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『空の青さを知る人よ』大人と子供の青春を描いた物語の感想(ネタバレ注意)

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あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない

心が叫びたがってるんだ。

そんな二つの名作とともに三部作に位置付けられている作品ということで、とても期待して心待ちにしていたのが『空の青さを知る人よ』という作品でした。

埼玉県秩父市周辺を舞台にしていることもあり、前二作品にも登場した風景やご当地ネタが散見しているのも興味深い作品となります。

とはいえ、個人的には『心が叫びたがってるんだ。』が滅茶苦茶心に刺さったこともあり、期待はしていても『心が叫びたがってるんだ。』以上ということはないだろうなぁと漠然と思っていました。

しかし、そんな推定は良い意味で裏切られました。

正直言って僕には『心が叫びたがってるんだ。』以上に『空の青さを知る人よ』が刺さりました。

また、今年公開のアニメ映画では、大ヒット中の天気の子がやっぱり飛びぬけて面白かったというのはありますけど、より心に刺さったのは『空の青さを知る人よ』の方でした。

まあ、かなりタイプの違う作品なので比べることの意味は無いと思いますけど。

同様に過去二作品とも順位付けする意味はありません。

『あの花』は小学生から高校生に成長して変化する人間関係を描いた物語で、『ここさけ』は高校生の青春を描いた物語。そして『空の青さを知る人よ』は、高校生から大人(アラサー)に成長して変化する人間関係を描いた物語だと思います。

女子高生の相生あおいが主人公という形ではありますが、彼女はどちらかといえば物語の中心にあってそうではない。語り部タイプの主人公であり、本当の意味での物語の中心は彼女視点で見る大人たちでした。

つまり、この三部作は全て物語の中心にいる人物の年齢が違っており、だからこそどんな世代に刺さるのかも違っているので比べる意味が無いというわけです。

アラサー世代である僕には『空の青さを知る人よ』が刺さるのも自然なことってわけですね。

時の流れを描いたところにちょっぴりSF的な要素を加えている点は『あの花』に似ていますが、全く違った後味の作品になっているのも特徴。

どちらかといえば中高生くらいに刺さりそうな作品が多いアニメ映画の世界ですが、中高生くらいに共感しやすいであろう相生あおいを主人公に据えた上で、特にアラサー世代には刺さる作品に仕上がっているのがとても興味深い作品だと思います。

 

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本作の概要

幼い頃に両親を亡くした相生あおいは、姉である相生あかねと二人暮らし。

妹である相生あおいを育てるために自分を犠牲にしている相生あかねのことを気にして上京することを望んでいた相生あおいでは、音楽で食べていくためにいつもお堂でベースの練習をしていました。

そんなある日、一人でいたはずのお堂に幼い頃に会ったことのある相生あかねの恋人・金室慎之介が現れて、相生あおいはとても驚かされます。

13年の月日が流れているにもかかわらず、その金室慎之介は13年前のままの姿で、何故かそのお堂から出ることができません。

その金室慎之介の認識は、13年前に両親を亡くした相生あかねと上京を巡って口論したばかりの頃でした。

どうやら生霊というやつらしいです。

金室慎之介を含む13年後の人間関係に、13年前の金室慎之介が入り混じる中々に複雑な物語となります。

本作の見所

割と不愛想な主人公(ヒロイン)

『あの花』のヒロインの本間芽衣子はまさに天真爛漫。『ここさけ』の成瀬順はトラウマから喋ることができなくなっていましたが本質的にはお喋り好きで感情表現が豊かでした。いずれにしても愛想は良いキャラクターだったと思います。

対して『空の青さを知る人よ』の相生あおいは不愛想の一言。どちらかといえばかなり偏屈で面倒くさい性格をしています。

僕はどのようなフィクション作品でも、少なくともアニメーションにおいては主人公やヒロインにどこかしら親しみを持てるところがないと、作品そのものもなかなか好きになれないような気がするのですが、そういう意味で相生あおいはあまり魅力的なキャラクターではないと感じていました。

