対局なら、奇襲戦法として上手くハマれば優位に打ち進めることができるような気もしますが、ある程度以上強い人同士なら中々通用しない気がします。
少なくとも僕には打ちこなせません。
敢えて言うなら、この三手目の時点で黒持ちなのですが、実はLeelaZero先生の評価ではかなり白に傾いています。
1手目で黒の評価が下がり、2手目で白の評価が下がり、3手目で黒の評価がまた下がってるので、LeelaZero先生はいずれも悪手と見ているようですが、そういは言っても人間同士の対局では最初の数手くらいはどう打っても一局という感じです。
例え本当に悪手だったのだとしても、囲碁好きならこういう自由な手を面白いと感じてしまいますよね。
僕も、絶対勝つつもりの対局では打てないと前述しましたが、時たまこういった普通ではない手を打って見たくなることがあります。
ちなみに、この対局の元ネタの高尾先生と山下先生の白黒をずっと逆だと思い込んでいました。山下先生の方が、こういう趣向的な手を打つイメージがあったからなのですが、実は高尾先生の方が黒番で五の五を仕掛けたようですね。
ヒカルの碁鑑賞会では、電話で高尾紳路先生が本局について話していましたが、三手目の五の五の後に山下敬吾先生が普通の手を打ってきたことを不満に感じているようです。(笑)
新鋭トーナメント戦というタイトルの決勝という大舞台で遊び心のある碁を打てるのが凄いですね。
(図2)
「切り違い一方をノビよ」の格言がこれ以上なくわかりやすく表れた形ですが、乱戦が始まる気配がプンプンする形ですね。
大体の対局は、序盤十手くらいで良い勝負でも、何となくどっち持ちか言えますけど、既に意味がわかりません。
ですが左下の格好も白が良い形だし、どちらかといえば白持ちの形勢です。
LeelaZero先生も同じで、実はこの対局で黒の形勢が良くなるタイミングはありません。
やはり、五の五を二か所も打っているのが負担になっているのでしょうか?
しかし、例えば右上の五の五は中央で切り違えている白に対してのプレッシャーになっていますし、乱戦になればどう転ぶか未知数といった感じだと思います。
(図3)
想像通り、中央で切り違えたところからお互いに弱い石を抱える展開になりました。
個人的には、右上の五の五にあった黒石が中央に近いこともあって、白石の方が弱い気がするので若干白持ちです。
ちなみに、個人的にはこの図3くらいのタイミングが、ただでさえ特殊な棋譜が一層特殊に見えるタイミングだと思います。
手順も、誰が打っているのかも知らない目で、この盤面だけを俯瞰して見たら、少なくともプロが打っていると思う人は少数派なのではないでしょうか?
この序盤に中央付近に石が集中している感じが、普通の棋譜ではなかなか見られません。
まさに空中戦といった感じですね。
(図4)
作中でも「相手の薄みを突いていけば、ただ受けたりせず切り返して・・」と語られていますが、まさに右上の辺りで起きた戦いのことかと思われます。
元々は白が弱い部分で、白が黒の厚みになりかねないのに隅に侵入し、そのままあちこち切り違えながら戦いが始まります。
黒も弱い石を抱えることになったので、先行きが全く見えませんね。
左下も、白の石数が多いものの黒からも色々手がありそうな微妙な形。
LeelaZero先生は相変わらず白の優勢を示していますが、人間でこの盤面を正確に形成判断できる人ってどれくらいいるのでしょうか?
ちなみに、この段階では僕はどちらかといえば白持ちです。
(図5)
上辺の白の模様もどきの中にある黒石が逃げ出していますが、盤の端の方まで来ても空中戦感が無くなりませんね。
広い空間なので死ぬことは無さそうですが、一歩間違えばもがかされて一気に損してしまいそうです。
打ち方次第では、中央黒の最初に切り違えてた石にも影響しそうですからね。
いやはや、プロの棋譜でもある程度は次の手が予想できるものですが、この対局に関しては終始全く予想できませんね。
(図6)
中央から右上にかけては互いに切り違う戦いに終始しましたが、怪しい生ノゾキの一手も打たれています。
普通に赤丸の左上の位置に切り違えるのではダメなのでしょうか?
切り違えていたら中央と左下の切り離された白石が両方弱くなるので、黒にとっては都合が良さそうな気がしますし、それにLeelaZero先生の候補手は切り違いでしたが・・
複雑すぎで僕にはわかりません。
いや、分からない分からないとばかり言っている割に長くなりましたが、こういう対局は見応えがありますよね。
最近プロの対局でこういう趣向的な打ち方を見かけるのが減ってきたような気がするので、たまにはこういう対局を見てみたいと思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
面白すぎる対局に棋譜検討に熱が入ってしまいましたが、本編でこの対局の終局が見られるのは次巻となります。
北斗杯のメンバーの決定、そして日本チームが一致団結しての合宿。
ヒカルにとっても久々の団体戦に向けての準備がメインとなり、祭りの前的な楽しさのある次巻にも注目ですね!(次巻の書評はこちら)