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『りゅうおうのおしごと(11)』将棋星人の棲む星に地球人の女の子がたどり着くまでの物語(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

奨励会三段リーグに打ちのめされた空銀子の過去と現在。既刊を含めても最も物語が進展を見せた11巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

自ら死を望んでしまうほど奨励会三段リーグに追いつめられてしまった空銀子。

どうすればそんな銀子を助けることができるのか?

必死に考えた八一は、絶対に死ねる場所へと銀子を連れていこうとします。

銀子を思いとどまらせるために、そして・・

自らが好意を寄せる女の子が本当に死んでしまう前に思いを伝えるために。

しかも、どうやらもし銀子を思いとどまらせることができなかったら後追いする覚悟まであったようですね。

とはいえ、絶対に死ねる場所。福井県東尋坊への小旅行の間に銀子の頭も冷えており、さすがに自死は思いとどまりました。

そして福井県といえば八一の出身県。まさかの八一の実家へ銀子と二人で訪問する展開になります。

銀子からすればかなりの不意打ちですが、さすがに八一の両親を前にかなり緊張している様子で、いつものあたりの強さも若干なりを潜めています。(笑)

そして、今まで散々ロリコンと言われれ続けていた八一ですが、その度合いは割と軽度だったことが明らかになります。

なぜなら、どうやら八一の思い人 が銀子であったことが、八一が銀子に告白しようとしたことで判明したからです。

銀子は八一より二歳年下。十代後半の二歳差なら、まあ全然普通の年齢差ですからね。

そういうわけで、前巻ラストの大きく追いつめられていた精神状態からは脱した銀子は、大阪に戻って再び奨励会三段リーグに挑みます。

そして、銀子にとってはかつて勝利したものの才能の差を見せつけられた因縁の相手である椚創多と再び相まみえます。

ピックアップキャラクター

今までにも特定のキャラクター一色だと感じるような一冊はありましたが、11巻ほど顕著なのは初めてなのではないかと思います。

まさに空銀子のための一冊という感じで、人気キャラクターの割には今までその内面が描かれることの少なかった空銀子の、過去と内面が次々と詳らかにされていきます。

ちなみに、11巻を読んで空銀子に対するイメージがグルっと変わった人は多いのではないかと思いますが、実のところ空銀子のキャラクター性は何も損なわれておらず、むしろ最初からずっと一貫しているといえるのではないかと思っています。

その辺、かなり興味深いのではないかと思います。

空銀子

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(「りゅうおうのおしごと!(5巻)」より)

女流棋界では最強の女王である空銀子ですが、一方で女性初のプロ棋士を目標に、将棋星人たちの世界に追い付くために、奨励会三段リーグを戦う挑戦者でもあります。

しかし、さすがの空銀子も厳しい三段リーグの戦いに疲弊して、心が折られてしまいました。

そんな空銀子がどのように復活を遂げていくのかが11巻の見所になっています。

ネタバレ含む感想

追いつめられた空銀子

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空銀子

・・次は、絶対に勝てない・・もう決まってるの・・このまま四連敗して、ずっと負け続ける・・そんな苦しい思いをするくらいなら・・死んだほうがマシじゃない・・

これが11巻序盤の銀子の精神状態です。

今までにも精神的な脆さをのぞかせたことのある銀子ですが、これはただのメンヘラ女子ではない、マジで危うい様子がうかがえます。

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八一

そんなんだから詰みを逃して負けるんだ。そもそも初めての三段リーグで連敗して、それで右手斬り落とすだとか殺して欲しいだとか、どんだけメンタル豆腐なんですか? 中学生棋士になった俺だって三段リーグ一期抜けは無理だったんですよ? 俺より才能ないくせに自惚れるのもいい加減にしてください

対する八一は、そんな銀子を思いとどまらせるために必死で考えを巡らせます。

考えて、一言でいえば「銀子には才能が無いのだから簡単に三段リーグで勝ち抜けるわけがない」という趣旨のことを八一は銀子にぶつけています。

これは一見、銀子への追い打ちのようにも捉えられますが、「誰もが抱いている銀子への期待を背負う必要は無い」と言っているようにも聞こえますね。

女性初のプロ棋士が望まれる銀子には、想像を絶するプレッシャーが掛かっているに違いありません。

何も知らなければ微笑ましく見えるであろう銀子の部屋にある応援の寄せ書きも、この時の銀子の状態を見た後だと残酷な脅迫文に見えるから不思議です。

ともあれ、ここでの八一のセリフの意図は強制的に銀子から脅迫的なプレッシャーを取っ払おうとしたものなのではないかと思っています。

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八一

だったら俺が連れて行ってあげますよ。絶対に死ねる場所へ

とはいえ、この時の銀子にはどんな言葉よりも頭を冷やす時間が必要だったに違いありません。

そういう意味では八一の取った行動はかなりの好手だったのではないでしょうか?

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八一

いろんな人がいろんな苦しみを味わって、日本中を転々とさまよって、最後の最後に辿り着いたのがこの崖なんです。追い詰められて行き場のなくなった人たちが・・ここから落ちた。同じようにすれば楽になれますよ? どうです? 身を投げれますか?

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空銀子

・・死ねないよ。私は『かわいそう』じゃなかったんだから

遠方にある絶対に死ねる場所。

福井県にある東尋坊

そこに行くまでの間に銀子には頭を冷やす時間ができましたし、冷えた頭で覗いた東尋坊の崖下に飛び込むことは常人にはできるものではありませんよね?

さすがに、まさか本当に飛び降りたりしないかと八一からすればかなりハラハラドキドキした瞬間でしょうけど、銀子に自ら死なない選択をさせることに成功した八一。

こういう場合、無理やり縛り付けるように自死を止めたとしても危うい状態であることに変わりはありませんが、自ら死なない選択をさせることができたらひとまず安心ですから、その辺八一の手法はかなり賢かったと思います。

それにしても、この東尋坊に至るまでのストーリー構成がとても面白かった・・というよりも贅沢だったという印象の方が近いかもしれません。

りゅうおうのおしごと!において今までで最大の過去の回想となりますが、福井県への小旅行の中で、八一や銀子の過去がかなり詳細に語られています。

どのように八一・銀子は清滝鋼介の弟子になったのか?

姉弟弟子たちはどのように成長していったのか?

いつから八一は銀子のことを姉弟子と呼び、敬語で話すようになったのか?

そんなことを中心に、現在に至るまでのあれこれがかなり詳らかにされていて、既刊の様々なシーンに繋がるような過去すらサラッと惜しげもなく語られていて、情報の出し方がとても贅沢に感じられました。

まあ、考えてみればメインヒロインである八一の弟子・雛鶴あいや夜叉神天衣を主軸にしたエピソードではここまでの回想を入れることは難しいでしょうし、銀子がメインのエピソードで一気に吐き出してしまおうという考え方なのかもしれませんね。

初めての封じ手

将棋をテーマにしたライトノベル。それがりゅうおうのおしごと!という作品です。

主人公の八一にしても可愛らしいヒロインたちにしても、個性的なキャラクターたちの誰もにライトノベルのキャラクターらしさがあります。

とはいえ、基本的には将棋の『熱さ』が描かれているのがりゅうおうのおしごと!という作品で、例えばラブコメやギャグのような要素は他のライトノベルに比べると、良い意味でオマケ的な付加要素と感じられるとも思っています。

しかし、11巻の序盤から中盤にかけては将棋の要素は薄めで、特に封じ手のエピソードでは初めて将棋以外の『熱さ』が描かれていたのではないかと思います。

それは八一と銀子のラブコメ

今まで散々ロリコンだと言われてきた八一ですが、どうやら恋愛的な意味で本当に好きなのは銀子であることが11巻で明らかになりました。

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八一

俺が《浪速の白雪姫》に負けないくらい大きくなったら、その時に堂々と名前で呼ぼうと決めたんです

どちらかといえば八一に置いていかれることに不安になっている銀子が今までも描かれてきた印象がありますが、八一もまた銀子が女王になった時に似たようなことを感じていたようで、銀子に相応しいくらいの大物(すでにかなりの大物だと思いますが)になるまでは『姉弟子』と呼び続けようとしていたようです。

しかし、今回そんな銀子が自死を匂わせたことで早く思いを告げたいと八一も思ったのかもしれませんね。

いずれはこういうヒロインキャラとのラブコメが描かれる時が来るとは思っていましたが、銀子とのそれがこんな素敵な感じで描かれるとは予想していませんでした。

それに、告白後の二人のやり取りがものすごく可愛らしいのですけど、ちゃんと将棋を絡めているあたりがりゅうおうのおしごと!らしいところ。

まさか封じ手というキーワードであんなシーンが描かれるとは驚きですね。(笑)

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空銀子

胸の中から気持ちが溢れちゃわないように言葉が出るところを、封じて

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八一

い、今ここで!? 俺からするの!?

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空銀子

封じ手は積極的に自分から封じていくタイプなんでしょ?

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八一

こんな封じ手は初めてなんですよっ!!

将棋における封じ手のスタンスの話をした後にこの流れ。面白さがあるのと同時に凄くロマンティックで素敵なシーンだったと思います。

まあ、作中では言葉が濁されていたところをハッキリ言ってしまえば要はキスしていたわけなのですが、この後もう一度とねだる八一の言い訳がまた面白い。

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八一

そういえば、封じ手は二通作成するんでした・・すみません説明不足で

封じ手が万能すぎるっ。(笑)

封じ手と絡めてこんな素敵なシーンが書けるとは、作者の白鳥士郎先生の発想力がさすがすぎます。

しかし、封じ手とは必ず開封されるはずのものですが、これがいつどのような形で開封されるのか。銀子自身が前途多難と感じているように、開封を阻止しそうな二人のあいは一体どうするのか。

その辺、今後の展開が気になるところですね。

それにしてもこの封じ手のエピソード。

さしずめ、三段リーグの毒リンゴを食べた『浪速の白雪姫』の目を覚ます将棋の星の王子様のキスといったところでしょうか?

こういうピッタリな感じ、僕は嫌いではありません。

また、このエピソードの直後にも敬語が抜けきらなかったり、やっぱり弟子のことは気になる八一のことを内心で減点している銀子ですが、こういうやり取りに以前ほどのトゲトゲしさが無いのも印象的でした。

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空銀子

ほほぅ? 私より小学生が大事だと? すいませんね高校生で

こんなセリフからも若干の余裕が感じられますね。(笑)

なんとも微笑ましいことです。

将棋星人の棲む星への一歩を踏み出した『浪速の白雪姫』

実は、銀子を勇気づけたのは八一だけではありません。

5巻では八一に竜王を防衛されたことで国民栄誉賞の受賞も見送られた神とまで呼ばれた名人でしたが、何かしらの偉業を達成するのは時間の問題でしたし、国も将棋連盟も名人に国民栄誉賞を与えたくて仕方のない状況でした。

そして、タイトル通算100期と歴代最多勝利を理由についに国民栄誉賞が与えられるに至ったわけです。

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八一

直接対決で何回か勝つことなら、俺みたいなのでもできます。簡単じゃないけど・・互角の戦いはできると思う。 でも名人の記録を抜くなんて絶対に無理です。複数冠を一年持つことだって想像すらできないんですから

5巻の竜王戦では名人の上を行った八一ですが、『勝つ』ことよりも『勝ち続ける』ことの難しさをここでは指摘しているわけですね。

まさに神のごとき偉業で、世間的には『浪速の白雪姫』ともてはやされ、名人と並ぶ有名人である銀子も、本当に本気で将棋をしている例えば奨励会員やプロ棋士からは軽んじられることも多いようです。

だから銀子は、そんな世界の頂点にいる神(名人)にとって、自分は並ぶどころか歯牙にもかけられない存在だと思っていた様子ですが・・

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名人

私が今、一番戦ってみたいのは・・女性です。女性がプロ棋士になる時代がもうすぐ、確実に訪れます。棋士として、男性と女性の能力に差なんてありませんから

国民栄誉賞を受賞した会見でAIとの対局への興味を問われた名人が述べたのは、明らかに銀子を意識した回答でした。

曰く、名人自身が到達した偉業はあくまでも今までにもあったレールの延長線上にあるものでしかなかったが、周囲の環境的にも女性が将棋界で出世するのはかなりの困難で、それを乗り越えてきた人間が弱いわけがないという考えのようです。

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名人

ずっと見てきましたから。棋譜はもちろん、タイトル保持者としての振る舞いも、奨励会員としての努力も

神と呼ばれる名人に自分の将棋が届いていた。ここでかつて銀子の師匠の清滝鋼介の言っていた「将棋の神様は八一や銀子のことをちゃんと見ている」というセリフに繋がるのが素敵な展開ですね。

逆説的に言えば、こういうところで見る目があるからこそ名人は神とまで呼ばれているのかもしれません。

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名人

誰も歩いたことのない道には、正解も間違いもありません。ただ経験上、一つだけ言えることがあるとすれば・・運命は勇者に微笑む。私は、そう思います

長くなりましたが、八一と同じくらい銀子を勇気づける結果になったのがこの名人の会見でした。

ちなみに、この会見を見た後の八一と銀子のちょっとしたやり取りがものすごく微笑ましくて、この辺にもちょっと余裕を取り戻した銀子が表れているのにホッとした感じになります。

ともあれ、八一と名人によって復活した銀子は再び三段リーグの舞台に戻ってくるのですが、そこではいきなり強敵・椚創多との対局が描かれています。

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空銀子

よかった・・斬り落とさなくて

これは対局前の銀子のモノローグですが、最初は勝手に悪手を指す自分の手を斬り落とすとか言っていたところから完全に立ち直っていることが窺えますね。

その後の対局は、6巻では勝利したものの完全に格上だと認めてしまっていた椚創多との激戦が繰り広げられるのですが、名人の『運命は勇者に微笑む』の言葉を胸に勇気を持って戦った銀子はついに・・

そこで銀子はついに・・

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空銀子

着いたよ。八一

まだ八一の背中は遠いものの、銀子はついに将棋星人の星に一歩目を踏み出しました。

手を読むのではなく見える領域。椚創多との対局の中で銀子は大きく成長しました。

いやはや、11巻は本当にこの『銀子の将棋星人の星への一歩目に至るまで』を一冊かけて丁寧に描いたという印象の一冊だったと思います。

だからこそ銀子のステップアップにとても説得力がありましたね。

逆に言えば、女性が奨励会三段リーグに臨むということには、それだけの説得力が必要だったということなのかもしれません。そんな道だからこそ、そこを歩く女性を名人は勇者と称しているのだと思います。

それにしても、大きく変わった八一と銀子の関係性や銀子の棋力が今後の展開にどう影響してくるのかが、かなぁり気になるところですね。

11巻はメインヒロインである八一の弟子たちはほとんど登場していませんが、その辺の動向も気になります。

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『りゅうおうのおしごと(5)』最強の挑戦者を迎えた竜王戦が激熱な一冊です。(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

将棋観を否定され、それでも最後には新境地へと至った八一が格好良い。最強の挑戦者を迎えた竜王戦が激熱な5巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

将棋界の2大タイトルのひとつである竜王に史上最年少の16歳でなった若き天才。それが主人公の九頭竜八一となります。

・・というのは1巻のレビュー記事で書いた『あらすじ』と同じ書き出しですが、5巻は最初から最後までそんな竜王の防衛戦が描かれています。

将棋界の伝説。神とまで呼ばれる最強の挑戦者を相手に、第一局目で八一は今まで積み上げてきた将棋観を否定されるほどの大敗を喫します。

手が読めなくて負けたわけではない。手が読めているのに、読んでいたにも関わらず八一の手を否定した名人。

そんな絶望的な状況に八一は、あれだけ可愛がっていた弟子・雛鶴あいに八つ当たりしてしまうほど追いつめられてしまいます。

そのまま第二局目、第三局目と立て続けに敗北し、カド番へと追い込まれる八一。

そんな時、自分自身にとっても重要な対局を八一に見せるために、奇跡のような勝利を八一に見せるために指したのは清滝桂香。

釈迦堂里奈という女流将棋界の伝説を相手に壮絶な勝利を収め、八一に報われない努力はないことを証明して見せます。

それで精神的に復活を果たした八一は、心機一転した状態で第四局目に臨みます。

そこでは一つ壁を越えた・・いや、これから壁を越えようとしている八一と伝説的な名人との激闘が繰り広げられます。

ピックアップキャラクター

本作品のタイトルはりゅうおうのおしごと!であり、主人公である九頭竜八一が竜王のタイトルを持っているからこそのりゅうおうのおしごと!であることは明白です。

そして、5巻ではそんな八一の竜王を賭けた七番勝負が描かれており、言うまでもなく八一が5巻の主役であったことは間違いありません。

九頭竜八一

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(「りゅうおうのおしごと!(9巻)」より)

史上最年少で竜王になった天才・九頭竜八一ですが、将棋界において神とまで呼ばれた最強の名人を挑戦者に迎え、失冠の危機に立たされています。

最初に八一の将棋観すら否定されるほどの大敗を喫したことで開幕三連敗。そんな状況で迎えた四局目こそが最大の見所になっていて、今までにない激熱な対局シーンが八一を中心に描かれています。

名人

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(「りゅうおうのおしごと!(5巻)」より)

かなり重要なキャラクターであるにもかかわらず作中で唯一明確な名前が記されておらず、キャラクターというよりもまるで主人公が乗り越えるべき壁という概念として描かれているような印象すらある『名人』ですが、5巻では竜王戦に最強の挑戦者として登場し、九頭竜八一の前に立ちはだかります。

ちなみに、かなり将棋に疎い人であっても元ネタになったプロ棋士に思い当たりやすいキャラクターでもあると思います。

ネタバレ含む感想

荒れる八一

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あい

だいじょうぶです! まだ一つ負けただけじゃないですか! これから巻き返していけば、きっと・・

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八一

一つ負けただけ・・だと? あの将棋がそれだけだと本気で思ってるのか!?

竜王戦の一局目の後の、八一と何だかんだで八一も溺愛している弟子・雛鶴あいとの会話ですが、敗北した師匠を励まそうとするあいに八一は苛立ちを見せます。

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八一

あんな将棋を見せられてよく笑っていられるな!? 一敗で済む話か! シリーズ中盤であれをやられてたら終わりだったぞ!? 俺の将棋観が根底から否定されたんだッ!!

ただ負けただけではない。

読み負けたりミスをしたのではなく、挑戦者である名人と同じ読み筋を真っ先に思いついていたにも関わらず、それは自分にとってあまりにも都合の良い展開だからと切り捨てていた八一。

しかし、その自分にとって都合の良かった展開こそが名人の勝ちに繋がっていた。

こういう盤上遊戯のゲームでは、実力者であればあるほど経験に裏付けられた優れた大局観を持っているもので、無限に存在する読み筋をすべて検証しているのではなく、ほとんど無意識のレベルで必要のない読みは切り捨てることができるものです。

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月夜見坂

オメーの読みは『浅い』んだよ。手当たり次第に読んでくからムダ読みが多い。読みの量は多いが、そのほとんどがゴミだ

5巻ではあいも月夜見坂燎に敗北した際にこのような指摘をされていますが、これはつまり大局観がまだまだだということを指摘されているわけですね。

そして、まだ将棋を初めて1年に満たないあいがこれを指摘されるのはある意味当然と言えば当然のことでしょうけど、竜王にまでなった八一の場合は積み上げてきたものの総量が桁違いのはずです。

そんな八一の大局観を、つまりは積み上げてきたはずのものを、名人は一局目を通して否定したわけです。

だからこそ八一は今までにないほど荒れていたわけですね。

気遣う内弟子の雛鶴あい。心配してやって来た空銀子。清滝桂香の手紙。そのどれもが八一には響きません。

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八一

どこだ・・努力なら、いくらでもするから・・教えてくれよ・・誰か・・強くなるしかない。一人でやるしかないんだ

誰かに助けを求めながらも一人でやるしかないと結論付ける独白からも、八一の追いつめられっぷりが分かりますね。

一局目で名人に将棋観を否定された八一は、そのまま竜王戦で三連敗してしまっています。

七番勝負なので、既にカド番に追い込まれてしまっていて、竜王を防衛するためにはここから強敵である名人に四連勝する必要がある。

負けるにしても、こんな精神状態で負けてしまうのは明らかに良くない傾向で、5巻の前半はそういう意味でハラハラの展開になっています。

報われない努力はないことの証明

八一を荒んだところから連れ戻したのは、愛弟子の雛鶴あいでも姉弟子の空銀子でもなく、清滝桂香でした。

3巻以降、清滝桂香の活躍が目覚ましいですね。

1巻時点では保護者的な立ち位置のキャラクターでしかないと思っていましたが、何というか、これほど生きたキャラクターになってくるとは驚きです。

3巻のあとがきから作者の白鳥士郎先生にとってもかなり思い入れのあるキャラクターであることが伝わってきますが、それも頷ける働きぶりですね。

女流棋士を目指して、一度は諦めかけ、それでもまた掴んだチャンス。

勝てば女流棋士になれる。

そんな重要な対局を、清滝桂香は女流棋士になるためというそれ以上に、八一に報われない努力はないことを証明するために見せつけます。

清滝桂香の相手は永遠の女王(エターナルクイーン)とまで呼ばれる女流タイトルホルダーの釈迦堂里奈。

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清滝桂香

報われない努力はない。それを証明するために戦いました

地の分

実力も実績もずっと格上の相手に勝利して見せることで、清滝桂香は報われない努力はないことを証明しようとしました。

たとえ将棋観を否定されようと、積み上げてきた努力は無駄ではないのだと、そう言いたかったということでしょうね。

綺麗ごとというか、純然たる事実を言えば報われない努力だってあるはずなのですが、たぶん清滝桂香もそれは分かっていたからこそ、それをただ口にするのではなく何が何でも有言実行してみせようとしたのだと思います。

だから桂香さんに勝利をもたらしたのは将棋の技術じゃない。
それは・・決して砕けない勝利への意思だった。
勝利を信じて真っ直ぐ突き進む勇気だった。

だからこそ、そんな清滝桂香の証明が荒んだ八一の心にも響いたのだと思います。

決して砕けない勝利への意思。

決して諦めないこと。

それはりゅうおうのおしごと!の作中でこれまでも繰り返し語られてきた将棋の才能のひとつであり、そもそも八一はそこに雛鶴あいの才能を見出していたはずですが、清滝桂香の証明によって改めてそれを思い出さされたということでしょうか。

神のごとき名人

本記事はりゅうおうのおしごと!を10巻まで読んでいる時点で書いていますが、少なくともその時点で最も対局の描写が面白いのは、八一と名人の竜王戦の第四局だと思います。

他にも面白い対局はたくさんありますし、ライトノベルらしく二人のあいをはじめとする可愛らしい女の子の対局の方が面白いって思う人もいるかもしれませんが、個人的にはやっぱり最高峰のカードって興味深いですし、その最高峰な対局が本当に上手く表現されていて、読んでいて手に汗を握る緊張感がこれでもかというほど伝わってきました。

また、挑戦者である名人の表現がまた良いですね。

ピックアップキャラクターの紹介でも前述しましたが、名人はりゅうおうのおしごと!の作中でも唯一名前が語られておらず、顔が見えないキャラクターです。

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八一

この人・・こんな顔してたのか・・?

