ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】9巻
ヒカルの成長がマジ早いですね。
前巻では大人との対局にビビっていましたが、今巻では碁会所のオジサン達との対局が楽しそうですらあります。
和谷や伊角さんとの碁会所修行、そして洪秀英との対局を通してまたまた一回り成長したようです。
作中を通して格上相手に勝利することが滅多にないヒカルが、現時点では明らかに格上である洪秀英に勝利するシーンには大注目ですよ!
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本作の概要
碁会所のオジサン達に置石を置かせての対局で、プロ試験本戦に向けて順調に力を付けるヒカル。
和谷と伊角さんに連れて行ってもらった後も、一人で毎日通ったそうですが、度胸もだいぶ付いてきたようですね。
そんなヒカルはひょんなことから韓国の研究生である洪秀英と対局することになります。
そして、明らかに格上と思われる洪秀英にも善戦・勝利したヒカルはプロ試験本戦前に一皮も二皮もむけたのではないでしょうか?
実際、プロ試験本戦がはじまり怒涛の6連勝。
アキラも徐々にヒカルのことを無視できないようになってきています。
本作の見所
置き碁の効果
プロ予備軍の和谷、伊角さん、ヒカルと2~3子で戦えるオジサン達の棋力は間違いなく高段者クラスだと思われます。
今のヒカルにとっては明確な格下だとはいえ、そういえば置石を置かせるほど格下相手の対局ってのもヒカルはあまり経験していないような気がします。
そんなヒカルにとって、高段者相手に置石を置かせた対局は相当な修行になったのではないでしょうか?
佐為も「劣勢の局面をはねのける力となる」と効果を認めていますね。
確かに、置石の負担って想像以上に大きなものですよね?
僕も級位者相手に置き碁を打ったことはありますが、僕の場合は修行どころか打ち続けると弱くなってしまいそうです。
なぜなら、差を詰めるために変な手を打ってしまったり、勝手読みと自覚した上で相手のミスを期待した手を打ってしまったり、まともな打ち方ができなくなってしまうからです。
まあ、互先における劣勢の局面では、そういう普通ではない手を打てることも必要だということなのかもしれませんね。
四面打ち持碁
ヒカルの碁連載当時は「へ~プロってこんなことできるんだ。凄いな~」と漠然と思っていましたが、今ならわかります。
アキラのやっていることはマジで尋常じゃない凄技です。
四面打ち持碁。
恐らく、トップ棋士ですらそうそうできることではないのではないでしょうか?
マナーのなっていない都議会議員と、その秘書と後援会の2人。
負けてあげてくださいと言われているものの、どうやらこの囲碁への敬意の足りない都議会議員に負けるのはシャクといった様子のアキラは、この4人を相手に持碁を狙うことにしたようです。
大人っぽく見えても子供っぽい行為ですが、そういえばアキラは最初の頃にヒカルの囲碁への経緯の足りない発言にもキレたりしていたし、そこがアキラのウィークポイントなのかもしれないですね。
そして、その頃ヒカルも碁会所でわざと持碁にすること、それも4面で挑戦していて、3面までは持碁に成功しています。
この時点でのアキラとヒカルの差が表現されているのだと思いますが、まだまだアキラには及ばないものの、スグ後ろまで迫ってきているのがわかりますね。
ヒカル、計算とか苦手そうな雰囲気なのに・・
「オレの一局。別に変ったことなどなかった」
「だってワシはいつものように打ったぞ」
秘書と都議会議員のセリフですが、僕もニコストという囲碁の生放送番組で高尾紳路先生に13路盤で持碁にされたことがあるので、この気持ちはわかります。
どうやら故意だったらしいのですが、普通に打っていてどの手が故意に調整された手なのかが全くわかりませんでした。まったくもって恐れ入ります。
ちなみに、僕の棋力も当時よりはかなり上がっているので、今ならわかるかもと思いタイムシフトで見直してみましたが(かなり昔だけどタイムシフトが残ってました。(20分~))、改めて見てもやっぱりわかりませんでした。(´・ω・`)
それにしても、また ニコストやってくれないかな~
韓国の囲碁事情と洪秀英
「韓国にもプロがあるんだ」
「世界のことなんて知らねーよ。オレは日本のことだって知らねーんだから!」
無知は罪ということですね。ヒカルの失言再びです。
こんな風に知らないと言われたら、韓国のプロのレベルがどうであれ洪秀英が腹を立てるのも当然です。
ちなみに、現在(2018年)は囲碁の世界のトップと言えば中国、次いで韓国で、日本はこの2国に比べるとかなり遅れてしまっている印象ですが、連載当時は李昌鎬がまだまだ猛威を振るっていて、次世代として李世ドルが台頭してきているような時期で、韓国が世界のトップという印象の強い時代でした。
そういうわけで、ヒカルの発言はサッカーに例えると強豪国、例えばブラジルあたりを引き合いに出して「ブラジルでもサッカーやってるんだ」とか言っているようなものだったりします。
といっても、連載当時の僕は囲碁の世界の時代背景なんて知らなかったので、ただただ洪秀英が生意気な少年に見えたものですが、実は洪秀英からしたらヒカルの方が格上相手に口先だけは生意気なことを言っているヤツに見えたのも仕方のない時代背景があったのですね。
ともあれ、これが日本の院生のヒカルVS韓国の研究生の洪秀英の対局が実現するキッカケとなりました。
プロ試験本戦開始
碁会所での修行、洪秀英との対局を経て成長したヒカルがついにプロ試験の本戦に臨むのですが、予選の頃の緊張した様子はありません。
開幕、怒涛の6連勝を決めていきます。
ちなみに、囲碁を打たない人は6連勝ってどれくらい凄いことなのかわかりますか?
