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漫画、ラノベ、映画、アニメ、囲碁など、好きなものを紹介する雑記ブログです。

『弱キャラ友崎くん』人生を攻略するラノベがアニメ化するらしい

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tomozaki-koushiki.com/

 

弱キャラ友崎くんとは、パーフェクトヒロイン・日南葵が、人生はクソゲーと断じるもののゲームの腕はピカイチの主人公・友崎文也に、人生というゲームとの向き合い方を教えるというのがストーリーの骨子となる小学館ガガガ文庫から刊行されているライトノベルとなります。

・・って、それだけ言うとなんじゃそりゃってストーリーですが、マジではっちゃけたストーリーのラノベが蔓延っている世の中においては限りなく正統派に近い学園青春ものなのではないかと思います。

その詳細は後述するとして、作者の屋久ユウキ先生が生み出すどこかに本当にいそうだけどライトノベルらしさもある魅力的なキャラクターたちが織り成す学園生活が本当に楽しそうな作品で、どのキャラクターにもいつかの自分を重ねてしまうような何かがあって常に誰かに共感していられます。

これは個人的な感想ですが、直近10年のライトノベルの中では5本指。学園青春ものに限れば間違いなく1番に選定したい作品となります。

だからこそ、なかなかアニメ化って話が出てこないことを意外に思っていたりもしたのですが、2021年1月ついにアニメ化されることになったようです。

最初にアニメ化って情報が出たのは2019年の10月に8巻が発売した頃だったと思いますが、いよいよですね!

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弱キャラ友崎くん』とは?

弱キャラ友崎くんは2016年5月から小学館ガガガ文庫から刊行されている学園青春もののライトノベルで、屋久ユウキ先生のデビュー作品となります。

このライトノベルがすごい!』でも今のところ常にトップ10入りしている人気作で、ジワジワと順位を伸ばしていますね。アニメ化直前の今年、どうなるかも楽しみなところです。

天然ではなく努力で学園のパーフェクトヒロインの地位を確立している日南葵が、『アタファミ(大乱闘スマッシュブラザーズが元ネタ)』では日本ランキング1位をキープするほどの腕前を誇るくせに、同じくらいの神ゲーである『人生』をクソゲーと断じている友崎文也に苛立ち、人生はクソゲーではなく神ゲーであると説くところから弱キャラ友崎くんの物語は始まります。

人生は神ゲーなのかクソゲーなのか?

やってみないと分からないとばかりに日南葵の指導の下、友崎文也が人生というゲームに全力で取り組んでいく過程が面白い作品です。

日南葵が友崎文也がリア充になるために出す課題は一見なかなかハードルが高いものですが、よくよく考えてみれば多くの人は無意識の内に普通に、あるいは意識的にクリアしてきたものです。

しかし、それが体系的に課題として出されることでなるほどと思わされるのが興味深いところで、今まさに友崎文也と同じようにリア充になりたいと思っている人にとってはある意味ハウツー本のようになっているのが少し面白いです。

ゲームになぞらえていますがある意味当たり前の青春が描かれていて、だからこそ共感もしやすくて、しかしゲームになぞらえているからこその面白さもある。弱キャラ友崎くんはそんなライトノベルなのではないかと思います。

ライトノベルにありがちな、超常的な要素やあまりにも現実離れしたキャラクターや設定というものは弱キャラ友崎くんには基本的にはありません。そういう突出したものが無くても面白いと思える名作中の名作なのです。

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登場人物について

前述した通り、本当にいそうだけどライトノベルらしさもある魅力的なキャラクターたちが登場します。

現実であれフィクションであれ学校のクラスのような一定員数の集団には何故か似通った人間関係が形成されがちですが、一人一人のキャラクターがそんな人間関係の要素を強調しつつもバランス良く構成しているような気がします。

また、面白いもので現実には同じ個人でも所属する集団が異なればそこでの立ち位置が変わるものです。例えば、ある集団では菊池風香のように目立たない立ち位置の人間が、別の集団では日南葵や水沢孝弘のようなリーダー的な役割を担うこともあったりしますよね?