この対局で八一は、両者ともに反則の手を指さざるを得ないという奇跡を発見して引き分けの指しなおしまでに持ち込みますが、そんな奇跡以上に印象的だったのが八一が初めて名人の顔に気付くシーン。

自分が名人よりも強いとは思えない。
この人よりも才能があるとも思えないし、この人のようになれるとも思えない。
けど、それでいいんだ。
名人が名人であるように、俺は俺だ。

神とまで呼ばれる名人は、確かに神のごとく強いが当たり前のように普通のおじさんでした。

憧れは憧れで良いという気付きが素敵だったと思います。

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八一

この鬼畜眼鏡がッ! どういう体力してんだ・・!!

憧れに対するセリフがコレってのがまた面白いですが、自分は自分であると再認識したからといって、当然勝利を諦めたわけではありません。

そして、指しなおしの対局の最後の最後まで続く緊張感が本当に最高で、名人の方が多く持ち時間を残している状況で、もう持ち時間のない八一が投了を決めかけた時に名人が最後の確認のために持ち時間を使ったことで、つまりは八一にも時間が手に入ったという展開が激熱すぎます。

名人が時間を使わずに指していたら八一は投了するつもりだったようです。

しかし、名人は時間を使った。

その時間を使って考えた八一の手で、名人は投了したのです。

こんな素晴らしい展開ってなかなかないですよね?

相手の時間を使って考えるというのはある意味では基本という気もしますが、相手が持ち時間を使ってくれるかは運次第です。

それでも諦めなければこういうこともあるということですね。

特装版の小冊子

本編とは関係の無い未来のIFストーリーという感じですが、5巻特装版の小冊子はなかなか面白い内容になっています。

30年後の未来、空銀子と雛鶴あいが女流名跡戦で戦う話になっています。

何でメインヒロインの雛鶴あいよりも空銀子の名前を先に書いたのかといえば、これが空銀子視点の話・・というか空銀子の夢オチになっているからです。(笑)

そこに登場する雛鶴あいは女流五冠の超強豪であり、女流名跡のタイトルを持っているものの全盛期よりはかなり衰えた空銀子に挑戦する『最強の挑戦者』と目されていました。

何というかそんな夢を見るあたり空銀子は、雛鶴あいのことを今はまだ実力差はあるもののかなりの脅威に感じていることが窺えますね。

また、5巻本編で最強の挑戦者を相手に迎えた八一と、夢の中で雛鶴あいの挑戦を受けている空銀子が少しばかり重なるのが興味深いと思います。

特装版ということで今ではなかなか手に入りづらいかもしれませんが、なかなか面白いので興味があったら探してみてください。

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『りゅうおうのおしごと(4)』才能vs才能の初大会(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

初めての大会で無双する幼い天才、そして女流棋士の枠を超えた才能を持つ女流タイトルホルダーと雛鶴あいの一戦が見所の4巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

最大の女流棋戦である『マイナビ女子オープン将棋トーナメント』の舞台は東京。

りゅうおうのおしごと!の舞台は基本的に関西ですが、4巻では初めて舞台を関西の外側に移します。

 タイトルホルダーである空銀子女王へと続く棋戦に、九頭竜八一の弟子二人(雛鶴あい、夜叉神天衣)と、そして清滝桂香が出場します。

最年少で出場した初めての大会で、女流棋士の強豪相手に勝ち上がっていく幼い天才たちがとても爽快です。

女流タイトルの帝位を持ち、同じくタイトルホルダーの釈迦堂里奈からは『魔物』と呼ばれ、才能だけなら空銀子よりも上だと自他ともに認める祭神雷が今回の雛鶴あいの相手で、最大の見所となります。

幼い天才二人に次々と撃破されていく女流棋士たちですが、夜叉神天衣と鹿路庭珠代の対局前と対局後のやり取りも、アイドル的な扱いの女流棋士だと思われた鹿路庭珠代の意外な熱さが見られてなかなか興味深いです。

そして、二人のあいほど目立っていなかったものの影の主役は清滝桂香でした。

1回戦で敗北してしまって敗者復活を戦っていたのですが、開き直って思い切りが良くなり、相手のミスにも助けられつつ、連勝が続いて大きなチャンスを得ることになります。

しかし、最後の相手の香酔千は清滝桂香のかつての修行仲間。

お互い同世代で、あと一勝で大きなチャンスを掴むことができると同時に、負けてしまえば再びチャンスが舞い込む可能性は限りなく小さい。

涙ながらの、勝利の痛みを堪えながらの対局にも注目ですね。

そして、今回は完全に弟子二人や清滝桂香のサポートに回っていた八一ですが、それはもう少しで竜王の防衛戦が始まるので、弟子たちに掛かりっきりというわけにはいかなくなってくるからという理由もありました。

4巻ラストでは竜王挑戦者をめぐる神鍋歩夢と名人の、神の領域の一戦が繰り広げられています。

次巻で誰が竜王・九頭竜八一に挑戦することになるのか。それも大きな見所のひとつとなります。

ピックアップキャラクター

大きな大会の全容が描かれている4巻は、特定のキャラクターにスポットが当たっているというよりも数多くのキャラクターが満遍なく活躍している印象が強いです。

しかし、あえて言うならば将棋を覚えて僅か7か月目にしてトップ女流棋士である祭神雷と対局することになった雛鶴あいと、今巻初登場にして強烈な存在感を放っていた祭神雷が印象的でした。

雛鶴あい

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(「りゅうおうのおしごと!(1巻)」より)

メインヒロインの雛鶴あいですが、ライバルである夜叉神天衣の登場で勉強に身が入ったり、生石充のもとで振り飛車を学んで将棋の幅も広くなり、清滝桂香との対局で勝利の痛みも克服しました。

僅かな期間で女流棋士を相手に互角以上に戦えるまでに成長し、ついには女流タイトルホルダーを相手に大金星をあげてしまいます。

祭神雷

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(「りゅうおうのおしごと!(4巻)」より)

メイン級の女流棋士の中では出番少な目の祭神雷ですが、その強烈な個性と存在感には圧倒的なものがあります。

ムラがあるものの才能なら女流最強の名をほしいままにしている空銀子よりも上と言われる強豪で、あいとの対局では挑発的に才能がものをいう戦型へと誘導していきます。

ネタバレ含む感想

初めての大会で活躍する2人のあい

大きな大会を舞台にメインキャラクターが順調に勝ち進んでいく。

改めて言葉にすると4巻のストーリー構成はライトノベルとしては意外と地味なものである気がします。

しかし、実際に読んでいて地味なストーリーだと感じることはありません。

将棋を指すというシーン。

その言葉尻だけを捉えたら非常に地味なものに感じられるのですが・・

雛鶴あいと祭神雷。

夜叉神天衣と鹿路庭珠代。

清滝桂香と香酔千。

たった一局の将棋の中に様々なドラマがあって、エゴがあって、そして熱さがあったからこそ、一見地味に見えて面白いのだと思います。

なんでこんなに面白いのか?

作者の白鳥士郎先生が4巻あとがきでこう言及されています。

棋力ゼロの私でも将棋に関する小説を書くことができているのは、『観戦記』の存在があるからです。

将棋の対局をエンターテイメントとして伝える『観戦記』の存在があるからこそ、たった一局の将棋を通してライトノベルらしくもリアリティのあるドラマを描くことができているということなのだと思います。

4巻で特徴的だったのは、初めての大会で師匠である九頭竜八一の想像すら超えて大躍進していく雛鶴あいと夜叉神天衣・・の裏側にいる敗れ去っていく女流棋士たちの姿でした。

女流棋士にしてもプロ棋士にしても、そこに至っている時点で相当な天才の部類であることは間違いありません。

地元では負けなしの天才扱いだったとか、そういう人たちの集合体なわけですから若干9歳の二人のあいに、本物の天才に敗れ去っていくのは悔しくて仕方のないことでしょう。

例えば、あいと最初に対局した杓子巴は投了した後の感想戦で、自分とは全く読みの深さの違うあいに驚かされ、二度負かされることになりました。

あえてなのだと思いますが、そんな感じで敗者をしっかりと描こうとしている意図を感じる内容になっています。

敗れ去っていく女流棋士の名前が、一度限りしか登場しないサブキャラであるにも関わらずライトノベルらしい凝ったものになっているのもその証拠だと思います。

要するにヒロインである二人のあいの対局相手である女流棋士が、ただのモブではないのだということを強調したかったのかもしれませんね。

だからこそ、4巻で見所となる対局以外の将棋も面白く感じられたのだと思います。

女流タイトルホルダーとの対局

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あい

なんですかその人!? いきなり師匠のお部屋に、は、裸で押しかけるなんてっ・・変態さんじゃないですかー!!

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空銀子

おかしいわね? 私、最近どこかで似たような話を聞いたんだけど・・?

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あい

あいはちゃんと師匠にお手紙を出しましたし服も着てましたっ!!

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空銀子

はいはい

雛鶴あいと空銀子は、口を開けば喧嘩になるという印象が強い組み合わせですが、何だかんだで銀子も弟弟子である八一の弟子としてあいのことを見ている節があるのは興味深いところです。

こういう皮肉も、1巻時点だったらかなり険悪な印象を受けたような気がしますが、冗談ぽっくて微笑ましく感じますね。

それに、意外とまともに解説の聞き手の仕事をしていたり、銀子の新しい一面が垣間見えていたような気がします。

ともあれ、話がいきなり逸れましたが師匠(八一)のお部屋に裸で押し掛けたというのが、あいの対局相手である祭神雷となります。

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あい

もう二度と師匠に迷惑をかけないよう・・あいが盤上でお断りしてきます!!

女流帝位のタイトルホルダーで、才能は空銀子以上とまで言われる祭神雷を相手に敵愾心むき出しのあい。

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祭神雷

空銀子も釈迦堂里奈も月夜見坂燎も供御飯万智も、みぃんなニセモノさぁ。あいつらは何も見えちゃいないんだからぁ

それに対して祭神雷は自分こそが唯一の本物の女流棋士であると言わんばかり。

いわゆる『手を読む』のではなく『手が見える』という本物の才能の持ち主で、これは口だけでは決してないのですが、ある意味では八一しか見えていないというのが面白いところですね。(笑)

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あい

わたしが竜王の一番弟子なんです!! あなたなんかに譲りませんっ!!

最も才能があると言われる女流棋士である祭神雷に、経験も、感覚も、大局観も、それにお得意の読みの力でさえもあいは劣っていました。

しかし、『折れない心』というたった一つの才能だけが祭神雷を上回っていて、あいは大金星を掴むことができました。

ちなみに、将棋のような盤上遊戯を嗜まない人には『折れない心』がその他の強さの要素を上回るという事実はあまりピンとこないかもしれませんが、これは純然たる事実として存在することだと思います。

僕の場合は囲碁を嗜みますが、強い人ほどどんなに不利になってもなかなか折れない所があります。悪く言えば「投げっぷりが悪い」ということになりますが、人によっては投了してもおかしくないような局面から虎視眈々と逆転の手を狙っているわけですね。

国民栄誉賞を受賞された囲碁棋士井山裕太先生などはその最たるもので、必敗の状況からの逆転が稀によくあることだったります。

逆に、そこまでレートが高くないのに打っていてかなりの強さを感じる相手もいたりしますが、そういう人は投了が早い傾向があったりします。良く言えば「諦めが良い」ということになりますが、心が折れるのが早くて、あいのような『折れない心』の才能が無いということなのではないかと思います。

これが将棋にも、それに他の勝負ごと全般にも当てはまることなのだと思います。

敗者復活からの快進撃

若干9歳の二人のあいにとっては、この『マイナビ女子オープン将棋トーナメント』は大きなチャンス・・というよりも、経験を積むための修行という意味合いの方が大きかったはずです。

しかし、そうではない人もいます。

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八一

・・『ヒカルの碁』にこんなキャラいたなぁ

指でトントンと壁面をつついてブツブツ言っている『ヒカルの碁』のキャラクターと言えば越智のことでしょうけど、おっとり系お姉さんの清滝桂香がこれをやっているところに面白さがありますね。(笑)

二人のあいにとっての初めての大会は、清滝桂香にとっては最後になるかもしれないチャンスでもあり、そこに臨む意気込みも桁違いだったに違いありません。

様々な立場の女性が出場している大会ですが、同門内で両極端なことになっているのが印象的です。

しかし・・

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清滝桂香

ごめんねー。私だけ負けちゃってごめんねー。空気悪くしてごめんだよー・・

絶対に勝ちたいという気持ちが強すぎるとなかなか勝てなくなるということは痛いほど理解できる現象ですが、二人のあいが順調に勝利を収める中、一人だけ負けてちょっといじけている清滝桂香が地味に可愛らしいですね。

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清滝桂香

老兵は死なず・・ただ消え去るのみぃ・・

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八一

まだ消えないから! 敗者復活戦があるから!

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あい

そ、そうです桂香さん! 諦めたらそこで対局終了です!!

自虐的になってしまう年長者。

なんとなくいたたまれない時って年下相手に自虐的になってしまう気持ちは少し分かるかもしれません。

たぶん、自分を慕ってくれている年下なら労わってくれるような気がしてしまうからだと思います。

そして、この1回戦早々の敗退が清滝桂香の快進撃の引き金になっているのが面白いところ。

運を味方に付けたのもあるでしょうけど、一度負けて開き直ったのが大きかった印象ですね。良い意味で緊張がほぐれたとか、そういう状態になったのだと思われます。

二人のあいの大活躍の裏側で、敗者復活を戦う清滝桂香が地味目に描かれていた印象ですが、じわじわとチャンスに近づいてきて「もしかして?」って感じになってくる展開がかなり良かったと思います。

そして、そんな清滝桂香のハイライトはかつての修行仲間である香酔千との対局。

清滝桂香以上に崖っぷちの香酔千が相手ですが、チャンスを掴むことができるのは勝者のみという状況。

清滝桂香の得意戦法を避けるために不利な手を指した香酔千に対してふっきれた清滝桂香では、心理的にどちらが優位なのかは言うまでもありません。

しかし、これは勝利がかつての仲間を崖っぷちから突き落とすことを意味する対局となります。

涙ながらに、嗚咽を漏らしながら勝利を掴む清滝桂香の姿が印象的なエピソードでした。

あいと祭神雷との対局とは違った『熱さ』が確かにあったような気がします。

竜王の挑戦者

4巻の主人公は八一の弟子二人をはじめとする女性たちですが、次巻は八一が主人公らしい活躍を見せてくれます。

りゅうおうのおしごと!のタイトルの由来でもある将棋界最高峰のタイトル・竜王。その防衛戦が始まるので当然と言えば当然ですね。

そして、4巻ラストでは竜王・九頭竜八一への挑戦権を賭けての対局が描かれています。

八一のライバル的なキャラクターである神鍋歩夢と、タイトル通算100期と永世7冠の賭かった神とまで呼ばれる『名人』の三番勝負。

両対局者ともにメインキャラクターではありませんが、そうであるにもかかわらず激熱の盛り上がりを見せる対局になっています。

衰えがないわけではない名人を相手に善戦する神鍋歩夢ですが、それでもマジックとまで呼ばれる常識や定跡を覆した手を繰り出してくる名人には敵いませんでした。

それでも、時間の竜王戦に向けた前哨戦としては十分な盛り上がりだったと思います。

ちなみに、将棋の世界には詳しくない僕にでもさすがにこの名人のモデルが羽生善治永世七冠であることは分かりました。

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『りゅうおうのおしごと(3)』努力と才能と決意が描かれた一冊です。(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

努力の人に挑む天才。女流棋士を目指すための決意。そして目前に迫った年齢制限に対する苦悩が描かれる3巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

天才棋士である九頭竜八一にとって、A級棋士の山刀伐尽は苦手とする相手となります。

デビュー戦では舐めてかかって敗戦し、竜王になった後の11連敗のキッカケとなった敗戦の相手でもあるし、そしてまた負けて3連敗してしまうことになります。

山刀伐尽の棋風はオールラウンダーで、居飛車振り飛車も指しこなす『両刀使い』と呼ばれています。別の意味でも『両刀使い』らしいなのではないかという疑いもありますが。(笑)

そんな山刀伐尽と近く再戦する機会がある九頭竜八一は、その対策として同じタイトルホルダーであり『振り飛車党総裁』『捌きの巨匠(マエストロ)』と呼ばれる生石充玉将から振り飛車の教えを乞うことになります。

そして、八一がトッププロの世界で戦っている一方で研修会では、一番弟子の雛鶴あいと、師匠の娘である清滝桂香にも悩み事が発生していました。

あいは、もともとは格上だったJS研の水越澪に駒落ちで勝利するまでに強くなりましたが、一方で友人を蹴落として泣かせてしまう結果になってしまったことに思い悩んでしまいます。

しかも、女流棋士になるための年齢制限が迫っているにも関わらず降級の危機に陥ってしまった清滝桂香を蹴落とす最後の一撃が自分になる可能性すらあると八一に指摘されてしまい、女流棋士を目指す上で避けては通れない覚悟を問われることになります。

また、当の清滝桂香はそんなあいと自分の才能の違いに思い悩みます。

なりふり構わず本気になった清滝桂香と、才能だけではない女流棋士になるための覚悟を問われたあいの人生を賭けた一戦が激熱の展開で描かれています。 

ピックアップキャラクター

女子小学生がメインヒロインのライトノベルではありますが、3巻では大人の女性である清滝桂香にスポットが当たっています。

子供の頃の清滝桂香が未来の自分に宛てた手紙と、そんな未来の自分よりも年上になっても理想とは程遠い自分とのギャップに思い悩む姿が切ないです。

清滝桂香

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(「りゅうおうのおしごと!(1巻)」より)

八一や銀子の師匠である清滝鋼介の娘で、年上の保護者的な立ち位置の女性ですが、将棋指しとしては八一や銀子の妹弟子となります。

雛鶴あいや夜叉神天衣のように才能があるわけではない。

しかし、女流棋士を諦めきれずに頑張る努力の人で、3巻では普段の優しいお姉さんとは違う、女流棋士を目指す将棋指しとしての『熱さ』を見せてくれます。

ネタバレ含む感想

努力の人と天才

最年少で竜王になった九頭竜八一は間違いなく天才側の人。

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空銀子

私達は地球人。目で見て、それで考えるしかない。でもあいつらは目で見る以外の情報を盤面から得てる。別の感覚器官を持ってる。だから読みの速度と局面探索の深さが全く違う・・というか、そもそも読んでない。見るだけでわかるから

銀子はそんな天才のことを『将棋星人』と称します。

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空銀子

八一の才能は間違いなく、将棋の歴史の中で五本の指に入る。将棋の星の王子様。それが九頭竜八一竜王。私の弟弟子

そんな『将棋星人』に挑むためには『研究』しかないのだとも。

そして、天才・九頭竜八一の苦手とするA級棋士の山刀伐尽は、才能が無くとも『研究』を重ねて強くなった努力の人となります。

デビュー戦で黒歴史級の敗北を喫し、竜王になった後の11連敗のキッカケの敗戦の相手も山刀伐尽。そして苦手意識を払拭できないそのままに3連敗。

オールラウンダーな棋風から『両刀使い』の異名で呼ばれることからも、様々な指し方を『研究』していることが窺えます。ちなみに、別の意味でも『両刀使い』の疑いがあって、盤外の話ですがそういうところも八一は苦手にしているようです。(笑)

ともあれ、居飛車党の八一はそんな『両刀使い』に対抗するためにオールラウンダーになることを決意します。そのために、『振り飛車党総裁』『捌きの巨匠(マエストロ)』と呼ばれるタイトルホルダー生石充玉将から振り飛車の教えを乞うことになります。

そして、生石充が地味に名言製造機になっていて「なるほど」と思わされることが多いんですよね。

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生石充

奨励会は生き地獄だ。みんな命懸けで将棋を指してる。そんな中で自分だけが他人より努力してるなんて考えは、傲慢だと思わないか?

