ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】7巻
急成長するヒカルに注目の第7巻です。(前巻の書評はこちら)
『ヒカルの碁』には、ヒカルがわかりやすく大きく成長するタイミングが何度かあったと思います。
前巻では院生2組のドンケツで不安を感じていたヒカルですが、今巻で1組に上がり、若獅子戦に出場して若手プロと互角の戦いを繰り広げます。
ヤバいくらいの成長の早さですね。
筒井さんに勝って喜んでいた時から、そう時間は立っていないはずなのに・・
ちなみに、今巻には昔読んでいた時はあまり意味がよくわからなくて、漫画的に盛り上げるためだけのシーンなのかなと思っていたけど、ある程度囲碁に触れてきた今なら意味がわかるようになってきたシーンがあります。
その辺りについても見所の紹介で触れていきたいと思います!
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本作の概要
和谷に誘われた研究会に、院生修行。それに佐為の指導もあって、ヒカルの腕はめきめきと上達していきます。
院生順位も1組に上がり、順調に順位を上げていき何とか若獅子戦への出場権を獲得することができました。
若手プロである村上プロとの対局では佐為をも驚かすような打ちまわしを見せるほどに成長します。
ヒカルを見限ったはずのアキラも、再びヒカルに興味を抱きますが、今はまだヒカルの実力を知りません。
しかし、アキラはヒカルに追いかけられていることを確実に意識するようになってきていますね。
本作の見所
森下門下の研究会
和谷に誘われた森下門下の研究会。
しかしそこはプロの研究会。お互いに得るものが無ければメリットが無いということなのでしょう。院生2組のヒカルが参加することに最初「あんまりヘタッピじゃな」と難色を示す森下先生でしたが・・
妥当塔矢アキラを口にするヒカルの意気込みに感心した森下先生は快くヒカルの参加を受け入れてくれました。
そんなんで良いのかとも思いましたが、そういうものなのかもしれませんね。
「技術的なことだけなら私が教えられるが ここはヒカルの気構えが鍛えられる」
見守る佐為も、ヒカルの師匠が板に付いてきた気がします。
佐為の刃
依然として院生内で結果が出せないヒカル。
研究会では佐為の示した手が誉められたり、そんな凄い佐為に教わっているにもかかわらず院生順位は下がってしまう。
「私と打っているからです」
なぜ勝てないのかというヒカルの疑問に対して佐為はこう答えます。
佐為の強さが理解できるにつれ、恐れから手控えることが増え、それが普段の対局でも現れる。それを解消するためには、アキラのようにギリギリまで見極めて踏み込むべきなのだと佐為は指摘します。
そして、この指摘こそが前述した昔読んだ時にはよくわからなかった部分となります。
昔の僕には、精神的な部分が囲碁の打ち方に与える影響の大きさが全く理解できていなかったのですが、ずっと囲碁を趣味にし続けている内に気付きました。
佐為の言っているようなことは、実はよくあることなのだということが。
不調な時に僅差の負けが増えることって稀によくあることで、後から検討したら安全だけど甘い手を打っていたり、逆にそれを避けようとやりすぎた手を打ってしまっていたり、アンバランスな打ち方になってしまっているのですね。
そして大抵そういう時期を乗り越えた時って、今まで勝てなかったクラスの人にも勝てるようになっていたり、大きく棋力が向上していることが多い。
丁度今巻のヒカルの状態がそれなのだと思います。
ヒカルの急成長は漫画的な演出なのかとずっと思っていましたが、恐らく囲碁を打っている人にとっては結構同じような体験をしたことがある人もいるのではないでしょうか?
そして1組に
佐為のアドバイスが功を奏したのかヒカルはついに1組に昇級します。
普通は不調の理由がわかった所でこんなに順調にはいかないような気もするのですが、それも含めてヒカルの才能なのだということでしょうか?