だからなのだと思いますが、弱キャラ友崎くんのキャラクターの誰もにどこか共感できるところがあったりするのが面白いところなのだと思います。

イラスト担当のフライ先生のキャラデザも、キャラクターの特徴を捉えていて秀逸ですよね。

友崎文也(主人公)

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弱キャラ友崎くんの主人公。ハンドルネーム『nanashi』として『アタファミ』の日本ランキング1位をキープする腕前のゲーマーですが、人生はキャラの性能差で決まるクソゲーであり、自分自身は弱キャラであると断じて基本的には人生に対して無関心だったキャラクター。

しかし、パーフェクトヒロイン・日南葵に人生は神ゲーであると諭され、それに最初は反論するものの、日南葵に出された人生を楽しむための課題をこなしながら人生が思っていたほど悪いものではないと思い始めます。

いわゆる自己研鑽に無関心で自虐的すぎだっただけで、実は真剣に取り組むと決めたことに対しては積極的かつ賢さもあるので、まるでゲームでレベルが上がるが如くどんどん成長していきます。

その証拠に原作の巻数の付け方も『弱キャラ友崎くんLv.1』のようにレベルアップして行ってますね。(笑)

日南葵(パーフェクトヒロイン)

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学力も体力もナンバーワンな上に、誰もに好かれる学園のパーフェクトヒロイン。そんなパーフェクトヒロインぶりは天然のものではなく、実は努力と研鑽のたまものである。また、周囲には知られていないが『アタファミ』でもハンドルネーム『NO NAME』として日本ランキング2位をキープしている。

だからこそ『アタファミ』では自分より上を行く実力者であるにも関わらず、同じ神ゲーである人生をクソゲーと断じて自己研鑽を怠る友崎文也に最初は苛立った様子を見せ、その後人生の攻略方法の指南役のようになります。

ちょっと天然なところを見せることもありますが、それすら周囲の空気に合わせた計算されたようなもので、パーフェクトヒロインとしての努力は怠らない。

ちなみに、チーズ好きでチーズに目が無いところだけは天然なのではないかと思われる。

七海みなみ(メインヒロイン1)

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クラスのムードメーカー的な存在でとにかく活発で明るい性格で誰にでも気さくに接する少女ですが、部活でも学力でも日南葵に劣ることを気にしていて、生徒会選挙では日南葵の対抗馬となる。

その時にブレーンとして活躍したり、夏林花火がクラスの女王エリカのいじめの対象になった際にはその阻止に尽力したりした友崎文也に好意を寄せるようになっていきます。

このライトノベルがすごい!』では唯一キャラクターランキング入りしたことのある人気キャラで、何故か食パンの『超熟』が20周年を迎えた際のポスターにコラボして描かれたりしています。

ニックネームが「みみみ」だったりするので、パンの「みみ」ってことでしょうか?

菊池風香(メインヒロイン2)

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特段いじめられていたり疎外されているわけではないものの、一歩クラスの輪かから外れたところにいる大人しい性格の少女で、いつも図書室にいる本好きでマイケル・アンディの作品を特に好みます。

引っ込み思案でどちらかといえば人付き合いが苦手そうなタイプだが、人間観察力に優れていて日南葵の作られたパーフェクトヒロインぶりの裏側に気付いている素振りもあります。

また、日南葵が友崎文也に出した課題における中くらいの目標において最重要の立ち位置にいるキャラクターでもあるのですが、ネタバレになるので詳細は割愛します。

興味がある人は『弱キャラ友崎くんLv.7』を読むか、下記の『弱キャラ友崎くんLv.7』のネタバレ含む感想の記事を読んでみてください。

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夏林花火(クラスメイト)

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七海みなみと仲が良いちっちゃい少女。

自分の気持ちに正直で思ったことを飾らずにズケズケと話すところが魅力でもあるが、その分クラスメイトと衝突してしまうことも多い。

それが原因でいじめにも発展したが、友崎文也の協力もあって少し自己改革したこともあり再びクラスの輪に溶け込むことができるようになった。

この友崎文也の協力は、日南葵に自分が出された課題を解決してきた経験を活かしての協力だったので、ある意味では友崎文也の成長をかなり分かりやすい形で体現したキャラクターであるともいえる。

泉優鈴(クラスメイト)