中でも印象的だったのがこのセリフ。

生石充も八一と同じ『将棋星人』の側だと思いますが、彼は自分が努力したから強くなれたのだと最初は思っていたようです。

しかし、同じように努力しても伸びる人と伸びない人がいて、それを分けるのが『才能』なのだと気付いた。

本当は『才能』に恵まれているだけなのに誰よりも努力していると考えるのは傲慢だという考え方は目から鱗でしたね。

そういう意味で八一が相手にしようとしている山刀伐尽は、本当の意味で誰よりも努力している将棋指し。

本当の意味での努力の人と天才の戦いの行方が3巻の見所のひとつです。

振り飛車修行とその成果

一千時間の事前研究。それだけの努力が八一の相手である山刀伐尽の最大の武器となります。

八一が生石充のもとで学んだ振り飛車ゴキゲン中飛車は名人との研究で『終わらせた』と豪語する山刀伐尽を相手に・・

負けるたびに挑み。挑むたびに負け。心に痛みを刻みつけ。それでも挑み続けることが、不可能を可能にする唯一の方法だと知った。

それでも、心が折れそうになりながらも不可能に挑む八一。

相手の一千時間の事前研究に対して、たった25分34秒の残り持ち時間で覆そうと、読めば読むほど絶望しか見えない状況を覆そうとします。

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八一

・・見つけた

三回連続の限定合駒という奇跡的な道筋を八一は見つけ出します。

僕は将棋には疎いので限定合駒とは一体何だと思ったものですが、とにかく通常は読むことすらしない珍しい状況のようですね。

相手の駒と自分の駒の間に駒を指して、例えば王将が取られる道をふさいだりする手のことを合駒というようですが、通常は価値の低い駒から合駒に使っていくものだそうです。

そして限定合駒というのは、ある特定の駒以外で合駒しなければ詰むという限定的な状況のことを指すようで、発生するのは非常に珍しいことのようですね。

囲碁でいういわゆる『愚形の妙手』が何度も連続するような状況みたいなものでしょうか?

ともあれ、山刀伐尽の『一千時間の事前研究』に対して、八一は『僅か二週間(時間にして百時間程度)の勉強と25分程度の持ち時間』で勝利してしまいました。

その差を覆したものこそがいわゆる才能。将棋星人ということなのかもしれませんね。

ちなみに、この三回連続の限定合駒という奇跡的な状況には現実の元ネタがあるというのだから驚きですね。

そして、八一のこの勝利はとある人物へも影響を与えます。

竜王にまでなった八一が全く新しい将棋に挑戦した姿が、清滝桂香に甘さを捨てる決意をさせるキッカケになっていたのは間違いないと思います。

清滝桂香の苦悩と雛鶴あいの決意

3巻で最大の見所となるのは『清滝桂香と雛鶴あいの対局』となります。

女流棋士になるための年齢制限が近づいてきているのに、降級の危機に陥ってしまった清滝桂香。

将棋が初恋で、嫌いになったこともありますが女流棋士を目指して将棋に真摯に向き合ってきたのに、成果がなかなかでないことに悩んでいます。

そんな研修会でも最年長の清滝桂香にとって、最近現れた若干9歳の幼い天才・雛鶴あいはあまりにもまぶしい存在だったに違いありません。

なりふり構わず銀子にも頭を下げて教えを請い、自分よりもずっと上のところにいるのに挑戦し続ける八一の姿にも触発され、清滝桂香も甘さを捨てる決意をします。

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清滝桂香

・・一局目があなたでよかったわ

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天衣

ふぅん? つらいことは最初に済ましておきたいっていうわけ?

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清滝桂香

あいちゃんと戦う前のウォーミングアップをしたいと思ってたから

普段の優しいお姉さんらしい清滝桂香とは違う、いくら天才とはいえ一回り以上年下の少女を相手に老獪な盤外戦術すら駆使して勝ち星を拾いに行きます。

これは逆に言えば今までも使えたはずの武器を使わなかったという清滝桂香の甘さであり、そして今はその甘さを捨てているということになります。

というわけで、研修会で連勝を続けていた強敵である天衣を相手に勝利をもぎ取りました。

そして、次の対局がいよいよ3巻のハイライトとなる『清滝桂香と雛鶴あいの対局』ですね。

清滝桂香にとって羨望の対象である雛鶴あいですが、将棋を始めてからの経験も浅く、ただ八一に憧れて将棋を指したかっただけで女流棋士になるための覚悟が足りていないのが今の雛鶴あいの弱点となります。

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あい

わ、わたし・・勝つのがこんなにつらいだなんて、知りませんでした・・

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八一

もしおまえが勝つことを怖れるような人間なら、もう苦しむ必要なんて無い。今ここで破門してやる。荷物をまとめてそのまま田舎へ帰れッ!!

同じJS研の水越澪。

少し前まで格上だった友人に僅かな期間で駒落ちで勝利するまでに強くなったあいですが、一方でそのことにショックを受けて泣いてしまった水越澪を見て、勝つことのつらさもあるということを初めて知ります。

しかし、女流棋士を目指すということはライバルとの蹴落としあいをしていくということに他ならず、もしかしたら同門の清滝桂香が降級する最後のキッカケを与えるのがあいになってしまう可能性すらあることを八一に指摘されます。

一応はそのような覚悟が必要なことをあいは認識したはずですが、だからといっていきなり完全に覚悟できるようなものではありません。

勝利の痛みを知り、そんな葛藤を抱えたままにあいは、甘さを捨てた清滝桂香との対局に臨むことになります。

そして、それは先に決意を固めていた清滝桂香が序盤優勢を築く展開となり、あいからは嗚咽が聞こえてきて心が折れて投了するのかと思われたのですが・・

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あい

・・ごめんなさい・・桂香さん・・わたし、もう・・負けたくない!!

圧倒的に不利で負けそうな状況になって初めて、あいは負けたくない気持ちを思い出して勝利の痛みを乗り越えることができました。

そして、終盤の読みこそがあいの最大の武器であることは既に周知の事実ですが、生石充のもとで学んだ捌きで、目まぐるしく変化する盤面をあいは支配していきます。

それに清滝桂香もキャラ崩壊しつつ全力で応えるのですが、結果はあいの勝利で終わりました。

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清滝桂香

ありがとう。全力で指してくれて

しかし、ここで負けたら研修会を辞めるつもりだった清滝桂香は一体どうするのか?

その最後の一押しのキッカケになったあいはどう思うのか?

そこが不安なところでしたが、着せ替え人形ではない自分の将棋であいと全力でぶつかった清滝桂香は、たとえ女流棋士になれる可能性が低くても将棋を続けていきたいと考えるようになっていました。

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『りゅうおうのおしごと(2)』もう一人のあいが登場します。(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

雛鶴あいのライバル、もう一人の「あい」が登場する2巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

普及もプロ棋士の大事な仕事。文字通り竜王のお仕事のひとつですが、タイトルホルダーの九頭竜八一も指導の仕事をしています。

ある日、神戸のまるで極道のような家に呼ばれた八一は、雛鶴あいと同じ女子小学生の夜叉神天衣の指導をすることになります。

もう一人の「あい(天衣)」

あいと同じく、最初は八一も才能を見誤った天才少女で、中盤から終盤の攻めに優れたあいとは棋風が異なり、正確さを要求される受け将棋を指し、八一をも唸らせます。

姉弟子である空銀子にあいが弱くなっていると指摘された八一は、自らの師匠にも背中を押されて天衣をあいのライバルとして育てることを決意します。

そして、天衣の研修会試験では八一の一番弟子となるあいとの対局も行われます。

1巻では初心者ながら絶大な才能を見せたあいですが、同じ原石ではあるものの経験で勝る天衣との対局は2巻最大の見どころとなります。

そして、八一の指導は天衣の研修会試験までという約束でしたが、自分も姉弟子と切磋琢磨して成長してきたことも踏まえ、同じように共に成長するライバルとして天衣も自分の弟子にしようと考えるようになります。

そして、既に将棋連盟会長である月光聖市の弟子になることになっていた天衣を、月光との対局に勝利することで奪い取り、八一に二人目の弟子ができることになりました。

ピックアップキャラクター

1巻で登場したメインヒロインの雛鶴あい。そのライバルであり、将棋歴でいえば先輩だけど後に同門の妹弟子となる夜叉神天衣が今巻のピックアップキャラクターとなります。

師匠である九頭竜八一も姉弟子の空銀子と共に成長してきた棋士ですが、雛鶴あいにとっての共に成長していく仲間といった感じですね。

夜叉神天衣

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(「りゅうおうのおしごと!(9巻)」より)

メインヒロインと同じ「あい」という名前の少女。もう一人の「あい」と呼ばれた夜叉神天衣は、雛鶴あいと同様に大きな才能を秘めた神戸の女子小学生です。

同じ名前のキャラクターが同じ作品に、しかも超主要なキャラクターとして登場することは非常に珍しいですが、これにはどうもりゅうおうのおしごと!のもともと付けられる予定だった『あいがかり』というタイトルが影響しているようですね。

ネタバレ含む感想

もう一人のあい

八一の一番弟子のあいはどちらかといえば天真爛漫。ちょっと小生意気なところがありつつも、そういう所が女子小学生らしいといえばらしいような気がします。

そして、もう一人のあいとして2巻で初登場した夜叉神天衣は、非常に言動に大人びたところがある少女で、名前は同じでも性格は対照的に見えます。

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天衣

勘違いしないで。あなたはしょせん、金を払って教えさせる単なるレッスンプロよ。まぐれでタイトルを一期取っただけのザコ棋士に師匠ヅラされるなんて我慢ならないもの

ちょっと・・どころではなく小生意気なところがありますが、あいの子供らしい小生意気さとは違って、プライドの高さがうかがえる類の小生意気さですね。

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天衣

二枚落ち? 別にいいけど、勝負にならないと思うわよ?

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八一

ああ。二枚落ちじゃあ勝負にならないだろうな

そんな小生意気さへの意趣返しというわけではないでしょうが、もちろん二枚じゃハンデを付けすぎだという意図の天衣のセリフに対して、あえて四枚落ちで対局を始めるような挑発を見せる八一。

八一もまた竜王という絶対的に高い地位にいるから、これが貫録のようにも見えるけれども、そうでなければ相当な負けず嫌いでもあることが窺えますね。

そして、八一が天衣の将棋を見て最初に下した評価を一言でまとめれば「優等生だが底が浅い」というもの。小生意気な性格に似合わず定跡通りの素直な手を指す綺麗な将棋だが、逆に言えばそれに頼った泥臭さも粘りもない。

あいとは正反対で。ある意味ではあいの時と同じで「才能がない」と八一は断じます。

しかし・・

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天衣

まだ・・私は戦えるっ!!

一人目のあいの時と同じ展開ですね。

天衣の才能は、劣勢になった時こそ力を発揮する受け将棋。一歩間違えれば終わる可能性のある緊張感の中、どんなに劣勢になっても諦めない鉄板のような精神力の持ち主が夜叉神天衣という少女でした。

折れない心があることと終盤に才能を発揮するところはあいと同じですが、全く棋風も性格も違うのが興味深いところですね。

天衣の修行

ジャンジャン横丁といえば通天閣へと続く商店街。アングラなのに有名というちょっと変わった大阪の観光地で、今でも将棋や囲碁の道場が残っています。

子供を連れていくにはかなりディープな街ですが、八一は天衣を指導するためにジャンジャン横丁の将棋道場へと連れて行きます。

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天衣

・・なに? この汚らしいアーケードは?

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八一

この界隈は『新世界』って呼ばれててな。まあ大阪で一番ディープでアングラな場所だと思ってくれていい

まあ、神戸のお嬢様には珍しい街であることは間違いありませんね。

そして、そこで天衣に『真剣』をさせる八一。『真剣』とはいわゆる賭け将棋のことで、指導のためとはいえ現役タイトルホルダーが安易に関わって良いものではないような気もしますが、天衣に強い相手と対局させるためにこういう手段を取りました。

そして、ある意味では女子小学生を弟子にすること以上に危ない橋を渡ってまで八一が天衣に教えたかったこととは・・

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八一

だからこそ相手に罠を張られると弱い。簡単にハマっちまう。ちょっと脇道に逸れたらどこへ向かえばいいのかわからなくなる。ボヤキ、挑発、空打ちの盤外戦術にも振り回されてる。おまえは将棋が弱いんじゃない。精神が弱いんだ

ハメ手(相手のミスが前提の手)のような奇襲戦法を使ってくるジャンジャン横丁の将棋道場の強豪たち。

より正確な打ち方を求められる受け将棋を指す天衣にとって、ハメ手だろうが何だろうが、どのような攻めをも正確に受けきることが求められる。

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八一

だから俺は天衣に完璧を求める。完璧な将棋を

天衣の才能を見極めた上で、もっとも効果的な指導方法として選んだのがジャンジャン横丁の将棋道場での『真剣』だったわけですが、確かに説明されてみると合理的な理由になっている気がしますね。

どのような時にも正確に。

それを実現するためには相手のミスを正確に咎めなければならないため、教科書通りにいかない相手との対局を繰り返す必要があるということでしょうか。

例えば、お隣の囲碁の世界には「定石を覚えて二目弱くなり」という格言があります。

これは定石は覚えているけど教科書通りの手順をなぞっているだけで、何故その形が良いのかが正しく理解できておらず、かつ定石を間違えた相手を咎められずにむしろ損してしまうことを指摘している格言なのだと思います。

本当の意味で定石を覚えたと言えるようなタイミングは実は存在しなくて、何度も色々な相手と実戦を繰り返して少しずつ身に付けていくしかなくて、そしてそこに終わりはないはず。

そして、八一は天衣の弱点がこの実戦を繰り返す段階が不足しているところにあると見抜いたわけですね。

あいVS天衣

1巻ではあいが受けた研修会試験を、2巻では天衣が受けます。

1局目と2局目をサラッと突破するところまではあいの時と似た展開でしたが、最終局の相手は八一の一番弟子の一人目のあいとなりました。

そして、天衣の選んだ戦法は一手損角換わり。

将棋に限らず、いわゆる二人零和有限確定完全情報ゲームにおける一手の価値は非常に大きいはずで、自ら一手損する指し方が相当に特殊であることは将棋を知らない僕にもある程度実感できます。

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八一

一手損角換わりは、指してる俺ですらどうしてこれで良くなるのか理解できない部分のある戦型ですから・・

そして、八一もまたこの戦法の使い手らしいのですが、現役タイトルホルダーである八一にも何でこの戦法で良くなるのかわからないのだとか。

人間の感覚的には一手パスは明らかに損である。しかし、その一方で二人零和有限確定完全情報ゲームの中には、どうぶつ将棋をはじめ一手パスしているはずの後手が必勝となるゲームも少なからず存在しているので、もしかしたら将棋にはあえて一手パスすることが有効となる何かがあるのかもしれませんね。

相手よりもできるだけ先行して陣地を作っていく囲碁よりも、その時その時の戦況が重要になる将棋ではあえて一手パスする方が有効になる可能性が納得しやすいような気もします。

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八一

そして一手損角換わりの出現によって、将棋にはしていい手損としてはいけない手損がある事がわかってきた。手の損得や流れといった観点に縛られず、その局面をフラットに見る新しい将棋観が生まれたんだ

八一の言っていることが、まさにその可能性を指摘していますよね。

囲碁の世界でも、この局面をフラットに見る考え方は特に囲碁AIが台頭してきてから顕著になってきた分野なので、部分的な手の良し悪し以上にどのような局面になっているのかが重要であることが分かります。

ともあれ、ここで重要なのはあえて手損することで優位にことを運ぶ手法もあるということではなく、それを女子小学生の天衣の選んだということです。

一手でも受け間違えることを許されない難しい指し方。

老獪という言い方が相応しそうな指し方は、例えば竜王とはいえわずか十六歳の八一がその使い手だと言われても意外に感じるくらいかもしれません。

しかし、もとより八一は完璧さを求められる将棋にこそ天衣の才能があると考え、そこを鍛えるための修行としてジャンジャン横丁で対局させてきたわけなので、そういう意味では完全に意図通りの成長を遂げてきたということになるのかもしれませんね。

もちろん、あいもなかなか読みが噛み合わない天衣に苦戦するものの、ただで敗北していくような才能ではありません。

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あい

・・こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう・・・・

あいの集中力も高まってきて、天衣に食らいついていくのですが・・

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あい

・・まけました

この対局では天衣の方が一歩上を行くことになりました。

しかし、この誰をも熱くさせ驚かせもした対局が、あいにとっても天衣にとっても自分の弱さを自覚するキッカケになったのが興味深いところですよね。

終局直後、あいは敗北したもののどこかサバサバした様子でした。

それは、この対局では天衣が完全の自分よりも上をいっていて、自分には全くチャンスがなかったと思っていたからで、悔しさはあっても自分よりずっと強い天衣を称える気持ちの方が大きかったからなのかもしれません。

しかし、実は簡単な詰みを見逃してしまっていたことを局後に指摘されてしまいます。

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あい

わたしは、わたしに負けたんだっ・・!

つまり、それは相手が強かったから負けたのではなく、自分が弱かったから負けたことに他なりません。

だからこそ、それに気付いた瞬間にあいから悔しさが溢れ出してきます。

負けた時、相手に対する悔しさや怒りはない。
後悔は全て、努力しなかった自分に。
怒りは全て、弱かった自分に向かう。

これは確かに、勝負の世界であればどのような世界であっても言える真理ですよね。

何かに敗北した時に相手に対してどうこう思うことってあまり無くて、ただただ悔しくなるというのは誰にでも覚えがあるところなのではないでしょうか?

そして、この実はあいにチャンスがあったという事実は勝利した天衣にとっても思うところがあったはずです。

勝負はミスも含めて勝負。ミスした者が弱く勝者が強いというのが勝負というものなのですから、天衣はこの勝利を誇っても良いのだと思います。

しかし、ミスした者が弱いというのであれば先にミスをしたのは天衣。

対局相手である天衣を信頼するあまりそのミスを見逃してしまったのはあいの弱さですが、最初にミスしたのは天衣の弱さでもあったはずです。

これは経験がある人なら分かると思いますが、「相手のミスに助けられた勝利」って「力を出し切った敗北」よりもずっとモヤモヤしたものが残るものです。

勝利しているので悔しさがあるわけではないのに何かスッキリしない。

そういうわけで、天衣にとってもこの対局は自分の弱さを自覚するキッカケになっているのではないかと思います。

非常に熱い名シーンでありながら、その結末は互いに弱さを自覚しあうという、姉妹弟子でありライバルとなる二人の邂逅シーンとしては滅茶苦茶に良いものでした。

二番弟子

ありと天衣の対局は、八一に天衣を弟子にしたいと考えさせるのに十分なものでした。

人を賭けるというのは褒められたことではありませんが、一度は月光の弟子にした天衣を、月光への勝利をもって自分の弟子にさせてほしいと八一は挑むことになります。

実は、八一が自ら天衣を弟子にしたいと仕向けるところまでを含めて月光の掌の上なのですが、ともあれもう一人のあいが八一の弟子になる展開になってきました。

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天衣

おかげで私は、物心つく以前から『九頭竜君の弟子』になるのが当たり前だと思ってたのに・・当の九頭竜君はこれっぽっちも憶えてなかったってわけね

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八一

・・ごめんなさい・・

実は、八一は少年時代に天衣の父親と月光の対局の感想戦の結果を覆したことがあり、それで天衣の父親はずっと自分の娘(天衣)を九頭竜八一の弟子にしたいと思い、それを八一にも伝えたことがあったようです。

だから天衣は他のプロの指導をずっと跳ねのけてきていて、渋々とした雰囲気を出しつつも八一の指導だけは受けていたわけですね。

八一は覚えていなかったものの、なんだか素敵な繋がりだなぁって思います。

ともあれ、これで天衣は八一の二番弟子になりました。

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『りゅうおうのおしごと(1)』名作将棋ラノベの魅力(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

まずは最年少竜王の九頭竜八一と、その弟子である雛鶴あいの物語のプロローグとなる1巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

将棋界の2大タイトルのひとつである竜王に史上最年少の16歳でなった若き天才。それが主人公の九頭竜八一となります。

しかし、竜王になってからはタイトルホルダーらしい将棋を求めるあまり、公式戦11連敗してしまうほどの大きなスランプに陥ってしまっていました。

そんなある日、八一の自宅に見知らぬ女子小学生が押しかけてきます。

八一に憧れる彼女の名前は雛鶴あい。八一の竜王戦を見て将棋を始めた初心者ですが、弟子にしてほしいと遠路はるばるやって来ました。

最初、弟子を取るつもりなどない八一は「力を見るため」の対局であいを打ちのめすつもりでいました。

しかし、初心者であるにも関わらずあいの指す将棋は、泥臭くも熱いもので、特大のスランプに陥っていた八一が奮起するキッカケにもなったほどです。

スランプ中とはいえ現役の竜王に一発入れかけるほどの天才少女の行く先を見てみたい。そう思った八一は、何故将棋界では師匠は無償で弟子を取るのかを理解するとともに、最終的に自らあいのことを弟子にしたいと思うようになります。

若き天才と幼き天才の師弟関係が、これから始まっていきます。

ピックアップキャラクター

第1巻ということもあり、今後各巻でメインを張るような主要登場人物が多数登場していますが、最初なのでやっぱり主人公の九頭竜八一と、メインヒロインの雛鶴あいが今巻でのピックアップキャラクターになるのではないかと思います。

九頭竜八一

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(「りゅうおうのおしごと!(9巻)」より)

主人公の九頭竜八一は、史上最年少で竜王になった天才少年です。

1巻では、竜王になってから大スランプに陥っているところに突如現れた弟子志望の女子小学生・雛鶴あいに振り回されつつも、最後には幼き才能に惚れ込んで自ら弟子にしたいと思うようになります。

雛鶴あい

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(「りゅうおうのおしごと!(1巻)」より)

メインヒロインの雛鶴あいは、九頭竜八一が竜王戦を戦う姿に憧れて将棋を始めた初心者となります。

初心者ですが、若干9歳にしてたったひとりで北陸から関西まで八一の弟子になるためにやって来るバイタリティだけでもすごいのに、スランプ中とはいえ現役竜王である八一に一発いれかけ、熱くさせるほどの才能を見せます。

実はあいが将棋を指すことを快く思っていない両親から逃げるように家出してきたわけなのですが、最後にはひとまず八一の弟子になることが認められることになります。

ネタバレ含む感想

師匠への恩返し

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清滝鋼介

オシッコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

主人公の九頭竜八一。その師匠である清滝鋼介のそんな叫びからりゅうおうのおしごと!は始まります。

僅か数ページの間に何度「オシッコ」という単語が出て来たのか分からないくらい、小学生男子が好きそうなギャグですね。(笑)

本記事を書いている時点で僕はりゅうおうのおしごと!の世界に10巻まで触れていますが、だからこそこの幼稚な始まり方はちょっと意外だったりします。

この清滝鋼介、最初の印象こそオシッコおじさんという感じ・・というかそれ以外に一体どんな印象を持てば良いんだという感じですが、後々このオシッコ事件が霞むほど格好良いオッサンだということが分かってくるからこそ、読み返すたびに笑えてきます。

しかし、実のところコレはりゅうおうのおしごと!という作品においてかなり重要なエピソードなのではないかとも思うのです。

弟子が師匠に勝利する『恩返し』。

このエピソードは、弟子の成長は嬉しいけどやっぱり悔しいという清滝鋼介の思いが・・

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清滝鋼介

オシッコでりゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

まあ、文字通り溢れ出してしまった。(笑)

・・というお話なのですが、そもそもりゅうおうのおしごと!は将棋における師匠と弟子の物語です。

このエピソードでは弟子の立場である九頭竜八一が、師匠になっていくわけですからね。

そう考えた時、この弟子が師匠に勝利して、師匠が悔しさを溢れさせるというエピソードは、何かしらのりゅうおうのおしごと!の結末を示唆しているのではないかとも思うのです。

現実には、現役トップ棋士である九頭竜八一を相手に女子小学生である雛鶴あいを勝利させることはいくら何でも無理があるはずなので、勝利をもっての『恩返し』という展開にはならないような気もしますが、何かしらこの『恩返し』を彷彿とさせるような結末があるのだと思えてなりませんね。

押しかけ弟子の入門試験

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あい

約束どおり、弟子にしてもらいにきました!!

