『ドラえもん のび太の月面探査記』辻村深月が贈るドラえもんの感想(ネタバレ注意)
前作の『のび太の宝島』があまりにも感動的で、僕の中でハードルがかなり上がってしまっているドラえもんの大長編。
2019年のドラえもんはどうかと思っていたら、まさかの脚本が小説家の辻村深月先生だという触れ込みで、期待は最高潮に高まっていました。
辻村深月先生は『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞して2004年デビューした小説家で、2012年には直木賞、2018年には本屋大賞も受賞している大物です。
僕は初期の作品しか読んだことはありませんが、ドラえもんが好きなことで有名な小説家で、特に『凍りのくじら』あたりを読めば辻村深月先生のドラえもん愛が伝わってくること間違いなしです。
女性の作家さんが単独で大長編ドラえもんの脚本を書くのは初ということで、予告でも随分と辻村深月先生が脚本だってことを推していましたけど、それだけ人気のある小説家ですし、『 のび太の月面探査記』は子供だけではなく辻村深月先生のファンも興味を持っているのではないかと思います。
そして、辻村深月先生が脚本だからというわけでもないのでしょうけど、今回のドラえもんの舞台は月となります。
大長編のドラえもんでは何度も宇宙に行っているので意外だったのですが、実は月が舞台になるのは今回の『 のび太の月面探査記』が初めてみたいですね。
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本作品の概要
月面探査機が捉えた白い影。
宇宙人だ、カメラのゴミだ、幽霊だ・・などなど論争に盛り上がるのび太のクラスメイト。
しかし、のび太の唱える月のウサギ説は馬鹿にされてしまいます。
いつものごとくドラえもんに泣きついたのび太は、秘密道具『異説クラブメンバーズバッジ』を使って、月にウサギがいる異説の世界に赴きます。
いつものメンバーに加えて謎の転校性のルカも一緒に、ドラえもんとのび太の創ったウサギ王国を冒険しますが、実は本当に月に住むウサギがいたのです。
謎の転校性のルカは、1000年前にカグヤ星から月にやってきたエスパルというエーテルを操る超能力者で、エーテルを操るためのセンサーがまるでウサギの耳のような形をしていたのです。
ちなみに、ドラえもんが『 のび太の月面探査記』の見所やキャラクターを紹介する動画も公開されています。
本作品の見所
異説クラブメンバーズバッジ
今回、物語の中心となる秘密道具『異説クラブメンバーズバッジ』は、原作23巻に登場する秘密道具で、『 のび太の月面探査記』の元ネタにもなっているエピソードになります。
ずっと長い間信じられてきた異説を、バッジを付けている人にとってだけ現実にしてしまうという秘密道具で、原作でも月の裏文明説に少しだけ触れています。
原作での舞台は月ではなく地底ですが、そこに王国を創る過程は『 のび太の月面探査記』も舞台が違うだけで、ほぼこのエピソードを主軸に構成されています。
「今、月に空気があるのはこのバッジのおかげだからね。バッジが無くなると息ができなくなるから絶対に外さないこと。外したら宇宙空間に投げ出されたのと同じことだからね!」
しかし、考えてみれば危険な秘密道具ですね。
実際には息ができない程度では済まないはずですし。
ドラえもんに注意されてジャイアントとスネ夫が身震いしていましたが、意外と簡単に外れるバッジに命が委ねられているとは・・
ウサギ王国
凄い世界を見つけたり創ったりする時に、ある程度完成させてからみんなを驚かせようと、まずはドラえもんとのび太の2人で頑張るのは定番の流れですね。
秘密道具『動物ねんど』で作った月のウサギ『ムービット』の世界がもの凄い勢いで進化していきます。
個人的には、ウサギ王国を創る過程で出てきた光る竹林が神秘的で好きでした。
月といえばウサギ以外にもかぐや姫のイメージがあるし、何だか月の物語だなぁって感じがしますしね。
謎の転校性・ルカともう一つの月の世界
そして、そのウサギ王国にいつものメンバーと謎の転校性・ルカと一緒に訪れます。
見事に発達したウサギ王国を満喫するドラえもん達でしたが、のび太が『動物ねんど』で作ったウサギ怪獣が暴れ回り・・
みんなからはぐれ、崖下に落ちそうになったのび太の異説バッジが引っかかって外れてしまい、そのまま落下してしまいます。
いやはや、ドラえもんが言っていたこと。
絶対にバッジを外さないことを事故とはいえ守れなかったのび太にハラハラする展開!