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まさに今時の少女を体現したかのような少女。クラスの女王エリカの友人だが、エリカが嫌っているような相手や、友崎文也のように少し浮いたところのある相手でも分け隔てなく接する人懐っこさがある・・が、それが原因で微妙な立場に苦労しているような場面も見受けられる。

クラスのリーダー格である中村修二のことが好きでとても一途である。

水沢孝弘(クラスメイト)

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美容師を目指すイケメンで、いつもひょうひょうと余裕のある態度を崩さない。

クラスのリーダー格というわけではないが、立ち回りの上手さはパーフェクトヒロイン・日南葵を彷彿とさせるところがある。

友崎文也が自己改革しようとしていることを誰よりも理解している様子で、しかも協力的である。

だからなのか友崎文也も水沢孝弘のことは頼りにしている様子で、日南葵の課題をこなす際でもそうでない場面でも、水沢孝弘の立ち居振る舞いを参考にしている節がある。

中村修二(クラスメイト)

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ちょっとガキ大将っぽさのあるリア充でかなりの負けず嫌い。友崎文也に『アタファミ』で惨敗するも、その後練習を重ねてレベルアップしてみせたことがある。

かなり威圧的なタイプのキャラクターなのでいじり辛さがあるものの、だからこそ日南葵は中村修二をいじることを友崎文也に課題として出したこともある。

それで意外と思ったことならズケズケ言うタイプの友崎文也にいじられまくったことがあるので、ある意味では可哀そうかもしれません。(笑)

竹井(クラスメイト)

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メインキャラの中で唯一名字しか明らかになっていない竹井ですが、意外と美味しい(本人的には美味しくない)役どころを常に担っています。

かなりのお調子者で、何かあっても「竹井だから」と免罪符のように許される(?)愛されキャラ。

一歩間違えばいじめられっ子のような扱いをされることもあるが、そう感じさせない所が竹井の魅力なのではないかと思います。

既刊リンク

『りゅうおうのおしごと(13)』JS研まみれの閑話休題(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

JS研まみれの閑話休題な13巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

特に9巻以降、毎巻今回が一番だと思えるほどの勢いがあったりゅうおうのおしごと!ですが、空銀子の三段リーグ編がひと段落したところで13巻は久々の閑話休題となります。

父親のヨーロッパ転勤の影響で引っ越すことになった水越澪との別れを、過去のドラマCDのエピソードを思い出話として絡めながら一冊かけて描いた内容になっています。

というわけで、かつてないほどにJS研に溢れた内容になっているのではないかと思います。

思い出話のエピソードが再録に近い形なので不満に感じている人も多いようですが、個人的にはドラマCDという媒体はあまり好きではなく今まで聞いていなかったこともあり新鮮な気持ちで読めました。

作者の白鳥士郎先生曰く、もともと水越澪との別れはちゃんと描きたかったことと、コロナ禍で本編を進める上での十分な取材ができなかったために13巻はこのような形式になったそうなのですが、三段リーグ編がひと段落したところで結果的にタイミングとしては絶妙だったのではないでしょうか?

とはいえ、ロリコン将棋ラノベといっても実のところ将棋成分の方に魅力がある作品なので、ロリコン成分が多めの13巻は少々消化不良は否めないかもしれません。逆にロリコン成分を求めている人には嬉しい内容かも?

ただし、将棋の対局シーンは水越澪と雛鶴あいの対局の一つだけですが、こちらは三段リーグの人生を賭けた対局とは別種の、少女たちの友情を確かめ合うような熱さがある魅力的なシーンになっていました。

なお、次巻の14巻からは最終章となるようです。

同じく過去の短編の再録であった8巻を振り返ると、力を溜めていたかのようにその後の9巻から12巻の物語の勢いは凄かったので、最終章となる14巻以降はそれ以上の勢いが期待できるのではないかと思っています。

ピックアップキャラクター

実のところJS研は本編のストーリー上そこまで重要な役割を果たしているキャラクターではありませんが、主人公の九頭竜八一のロリコン指数を示す上での重要なバロメーターになっています。(笑)