九頭竜八一が最年少で竜王を獲得した最終局。あと一歩で竜王に手が届くという局面で極度に緊張している八一に、一杯のお水を渡して緊張を解した少女。

それが後に八一の弟子となる雛鶴あいでした。

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八一

タイトル獲ったら何でも言うこと聞いてあげる

・・なんて、極限状態に言ったお礼だとしても、真に受けられたとしたらかなり強烈なことを言ってしまっている八一。

この辺は八一のラノベ主人公らしい一面だと思います。

また、八一には失言王じみたところがありますが、それはお隣囲碁の世界を描いた名作漫画ヒカルの碁の主人公である進藤ヒカルを思わせますね。性格はかなり違いますけど。(笑)

しかし、何でも言うことを聞くとはいっても、八一にもできることとできないことがあります。

少なくとも、この時点で八一は自分に誰かの師匠になれるほどの余裕があるとは思っていませんでしたし、才能の有無も分からない女子小学生を安易に弟子にして厳しい勝負の世界に招き入れるのも憚られたことだと思います。

だからこそ、あいの力を見るために入門試験を実施する形をとったものの、それは半分以上が口実で、この時点で八一はあいを追い返す気満々だったのだと思います。

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あい

力には自信があります! 手加減なしの全力でお願いします!!

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八一

身の程知らずの生意気なクソ餓鬼……いいぜ。やってやる。来いよ!

この辺、非常に面白いところですよね。

たった四手の間で行われる手談。僕は、将棋こそやらないもののお隣の世界の囲碁はかなりやっているので何となく分かりますが、たった一手からでも相手の考えが伝わってくるということは確かにあるものです。

りゅうおうのおしごと!は、その手談を上手く表現して読者に伝えるのが上手な作品だと思いますが、その最初のシーン。最初の手談がこの八一とあいの四手だったのではないかと思います。

そして、この対局の結末はあまりにも予定調和。スランプ中とはいえ現役の竜王に女子小学生が、それも初心者が敵うわけもなく、八一も一思いに決着を付けようとします。

・・そこまでは予定調和でした。

勝負を早く終わらせるために八一が放った無理気味の手。

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あい

・・こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう・・・・

その緩みをあいは見逃しませんでした。

あいが深い集中力を発揮している時の「こう、こう・・」という代名詞のようなボヤキも、ここで初めて登場します。

八一の無理気味の攻めを咎めたあい。意図的に指したとはいえ、現役竜王の緩手を咎めて一発入れかけるとは、その時点で間違いなく普通の初心者ではないのでしょう。

もちろん、さすがに初心者が平手で現役竜王に勝てるわけもなく、この対局にあいは敗北してしまいます。

しかし、この対局はスランプ中だった八一に将棋の楽しさを思い出させるキッカケになるほど熱い対局でした。

名局とは程遠い稚拙な対局。しかし、どんなに強くてもツマラナイ将棋よりも、ミスだらけの泥仕合だけど想いの込められた対局の方が人を熱くさせることもあります。

僕も囲碁をやるから、この辺の感慨はよく理解できるところです。

八一とあいの入門試験。この対局はまさにそういう対局でした。

タイトルホルダーらしい綺麗な将棋を求めるあまりそういう泥臭さや粘りが無くなってしまっていた八一は、このあいとの対局で見失いかけていた自分の将棋を取り戻します。

その結果、公式戦11連敗という中々に残念な成績から、泥臭い将棋をもって抜け出すことに成功して復活を遂げることになりました。

あいの金沢カレー

本題からは逸れたエピソードなのに強烈に印象に残っているのが、あいが夕飯に金沢カレーを作るエピソードです。

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あい

もっと、具材の全てが形を失ってルーに溶け込むくらいドロッドロに……やっぱり圧力鍋やないと煮込み足らんがよ……お皿も銀のステンレスやないと締まらんがいね・・

あいはもともと感情的になると方言が飛び出すキャラクターですが、カレーを作っている時も例外ではないようです。

そして・・

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あい

もってかれないでくださいね?

出来上がったのは八一の意識を飛ばしてしまうほどの強烈な金沢カレーでした。

なんというか、僅か数ページの女子小学生がカレーを作っているだけのエピソードなんですけど、ちょっと普通ではないレベルで記憶に残ってしまうエピソードだったと思います。

実は、初めてこのエピソードを読んだ時点で僕は金沢カレーというものを食べたことが無かったのですが、りゅうおうのおしごと!を読んだことをキッカケに初めて金沢カレーを食べたのです。(美味しかったです)

そんな風に、今まで食べたことが無い人が食べてみたいと思うくらい強烈なエピソードでした。(グルメ漫画か!)

そして、僅か数ページのこのエピソードの強烈さの証拠として、チャンピオンカレーがりゅうおうのおしごと!とコラボして『あいちゃんの金沢カレー』なる商品を販売していたことは、結構話題になったので知っている人も多いのではないでしょうか?

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chancurry.com

研修会試験とあいの両親

1巻のハイライトはあいの研修会試験のエピソードとなります。

女流棋士を目指して研修会試験を受けることになるのですが、恐らくこの時点のあいの実力なら合格そのものは難しくなかったのではないかと思います。

それを緊張感のあるエピソードに変えたのがあいの両親。母親の雛鶴亜希奈と父親の雛鶴隆ですが、特に雛鶴亜希奈ですね。

実は家出して八一に弟子入りしに来ていたあいを追いかけて来たわけなのですが、娘が内弟子として八一と二人暮らしをしていることについては、意外にもそういうものだと理解しているようです。

しかし、そもそもあいが女流棋士を目指すことには反対している。

これはまあ、よっぽどの放任主義か理解のある両親でもない限り、当然といえば当然の反応で、しかもあいの場合は本来、温泉旅館『ひな鶴』の女将としての教育を受ける安定のレールが最初から敷かれていたわけなので、あえて不安定な世界に飛び込もうとする親の気持ちは分からなくはありません。

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八一

あいさんの才能が圧倒的だからです

それを八一が、あいに限っては大きな才能があるから安心しても良いと両親を説得するのですが、それならばと研修会試験で3連勝することを将棋を続ける条件として提示されてしまいます。

八一が作中で語っている通り、こういった盤上遊戯のゲームはなんであれ上手が必ず下手に勝てるほど甘いものではありません。全戦全勝できる実力差とは、思っている以上に大きな差があるはずです。

そして、研修会試験の相手の中には現役のプロ棋士である久留野七段や、八一の姉弟子で歴史上でも最強と言われる女性である空銀子がいます。

つまり、駒落ちハンデ戦とはいえ、あいに課せられた条件は相当に厳しいものとなります。

そこであいは「折れない心」という大きな才能を発揮して、最後の相手である空銀子に食らいつき続けるのですが、一歩、届きませんでした。

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空銀子

・・次は最短で殺す

負けはしたものの、ずっとあいが八一の弟子になることを好ましく思っていない様子だった空銀子が、遠回しにあいが再び自分の前に立ちふさがる「次」がある存在なのだと認めるほどの才能を見せつけたあい。

しかし、母親との約束の3連勝はできませんでした。

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八一

今の将棋を拝見して、俺は何が何でもあいさんを弟子にしたいと思いました。ですから──今度はこちらからスカウトさせていただきます

それを、八一が非常に強引な理論でスカウトという形であいを弟子にしたいのだと、あいの両親を説得します。

最初は一方的な押しかけ弟子でしたが、この時には八一の方からあいを弟子にしたいと思うほどの関係が出来上がっていて、それに見合う才能をあいは見せていました。

そして、八一にとってはちょっと不本意な条件を付けられてしまったものの、あいはこのまま八一の内弟子として女流棋士を目指すことになりました。

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『りゅうおうのおしごと!』将棋ラノベの名作を全力で紹介します!

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GA文庫チャンネルより

こんにちは!

様々なフィクション作品のレビュー記事を書いているあるいはと申します。

雑多に色々な作品のレビュー記事を書いていますが、その分まとまりが無いのが本ブログの現状で、実はそれを何とかしたいという意図で書いているのが本記事となります。

何か、特に好きな作品のことに特化した面白いコンテンツを作りたい。

本記事は、そんな心機一転した思いを胸に書いています。

というわけで、最初にテーマに選んだ作品は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!となります。

りゅうおうのおしごと!』とはどのような作品なのかという基本的なところから、原作にメディアミックス、どんなキャラクターが登場するのか等、作品の魅力を本記事にまとめていきたいと思います。(随時更新予定)

『りゅうおうのおしごと』という作品を知らない人には興味を持つキッカケとなり、知っている人にも改めて面白いと思えるようなコンテンツにできたら幸いです。

※本記事は未完成で、徐々に内容を充実させていく想定となります。

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りゅうおうのおしごと!』ってどんな作品?

2015年9月よりGA文庫から刊行されている人気ライトノベルとなります。

将棋というライトノベルとしては比較的珍しい分野をテーマにしていて、例えば男くさいところのある名作将棋漫画を彷彿とさせる熱さはしっかりあるのに、ライトノベルらしい親しみやすさや可愛らしさは全く損なわれていない名作ですね。

主人公の九頭竜八一はフィクション作品の主人公らしい天才将棋指しで、初登場時には既に将棋界最高峰のタイトルである竜王を持っていたくらいです。しかし、最近ありがちないわゆるチートキャラではなく、ひとりの将棋指しとして、そして師匠として、悩んだり間違えたりしながらも成長していく人間臭いキャラクターでした。

そして、主人公の九頭竜八一だけではありません。

登場するキャラクターはみんな、ライトノベルの登場人物らしいいわゆるキャラ属性のようなものがありつつも、どこか人間くさいところがあって、だからこそ読んでいて熱くなるし、感動もする作品なのだと思います。

また、単純に将棋ものの作品としても非常に完成度が高いです。

プロ棋士がモデルになっているキャラクターが存在するとか、実際にあったエピソードが元ネタになっているとか、もちろんそれはそれで面白い要素ではあるのですが、そんな単純な話ではありません。

重要な対局シーンでは、そこに至るまでの苦悩や葛藤が丁寧に描かれているからか、本当に胸が熱くなるし泣けてくる。気付けば喉奥がヒリヒリするほど込み上げてくるものがあります。

女子小学生がヒロインで、非常に可愛らしいイラストイメージの作品だということもあり、もしかしたら自分の好みではないと食わず嫌いしている人も多そうな作品ではありますが、意外と男くさい感じの将棋漫画が好きな人なら面白いと思える作品なのではないかと思います。

著者の白鳥士郎先生の筆力もあるでしょうけど、綿密に将棋の世界のことを取材しているんだろうなぁということがヒシヒシと伝わってくるのも魅力ですね。

ストーリーの詳細は後述するレビュー記事(ネタバレ含む感想)の中で触れますが、欠点の見当たらない近年まれにみる名作中の名作のライトノベルであることは間違いないと思います。

ちなみに、将棋というテーマが珍しいだけに、「自分は将棋がわからないから・・」と思っている人でも、正直将棋が分からなくても全然楽しめるライトノベルなので安心してください。

その証拠に、『りゅうおうのおしごと!』は『このライトノベルがすごい』でも上位の常連であり、2017年から2018年には2年連続で1位を獲得しています。

それは将棋を知らない人にも受け入れられなければ成し得ないことなのではないかと思います。

それに、そう言う僕も将棋のことはルール以上のことは知りませんからね。(笑)

 

りゅうおうのおしごと!』の登場人物

工事中

りゅうおうのおしごと!』の原作情報

1巻(2015年9月12日発売)

概要

最年少で竜王になった天才棋士だけど、タイトルホルダーらしい将棋を求めるあまりに特大スランプに陥ってしまっていた九頭竜八一の元に、女子小学生の押しかけ弟子の雛鶴あいが訪れるところから物語が始まります。

師弟関係が始まるまでの紆余曲折が、作品全体のプロローグとして描かれています。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 九頭竜八一
  • 雛鶴あい
  • 空銀子
  • 清滝鋼介
  • 清滝桂香
  • 神鍋歩夢
  • 水越澪
  • 貞任綾乃
  • シャルロット・イゾアール
  • 久留野義経
  • 雛鶴亜希奈
  • 雛鶴隆
  • 供御飯万智(鵠)
  • 月夜見坂燎
ピックアップキャラクター
  • 九頭竜八一
  • 雛鶴あい

2巻(2016年1月15日発売)※『ドラマCD付き特装版』あり

概要

もう一人のあいと呼ばれる夜叉神天衣が初登場します。

性格も棋風も雛鶴あいとは対照的な幼い天才。どんな天才でも切磋琢磨するライバルがいるからこそ成長すると考えた九頭竜八一は、夜叉神天衣を雛鶴あいのライバルとして育て上げます。

そんな幼い天才同士の初対局が最大の見所となっています。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 夜叉神天衣
  • 月光聖市
  • 男鹿ささり
  • 池田晶
  • 夜叉神弘天
  • 鬼沢談
ピックアップキャラクター
  • 夜叉神天衣

3巻(2016年5月14日発売)

概要

勝利の痛みを知った幼い才能・雛鶴あいと、年齢制限の崖っぷちの間際で過去を振り返る清滝桂香。

こんな二人の、両対局者にとってマイナスになるかもしれないし、プラスになるかもしれない戦いが激熱の展開になっています。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 生石充
  • 山刀伐尽
  • 生石飛鳥
ピックアップキャラクター
  • 清滝桂香

4巻(2016年9月15日発売)※『ドラマCD付き特装版』あり

概要

マイナビ女子オープン将棋トーナメント』で戦う女流棋士を目指すアマチュア女性や女流棋士の姿が見所になっています。

マチュアでほぼ最年少の女子小学生(雛鶴あい)が女流タイトルホルダーである祭神雷に勝利する展開は激熱です。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 釈迦堂里奈
  • 祭神雷
  • 鹿路庭珠代
  • 香酔千
  • 焙烙和美
  • 杓子巴
  • 左右口翠
  • 粥新田麗
  • 旗立朝日
  • 鞨鼓林すゞ
  • 椚創多
  • 名人
  • 篠窪大志
ピックアップキャラクター
  • 雛鶴あい
  • 祭神雷

5巻(2017年2月13日発売)※『小冊子付き特装版』あり

 

概要

将棋界最高のタイトルである竜王を保持する主人公の八一ですが、その竜王の防衛戦が最強の挑戦者である名人を迎えて行われています。

将棋観を否定されるほどの一敗をキッカケに荒んだ八一と、そこからどう立ち直っていくのかが見所になっています。

レビュー記事

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初登場キャラクター
ピックアップキャラクター
  • 九頭竜八一
  • 名人

6巻(2017年7月14日発売)※『ドラマCD付き限定特装版』あり

概要

銀子による女性初の奨励会三段昇段、そして椚創多による最年少の奨励会三段昇段が掛かった一戦が激熱の内容になっています。

女性の活躍とAI(ソフト)の普及という現代的なテーマが特徴的です。

レビュー記事

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初登場キャラクター
ピックアップキャラクター

7巻(2018年1月15日発売)※『ドラマCD付き限定特装版』あり

概要

激熱の将棋ラノベであると同時に、可愛らしい小学生の女の子が数多く登場するロリコンラノベでもある本作品ですが、それだけではないと言わんばかりに重鎮クラスのおじさんたちが大活躍する内容になっています。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 鏡州飛馬
ピックアップキャラクター
  • 清滝鋼介

8巻(2018年3月15日発売)

概要

7巻から引き続き比較的サブよりのキャラクターが活躍する内容になっています。親友同士によるタイトル戦三番勝負において、互いが互いを認め合っているからこその展開が見所になっています。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 特になし
ピックアップキャラクター
  • 月夜見坂燎
  • 供御飯万智

9巻(2018年8月10日発売)※『ドラマCD付き限定特装版』あり

概要

夜叉神天衣が空銀子に挑戦するマイナビ女王戦を余すところなく描いた一冊になっています。

八一の竜王防衛戦が描かれた5巻を彷彿とさせる内容ですが、9巻の主人公といっても過言ではない夜叉神天衣が挑戦者側にいるところが違いになっています。

かつてなく夜叉神天衣の内面に触れている点も見所です。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 特になし
ピックアップキャラクター
  • 夜叉神天衣

10巻(2019年2月15日発売)※『小冊子付き限定版』あり

概要

メインヒロインであるはずなのに、一桁巻後半以降の存在感が薄かった雛鶴あいがこれでもかというほど活躍します。女流名跡戦のリーグ入りを賭けた予選決勝が最大の見所ですが、今まであくまでもサブキャラクターだったJS研メンバーがメインで活躍していたのも特徴的です。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 神鍋馬莉愛
  • 鐘ヶ坂操
ピックアップキャラクター
  • 雛鶴あい
  • 水越澪

11巻(2019年8月9日発売)※『ドラマCD付き限定特装版』あり

概要

奨励会三段リーグに心を折られた空銀子。自死すら仄めかすほど追いつめられた銀子を八一が思いとどまらせようとするとともに、八一と銀子の過去が回想されていきます。

ついに銀子が将棋星人の星に一歩目を踏み出すまでの物語となります。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 明石先生
ピックアップキャラクター
  • 空銀子

12巻(2020年2月14日発売)※『小冊子付き限定版』あり

概要

奨励会編のクライマックスで誰が四段昇段するのかの結論が出ます。また、以前より伏線として語られてきた九頭竜八一の関東での呼び名がついに明らかになります。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • なし
ピックアップキャラクター
  • なし

13巻(2020年8月6日発売)NEW!