フクとの対局で自身が早碁が得意だということ。相性の良さを実感しているヒカルが印象的ですね。
ちなみに、こういう実力とは別にある相性っていうのも現実に存在したりします。
まあ、格下に対する相性の悪さはそのもの「相性の悪さ」と自覚できるものの、格上に対する相性の良さは「相性の良さ」ではなく「実力」だと思ってしまいがちなんですけどね。(笑)
その点、ヒカルはこの時点では格上であるフクに対しての打ちやすさを「実力」だと勘違いしていない点がエライと思います。
悪手を好手に
若獅子戦への出場を決めたヒカル。
ついこの間まで中学生の囲碁部の大会に熱を上げていたヒカルが、もうプロと公式戦の対局をするまでに成長したのかと思うと、とんどもない速さの成長です。
それにしても村上二段との対局を見守る佐為が尊いです。そしてヒカルを見に来た緒方九段を聞こえていないとわかって対局に誘う姿が切ないですね。
村上二段とそれなりの勝負を繰り広げる中、ヒカルが放った悪手に必死に緒方九段に言い訳する佐為ですが・・
「!さっきの悪手がうまく利用されて好手になっている」
気付けばヒカルが見事な打ちまわしを披露していて佐為と、緒方九段も驚かされることになります。
ちなみに、このシーンも主人公として個性のある棋風をヒカルに持たせようとしているシーンなのかと昔読んだ時は思っていましたが、今思えばこの悪手を好手に化けさせるということは囲碁を打つ上で、「稀によくある」どころか「全く普通のこと」になります。
例えばアタリにつっこむような明らかなミスは別として、悪手になるか好手になるかは、そもそもがその手の後の打ちまわし次第だというのが囲碁というゲームなんですね。
そして、強い人ほど「実はミスだった手」をそうとは感じさせない妙手だったのだと思わせる術にたけている。
最近の囲碁AIの放つ不思議な手も然り、ある一手単品だけで好手なのか悪手なのかを判断することは難しく、やっぱり結局のところ後の打ちまわしが重要だということを改めて認識させられているような気がします。
悪手を打ったら、とりあえずそれはそれとしてその後どう打てば良くなるかを考えることは当たり前のことですよね?
つまり、こういう考え方自体は普段誰でも実践しているのですが、本当の意味で強い人を相手に実現できることは凄いことだと思います。
だから、普通のことではあっても佐為が驚かされたこと自体には不自然さはないのだと思います。
本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!
今回、本当はヒカルVS村上プロの対局を紹介したかったのですが元ネタの棋譜が見つからないので断念しました。
そこでちょっと趣向を変えて、いつもは主人公や強い人に注目してしまいがちなのところを恐らくは上級者~低段者程度だと推察される金子さんの対局を紹介してみます!
さん(黒)と三谷(白)の対局で、作中では盤面がほぼ描かれていない状態の対局ですが、碁ジャスにて棋譜が紹介されていますね。
(図2)
序盤早々ですが、金子さんの布石が刺々しかったので気になってしまいました。金子さんの性格を表しているのでしょうか?
そうだとしたら、作中にほぼ描かれていない棋譜にまでそういうこだわりを見せているのが凄いですね。
それにしても高目に三々。
例えば右下の黒石が星の位置にあるよりも右上に潜り込みづらいような気がしますが、そういう意味の布石なのでしょうか?
一部で中央を意識した位の高い打ち方をしたら、一部では地を意識した位の低い打ち方をするのは、何となく最近のAI的な発想に近い気もしますね。
恐るべし金子さんです。(笑)
(図2)
左辺では、何となく黒の打ち方がアンバランスな感じがしますね。中央を意識したような打ち方に見えましたが、白が中央に頭を出していて大きな黒模様はできなさそうです。LeelaZero先生の評価も白に傾いていて、確かに多くの人は白持ちの形成になっているのではないでしょうか?
そして、白は右下の三々にカタツキ。
しかし、三々への手のつけ方って僕も未だによくわからないんですよね。一応いくつか定石は知っていますが、どれも黒も白も持ちたくないような感じがするのです。だからいつも、よほど打つところが他に無い時以外に三々に打たれた石には直接絡んでいくことはありません。
図2の場合も、左辺の弱い黒石の状態によって右下の打ち方を考えたいような気がします。
ちなみに、LeelaZero先生は左辺左上よりの黒を攻めたくてしょうがないようで、この段階で右下の三々には全く興味が無いようでした。
(図3)
上辺の黒が酷いことになっていますね。左辺上辺よりの黒も死ぬことは無いでしょうけど、何かと味が悪く後々負担になりそうな感じがします。
明らかに誤算があった結果の形ですね。
一方で白には不安な箇所はありません。
金子さんと三谷の力量差が表れている棋譜になっているということだと思われますが、強い人の対局はプロの対局や古碁の棋譜を使っているとして、こういう棋譜ってどう準備しているのか興味がありますね。
アマチュアの対局だったりするのでしょうか?
そんなこと言って実はプロの対局とかだったら恥ずかしいのですが、いや流石に上辺の黒がプロってことはないですよね?
総括
今巻で急成長したヒカルですが、ヒカルの急成長はまだまだ続きます。
次巻、いよいよプロ試験が始まり、つまずいたりもしますが全く止まらないヒカルの成長に注目ですね!(次巻の書評はこちら)