というのは半分冗談にしても、雛鶴あいに同世代の仲間が必要だったことがJS研の大きな存在理由だったのではないかと思います。

しかし、物語が進むにつれJS研のストーリーも深掘りされてきました。なにわ王将戦のエピソードもそうでしたが、13巻の水越澪の旅立ちのエピソードもまたりゅうおうのおしごと!におけるJS研の役割が想像以上に高いことを示しているのではないかと思います。

水越澪

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雛鶴あいの初めての将棋友達でJS研のリーダー格。とても明るい人懐っこい性格ですが、将棋指しとしては雛鶴あいに対して少々複雑な思いも抱えていたようです。「あいちゃんの友達になんてなりたくなかった」と水越澪が雛鶴あいに放った言葉の真意。そして水越澪が雛鶴あいに送った本当の贈り物は何だったのか。その辺が13巻の見所にもなってきます。

ネタバレ含む感想

JS研の思い出話

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天衣

誰が天●飯よ!?

思い出話は本編には直接関係が無いので個人的に気になったエピソードを振り返ってみたいと思います。本編ではいつの間にか雛鶴あいからも「天ちゃん」と呼ばれていた夜叉神天衣ですが、ドラマCDのエピソードで水越澪が「天ちゃん」と呼んだのが最初だったのですね。

本編では最初から自然に受け入れていたのが夜叉神天衣の性格的に不思議に感じていたのですが、既に仇名に対するひと悶着は終えた後だったようです。

馴れ馴れしいと文句を言う夜叉神天衣の反応を受けて「じゃあ・・天さん?」と言われた後の夜叉神天衣の反応がまた面白い。

お嬢様、ドラゴンボールを読んでるんですね。(笑)

なんとなくですけど、付き人の池田晶の影響な気がします。

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空銀子

小童。桂香さんは?

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あい

二度とこんなことを思いつかないよう制裁を加えておきました

本編でも何となく空銀子贔屓の気がある清滝桂香ですが、最近はちょっと面白いキャラ扱いになっていることも多いですよね。当初は主人公の九頭竜八一が慕っていることもあって憧れのお姉さん的なキャラだったのに、ちょっとオジサン化が進んでいる上に他のキャラからの扱いも酷いことが増えてきているような気がします。(笑)

その分親しみもありますけど、どうしても思わずクスリとしてしまいますね。

ちなみに、これは空銀子の誕生日に空銀子と九頭竜八一が二人きりで食事できるように画策したことで、空銀子本人からも雛鶴あいからも怒りを買ったというシーンでした。

いずれのドラマCDのエピソードも、何故か基本的には九頭竜八一がロリコンであるということを本編以上に強調するようなものでしたが、まあJS研まみれの13巻らしい内容といえばそんな気もします。

強烈な努力

水越澪とJS研の別れのエピソードに何故か登場してきたのは本因坊秀埋こと天辻埋でした。放送禁止用語を連呼する酔っ払いのお姉さんですが、将棋のお隣囲碁の世界で女性でありながら本因坊のタイトルを保持する凄い人です。

今まで誰もなし得なかったことをなし得た女性として空銀子に関連したエピソードに登場するなら分かるのですが、何故彼女がJS研のエピソードに絡んできたのか?

それは恐らく、今回雛鶴あいに悔しさをプレゼントするために「強烈な努力」を行った水越澪の見届け人として本因坊秀埋が相応しいキャラクターだったからなのではないかと思います。

なぜ本因坊秀埋が相応しいのかといえば、「強烈な努力」とは本因坊秀埋の元ネタである囲碁界の大棋士藤沢秀行名誉棋聖の言葉だからです。

そして、そんな水越澪の「強烈な努力」の結果こそが13巻の最大の見所なのではないかと思います。正直なところ、僕は水越澪に限らずJS研のキャラクターはあまり好きではありませんでしたが、今回のエピソードで結構好きになったかもしれません。

雛鶴あいに対して非常に友好的だった水越澪でしたが、もちろん雛鶴あいに対する感情の中に友情も含まれていたのでしょうけど、そうではない嫉妬もあったことが語られています。

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水越澪

でもね? だったらもっと頑張ってみようって思ったの! 一番になれないからこそ、いっぱい負けて悔しい思いをたくさんするからこそ、もう一度だけ全力で頑張ってみようかなって思ったんだ!