概要

かつてない程にJS研まみれの内容になっています。過去のドラマCDのエピソードが思い出話として語られているため既出の部分も多いですが、水越澪の強烈な努力が光る素晴らしい別れのエピソードでもあります。

レビュー記事

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初登場キャラクター
  • 水越澪
ピックアップキャラクター
  • なし

りゅうおうのおしごと!』のメディアミックス

1.アニメ化

1期

工事中

2期

2期目のアニメ化、されるといいなぁ~

アニメ1期では原作5巻までが描かれています。

つまり、単純計算で2期目がアニメ化されるとすれば10巻までとなりますが、今のところそのような情報はありません。

何か情報が出てきて、ここを更新できるようになることを祈っています。

2.コミカライズ(完結済)

『りゅうおうのおしごと』のコミカライズ版は、実は原作の刊行からほとんど間を置かずに始まっています。

そのことから、もともと売れる作品だと期待されていたのであろうことが窺えますね。

しかし、今でこそ超人気作品の『りゅうおうのおしごと』も当初は原作の売れ行きが芳しくなかったらしいのです。

それで原作5巻で打ち切りの話があったくらいらしいのですが、蓋を開けてみれば今や大人気ライトノベルになっています。

個人的には、読んでさえみればこれほど面白いライトノベルもなかなか無いのでジワジワとでも人気が出てくるのは当然のことといえば当然のことのような気もするのですが、もしかしたら早い段階でコミカライズ版が出ていたことも影響しているのではないかと思います。

原作はライトノベルとはいえ、漫画に比べると読むのに時間が掛かりますし苦手な人も多いですから、そういう人の入門編としてコミカライズ版はかなり有効ですからね。

僕も他の作品ではコミカライズ版から入って好きになったことも多いです。

『りゅうおうのおしごと』の場合、ガンガンオンラインにて序盤数話と最新話を無料で読むこともできるので、まずはそちらで読んでみたら良いかもしれません。

 

『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章(下)』ついにフィナーレの最終巻!(感想とネタバレ)

 

ついに響け!ユーフォニアムも最終巻。

約6年で短編含め全10巻。

黄前久美子の高校三年間の物語もこれにて完了となります。

最初は初々しい新入生だった黄前久美子が、三年生の部長になった決意の最終楽章も後半戦となります。

頼れる先輩が眩しく見える後輩だった黄前久美子が、頼れる先輩になりつつも今までとは違う吹奏楽部に戸惑い、悩み、頑張る姿が尊いです。

また、一年生二年生の時はどちらかといえば、巻き起こるトラブルに関わりつつも当事者ではなかった黄前久美子が、似たようなトラブルの当事者になってしまっているところが興味深いですね。

黄前久美子と黒江真由のソリを巡る争いは、かなり形は違えども一年生時の高坂麗奈中世古香織のソロを巡る争いを彷彿とさせますし、黄前久美子高坂麗奈の対立は傘木希美と鎧塚みぞれのことを思い起こさせます。

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本作の概要

転校生・黒江真由の登場で不穏な空気ができそうな雰囲気だった前巻でしたが、関西大会のユーフォニアムのソリが黄前久美子ではなく黒江真由になったことで、それが一気に顕在化し始めます。

コンクールにこだわりがなく黄前久美子にソリを譲ろうとする黒江真由に、黄前久美子がソリであるべきだと滝に不信を抱く部員がいたり、絶対実力主義で行くべきだという考えに既に納得している黄前久美子の苦労は絶えません。

また、絶大な信頼を得ていた滝の判断に対する不信感を持つ部員が増えてきたことが原因で、ついに黄前久美子高坂麗奈とすらぶつかってしまうことになります。

部長失格。

そう言われてしまった黄前久美子が、それを乗り越えるキッカケは最も信頼する先輩でした。

本作の見所

コンクールへのこだわり

関西大会のオーディション。

京都府大会でのユーフォニアムパートは2年生の久石奏を含む3名でしたが、関西大会ではチューバが1人増えた代わりにユーフォニアムは久石奏を除いた2名になってしまいました。

また、ソリを吹くのも黄前久美子だったのが黒江真由に変更され、それが一波乱の原因となるのですが・・

特に黄前久美子を悩ませるのが黒江真由のコンクールに対する温度感の違いです。

実力があるのに一歩引きたがる性格の黒江真由は、転校生だからというよりもそもそもの性格がそうなのだと思われますが、自分がソリに選ばれつつもそれを辞退しようかと何度も黄前久美子に問いかけます。

悪気が無いのが始末に負えないという感じです。

全国大会金賞を目指すために、完全実力主義を貫こうとしている吹奏楽部なだけに、実量がありながら遠慮しているように見える黒江真由の考えは黄前久美子に理解しがたいもので、それが本心だとは思えなかったのだと思います。

しかし、一方で黒江真由と同じような考え方の人間は本来とても多いものだと思います。

北宇治高校吹奏楽部の中では異分子でも、頑張りたい人に譲ってしまうような人間は実は少なくありませんしね。

部長失格

ソリを譲ろうとする黒江真由のことだけでも悩ましいのに、今の黄前久美子は他の部員に慕われている部長です。

黄前久美子がソリを吹くべきではないのか?

黒江真由との実力差が好み程度の差しか無かったことで、顧問である滝への不信感まで生じつつあります。

これで滝によるオーディション結果が一本筋の通ったものになっていたらまだ良かったのかもしれませんが、未成年の吹奏楽部員にとっては頼りになる大人の教師であっても、まだまだ若輩の人間である滝にも迷いはあります。

自分の好きな音楽と、コンクールに媚びた音楽の間でオーディションによるメンバー選出の基準に揺らぎが多少みられるようになっています。

それに目ざとく気付いているような部員もいて、滝に対する不信感を口にする生徒がいることに憤りを覚えているのが高坂麗奈です。

絶対的な実力者であり、絶対的な滝信者であり、絶対的に正しい高坂麗奈

誰もが絶対的に正しくはいられないのは当然の所で、いくら全国大会金賞を目指して、納得の上で厳しい環境に耐えていたとしても、誰もが同じ考え、同じ温度感で一致団結していくことは、本当の意味では絶対に無理なことだと思います。

だからこそ高坂麗奈の考え方はどんなに正しくても、対立の種になり得てしまう。

しかし、まさか黄前久美子とぶつかってしまうようなことになるとは思いませんでした。

いや、高坂麗奈の潔癖すぎるほどに正しい性格からして、ぶつかる時は誰とでも、どんな時でもぶつかってしまうのかもしれません。

恐らく、黄前久美子に対して部長失格だと言ってしまったのは本人にとっても本意ではなかったような気がしますが、本意ではなくても本心だったのではないかと思いますが、結果的に悩める部長の黄前久美子が、更に苦しい状態になる結果となってしまいました。

田中あすかのチケット

黄前久美子が最も慕っていて、信頼している先輩といえば田中あすかであることは間違いないと思います。

数々の苦難に主人公である黄前久美子が自力のみで切り抜けるという展開でも良かったような気がしますが、田中あすかをはじめとする誰かの助けを得て、それでやっと満足のいく結果を出せる。

そんな展開も等身大な感じがして素敵ですよね。

実は、田中あすかはリアリティのある響け!ユーフォニアムのキャラクターの中では最もフィクション作品のキャラクターっぽさが強くて、あまり好きになれないところもあったりするのですが、やっぱり田中あすかがこういう問題解決のキーになってくると、黄前久美子の物語っぽいような感じがしてしまうから不思議です。

1個上の先輩たちも登場します

波乱の第二楽章で物語の中心だった鎧塚みぞれに傘木希美。

黄前久美子と同じユーフォニアムパートの先輩・中川夏紀。

そして前部長で一年生時には高坂麗奈と衝突した吉川優子。

卒業してしまった先輩キャラクターも僅かですが登場します。

個人的に響け!ユーフォニアムで好きなキャラクターといえば黄前久美子の1個上の先輩たちに集中しているので、大学生になってちょっと変わっているけど、やっぱり変わっていないこれらのキャラクターの登場は嬉しい限りです。

物語の本筋に関わってこないのは寂しいですが、決意の最終楽章はどう考えても黄前久美子のための物語なので仕方がないですね。

しかし、本書の序盤で1個上の先輩たちが登場したことは、最後まで読んだ後だとちょっとした示唆が含まれていたのではないかと思います。

なぜなら、本書で黄前久美子が悩まされる原因になるトラブルは、1個上の先輩たち4人が当事者だったトラブルと非常に似通っているからです。

ソリを譲ろうとする黒江真由は、中川夏紀にAメンバーを譲ろうとオーディションで手を抜いた久石奏を思い起こさせますし、黄前久美子がソリを吹くべきだという部内の空気は、中世古香織がソロを吹くべきだと主張していた吉川優子が作り上げた空気に近しいものです。

また、黄前久美子高坂麗奈がぶつかってしまったことは、非常に仲の良かった者同士でうまくいかなくなってしまうという意味で鎧塚みぞれと傘木希美の関係性を思い起こさせます。

そう考えると、そんな先輩たちが遭遇したトラブルの全てに見舞われた黄前久美子は災難そのものですが、最後には納得のできる形になって良かったというところでしょうか。

いずれにしても、これが1個上の先輩たちの序盤での登場が、これから黄前久美子に降りかかるトラブルの示唆だったと感じた根拠となります。

総括

いかがでしたでしょうか?

僕は本書を読み終えて大いに感動したものですが、何が凄いってやっぱり響け!ユーフォニアムは良くも悪くもとてつもなく普通の物語だというところです。

それは前巻のレビューでも触れたところではありますが、いわゆるエンターテイメント作品であるはずなのに、そのストーリーがあまりにも普通なのが響け!ユーフォニアムという作品なのです。

普通の高校生の、普通の青春が描かれている。

もちろんそこにはドラマがあるのですが、それもいわゆる普通のドラマなんです。

だけど、だからこそ響け!ユーフォニアムは面白い。

正直なところ、響け!ユーフォニアム黄前久美子ほど充実した青春を過ごせていたという人はそれほど多くは無いような気がします。

しかし、あくまでも普通の、あったかもしれない青春が描かれているからこそ響け!ユーフォニアムは読む人を共感させ、そして感動させるのかもしれません。

そして、そんな響け!ユーフォニアムもこれで読み納めかと思うと寂しい限りですが、どうやらこの決意の最終楽章もTVアニメ化が決まっているようです。

今は最終巻を読み終えた余韻に浸りつつもTVアニメ化を楽しみにしたいと思います。

『本好きの下剋上第四部(7)』アニメ化情報もどんどん出てきて盛り上がっている作品の感想(ネタバレ注意)

 

本好きの下剋上のアニメは2019年10月に決まったようですね。

マイン、フェルディナンド以外のキャストも公開され、ますます期待が高まってきます。

そして、今巻の内容については前巻の後日談的な色合いが強かったような気がします。

前巻ラストで頭を抱えていた保護者たちに厳しく怒られるのかと思いきや、逆に養母のフロレンツィアにローゼマインに厳しくばかりしていることを怒られたからか少し優しくなっているのが面白いです。

ハンネローレはやっぱり可愛いし、いつもは働いてばかりいる印象のフェルディナンドの人間味のある一面も見れたりします。

それに、今後ローゼマインをハルトムートのように盛り上げていきそうなクラリッサも登場して、今後の展開にますます期待が持てる感じになってきました。

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本作の概要

前巻では本当の色々なことがあって、その影響でエーレンフェストに帰還命令が出てしまったローゼマインは、今巻もなかなか本に触れあえません。

聖典を検証する羽目になったり、魔獣ターニスベファレンの件では中央の貴族や神官長や教師陣に取り囲まれての事情聴取。

なんとか乗り切ったものの大変な目ばかりにあっています。

一方で、引き際をわきまえたお茶会をこなすことができるようになりつつあったり、一年生の頃には出られなかった領地対抗戦にも参加できたり、成長が見える部分もあります。

本作の見所

様子の違う保護者たち

ローゼマインが領主の養女になって以降の本好きの下剋上において、いつも面白くて楽しませてくれるのは何かしらローゼマインがやらかして、それに頭を悩ませる保護者たちとの掛け合いですよね。

周囲から見たローゼマインの異常性をもっとも肌で感じ、理解していながらも想像を超えてくるローゼマイン。

エーレンフェストはローゼマインの活躍があって発展していきそうな様子もありますが、そのローゼマインをコントロール保護者たちが最も持て余している感じが面白いのです。

何とか暴走しないように抑えつけようと、いつも厳しくしていますね。

しかし、今回はフロレンツィアにローゼマインを叱ってばかりいることを怒られたからか、保護者たちの在り方に少し変化が出てきているのが興味深いです。

「数日間でよくわかったが、其方はフェルディナンドに毒されて子供の体で働きすぎだ。あれが社交に精を出している間、少しはゆっくりしろ。貴族院からの帰還理由は静養であろう?」

ジルヴェスターが監視役として側に置かれているのを鬱陶しがっている本音があるとはいえ、ローゼマインに静養させる建前を作って神殿に向かわせようとするシーンが地味に好きです。

お茶会で失神しないローゼマイン

前巻のラスト、ハンネローレとヒルデブラントとの本好きのお茶会でお約束のように失神したローゼマインでしたが、今巻からは最初から途中退席する前提で、途中退席の目安とするために魔石を持って出席することで普通にお茶会をこなせるようになっています。

虚弱体質のローゼマインが唐突に失神して周囲をオロオロさせるエピソードも面白いですが、こういう社交をこなせるようになっていった方がストーリーも進展していきやすいような気もするので、もしかしたらより一層広く活躍するローゼマインが今後は見られるかもしれませんね。

聖典検証で何かがありそう

「汝、王となるを望む者」

ジルヴェスターの建前上の指示で聖典を調べることになったローゼマインですが、ササっと終わらせようとしていたところローゼマインにも見覚えのない文章と魔法陣が浮かび上がるようになっていました。

そこには王になる方法。王の資格について書かれていました。

「・・まぁ、わたしは王にならないから、王になる方法なんてどうでもいいんだけど」

・・なんてことをローゼマインは思っていますが、この出来事はローゼマインの真意に関わらず何か波乱の原因になりそうな感じがしますね。

実際、これをフェルディナンドに相談した結果、何も見えない体を貫くことに決まりました。

魔獣ターニスベファレンの件にともなう事情聴取でも聖典を巡る話題が繰り広げられますが、ちょっと珍しいくらい緊張感のある展開になりましたね。

フェルディナンドのディッター勝負

ダンケルフェルガーとのディッター勝負は今巻の見所の一つだと思います。

いつもは研究者かローゼマインの保護者としての性質が強く出ているフェルディナンドが格好良く戦う姿が描かれています。

本好きの下剋上のキャラクターの中でもジョーカー的な立ち位置というか、登場すれば大抵の問題はなんとかなるイメージのあるフェルディナンドが、ダンケルフェルガーのハイスヒッツェにうまく乗せられてしまったり、ディッターでも苦戦したりと珍しい姿を見せてくれます。

また、個人的にはタッグ戦ということで巻き込まれたハンネローレにも注目したいところです。

ローゼマインと同じく二年生の領主候補生ということで、一緒にディッター勝負に参加することになるのですが・・

「あ、ああ、あの、わたくしが参加すると聞こえたのですけれど・・!?」

当事者のローゼマインと違って完全に巻き込まれた形になるハンネローレ。

しかし、フェルディナンドに怯えつつも、ディッターではフェルディナンドのお守りを消費させたり、普段おっとりしている割にはしっかりとディッターに参加している姿が印象的でした。

「・・おっとりして見えるけど、やっぱりダンケルフェルガーの領主候補生だな」

ディッターが始まる前からローゼマインがそう思う程度の、戦い好きの領地の姫っぽさが出ているのが、新たな一面という感じで良かったと思います。

クラリッサ

ダンケルフェルガーといえば、ダンケルフェルガーの文官見習いであるクラリッサがローゼマインの一番の信者であるハルトムートの婚約者になりましたね。

クラリッサもまたハルトムートのようにローゼマインの信望者ですが、ローゼマインに近付くためにハルトムートに近付いたという計算高い女性です。

フェルディナンドもダンケルフェルガーの女性は計算高いと言っていましたが、まさにそれを示したキャラクターだと言えます。

しかし、そういう計算高さとは裏腹に意外とハッキリと気持ちの良い性格で、個人的には女性としてかなり好きなタイプかもしれません。

ローゼマインの信者同士でハルトムートとも相性が良く、今後本好きの下剋上を盛り上げていくのに一役も二役もかっていきそうな雰囲気のあるキャラクターだと思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

次巻の発売はアニメ放送開始直前の2019年9月となります。

第1話のDVD付きの限定版も発売されるとのことで、今から本当に楽しみです。

原作では最近ずっと貴族院では領主候補生、神殿では神殿長として奮闘するローゼマインが描かれていますが、アニメ版では久々に下町のマインが見られることになりますからね。

一方で原作の方のローゼマインは、今巻は比較的落ち着いており、失神することもなく、ちょっとずつ成長している様子を見せています。

それなのに、聖典の魔法陣の件といい今まで以上に大きなことに巻き込まれていきそうな気配がぷんぷんしていて、嵐の前の静けさといった様相です。

今巻は珍しくかなりキリの良いところで終わっていますが、次巻がどのような展開になっていくのかも楽しみです。

『ダンまち(15)』キャラクターの成長が見える短編集の感想(ネタバレ注意)

 

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか。略してダンまちの最新15巻は箸休め的な短編集になっています。

前巻が息をつく暇もない冒険に次ぐ冒険といった内容だったので、久々の日常編といった感じですね。

あとがきによると、ナンバリングの章は2015年本編アニメBlue-Ray特典短編小説に加筆修正を加えたものになるようです。

そういうわけで、中には内容的にちょっと消化不良なのではないかと思っている人も多そうな印象ですが、個人的にはこういうキャラクターを掘り下げる短編は好きなのでこういう一冊も大事だと思います。

いや、ダンまちは刊行ペースが遅めの作品なので、もちろん早く本編を進めていってほしいという思いもあるのですけど、こういう箸休めがあるからこそ本編も面白くなっていくものだとも思うんですよね。

ちなみに、2015年といえば15巻発売時点からみて4年も前です。

普通であれば、そんな時期に書かれた短編を読んだら本編との時間差に大きな違和感を覚えるところです。

しかし、この15巻の場合はかなり工夫された構成になっていて、14巻のあとに読む本編として違和感の少ない内容になっているのが興味深いところです。

14巻でのかつてない冒険を経た後の大きな成長を、そこに至るまでの過去を振り返ることでもっと劇的に描かれているように見えるという。そういう工夫を凝らすことで古めの短編を最新巻に違和感なく溶け込ませる手腕には流石に一言です。

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本作の概要

深層の決死行。かつてない冒険を終えたベルたちは大きな成長を遂げることになります。

そんな成長を喜ぶと同時に、自分たちが歩いてきた道のりを振り返っていきます。

ヘスティアファミリアの主要メンバーや、ベルとともに深層の決死行を繰り広げたリュー。それにベルを心配するギルドの受付嬢エイナの過去が描かれます。

本作の見所

ベル・クラネル

「ぶっちゃけ、なんか【ランクアップ】できそうな気もしたが黙っておいた」

ヘスティアのモノローグですが、深層の決死行はマジが今までにない危機だったのでひょっとしたらいきなりランクアップする展開もあり得るのではないかと僕は思っていました。

さすがにそれはありませんでしたが、ステータスの上昇率は過去最大と大きく成長してベル。

こういう強さを数値化してしまうタイプのフィクション作品って、数値化した時点で分かりやすくて面白くもあるものの、ある一定以上にはならないイメージがあるのですが、ダンまちの場合はその辺数値をうまく使っている気がします。

なんというか、あるエピソードとその後の成長率にある程度の説得力があるのが魅力的だと思います。

そんな風に冒険を繰り返し成長し続けるベルですが、オラリオにやって来た最初からそうだったわけではありません。

それはここまでダンまちを読んできた人であれば、1巻最初の様子から周知の事実ですが、今回の短編では1巻の更に前。

ベルがヘスティアと出会う前のエピソードが描かれています。

お世話になるファミリアを探し求めて、だけどどこもかしこもベルを受け入れることはない。

その上泊っている宿からはカモにされている。

就職氷河期時代の就活生もかくやという状態になってしまっていたようです。

「あー、んんー・・実は、ボクも今【ファミリア】の勧誘をやっていてね。ちょうど冒険者の構成員が欲しいなぁーなんて奇遇にも思っていてだねえ、その、うん、えーと・・」

そんなベルに声を掛けたのがヘスティアでした。

ちなみに、歯切れの悪さの理由は、次のヘスティアの短編で明らかになります。(笑)

ヘスティア

二つ目の短編のタイトルは『HEY WORLD』で、アニメ版のOP曲と同じですね。

あまりこのOP曲のタイトルの意味を考えたことはありませんでしたが、ヘスティアが下界に降り立った時の短編のタイトルになっているのを見て「なるほど」と思いました。

というわけで、ベルと同じくオラリオにやって来たばかりの頃のエピソードが短編として描かれているのですが、ベルが就活生ならヘスティアは一緒に会社を始める仲間を探している経営者といったところでしょうか。(笑)

ただし、ベルと違ってヘスティアにはヘファイストスという頼る相手がいて、しかもそこに甘えてしまうことになります。

雇い主側のはずなのに、まるで実家に甘えて引き籠る直前の就活生のようです。(笑)

その後、ベルと同じでなかなかファミリアに加入してくれる冒険者がいない状況に陥り、そんな時に見つけたのがどこのファミリアにも入れずに迷子のようにさまようベルを見つけたわけですね。

ベルの短編でヘスティアの歯切れが悪かったのは、この時ヘスティアが置かれていた状況が背景にあったのではないかと思います。

リリルカ・アーデ

作者によるとリリをランクアップさせる想定はもともと無かったようなのですが、前巻の冒険から察するに何人かはランクアップする予感はありましたよね。

特に司令塔として活躍していたリリがランクアップする結果は納得の一言です。

レベル2になって少し調子に乗っている様子が他のキャラクターのエピソード前の間章からも感じ取れるくらいですが、リリがここに至るまでの苦難を思えば今回誰よりも報われたのはリリなのかと思わされます。

そりゃあ調子にも乗りますよねって感じです。

そういうわけでリリの短編は、幼い頃からソーマファミリアで苦労してきて、他の冒険者から搾取され続け、盗賊まがいのことを繰り返し、最初はベルのことすらターゲットと見做していた暗い時代のリリのエピソードとなります。

「私を呼んで。私を必要として。私を助けて。私を、見捨てないで」

ソーマファミリアから逃げるように身を寄せていたお爺さんとお婆さんの花屋が心無い冒険者に破壊され、優しかったお爺さんとお婆さんからも見捨てられてしまったリリのモノローグ。