もちろん調子の良し悪しで格上相手に連勝することも稀にありますが、普通なら手合違い(ハンデが必要)の棋力差が無いと6連勝は無理です。
仮にもプロ試験を受けに来ている人たちを相手に6連勝とは、ヒカルも尋常じゃないくらい成長しているのかもしれませんね。
本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!
今回はもちろんヒカルと洪秀英の対局です。
この2人の対局シーン、好きな人多いのではないでしょうか?
元ネタは韓国の女流国手戦の中で行われた1局。李晶媛(黒)と尹瑛善(白)の対局が元ネタとなります。
やはり、ヒカルが悪手に思われた一手を活用して攻勢に出る場面に注目ですね!
(図1)
この段階ではどっちが良いってのは無さそうですね。
左辺白、右下黒の形がそれぞれ嫌らしい感じがしますが、お互い様でLeelaZero先生の評価も五分になっています。
ただ、右下の攻防につい意味が良くわからない手が度々登場するんですよね。
右下に入ってきた白が下辺に進出しようとしているのをオサえずに黒が打った手(赤い印の部分)の意味がよくわかりませんでした。(強い人教えて~)
右辺の白にプレッシャーをかけようとしているのかもしれませんが、右辺の白はそうそう攻めの対象にはならないような気がしますし、実際この手を打った瞬間にLeelaZero先生の勝率が一瞬白に大きく傾きました。
また、その後右下をお互い打ち続けるのですが、最後に打った白の手(赤い印の部分)の意味も良くわかりませんでした。スソアキの下辺にノビたりトンだりしていってはダメだったのでしょうか?
LeelaZero先生も下辺方向へのノビが候補手になっていて、実際それを打たなかったことで白に傾いていた勝率が五分に戻りました。
その後も変な位置の黒のノゾキがあったり(赤い印の白の2路左)、よくわからない手が続きますが、結果的には黒が下辺を大きな模様にして大きく優勢を築きました。
LeelaZero先生の評価も白が絶望的になっていきます。
作中ではあまり描かれていない盤面ですが、この右下の攻防ってひょっとすると相当ハイレベルな思惑のぶつかり合いがあったのではないでしょうか?
強い人に教えて欲しいものです。
(図2)
ヒカルが打った最初悪手だと思われた一手ですね。
確かに、僕でも相手がコレを打ってきたら相手のことを格下認定してしまいそうです。
上辺の弱い黒を攻めるような打ち方をしていくべきだと感じられる盤面なので、LeelaZero先生の候補手であるノビや、1路左のハネあたりが普通なら打ちたくなります。
ところが、白が打たなかったので当然黒は喜んでアテを打って、上辺の不安がだいぶ緩和されることとなります。
さて、白の狙いは何だったのでしょうか?
(図3)
狙い通りだったのか、結果的に最初からそういう狙いだったかのような打ちまわしを見せたのか、その辺の真偽はわかりませんが、この盤面までくると確かに最初に悪手と思われた一手が良い場所にありますね。
左上の黒が意外と目の無い形で、そこをシノいでいる内にいつのまには黒には弱い石が三か所もできてしまっています。
一歩間違えばどれかが死んでしまいそうな状況ですね。
当然、弱い石がバラバラに存在するのは大きな負担なのですが、最初の白の一手が中央の黒が弱くなる要石になってしまっています。
黒の立場からすれば、こうなってみたら図2の状況で露骨に上辺を攻めに来てくれていた方がむしろ、負担は少なかったのではないでしょうか?
作中で洪秀英は微妙な形勢と言っていますが、素人目には圧倒的に白持ちの形勢になっていて、黒で勝つ自信は全く持てません。
なぜなら、生きるのに執着して地合いで遅れるか、地合いでも遅れないように頑張って潰れるかのどちらかになりそうだと思うからです。
しかし、結果は1目半差(現代なら2目半)の僅差。こんな良い勝負になるとは、黒もさすがですよね。
総括
いよいよプロ試験の本戦がはじまりましたね。
予選突破直後は不安な状況だったヒカルですが、一皮むけたヒカルは立て続けに6連勝。
アキラの目にも止まることとなり、読者的にもますます目が離せません!(次巻の書評はこちら)