サブキャラとしては「あり」でも、ヒロインを兼ねた主人公の立ち位置のキャラクターではないだろうと感じ、もしかしてこの映画ってハズレかなとまで最初は思いました。

しかし、結論から言えば相生あおいが相当に面倒くさい女子高生だったからこそ『空の青さを知る人よ』が良い作品になっているところもあるのではないかと感じました。

相生あおいがただの素直な良い子ではなく、偏屈で面倒くさいけど姉思いで、不愛想に見えるけど感情的なキャラクターであるからこそ面白い作品だったと思います。

13年の時間の流れ

個人的に、時間の流れが描かれている作品自体が結構好きなんですよね。

数十年から数百年レベルの時間の流れが描かれているSF的な作品とか、人の一生を描いたようなヒューマンドラマ的な作品とか、面白いですよね。

そして、『空の青さを知る人よ』でも13年という時間の流れが描かれています。

ミュージシャンを目指す高校生とその彼女とその妹。彼らの13年後を、生霊という形で当時の高校生本人が見ることになるという構図が非常に面白い。

金室慎之介は一般的な高校生よりも夢見がちで、希望に満ち溢れているような前向きな少年でした。

ミュージシャンになって一発当ててやろうって意気込んでいる少年が、13年後にプロとはいえ演歌歌手のバックバンドをやっていて、しかもいかにも枯れた雰囲気のアラサーになっている姿を見るのは一体どのような気持ちなのか想像すると切ないです。

いやはや、13年前の自分に今の自分を自信をもって見せられる人ってどれくらいいるのでしょう?

たぶんそれは結構少なくて、だからこそ昔に戻ってやり直したいなんて感情が成立するのだと思います。

金室慎之介と同世代のアラサー世代の人にとっては、そういうシチュエーションを見て何かしら刺さる部分があるのではないでしょうか?

少なくとも、僕は割と過去に対して後悔していることが多い方で、昔の自分の今の自分は情けなくて見せられないと思う側の人間なので、金室慎之介の置かれた状況にはかなりグッときました。

逆に、高校生の金室慎之介は凄く眩しいですね。明るくて優しくて愛想も良くて、不愛想な相生あおいが好きになってしまうのも頷けます。

個人的に印象に残っているのは、お堂に13年後で31歳になった相合あかねが登場したシーン。

精神的に高校生である金室慎之介の生霊からしてみれば、31歳の女性はどんなに美人で可愛らしい人だったとしてもかなりのおばさんのはずです。

それを、何度も「ババアになってた」なんて失礼なことを言いながらも「早くもらってやらないと」と改めて相生あかねに対する好意を口にする金室慎之介の生霊は、凄く格好良かったと思います。

井の中の蛙

井の中の蛙大海を知らず

されど空の青さを知る

これは『空の青さを知る人よ』という作品における重要なキーワードとなります。

世間知らずを示すことわざ「井の中の蛙大海を知らず」に「されど空の青さを知る」が付けたされたそこそこ有名な言葉ですが、いつどこで誰が付け足したのかは明らかになっていないようですね。

「青さ」じゃなくて「深さ」だったり、「空」じゃなくて「天」だったり「海」だったり、いろいろなバリエーションがあるようですが、作中でも相生あおいが言っていた通り周囲を山地に囲まれたような秩父においては「されど空の青さを知る」がピッタリくるような気がします。

意味としては、閉じられた狭い世界にいても、だからこそその良さが分かるし突き詰めることができるというもので、この言葉が好きだという相生あかねのキャラクター性にバッチリとマッチした言葉ですね。

また、大成したとは言い難いけどミュージシャンという道を歩き続けようとしている金室慎之介もまた空の青さを知る人なのかもしれません。

そう考えると本作品のタイトルである『空の青さを知る人よ』は、相生あおいによる相生あかねと金室慎之介が空の青さを知る人であるという気付きそのものなのかもしれないと感じました。

総括

いかがでしたでしょうか?

『空の青さを知る人よ』のキャッチコピーは、「これは、せつなくてふしぎな、二度目の初恋の物語」でした。これが意味するところは、実際に『空の青さを知る人よ』を観た後でも何通りかの解釈がありそうな気がしています。

金室慎之介と相生あかねのことを言っているのか。

相生あおいと過去の金室慎之介のことを言っているのか。

それともその両方なのか。

そんな解釈をしてみることに大きな意味は無いと思うのですけど、個人的に「二度目なのに初恋」という一見矛盾していそうなキャッチコピーが、しかし言葉通りに描かれている作品というような気がしたので少し考えてしまいました。(笑)

いやはや、考えれば考えるほど 『空の青さを知る人よ』がより素敵な作品に感じられるようになってきました。

繰り返し見ることで新たな発見がある類の作品ではないとは思うのですけど、もう一回くらいは見てみたいなぁと思っています。

ちなみに、入場者特典で三部作の主人公orヒロインが描かれているクリアファイルが貰えます。三部作のファンならこれは嬉しいですね!

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