ベルに出会う前のリリにあったのは、搾取される立場を見返したい気持ちとかそれ以上に、自分を肯定してくれる人を欲する気持ちだったのかもしれませんね。

しかし、それすらも強者の手によって奪われてしまったリリには、搾取される立場を見返したい気持ちだけが大きく残ることになってしまったのでしょう。

最初はベルすら騙した変身魔法を覚えたリリは、他の冒険者たちを騙して戦利品を掠め取る盗賊行為に走るようになります。

ベルと出会い、ヘスティアファミリアに入ったリリはそういったことからは足を洗っていますが、とはいえ搾取される立場を見返したい気持ちが無くなったわけではないのだと思います。

だからこそ、今回のランクアップを誰よりも喜んでいる様子なのかもしれませんね。

エイナ・チュール

ベルを担当するギルド受付嬢のエイナ。

ベルの普通ではない成長率と無謀とも思える冒険にいつも頭を悩ませていますが、今回の深層の決死行も例外ではない・・というか、そりゃあそうですよねといった様子でした。

「また会えて、良かった・・」

以前からベルが死なないように、無茶しないようにと進言するアドバイザーであり続けたエイナでしたが、だからこそ今回もベルが無事だったことに最も安堵しているキャラクターだったのではないかと思います。

冒険者に寄り添いつつ誰よりも冒険者を心配するエイナ。

そんなエイナの背景にあるギルド受付嬢になったばかりの過去のエピソードが短編として描かれています。

エイナが最初に担当した冒険者マリス・ハッカードとエイナは、一緒に飲みに行くくらいに仲良くなっていました。

もしかしたら、今のエイナとベルよりも親密に見えるくらいです。

しかし、本当に唐突にマリス・ハッカードは冒険で命を落とします。

マリス・ハッカードだけではなく、他に担当していた上級冒険者も、多くの冒険者があっけなく命を落とすところをエイナは見てきたようです。

そして、エイナの職場仲間はベルのことを早死にする冒険者であると当初認定していて、しかし冒険者の無事を誰よりも祈るようになっていたエイナがそれを許さなかったことが、エイナがベルの担当になるキッカケだったようですね。

今回短編化されているキャラクターの中では唯一冒険者以外のキャラクターですが、ある意味では誰よりも冒険者に寄り添っていて、理解も深いキャラクターなのではないかと思います。

ヴェルフ・クロッゾ

壊れることを前提に振るわれるクロッゾの魔剣を嫌っていたヴェルフが、仲間たちと窮地を切り抜けるために打ったヴェルフの魔剣ともいえる始高・煌月をヴェルフは前巻で完成させました。

その出自が最初から明確だったこともあって、ヴェルフの過去は他のキャラクターに比べると意外にも明らかな部分が多かったような気がします。

とはいえ、今回の短編ほど明確にそれが語られたのは初めてだと思います。

というか、本編ではベルの兄貴分の青年という感じなので、子供時代のヴェルフの描写が新鮮に感じられました。

ヴェルフがクロッゾの一族に反発するようになったキッカケ、それに故郷である王都バルアから逃げるようにオラリオに至った経緯が描かれています。

リュー・リオン

やっぱり今回一番気になるのは、前巻でベルとともに深層の決死行で危機を共に乗り切ったリューですよね。

ダンまちに登場するヒロインの中ではもっとも凛としていて格好良い系のキャラクターだと思うのですが、前巻では深層で今までにない顔を見せてくれてより一層魅力が増したところで、個人的には今後の動向が最も気になるキャラクターだったりします。

ベルはダンまちに登場するヒロインたちにモテまくっていますが、普段は誰よりもクールなリューがベルを前にすると誰よりも初々しい反応を見せるようになっていて、超絶微笑ましいことになっています。

いつの間にかベルのことを「クラネルさん」ではなく「ベル」と呼び捨てに代わっていることに気付いてしまったり、というか今まで気付いていなかったのかとか無意識だったのかとか、いろいろ言いたいことはありますがとにかく可愛らしい。

「傷害・・誘拐・・私は一体どこまで堕ちれば・・」

なまじ腕っぷしが強いだけに、ベルを前にした時の混乱ぶりがもたらす被害が甚大なのがたまに傷ですが。(笑)

「ただ、貴方の顔を直視することに堪えられないだけです」

多感な思春期の少年に誤解を与えかねない弁明もリューらしいと思います。

そんな風に人を受け入れることが苦手なリューですが、それが昔からなのだということが語られているのが今回の短編です。

前巻では、リューが以前所属していたアストレア・ファミリアについて度々語られていましたが、そのアストレア・ファミリアに加入するまでの幼いリューが描かれているのが見所ですね。

ちなみに、非常に登場人物の多いダンまちですが、幼少期が描かれるキャラクターは意外と珍しいと思います。

サンジョウノ・春姫

ひょっとしたら春姫もランクアップするのではないかと思っていましたが、大きくステータスを伸ばしたものの今回のランクアップは見送りとなりました。

どうやら、本当はランクアップできるところをアイシャの助言であえてランクアップしなかったようです。

主神であるヘスティアや他の団員は知っているようですが、春姫本人とランクアップしてご機嫌のリリには伏せられているようです。

まあ、足を引っ張らないように早く成長したいと思っている春姫に、ランクアップさせるつもりも無いのにそれを伝えるのは酷ですからね。

ちなみに、なんでランクアップさせないのかといえば、春姫の戦闘の技量が一向に向上しないのを理由としているようです。

要は、ランクアップにより得られる恩恵を強力な武器であると例えたら、子供にそれを与えるようなものだという判断なのだと思います。

しかし、春姫のウチデノコヅチはヘスティアファミリアにとって最後の裏技であり、春姫の成長がヘスティアファミリアの今後のキーになってくるのは間違いないのではないかと思っています。

だから春姫の成長は、ベルの成長と同じくらい要注目事項だと思うんですよね。

そんな春姫の短編は、今回収録されている短編の中ではもっとも今巻の趣旨である「成長」に合ったものになっていて、あくまでも支援系で自ら戦っているシーンなどほぼ描かれたことのなかった春姫の、新しい一面が見えたような気がします。

 

総括

いかがでしたでしょうか?

「早く本編を進めて!」と感じている人も多いはずで、こういう短編集は好き嫌いが分かれるところだと思いますが、こういう短編集はキャラクターが深く掘り下げられることになることが多いので僕はとても好きだったりします。

他作品のレビュー記事でも、短編集の方が本編より熱が入っていることが実は多いくらいです。

ダンまちの15巻。この一冊も例外ではありませんでした。

しかも、比較的古めの短編をそう感じさせないような構成にしているところが単純に凄いと思いました。

とはいえ、いくら短編が好きでもそれは本編があるからこそです。

大きく成長したヘスティアファミリアの冒険や、ベルと危機的状況を共にしたリューの動向も気になるところで、早く次巻で本編を読みたい気持ちも大きくなっています。

『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌(1)』ビブリオバトルをテーマにしたラノベの感想(ネタバレ注意)

 

こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌は、三上延先生の特大ヒット作であるビブリア古書堂の事件手帖のスピンオフ作品であり、篠川栞子をはじめとしたビブリア古書堂の事件手帖のキャラクターも登場するファンには嬉しい作品となっています。

何で発売から2年以上経った今さらになってレビュー記事を書いているのかといえば、積み本になっていたのを最近になって初めて読んだからなのですが・・

結論から言えば、これはもっと早く読んでおけば良かったと少し後悔するくらいに面白かったです。

しかも、あからさまに僕好みの小説でした。

ビブリオファイトというビブリオバトルを元にした競技を題材にしていて、ミステリー作品であるビブリア古書堂の事件手帖とは異なる趣がある・・どころか異なるジャンルの作品になっています。

ビブリオバトルとは、本の紹介をして「どの本が一番読みたくなったか?」を競う比較的新しい競技となります。

意外とフィクション作品の題材にされることも多いですが、大抵は1エピソードの題材になるくらいで、こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌のようにガッツリと題材にした作品は珍しいような気がします。

この手の作品にありがちな、作中で紹介された作品をついつい読んでしまいたくなるような現象に陥っているところです。(笑)

ちなみに、ビブリア古書堂の事件手帖を知らなくても全く問題なく楽しめる内容だと思うので、ビブリア古書堂の事件手帖を知らない人も安心ですよ。

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本作の概要

いわゆる隠れオタクで、友人知人には隠れて自作小説の朗読配信を行っていた前河響平は、ある日その自作小説を書いたノートを紛失してしまいます。

そこには朗読サイトのアカウントまでメモられていて、誰かに見つかっては大変だと必死で探し回ります。

そんなノートを拾ったのは卯城野こぐち。

卯城野こぐちは、一度本の世界に入り込むとなかなか戻ってこれない体質の本好きの少女で、唯一安心して読書ができるのが人の少ない旧図書室でした。

前河響平は、旧図書室で自分のノートを読む卯城野こぐちに出くわし、そこからこぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌の物語が始まります。

旧図書室の維持を巡ってのビブリオファイトという、ちょっと珍しい青春が描かれています。

本作の見所

本好きの少年と少女

本が好きなキャラクターって一つのキャラクター属性だと思いますが、このレビュー記事を読んでくれているような人には本好きキャラクターが好きな人が多いのではないでしょうか?

このレビュー記事を読んでくれているような人は、大なり小なりライトノベルが好き、あるいは興味があるという人だと思いますし、ライトノベルとはいえ本を読む習慣のある人は、本好きキャラクターに共感しやすいと思うからです。

こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌は、本好きキャラクターによるミステリー作品であるビブリア古書堂の事件手帖のスピンオフなのでなおさらそう思います。

ヒロインの卯城野こぐちは、ひとたび本を読み始めれば本当に深く深く作品の世界に没頭してしまい周りが見えなくなってしまうほどの集中力の持ち主で、好きな本のことを誰かに語りたくて仕方のない女の子です。

一方で人見知りでなかなか語れる相手がいないのですが、だからこそ語れる時にはものすごく饒舌になる。

そして、本好きには卯城野こぐちのような性格の人間が多い。偏見かもしれませんが、僕自身がそうなのでそう思うんですよね。

「え、ええ。一学期のうちに・・。国語の教科書は渡された日に全部読んで、気になる 作家はすぐにチェックするのは基本でしょう?」

このセリフからも徹底した本好き度の高さが現れています。

僕も国語の教科書は授業でやる以外の部分も早い内に読んでしまう方でしたが、さすがにその日に全部読むなんてことはありませんでした。

そして、卯城野こぐちほどではありませんが主人公の前河響平も相当本好きな部類の人間だと思います。

そうでなければ自作小説を朗読サイトで朗読したりなんかしないですよね?

卯城野こぐちが完全消費系の本好きオタクであるのに対して、前河響平は発信系の本好きオタクだというところの対比が面白いです。

本好きならどちらにも共感できるでしょうし、しかしそれぞれタイプが違うのでどちらかにより共感できるのではないかと思います。

www.aruiha.com

ビブリオファイト

ビブリオファイトとは、知的書評合戦のビブリオバトルを元にして本作品のキャラクターである旭山扉が考案したより自由度の高い書評合戦のこととなります。

要は、ビブリオバトルには公式ルールがあるところを状況に応じて臨機応変にルールを改変しているのがビブリオファイトであると捉えて問題ないのではないかと思います。

  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
  3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
  4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

※知的書評合戦ビブリオバトル公式サイトより抜粋

これが元になったビブリオバトルの公式ルール。

まだ歴史の浅い競技ですが、時たまフィクション作品でも取り上げられていることもあるので知っている人も多いのではないでしょうか?

好きな作品のことを語りたいオタク的には興味深い競技ですよね。

僕も、こんなフィクション作品のレビュー記事を書いているくらいなので当然興味はあります。

まあ、僕はこぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌の前河響平のように人前で上手にプレゼンするのは苦手なのでやりたいとまでは思いませんけど。(笑)

どっちかといえば卯城野こぐちタイプです。

ともあれ、卯城野こぐち然り、篠川栞子然り、本好きのキャラクターは得てして好きな本を語るのが大好きなものだったりするのが定番ですが、こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌は本好きキャラクターのそういう部分をより強調した作品であるとも言えるのではないかと思います。

www.bibliobattle.jp

篠川栞子が登場

スピンオフ作品の良いところは、何と言っても本家とは全く別作品であっても、本家を知っている人には嬉しいファンサービスがあるところですよね。

こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌においてはビブリア古書堂の事件手帖のキャラクターが登場するところが何とも嬉しいところです。

ビブリア古書堂の事件手帖の探偵役である篠川栞子は、そこそこセリフもある役どころで登場しますが、知らない人にとっては一人の脇役として違和感はありませんし、知っている人にとっては読んでいてテンションが上がってくること間違いありません。

「この人は、ホームズという作品やシリーズではなく、この「 名探偵ホームズ(1)」について話しており、なおかつ思い入れも知識量も半端ない。何だこの人?」

前河響平のモノローグですが、篠川栞子というキャラクターを的確に表していますね。

こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌における篠川栞子は、ビブリオファイトをする前河響平と卯城野こぐちのアドバイザーというか、ブレインのような役割ですが、本家のキャラクターだからといって物語の中心になりすぎず、かといって遠すぎない絶妙な立ち位置にいたと思います。

個人の感想って大事ですよね

本書は1話1ビブリオバトルの全5話で構成されていますが、こういうレビュー記事を書いている身としては作品を勧めるポイントというか、ちょっと勉強になったなぁ~と思うところがありました。

ですが、やっぱり一番大事なのは個人の感想なのだと思います。

誰かに作品を勧める時、それがただの事実だったり、ましてや伝聞だったりすると、それに魅力を感じる人はいないので当然といえば当然ですよね。

どんな作品にも、万人が同じ感想を持つところもあれば、人によって感じ方が違う部分もあるのも当然のことです。

だからこそ、好きな作品について語ったりするのが面白いんですよね。

例えば、既に読んだことのあって面白いと思った作品のレビューを読んでみたことってないでしょうか?

僕は結構あります。

すると自分とは全く違う感想を持っている人がいたり、自分では気付いていなかった発見があったり、同じ感想を持っていたとしても着眼点が違ったり、その作品に対する感想は似ているようでいて千差万別です。

同じ人間でも長期間を経るて同じ作品を読んだら、感想が変わっていることも珍しくありません。

それだけ多種多様な感じ方があるはずなので、どんな形であれ書評というのは自分自身の個人の感想を述べた方が、絶対に面白いし楽しいと思うのです。

こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌の前河響平によるプレゼンはまさにそういう所が強かった。

書評なんていうと、特に古典名作の書評になってくると、なんとなく教科書的なものでなければいけないような気分にもなってきますが、それこそそんなものは教科書を読めばよい話です。

書評とは、教科書的なものを分かりやすく伝えることではなく、自分自身が感じたことを伝えるべきなのではないかと改めて思わされました。

ちなみに、今僕が書いているこの感想。

実のところこぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌の本編のことにはあまり触れていなくて、僕が感じたことの比重が大きくなっています。

自分で書評というか、レビューをしない人にとっては何を言っているんだという話かもしれませんが、僕がこぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌を読んで素直に感じたことを書くとこうなったわけですね。

実は、いつも書いているレビュー記事とは少し雰囲気が違っているはずなのですが、今回はあえてこうしてみました。

総括

いかがでしたでしょうか?

スピンオフ作品とはいえビブリア古書堂の事件手帖とは違った魅力のある良作だったと思います。

個人的には、現在こうしてフィクション作品のレビュー記事を書くようになっているだけあって、「作品を紹介する」という手法についての勉強になるところもありました。

まあ、僕の場合はプレゼンは苦手で、こういうレビュー記事を書いている割には好きな作品について語るのは苦手だったりするのですけど、それでも作品を紹介するための切り口についての発見があったと思います。

囲碁や将棋といった盤上遊戯をテーマとした漫画・ラノベ作品10選

 

こんにちは!

囲碁が大好き。あるいはと申します!

繰り返しますが、僕は囲碁という盤上遊戯が好きで好きで仕方がないのです。

実力は伴っていないんですけどね。

それに、ぶっちゃけ初心者以下だけど同じ盤上遊戯である将棋やチェスの世界にだって興味はあります。

だから、そういう盤上遊戯をテーマとした漫画やライトノベルなんかもメッチャ好きなんですよね。

将棋漫画あたりは、もはや1つの漫画のジャンルとして確立されていると言っても過言ではないくらい、多種多様な作品が生み出されていますね。

囲碁ファンとしては作品数の違いにジェラシーを感じてしまったりもするのですが、それでも将棋漫画は好きなので、その辺は少々複雑だったりしますけど。(笑)

まあ、囲碁にはヒカルの碁という盤上遊戯をテーマとした作品の中における圧倒的なレジェンドが君臨していますから、それが囲碁ファンとして唯一の矜持だったり?

ともかく、本記事ではスポーツ漫画以上に熱血な盤上遊戯をテーマとした漫画・ライトノベルのおすすめ10作品を紹介したいと思います!

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1.ヒカルの碁囲碁

ヒカルの碁は、囲碁なんて知らない小学生ヒカルのもとに、平安時代囲碁好きの幽霊である佐為が現れ、そんな佐為のために囲碁に触れていく内にヒカルも囲碁に惹かれていくという物語です。

囲碁なんて全く知らなかったヒカルがわずかな期間にプロ棋士にまでなってしまうといえばご都合主義な漫画なのかと思われてしまうかもしれませんが、そこに至るまでには山あり谷ありの熱いストーリーがあります。

ヒカルの碁世代という言葉があるくらいに囲碁ファンにとっては重要な作品であり、僕もヒカルの碁という作品が無ければ今ほど囲碁にハマっていなかったのではないかと思います。

本ブログではヒカルの碁の全巻レビュー記事も書いているので、良かったら見てみてください。

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2.りゅうおうのおしごと(将棋)

将棋というジャンルを超えた超人気ライトノベルりゅうおうのおしごとも外せませんよね。

一定の人気はあるものの実は爆発的なヒット作は少ない将棋というジャンルの作品において、2年連続で『このライトノベルがすごい!』で1位になったこともある良い意味でやべ~作品です。

登場するキャラクターの年齢から、いわゆるロリコン系作品であると捉えられがち・・というか間違いなくその一面もあるのですが、それ以上に真剣に将棋に取り組む登場人物たちの熱がこれでもかというほど伝わってくる名作になっています。

熱さもあり、感動の涙もあり、それに登場人物の一人一人が生きている。

単なるロリコン系作品ではない証拠に、例えば7巻では主人公の師匠であるおじさんがメインのエピソードであるにもかかわらず、変わらぬ面白さを示していました。

将棋漫画は数あれどライトノベルとなるとさすがに珍しいですが、個人的には将棋系作品における一番だと思っています。

囲碁でも誰か面白いライトノベル書いてくれないかなぁ~

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3.王手桂香取り!(将棋)

将棋をテーマにしたライトノベルは珍しいと言いましたが、りゅうおうのおしごと以外にも実は存在します。

王手桂香取り!もそのひとつですね。

この作品の面白いところは将棋の駒の化身を名乗る女神たちが登場するところで、本格的な将棋作品が好きな人には陳腐に感じられる部分もあるかもしれません。

しかし、将棋にしろ囲碁にしろ現在のトッププレイヤーですらその到達点には程遠いとされるゲームですから、名人相手ですら駒落ちとなる強さを誇る女神たちの存在にも違和感があまり無いところが興味深い作品だと思います。

ちなみに、桂香という名前のキャラクターがメイン級で登場しているところがりゅうおうのおしごとと共通しているのが興味深いですね。

実はりゅうおうのおしごとを始めて読んだ時に「あっ、同じ名前だ!」って気付いたのですけど、将棋をテーマにした時に思いつきやすい名前なのかもしれませんね。

男なら「歩」とかが多いのと同じでしょうか。

王手桂香取り!の主人公もそういえば「歩」ですしね。

4.盤上の詰みと罰(将棋)

記憶喪失の主人公の作品というのもまた一つのジャンルと言えるかもしれませんが、それを将棋と組み合わせたのが盤上の詰みと罰という作品になります。

とても快活に見える主人公・霧島都は元女六冠の天才将棋指し。

しかし、1ヵ月ごとに記憶がリセットされる体質になってしまい、現在はその原因を突き止めるための旅をしています。

将棋とは積み上げていく競技です。

だから普通の将棋漫画の主人公は、強くなるために多くのことを積み上げていくのが常なのに、盤上の詰みと罰の霧島都はそれができない。

そういう意味ではかなり異色の将棋漫画になっていると思います。

かなり興味深くてじっくり読みたいと思わされる作品なので2巻と短めなのが残念な作品ですが、ちょっと変わった将棋漫画が読みたい人にはおすすめです。

「罪」を「詰み」に置き換えているタイトルのセンスも素敵ですね。

将棋においては「詰みと罰」なのではなく「詰みが罰」なのかもしれませんが。(笑)

5.歩武の駒(将棋)

あまり将棋漫画を連載しているイメージが無い週刊少年サンデーで連載されていた将棋漫画が歩武の駒となります。

連載開始時期が週刊少年ジャンプで連載されていたヒカルの碁の少し後で、ヒカルの碁に対抗した作品なのではないかと推測されます。

残念ながらヒカルの碁ほどのブームにはならなかった漫画ですが、週刊誌連載の少年漫画らしい「才能ある主人公が、その競技に対しての熱を失ってしまっていたけど、再び挑み始める」というテンプレート的な展開が好きな人には楽しめる将棋漫画だと思います。

ちなみに、個人的には人生で初めて読んだ将棋漫画が歩武の駒なので、なんとなく思い出補正も強かったりします。

6.星空のカラス囲碁

将棋に比べると囲碁を題材にした作品は非常に少ない。

囲碁ファンとしては本当に哀しい事実ですが、ヒカルの碁以来久々に登場した囲碁漫画がまさかの少女漫画ということに驚いた記憶があります。

それが星空のカラスという作品ですね。

こういう盤上遊戯をテーマにした作品で少女漫画らしいタッチで描かれるものは珍しく、何だか新鮮な作品でもあると思います。

また、本格的に囲碁が描かれているものの、少女漫画らしい恋愛的な要素もあって囲碁を知らない人でも楽しめるある意味普通の少女漫画でもあります。

それに全8巻と短めなのでヒカルの碁よりもとっつきやすいかもしれません。

なので、囲碁を知らない人こそ読んで囲碁を知るキッカケにしやすい漫画なのではないかと思います。

7.ものの歩(将棋)

ものの歩は将棋の未経験者である主人公が、手違いで奨励会員のシェアハウスに入居してしまって、そこで将棋に触れるようになっていくという漫画です。

一点集中型で要領が悪い主人公。

しかし、それがこの主人公の棋風に繋がっていきます。

こういうある意味では欠点になるところが才能になっていく展開は少年漫画の王道的展開で好きな人は好きなのではないでしょうか?