まあメタいことを言うとのび太が死ぬわけないし、ルカが何かしている様子だったので大丈夫だろうとは思っていたけど、何がどうなって大丈夫になるんだろうとワクワクしました。
結論から言うと、のび太の月の裏側にはウサギがいるという異説は、そもそも異説ではなく現実だったわけです。
ルカは1000年前にカグヤ星から月にやって来た宇宙人で、エスパルというエーテルを操る超能力者。
そのエーテルを操るためのセンサーがまるでウサギの耳のような形をしているのです。
「月の世界に、ウサギどころか亀もいた!」
のび太たちがルカの耳以上に亀がいたところに驚いているのはちょっと面白かった。(笑)
ともあれ、もともとエスパルがいて人が住める環境が整っていた場所だったからのび太は助かったわけですね。
追われるエスパル
11人のエスパル。
特にルカの姉で『かぐや姫』本人であるルナや、ジャイアン並みの歌唱力と予知能力を持つアルの2人は物語の主軸に関わってくる重要なキャラクターとなります。
いつも惚れっぽいスネ夫がルナにお熱のようですが、確かにルナのキャラデザはメッチャ可愛いですね。
そんなエスパルがなぜ月にいるのか?
それは、そもそもエスパルの力を悪用しようとするカグヤ星から逃げてきたからなのです。
大きな力を使うと察知されてしまうのでヒッソリと暮らしていたのに、ジャイアントとスネ夫が事故りそうになったのをアルが助けた時に大きな力を使ってしまい、それをカグヤ星に察知されてしまいました。
月面でのデッドヒートは『 のび太の月面探査記』の見所の一つですよね。
しかし、あまりに急なデッドヒートでドラえもん達は劣勢のままのび太の部屋に繋がる『どこでもドア』まで逃げます。
「僕は残る。仲間を残してはいけない」
「だったら僕らも! 友達だろ!?」
「友達だからさ」
そして、月に残ろうとするルカとのび太のやり取りが良いですね。
このデッドヒートの前に、友達という概念すら知らなかったルカにのび太は言っています。
「友達が悲しい時には自分も悲しいし、嬉しい時は一緒に喜ぶ。ただ友達っていうそれだけで、助けていい理由にだってなるんだ」
つまり、お互いにお互いを助けようとした結果のすれ違い。
お互いにお互いを友達だと思っているからこそのすれ違い。
実は、どちらかといえばのび太目線に立って観てしまっていたので一瞬ルカの「友達だからさ」の意味が分からなかったのですが、分かると何だか切ないシーンですね。
『どこでもドア』も粉々に破壊されてしまって、息つく暇もないアクションシーンではあるんですけど。
カグヤ星を目指す
もちろん、ここで終わるようならドラえもんの大長編とは言えません。
真剣にタケコプターで月に行こうとするのび太ですが、さすがにそれは無理。
しかし、モゾがルカが地球に来た時の救命ポッドがあると提案します。一人乗りっぽいですが、ドラえもんが22世紀の技術でみんなが乗れる気球に魔改造しました。
月に行くための乗り物に気球を使うとは、何だかお洒落な発想ですよね~
それにしても22世紀の技術を扱えるドラえもんさん、マジすげぇ~です。
そして月に到着するドラえもん達ですが、異説バッジを付けてウサギ王国に匿われたルナ以外はカグヤ星に連れていかれてしまったようです。
そして、気球で40光年先のカグヤ星を目指すドラえもん達。
『どこでもドア』の距離限界が確か10光年なので、それ以上の距離を気球で行こうとはなかなか無茶をします。しかも、ドラえもんも最初ワープが使えることを知らなかったっぽいし、どうするつもりだったんだ。(笑)