ちなみに、将棋漫画は好きでも将棋の世界に詳しいわけではない僕でも知っている橋本崇載先生が監修を務めています。

それにしても、他の週刊誌に比べると週刊少年ジャンプって盤上遊戯をテーマにした作品が多いような気がします。(ほとんど将棋だけど)

やっぱりヒカルの碁のヒットがあったからなのでしょうか?

8.将棋めし(将棋)

将棋の棋士が世間から注目される時、なぜかその棋士が対局中にする食事にまで注目されます。

将棋と食事。そういえば語感も似ていますね。(笑)

そんな将棋と食事を組み合わせた将棋漫画でもあり、グルメ漫画でもある作品が将棋めしとなります。

深夜ドラマ化されたりもしていたので、将棋漫画の中ではかなり知名度が高く、読んだことが無くても知っている人は多いのではないでしょうか?

厳しい将棋の世界を描いている漫画の割にはキャラクターが親しみやすく、それでいて将棋の世界の厳しさも描かれています。

また、グルメ漫画としての完成度も高いハイブリッドな良作だと思います。

ちなみに、作者は盤上の詰みと罰と同じく松本渚先生。

女流棋士を描いた将棋漫画を2作品も描かれているので、将棋は将棋でも女流棋士の将棋漫画家というイメージがあります。

9.盤上のポラリス(チェス)

盤上遊戯をテーマとした漫画・ラノベ作品。

そうは言ってもそのほとんどは将棋関連の作品になります。

非常にルールが似ているチェスを題材とした作品は、世界的な競技人口は将棋を完全に上回っているにも関わらず非常に少ないです。

それでも囲碁よりは多いのですが・・ 

盤上のポラリスは、そんな数少ないチェスを題材にした作品のひとつですね。

この漫画の特徴は、チェスという盤上遊戯を題材にしてはいますが、なんというか昔の冒険ものの少年漫画を読んでいるような気分になれるところです。

それは主人公が勇者のような冒険に憧れる小学生で、そんな憧れを持っていそうな活発な性格をしていて、それが昔の冒険ものの少年漫画の主人公らしいキャラクター性に感じられるからかもしれません。

僕にはチェスのことはよく分かりませんが、チェスのことを知らなくても面白いと思える漫画です。

10.駒ひびき(将棋)

こんな将棋漫画もあるよって紹介したくなるのが駒ひびきという将棋漫画です。

最近は可愛らしい絵柄の将棋漫画も多いですが、ここまで露骨にいわゆる萌え絵で描かれた将棋漫画も珍しいですよね。

しかも原作者はむらさきゆきや先生とさがら総先生という2人のライトノベル作家

むらさきゆきや先生は異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術

さがら総先生は変態王子と笑わない猫。

いずれもアニメ化作品を持つ人気作家ですが、それぞれの代表作は将棋とは全く関係がありません。変態王子と笑わない猫。のタイトルは将棋由来らしいですけど。

普段はファンタジーやラブコメを書いている作者による将棋漫画という珍しい作品です。

将棋漫画が広く愛されていることが分かりますね。

『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章(上)』劇場版公開に合わせて待望の新刊発売!(感想とネタバレ)

 

前巻から約2年。

待ちに待った響け!ユーフォニアムの最新巻が劇場版誓いのフィナーレの公開に合わせて発売しました!

実は、響け!ユーフォニアムのファーストシリーズを読んだ時は、面白いとは思うもののそこまで熱狂するほどではないという感想を持っていました。

しかし、劇場版誓いのフィナーレの原作となる前作波乱の第二楽章があまりにも名作だったため、いつの間にか続編を心待ちにするような気持になっていました。

それだけに今回の新巻発売は、今までの響け!ユーフォニアムシリーズの発売時よりも嬉しく思いました。

ところで、響け!ユーフォニアムという作品はエンターテイメントであってエンターテイメントではない部分がある作品なのだと思います。

吹奏楽に打ち込む青春ものではありますが・・

  1. 新入生の獲得
  2. サンライズフェスティバル(マーチングイベント)
  3. オーディション
  4. 京都府大会
  5. 関西大会
  6. 全国大会

・・というように、どの大会まで勝ち進むのかという違いがあるもののファーストシリーズ も波乱の第二楽章もストーリーの根幹は全く同じですし、読まなくても決意の最終楽章も同じであることは容易に想像がつきます。

しかも、基本的には練習して大会で演奏することの繰り返しでしかない。

そんな風に考えてみると、あまりエンターテイメント性の高い作品だとは思えませんよね?

未読の人にこんな説明をすると響け!ユーフォニアムという作品には興味を持ってもらえないかもしれません。

しかし、既読の人は分かるはず。

響け!ユーフォニアムは明らかに面白い作品であると。

それは何故なのか?

考えてみれば、小笠原晴香が部長だったファーストシリーズと吉川優子が部長だった波乱の第二楽章では、1年間の流れ自体はほとんど同じであるものの描かれている人間関係や問題は全く違うものでした。

その証拠に僕の場合、ファーストシリーズでは「まあ面白い作品」という感想どまりだったのに波乱の第二楽章では「凄い名作!」という感想になっていたりと、ストーリーの根本がほとんど同じであるにも関わらず、それぞれの作品に対する感想は全く別物になっています。

そして、作中の登場人物にとっては重要な大会ですが、実は響け!ユーフォニアムという作品においては実のところそこまで重要ではありません。

もっというと題材が吹奏楽である必要性すらないのかもしれません。

その証拠に京都府大会まで描かれる決意の最終楽章の上巻でしたが、肝心の演奏シーンはカットされています。

北宇治高校吹奏楽部の部員たちは「結果」を重視しています。

しかし、響け!ユーフォニアムという作品は、そんな「結果」を求める登場人物たちの人間関係や青春といった「過程」を描いている作品なのだと思います。

だから演奏シーンは重要ではないし、描かれているのは「結果」を求める人間なのでその題材が吹奏楽である必要も無いし、ストーリーの根本が同じでも違った作品になり、面白く感じられるのだと思います。

そういうわけだから決意の最終楽章も読む前から大体のストーリーは予想できているのに、一体何が起きるんだろうというワクワク感がある。

波乱の第二楽章では頼れる黄前相談所だった黄前久美子が部長を務める新体制の吹奏楽部がどう動いていくのか?

予想通りのストーリーを飽きずに読み進めることができる名作でした。 

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本作の概要

ファーストシーズン時には初々しい新入生だった主人公の黄前久美子も3年生となりました。

黄前久美子が部長を務め、幼馴染の塚本秀一が副部長。そして親友の高坂麗奈がドラムメジャーという新体制で北宇治高校吹奏楽部が始動します。

久石奏は相変わらずで、癖のある新入生も登場し、そして何より気になるのは強豪・清良女子からの転入生でユーフォニアムを担当する黒江真由。

まっさらな新入生ならまだしも3年生でありながら他の部員とは違った価値観を持っていそうな黒江真由の存在が、どのような問題を巻き起こすのかが気になるところですね。

上巻時点では何となく不穏な空気ができ始めていたのみにとどまりますが、下巻で何が起きるのかが楽しみです。

本作の見所

新体制の北宇治高校吹奏楽

黄前久美子を始めとする主人公周りのキャラクターたちが最上級生となり、部長に副部長、ドラムメジャーと責任ある役職を務めるようになりました。

新入生時と2年生時でももちろん大なり小なりの違いはあるのですが、やっぱり責任ある立場から見える景色というものは今までとは違うものです。

だからなのか、主人公・黄前久美子を通して見える北宇治高校吹奏楽部も今までと違って見えます。

そしてそれは視点の違いだけではなく、実際に新体制の北宇治高校吹奏楽部は今までとは違うものになっています。

こういうフィクション作品においては徐々に成績を上げていくサクセスストーリーが常道ですが、波乱の第二楽章ではファーストシーズン時には勝ち進めた全国大会に勝ち進めていませんでした。

それだけに、その悔しさを経験した部員たちはより全国大会金賞に向けて決意を新たにしています。

練習は以前以上に厳しくなり、オーディションも大会ごとにその時点でのベストメンバーを選ぶようになって、上巻では京都府大会のオーディションまででしたが競争も激化しそうな予感です。

まさにサブタイトルの決意の最終楽章の通りですね。

しかし、その熱量やスタンスには立場によって違いがあります。

1年生の頃から顧問の滝の指導を受けていて、滝を神聖視している3年生。

3年生ほど滝を信じられているわけではないが、全国大会に進めなかった同じ悔しさを共有する2年生。

なかなか同じ熱量をぶつけるには神経を使う1年生。

加えて、強豪校から転校してきた3年生。

そんな立場も考えも違う部員たちを取りまとめるのに四苦八苦している黄前久美子が本書の最大の見どころであることは間違いないと思います。

進路の話

黄前久美子も3年生。

部長とはいえ吹奏楽部のことばかりを考えてはいられません。

高坂麗奈のように1年生の頃から自分の進路に明確な親友を側に見て焦りが大きくなってきています。

「人生なんてものは、設計図どおりにはいかないものだ。未来を空想するのもいいが、机上で考えるよりも実際に足を踏み出したほうが得るものが多いこともある。黄前はやや考えすぎるきらいがあるな。それが悪いとは言わないが」

黄前久美子から見た時に、厳格で真面目な印象の副顧問。松本美知恵のセリフです。

黄前久美子は松本美知恵のことをかなり立派な大人だと思っているようで職業もしっかり考えているのだろうと考えていたのでしょうが、松本美知恵が教師になった理由は「安定しているから」という何とも微妙なもの。

高坂麗奈のような明確なビジョンを持って教師になったわけではありません。

意外とそんなもので、どんなに立派に見える人でもそのほとんどの最初の一歩に明確な理由があることは稀なのだと僕も思います。

だけど真面目な人ほど深く考えすぎてしまう。

黄前久美子が陥っている悩みも、まさにそういう考えすぎなんですよね。

ちなみに、僕は小学生の頃には明確なビジョンがありましたよ。

とりあえず大学には進学して先延ばしにするという明確なビジョンがね。(笑)

いずれにしても、黄前久美子が進路に悩んでいるのは事実で、吹奏楽部の部長としての活動とどう両立していくのか。

その辺が下巻でどうなっていくのかが気になるところです。

厳しい練習と新入生

波乱の第二楽章時に新入生だった久石奏ほどの曲者は今回の新入生にはいなさそうな雰囲気です。

今年ことは全国大会金賞を取る。

そんな目標に対する熱量は、どうしても立場によって違ってきます。

特に高坂麗奈による厳しい指導は、1年生たちの精神を蝕んでいきます。

そんなことを言えば高坂麗奈が悪者っぽいですが、高坂麗奈高坂麗奈で必死なのでそこは仕方がないでしょう。

何より全国大会金賞の目標は部員全員で決めたことですからね。

とはいえ、熱量のある部員が耐えられる練習でも、初心者の1年生にはなかなか辛いものです。

今までの黄前久美子はそういう問題に直面したとしても、気にはしつつもそこに責任はありませんでした。

しかし、決意の最終楽章での黄前久美子は部長として責任ある立場です。

今まで以上に内心が穏やかじゃない黄前久美子にも注目ですね。

緊張のオーディション

今回のオーディションは、ファーストシーズンのトランペットソロを巡った波乱や、波乱の第二楽章の久石奏が部内の空気を壊さないように手を抜いた演奏をしてしまったりしたのに比べたら、緊張感はあったものの特に大きな事件が起きたわけではありません。

しかし、先への不安を匂わせるようなオーディションではあったと思います。

チューバのAメンバー。鈴木さつきではなく初心者の釜屋すずめが選ばれたことに吹奏楽部員たちはざわつきます。

実力的に誰もがAメンバーは鈴木さつきなのではないかと思っていたからですね。

ずっと実力主義を謳ってきた北宇治高校吹奏楽部の中でのことなので、黄前久美子の中にも顧問の滝に対する僅かな疑念が生じています。

失礼を承知で直接滝に問いかけたりしているのが疑念を抱いている証拠ですね。

滝の言い分は、確かに技術的には鈴木さつきの方が格上だが、全体のバランスを見た時に大きな音を出せる釜屋すずめの方が良いという判断だったようです。

そういえば高坂麗奈が部員による匿名演奏のオーディションを蹴る理由として全体のバランスを考慮したらやっぱり滝一人に見てもらった方が良いと言っていましたが、まさに高坂麗奈の意図が反映された形でのオーディション結果だったわけですね。

とはいえ、完全実力主義には納得している部員たちですが、合理的な理由があるとはいえ実力通りではないオーディション結果。しかもその理由が説明されているわけではないとあっては、何かしら問題が起きそうな予感がありますね。

川島緑輝の動物に例えるシリーズ

黄前久美子がタヌキに例えられたり、川島緑輝波乱の第二楽章で周囲にいる部員を動物に例えていました。

当たらずとも遠からずなイメージでなかなか面白いのですが、転校生の黒江真由をクラゲに例えたところが示唆に富んでます。

「遠目で見てる分には綺麗でただ流されているようにも見えるけど、うっかり刺されたらピリッと痛い。ほら、真由ちゃんにぴったり!」

この例えは合っていないと黄前久美子は感じているようですが、人の裏側というか、本質を見抜くのに聡い久石奏は「人を良く見ている」と川島緑輝を称賛しています。

確かに、初登場時から普通に良い子に見えるものの独特のマイペースさを持っている黒江真由からは、何かしらの波乱を巻き起こす要因になりそうな気配がプンプンと匂ってきていますね。

黄前久美子も合っていないと言いつつ、節目節目では何かしら黒江真由から感じ取っている様子もあります。

オーディションでソリを勝ち取った黄前久美子でしたが、最初はオーディションの辞退まで考えている風だったのに、次のオーディションに備えてソリパートの練習をしていたり、黄前久美子にとっては心穏やかにいられなさそうな状況になってきているような気がします。

総括

いかがでしたでしょうか?

前書きで散々本書の発売を楽しみにしていたことを語りましたが、実は一方で一つだけ心待ち度を下げる要因が僕にはありました。

というのも、響け!ユーフォニアムという作品において僕が最も好きなキャラクターを3人だけ上げるとしたら、吉川優子、鎧塚みぞれ、中川夏紀となり、つまりは波乱の第二楽章時に3年生だった部員たちになるからです。

「もう卒業しちゃっていないじゃん!」というのが心待ち度を下げていた理由なのですね。

しかし、決意の最終楽章の上巻の読後、やっぱり響け!ユーフォニアムって面白いと素直に思いました。

残念ながら決意の最終楽章の上巻には卒業生たちは登場しませんでしたが、主人公でありながら今までどちらかといえば語り部の主人公よりだった黄前久美子が、まさに主人公らしい立ち位置にいる作品になっていて、「ああこれで最後なんだな」って感じがひしひしと伝わってくるのが興味深かったです。

ファーストシーズンでは高坂麗奈田中あすか

波乱の第二楽章では鎧塚みぞれや久石奏。

そんな物語の中心にいるキャラクターを読者に伝える語り部だった黄前久美子

しかし、決意の最終楽章では完全に物語の中心にいます。

今まで強豪校に育ちつつも上位まで勝ち進むことはなかなかできていない北宇治高校吹奏楽部ですが、決意の最終楽章ではタイトル通り全国大会金賞を目指して今まで以上に自分たちに厳しくなっていて決意めいたものを確かに感じます。

上巻では自信と不安の両方を抱えつつ京都府大会まで勝ち進みました。

まあ、恐らく最後に全国大会で金賞を取ってハッピーエンドという結末は予想されますが、それなのに何が起きるのかというワクワク感があるのが凄いですよね。

そして、できれば僕の好きな卒業生たちに登場してほしいなぁ~という想いもあったりします。(笑)

最高にかわいい幼馴染属性キャラクターをランキング形式で紹介

 

これまで妹属性、ボクっ娘属性について記事にしてきましたが、なんといっても最も親しみ深いのは幼馴染という属性のキャラクターなのではないでしょうか?

最近は必ずしもそうではありませんが、一昔前はメインヒロインといえば幼馴染属性のキャラクターだった時代もあったような気もします。

幼馴染のポイントといえば、やっぱり幼い頃から互いを知っているという、他人でありながら家族に次ぐくらいに関りが深いところでしょうか。

だからこそ普通の友人とは違った親しみがあるのが良いですよね。

また、現代社会において幼い頃から異性の友人がいて、それが成長してからも継続するようなケースって明らかに稀でしょうから、強い憧れを持ったことのある人も多いのではないでようか?

ちなみに、僕には幼稚園以前近所に年の近い子供が女の子しかいなかったので、すなわち最も仲の良い友達も女の子だったわけなのですが、引っ越ししてしまってそれっきりでした。(笑)

また、同じ幼馴染属性のキャラクターといってもそのバリエーションは意外と多いですよね。

ずっと一緒にいる腐れ縁タイプ、疎遠だったが何かキッカケがあって仲良くなるタイプ、幼い頃にお別れして大人になって再会するタイプ、ずっと一緒にいるけど距離感は適度なタイプ・・

色々ありますけど、それぞれにそれぞれの良さがあると思います。

本記事では、そんな幼馴染属性のキャラクターを個人的ランキング形式で紹介したいと思います。

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10.三日月夜空僕は友達が少ない

僕は友達が少ないのメインヒロインである三日月夜空

いわゆる幼い頃にお別れして大人になって再会するタイプの幼馴染ですね。

また、幼い頃は少年のような風貌で男だと思われていたことや、対人恐怖症であることも手伝って幼馴染である羽瀬川小鷹と再会した後も、羽瀬川小鷹の方はしばらく気付いていませんでした。

対人恐怖症であることもそうですが、隣人部というちょっと残念な理念を持つ部活の創設者であったり、性的なことに常人以上に敏感でメインヒロインなのに防御力全開の水着しか着られなかったり、それでいて幼馴染である羽瀬川小鷹に自慰行為を目撃されてしまうほどの残念系ヒロインでもあります。

「エア友達のトモちゃん」なんて残念さの最たるものですよね。

しかし、意外にも作中では一番の常識人でツッコミ役に回ることが多いのも特徴だったりします。

9.毛利蘭(名探偵コナン

名探偵コナンのメインヒロイン。

物理的に尖っていることでおなじみの毛利蘭は腐れ縁タイプの幼馴染ですね。

ちょっと珍しいのは、作品の序盤に幼馴染である工藤新一とはなかなか会えない状況に陥ってしまうところ。

まあ、工藤新一は小さくなって側にいるわけですが。(笑)

同時期に流行した2大ミステリーのもう片方である『金田一少年の事件簿』の七瀬美雪が幼馴染として強調されているキャラクターだったので、似た立ち位置にいる毛利蘭も分かりやすい幼馴染キャラクターとして認識していましたが、実は作中序盤では意外と幼馴染であることを強調されていないような印象も強かったように思います。

近年になって幼少期のエピソードが描かれたことがありましたが、その頃からやっぱり毛利蘭も幼馴染キャラクターだと思うようになりました。

8.七瀬美雪金田一少年の事件簿

金田一少年の事件簿のメインヒロインである七瀬美雪は、名探偵コナンの毛利蘭に比べると殊更幼馴染であることを強調されていたキャラクターだと思います。

毛利蘭は幼馴染の工藤新一のことを「新一」と呼びますが、七瀬美雪金田一一のことを「はじめちゃん」とちゃん付けで呼びます。

実はあまり異性の友達のことをちゃん付けで呼ぶようなイメージの性格ではなさそうな七瀬美雪が、あえてちゃん付けでよんでいるところに幼馴染っぽさがありますよね。

子供の頃であれば、ちゃん付けもそこまで不自然ではないですから。

ちなみに、個人的には幼馴染属性のキャラクターと聞いて真っ先に思い浮かぶのがこの七瀬美雪で、友達以上恋人未満のような親しみ深い関係性といえば七瀬美雪のことだと思っています。

7.本間芽衣子(あの日見た花の名前を僕はまだ知らない)

幼馴染属性のキャラクターと言うと男女の二人組のイメージが強いですが、必ずしもそうではありません。

普通に同姓の幼馴染もいれば、二人組だとも限りません。

あの日見た花の名前を僕はまだ知らない本間芽衣子の場合は、超平和バスターズという6人の幼馴染の1人ですね。

長い間離れていたけど再会したタイプの幼馴染でもありますが、よくある転校して戻ってきたとかそういうパターンではなく、幽霊として当時の姿のまま登場するという唯一無二の幼馴染との再会になります。

疎遠になっていた超平和バスターズが、当時のままの本間芽衣子がキッカケとなって再結成されていくところに、ノスタルジーを感じます。

本間芽衣子の場合、幽霊として登場したことこそが作品の個性だと思っている人が多いと思いますが、そうではなく当時の姿・精神性のままの幼馴染と時を経て再会するところこそが、幼馴染への親しみを感じさせる最大のポイントであることは間違いなさそうですね。

6.椎名まゆり(STEINS;GATE

幼馴染キャラといえば同い年のイメージが強いですが、必ずしもそうではありませんよね?

考えてみれば当たりまえのことですが、年上や年下の幼馴染だっています。

そして、STEINS;GATEの椎名まゆりは年下系の幼馴染キャラですね。

同い年の幼馴染にある気軽さとは違った、仲の良い兄妹のような独特の関係性が興味深いですね。

恐らく現実に年齢差のある幼馴染って、兄弟がいる人とか子供が少ない地区の人なら珍しくないような気もするんですけど、椎名まゆりは都会育ちっぽいですし、幼馴染の岡部倫太郎とは兄弟経由の繋がりというわけでも無さそうです。

それなのに兄妹のような気やすい幼馴染関係を築けているというのが良いですね。

椎名まゆりの性格もあるのかもしれないですが、年上の幼馴染である岡部倫太郎に対してタメ口なんですよね。

未成年にとって一歳以上年上ってかなり年上に感じますが、それを感じさせないところが良いと思います。

5.雪村螢子(幽遊白書

幽遊白書の雪村螢子は、よくよく考えると名探偵コナンの毛利蘭と置かれている状況的に似通っている幼馴染系ヒロインだと思います。

メインヒロインでありながら、バトル漫画という作品の性質上普通の少女でしかない雪村螢子は空気になりがちではありましたが、幼馴染の浦飯幽助のことを理解して、いつも信じて待っているような健気な感じの幼馴染キャラでした。

当時の漫画作品のヒロインっぽく、かなり勝気な性格もしています。

いつも待っている勝気な性格のヒロイン。

そう考えると毛利蘭に近いですよね?

雪村螢子というキャラクターを生み出した冨樫義博先生は、実はありがちという理由で雪村螢子というキャラクターのことが嫌いだったという話があるようなのですが、個人的にはそのありがちの原点だったのではないかとも思っています。

4.澤村・スペンサー・英梨々冴えない彼女の育てかた

冴えない彼女の育てかた澤村・スペンサー・英梨々は、ちょっと気まずい理由で疎遠になってしまった幼馴染キャラですね。

いじめが理由で疎遠になってしまうとは切ないものです。

幼馴染であり冴えない彼女の育てかたの主人公である安芸倫也はオタクであることを大きく公言することでいじめを乗り切ったのに対し、澤村・スペンサー・英梨々はオタクであることを隠していじめを乗り切ったため、お互い最も話の合う部分で対立せざるを得なくなってしまったという経緯です。

それが、安芸倫也が主導するサークル活動をキッカケに関係修復していきます。

作中でもパチモンの幼馴染扱いされてしまったことがあるほど微妙な立ち位置の幼馴染キャラではあるのですが、元幼馴染としての独特のもどかしい距離感が魅力的だったりもします。

3.遠山和葉名探偵コナン

名探偵コナンの幼馴染系ヒロインといえば、メインヒロインの毛利蘭だけではなく西の高校生探偵・服部平次の幼馴染である遠山和葉も忘れてはいけません。

エンタメ性の高いミステリーとアクションのイメージが強い名探偵コナンですが、意外と魅力的なヒロインが多い作品ですよね。

そして、個人的には遠山和葉が作中で一番好きなヒロインだったりします。

テンプレというか、凄くオーソドックスな腐れ縁タイプの幼馴染キャラですが、とても関西弁が似合っている可愛らしい女子高生です。

特に近年、劇場版のから紅の恋歌では大きくその存在感を増したような気がしますし、過去にも迷宮の十字路でラブコメ要素の強い作品で主要キャラクターを務めています。

なんとなく名探偵コナンで恋愛要素が絡んでくる時に、メインヒロインの毛利蘭以上にフューチャーされているような気がしますね。

2.田村麻奈実(俺の妹がこんなに可愛いわけがない

俺の妹がこんなに可愛いわけがないの田村麻奈実は、タイプ的には腐れ縁タイプっぽいですが、他の幼馴染キャラとは違った独特の距離感が魅力的なキャラクターだと思います。

非常にのんびりとした天然で、一緒にいると時間の流れがゆっくりしそうな感じでもあります。

その上かなりの地味子なので、俺の妹がこんなに可愛いわけがないの主人公で幼馴染である高坂京介からはおばあちゃんのようだとまで言われてしまっていますが、そこにこそ田村麻奈実というキャラクターの魅力が隠れているのではないかと思います。

一緒にいると安心できそうな雰囲気が最高ですね。

しかし、それでいて普通の女子高生らしい一面もあって、それとなく実は気があるっぽい高坂京介にアプローチしてみたり、作中後半では芯の強い意外な一面も見せてくれたりします。

そういうギャップも含めて、田村麻奈実は魅力的な幼馴染キャラだと思います。

1.三井野八重(味噌汁でカンパイ!)

味噌汁でカンパイ!の三井野八重は、実のところあまりオーソドックスな幼馴染キャラではありませんが、ずば抜けて魅力的でもあると思います。

本記事で紹介している三井野八重以外の他のキャラクターはすべてアニメ化作品のキャラクターということもあり、知名度的には少し落ちるはずだとは思いますが、それを差し引いても幼馴染キャラとしては頭一つ抜けています。

味噌汁でカンパイ!という作品を読んだことがある人ならわかると思いますが、三井野八重は幼馴染で母親のいない善一郎の、母親の代わりをロールプレイしているちょっと変わった女の子です。

お母さんぶろうとしていて、実際に男子がちょっと甘えたくなってしまいそうな雰囲気を持っているものの、それでいて普通の女子中学生以上にうぶなところもあるというギャップが超絶魅力的なキャラクターだと思います。

『弱キャラ友崎くん(7)』友崎くんが中くらいの目標に決着をつける最新巻の感想(ネタバレ注意)

 

今現在、新刊の発売日を最も楽しみにしているライトノベル個人的ベスト3に入る弱キャラ友崎くんの7巻。

久しぶりの新刊は、なかなかボリューミーな内容で嬉しい限りです♬

超絶気になるところで終わった6巻から1年近く待ちましたからね~

間に発売された6.5巻の短編集も面白かったですけど、やっぱり本編がどのように展開されていくのかが気になるところでしたから、本当に今か今かと待っていましたよ。

一番問題の七海みなみの動向も気になるところですが、個人的には菊池風香のキャラにも変化が出始めているところに注目したいです。

どうやら弱キャラ友崎くんにおいては、七海みなみが1番人気のヒロインらしいですけど、個人的には菊池風香の方が好きなので・・

もっというと夏林花火も菊池風香と同じくらい好きなんですけど、さすがにヒロイン枠のキャラクターって感じでもなさそうですね。

そして、既に読み終わっている人なら分かると思いますが・・

友崎くんの中くらいの目標である彼女を作るということについては今巻で決着することになります。

誰が・・ってところは後述しますが、納得感のある良いストーリー展開だったように感じました。

ちなみに、6.5巻は短編集ですけど、7巻への布石になっているような内容もかなり含まれているので、未読の人は6.5巻を読んでから7巻を読むことをお勧めします。

特に菊池さんのエピソードである『言葉でしか知らない色』は、今巻で明らかになる菊池さんの価値観と密接な関係があると思うので、絶対に先に読んでおきたいところですね。

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本作の概要

前巻は七海みなみの告白という衝撃的なラストで終わりました。

しかし、どんなに衝撃的な出来事があっても物語は一時停止したりはしません。

日南さんの課題の難易度は急激に上がり。

菊池さんが文化祭の演劇の脚本を書くのを手助けし。

少々気まずいながらも七海みなみとの漫才も忘れてはいけません。

最初に比べるとかなり成長している友崎くんが、これらをどうこなしていくのかが見所のひとつです。

そして、弱キャラ友崎くんのテーマの一つに変化や成長があることは疑う余地のないところだと思いますが・・

今巻では菊池さんの大きな変化が描かれているところにも注目ですね。

本作の見所

攻略対象を誰にするのか?

彼女にする攻略対象を誰にするのかと複数の女の子を選別するのが友崎くんの課題でしたね。

効果的ではあっても不誠実な気がするというのは僕も友崎くんと同意見ですが、ともあれ迷いに迷って友崎くんは答えを出したようです。

「俺が気になってるのは・・みみみと、菊池さん」

まあ、予想通りというか妥当なところだと思います。

夏林花火は友達枠っぽい雰囲気でしたし、泉優鈴は友崎くんにとっての恋人枠としてあり得ない雰囲気でもありませんでしたが、既に中村という彼氏のいる泉優鈴をチョイスする友崎くんではないでしょう。

つまり、消去法的に七海みなみと菊池さんになるのは必然の結果なのかもしれません。

しかし、興味深いのは明らかに自分に好意を示している七海みなみ以外に菊池さんをチョイスしている点。

本当に迷っているのなら七海みなみの告白をキッカケとして、七海みなみのみをチョイスするのはある意味楽な選択だったような気がします。

それも友崎くんの理屈だと不誠実だったりするのかもしれませんが、少なくとも二人選ぶよりは誠実な気がしますしね。

・・で、あるにも関わらず菊池さんをチョイスしている。

これも今巻の結末に向けての伏線だったのかもしれませんね。

難易度の高い課題

日南さんの課題。

思えば最初は「こんなことか」ってくらい簡単そうだけど、弱キャラである友崎くんにはなかなか大変で、だけど何とかこなしてきたという感じでした。

しかし、今回は一気に難易度が跳ね上がっています。

日南さんの言う通り、最終目標を考えたらこの文化祭のタイミングで彼女を作れているくらいでなければ目標達成できないわけですからね。

その目標は三つ。

  1. 好きなタイプ・付き合いたい異性の条件について話し合う
  2. 二人だけのお揃いのアクセサリーを身につける
  3. 五秒間以上意図的に、手と手を触れ合わせる

うん。これは大変ですね。(笑)

一つ目あたりはたいしたことの無い日常会話の延長レベルでしかありませんが、二つ目と三つ目はかなり難しそうですね。

流れでっていうのならばまだしも、そういう機会を期限付きで意図的に作り出すのは困難を極めそうです。

例えば、友崎くんに対して好意を示している七海みなみが相手であったとしてもなかなかできることではありません。

というか、友崎くんの性格的には七海みなみ相手の方が難しいでしょうか?

示してくれた好意に付け込むような形になってしまうことを不誠実に感じてしまったりしてしまいそうですね。

付き合うことについての価値観

日南さんの課題の一つ目については、友崎くんは菊池さんと七海みなみの両方に対して達成しています。

ついでに中村ともそういう話をしているのが面白いですが、それぞれ違った恋愛観を持っているのが興味深いですね。

菊池さんの場合

「お姫様にとってはシザーマンじゃないといけなくて。シザーマンにとって も、お姫様 じゃないといけなくて。・・そんな関係を作れることが、付き合うことの意味、なのかなって、思います」

意外にも菊池さんが一番明確な答えを持っていましたが、付き合うってことの意味もアンディ作品になぞらえているあたりは菊池さんらしいですね。(笑)

つまりは、「誰がいい」という関係ではなく「誰でなければいけない」という関係のことを付き合うと考えているということ。

今巻のラストでは菊池さんの価値観とか考え方がかなりつまびらかになりますが、ラストまで読んだ後に改めてこのセリフを見ると、その根幹となる考え方を実は最初から示していたんだなぁということが分かります。

なんというか、ノリと勢いだけでそこまで意味のない展開やセリフばかりの小説も少なくありませんが、こうしてみると弱キャラ友崎くんの構成がかなり緻密に計算されていることが分かりますね。

七海みなみの場合

「二人とも、私のなりたい姿だったりし て・・けど私にはなれない姿だったりもして」

七海みなみの場合、友崎くんに話を振られてちょっと戸惑い気味であまり自分の考え方がまとまっている感じでもありませんでしたが、要するに「補い合い」ということなのかなぁと捉えました。

菊池さんが双方向での付き合うということの意味を語っていたのに対して、七海みなみは自分が付き合いたいと思う対象について語っているのが特徴的ですね。

どっちも「なるほど」と思う部分のある考え方だと思います。

中村の場合

「もしもじゃなくて、俺が現実として一緒に飯食ったのは優鈴なんだから、俺にとっては優鈴が特別ってことになるだろ」

日南さんの課題とは違いますが、中村の語っていた付き合うということの意味についても対比のため拾ってみました。(笑)

菊池さんや七海みなみが相手の人格。そして感情的なことを語っていたのに対して、中村は現実のできごとを基準に考えているのが興味深いですね。

異性に対する好意に理由付けはしていなくて、単に過去に何かをして楽しかったからとか、現実のできごとに則している。

ある意味では小難しい感情的な考え方よりもシンプルで、文字通り現実的なのかもしれませんね。

日南さんの取材

菊池さんは脚本をより良いものにするため、日南さんのことを知りたいと思うようになります。

というのも、菊池さんの脚本『私の知らない飛び方』のアルシアのモデルは日南さんで、しかしアルシアのみ強いだけで『弱さ』の無いキャラクターだと感じていたからだそうです。

「リブラは不器用で、クリスは怖がりで・・けどアルシアは、強いだけで『弱さ』がないんです」

今巻では珍しく菊池さんが友崎くん以外のキャラクターとも関わっていこうとしていますが、この取材もその一つですね。

まあ、このエピソードでは日南さんのベールが脱げてきたというよりも、むしろ謎が深まったというか、伏線が増えたような気もしますが、今巻においてそこは重要なポイントではないと思います。

「日南さんはたぶん、嘘を言っていたと思います」

上っ面ではない日南さんのことを知っている友崎くんも、さすがにそれを菊池さんに話したりはしていませんが、そんな日南さんの内面の部分に気付きかけているあたり菊池さんが意外と聡いですね。

後に、人生をプレイヤー視点で語る友崎くんに対して、菊池さんは作家視点であると語られますが、作家視点で客観的に周囲を観察する能力に長けているからこそ日南さんに何かあると気付きかけているのかもしれません。

「けど・・アルシアのことが、だんだんわかってきたかもしれません」

正直なところ、菊池さんが何を察しているのかまでは読み解けきれていないのですが、ラストの展開を鑑みても、もしかしたら友崎くん以上に日南さんのことが分かりかけている可能性もありそうですね。

菊池さんの脚本の変化

今巻は全体を通して面白い構成だと思います。

それは、菊池さんの脚本に菊池さんの変化が反映されている点。

考えてみれば、今まで菊池さんが友崎くん以外と会話しているシーンってほとんどありませんし、実際にそんなシーンって想像しづらいものがありました。

ですが、今巻では菊池さんは積極的に友崎くん意外とも関わっていこうとしています。

自分が書いた脚本の舞台をやるというのがキッカケにはなったのでしょうけど、頑張って変化・成長していく友崎くんを見習いたいという思いが節々に現れていましたね。

そんな菊池さんの変化が、菊池さんと菊池さんの周囲の人たちをモデルにしている脚本の内容に反映されていっているのが面白いですね。

そういう演出だからか、菊池さんの書く『私の知らない飛び方』の脚本がかなりのページ数分割かれています。

菊池さんが誰に対してどんな印象を持っているのかとか、そういうところを読み解こうとすると面白いです。

告白と返事と結末

この文化祭で誰かに告白することは友崎くんの目標でした。

今巻の初めに攻略対象の候補として、七海みなみと菊池さんをチョイスしていた友崎くんですが・・

「文化祭で演劇が終わったあと・・話したいことがあるんだ」

友崎くんが最終的に選んだのは菊池さんでした。

これは菊池さん派の僕としては嬉しい結果ですが、どうやら七海みなみの方が人気があるらしいことや前巻の展開、短編集での七海みなみの活躍を鑑みると意外な結果でもあったかもしれません。

しかし、考えてみれば友崎くんが恋人として選ぶ対象と考えた時には菊池さんの方がしっくりくる気もするんです。

七海みなみはどちらかといえば親友感のある女の子って感じですし、一方の菊池さんは1巻の頃から友崎くんと二人で独特の世界を共有しているような雰囲気がありましたからね。

ですが友崎くんが選んだからといって、それでうまくいくかといえばそうではありません。

友崎くんの思いを察した菊池さんは、なんと脚本の最後に友崎くんの知らないラストシーンを付け加え、間接的に友崎くんを振ってしまうのです。

何となくその予兆はありましたが、それは雰囲気だけでそう思っていただけで何故なのかは理由が分かりませんでした。

「菊池さんはいま図書室!! 劇でのやり取りだけで答えを出すなんて、絶対よくない!!」

そして、フラれてショックを受けている友崎くんの背中を押すのが七海みなみだって所が熱い展開ですね。

まあ、明らかに七海みなみは友崎くんが菊池さんに好意を持っているであろうことには気付いた上で、ずっと不安そうな様子でしたからね。

「たしかに、クリスはリブラがいいのかもしれません。けどアルシアは、リブラじゃないとだめ、なんです」

そして、菊池さんの理由が語られます。

考えてみれば、菊池さんの語っていた付き合うってことの意味がちゃんと反映された理由になっていますね。

その後、プレイヤー視点の友崎くんと作家視点の菊池さんの意見のぶつけ合いが始まります。

しかし、これは明らかに菊池さんに分が悪い口論だったと思います。

「クリスはリブラがいい」と、友崎くんが好きなのだと菊池さんは自分で言ってしまっているわけですからね。

友崎くんによる菊池さんへの説得は、告白というにはかなり理詰めな感じではありましたが、この2人らしいとも感じました。

「やっぱりリブラは・・鍵を開けるのが、得意なんですね」

そして、結果的に友崎くんの告白は成功します。

最後までの物語をなぞらえて答えるところは菊池さんらしいところですね。

「ま、もーいいよ! 正直わかってる! 友崎のことだから、私なんかよりもちゃんと 考えて、きちんと選んだんだろうなって」

そして、忘れてはいけない七海みなみ。

友崎くんはちゃんと七海みなみにもことの経緯を報告しています。

告白と振るということを同時に経験した友崎くんですが、そこまで気まずそうなことにならなくて良かったですね。

原作小説の完成版

自分の好きなことに素直になる。

それは友崎くんが菊池さんに教えたことです。

そんな友崎くんと付き合うことになった菊池さんは・・

「友崎くんが、教えてくれたから。自分の感情に素直になっていいんだよ、って」

自分のために書いたという『私の知らない飛び方』の原作小説の完成版を友崎くんに読んで欲しいと言います。

それも、持ち帰って読むという友崎くんに「それはいやです」との拒否。

ここまで分かりやすい否定のセリフを菊池さんが放つのは初めてではないでしょうか?

「だから、ありがとね。大好きだよ、リブラ」

そして、そこまでして友崎くんに読んで欲しいと言った小説のラストには、友崎くんの告白への返事がしたためられていました。

「だってそれは俺と菊池さんが一緒に作った物語の結末で。菊池さんが自分の気持ちを したためた、俺にとって最高の傑作なのだから」

いやはや、このラストはずるいですよね。

内容が面白いのはもちろんですが、今巻は本当に構成が素晴らしかったと思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

本当に見所満載で面白い1冊だったと思います。

実は、弱キャラ友崎くんは相当好きな作品なので、最初からこうして読み終わったらこうしてレビュー記事を書く気満々だったのですけど、読後あまりにも見所が多すぎて僕にこの魅力を綺麗に纏めて発信することができるのか不安になったりもしました。

いや、本作品に限らず僕がどこまで纏められているのかには疑問の余地があるんですけどね。(笑)

それにしたってこの1冊は面白すぎた。

最近は読書をする時には、レビュー記事を書くことを見越してポイントとなるセリフや一節に今まで以上に注目するようにしているのですけど、この1冊を読んで感じたのはそういうポイントというか、伏線にもなり得そうなポイントがあまりにも多かったということ。

単純にページ数の多いライトノベルって、流し読みできるような蛇足的なエピソードや会話がそれなりにあったりするものだと思うのですけど、弱キャラ友崎くんの7巻にはそんな部分が一切無かったように感じました。

もちろん良い意味で。

不必要なものは削ぎ落としたような作品なのにこのボリューム。

どれだけ濃密な作品なのかということが分かりますね。

ですが物語的には佳境を迎えて、恐らくそこまで先は長くなさそうな感じです。

このまま濃密なまま終わらせてほしいので引き延ばしてほしいとは全く思わないものの、そう考えると寂しくもなってきますね。

とはいえ、少なくとも折り返しは過ぎていると思いますが、さすがに終わりはまだまだ先という感じもします。

特にパーフェクトヒロイン日南さんのことについては、その本質についてまだ描かれていないような気がしますしね。

菊池さんの言っていた「アルシアはリブラじゃないとだめ」という発言の意味あたりには、もしかしたら何かの伏線が含まれていそうな気がしますね。

日南さんに裏側があることに気付きかけている聡い菊池さんのセリフだからこそ説得力があります。

それに、付き合い始めた菊池さんと友崎くんがどのように過ごすのか?

続きが気になって仕方がありません。

早く読みたいものですね♪