ディアボロと対決
今回のラスボスはディアボロという人工知能というか、かつてカグヤ星の月を欠けさせたエスパルの力を利用する破壊兵器そのものだったりします。
死んだ惑星となりつつあるカグヤ星を捨て、地球を侵略しようとする悪者です。
人類に敵対するAIなんてキャラクターを見ると、最近のトレンドっぽい感じだなぁという感想を抱くことが最近は多いんですけど、ドラえもんの場合は何というか昔ながらの大長編ドラえもんっぽさも感じられるのが不思議ですね。
「余はカグヤ星人によって創られた。奴らの想像力が破壊を生み出したのだ」
そして、ディアボロは本当に悪いキャラクターなんだけど、想像力が破壊を生んだというこのセリフは必ずしも間違っていないような気がするんですよね。
戦争が数々の技術を発達させ、現在の豊かな生活の根底にも実は元々破壊のためのものだったなんてことはザラにあるというのは有名な話ですしね。
「想像力は未来だ! 人への思いやりだ! それをあきらめた時に破壊が生まれるんだ!」
しかし、ドラえもんはそれを否定します。
ぶっちゃけ綺麗ごとなのかなぁって気もするんですけど、こういう耳障りの良い綺麗ごとの方が僕は好きですし、綺麗ごとを忘れたらそれこそ破壊が生まれるということなのかもしれませんね。
ドラえもんが囲碁やってる!
ここからは正直蛇足の感想です。
まったく物語の本筋とは関係のない、そして多くの人は気付きもしないかもしれないシーンについての感想です。
だけど個人的にちょっと興味深かったので取り上げてみました。
いつものごとくのび太がドラえもんに泣きつくシーンですが、なんとドラえもんが初心者向けの囲碁の本を読みながら碁盤に碁石を並べているではありませんか!
僕は囲碁ファンなのでドラえもんが囲碁やってるのを見てめっちゃソワソワしてしまいました。(笑)
そっか~ドラえもんさんは将棋じゃなくて囲碁派なんだね~そっかそっか~初心者なんだ~教えてあげたいな~
・・なんて、恐らく周りで観ていた人の誰一人思ってないことを思っていました。(笑)
いや、アニメ版でもドラえもんが囲碁をやっているシーンがあるらしいことは知っていましたが、それでもテンションが上がってしまいました。
総括
いかがでしたでしょうか?
さすがに『のび太の宝島』を超える作品はそうそう登場はしないのかと思いますが、『 のび太の月面探査記』だって十二分以上の名作だったと思います。
月って今まで舞台になっていた遠い宇宙よりはずっと身近な存在なはずなのに、なぜだかずっと神秘的に感じられてしまうから不思議だなぁと思いました。
ウサギ王国が出来上がる過程で登場する光る竹林とか、めっちゃ神秘的で素敵でしたしね。
1点だけ、ゲスト声優が多すぎて若干演技に違和感を感じる場面が多かったのが玉に傷で、アニメを見慣れている人はちょっと気になってしまうかもしれません。
ちなみに、そんな『 のび太の月面探査記』は著名な小説家である辻村深月先生が脚本を担当されているということもあって、辻村深月先生本人が書き下ろした小説版も発売されています。
辻村深月先生が脚本ってのには興味があるけど、大人だけで観に行くのは恥ずかしいなぁ~って状況の人もいるかもしれませんが、そういう人は小説版を読んでみるのはいかがでしょうか?
僕のように大人一人で子供に混じって観に行くのが全く平気な人ばかりじゃあないでしょうからね。
あっ、でも夜に観に行ったらむしろ子供はほとんどいなくて大人ばかりだったので、レイトショーなら周囲の目は気にならないと思いますよ。