しかし、その嫉妬こそが水越澪のモチベーションにもなったようです。

この別れの対局に向けて水越澪がしてきた努力。徹底的な雛鶴あいの研究と番外戦術まで駆使したとはいえ、本来駒落ちの実力差のある相手を負かすのは並大抵のことではなかったのではないかと思われます。そう考えると、悔しさという感情はその人に諦めをもたらすこともあるかもしれませんが、それ以上に成長を促す可能性を秘めているとも言えますね。

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水越澪

澪は、あいちゃんの友達になんてなりたくなかった

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あい

みお・・ちゃん・・?

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水越澪

だって澪が本当になりたかったのは・・あいちゃんのライバルだから!

今まで自分より格上に追い付いて、追い抜いていくばかりであった雛鶴あいにとっては初めて本気の本気で格下相手に敗れた経験となるわけですが、なるほどそういう経験を与えるというか、追い抜き合うことができる関係をライバルというのであれば、水越澪はここで初めて雛鶴あいのライバルになり得たのかもしれませんね。

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あい

・・わたしは、強くなる。強く・・なりたいっ!!

そして、この雛鶴あいの決意こそが水越澪によってもたらされた贈り物でした。

水越澪は、空銀子がプロになれてもなれなくても雛鶴あいのモチベーションが下がり、最悪将棋を辞めてしまう原因になるのではないかと危惧していました。それを心配して・・というだけではないとは思いますが、少なくとも雛鶴あいが将棋を辞めることは無いでしょうし、今まで以上に高いモチベーションを得たことは間違いないと思います。

また、水越澪によってもたらされた大量の雛鶴あいの研究成果もまた雛鶴あいの将棋に大きな影響を与えることが予想されます・・が、気になるのはこれらの研究成果を以って強くなることは師匠である九頭竜八一の意図からは外れてしまう可能性があるということですよね。

AIにしても序盤の勉強にしても、九頭竜八一は圧倒的な終盤力を伸ばすために意図的に雛鶴あいの修行からは省いていたところとなるはずです。

雛鶴あいは大好きな師匠の意に反したことをするタイプの少女ではありませんが、今度は一体どうでしょうか?

いつかは雛は羽ばたいていくものですし、もしかしたらその時は近いのかもしれませんね。

14巻からは最終章ということですしね。(笑)

シリーズ関連記事リンク

禁断の女装男子・男の娘属性のキャラクター10選

 

昔から一定の人気があるいわゆる男の娘というキャラクター属性があります。通常男にはほぼ存在しないはずの女性的な可愛らしさを前面に押し出した属性ですが、こういったキャラクターは存在しないものを持っているからこそ魅力的に感じられるのかもしれませんね。

中高生の文化祭の演劇なんかで女装・男装が一種の定番になっているのも、多くの人が存在しないものへの魅力への憧れが大なり小なりあるからなのかもしれません。

僕も決してアブノーマルな嗜好の持ち主というわけではありませんが、男の娘キャラクターは決して嫌いではありません。何故か好きなキャラクターだと言いづらいところもありますが。(笑)

また、そういった男の娘属性のキャラクターも一種類だけではありません。女体化や外見が女子っぽいだけのキャラクターもまた男の娘とされることがありますが、本記事で紹介しようとしているのは全て女装による男の娘となります。

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10.綾崎ハヤテハヤテのごとく!

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週刊少年サンデーで連載されていた人気ラブコメの『ハヤテのごとく!』から、主人公の綾崎ハヤテです。

基本的には何をさせてもハイスペックな借金執事という独特なキャラクターだが、一発ネタのような形で登場した女装姿が割と頻繁に登場するようになってきます。

女装がバレないように名乗った綾崎ハーマイオニーという『ハリーポッター』のハーマイオニー・グレンジャーが由来だと明らかな偽名が特徴的で、コスプレ感の強い女装ではありますが、知らない人には本当に女性であると思わせるほどのクオリティがあるようです。

9.白鳥隆士まほらば

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解離性同一性障害、いわゆる多重人格のヒロインの人格がそれぞれヒロインとなる珍しいハーレム系ラブコメまほらば』から、主人公の白鳥隆士です。

女装系キャラには、完全に女性と見分けが付かないキャラクターと、確かに綺麗で可愛いけどよく観察したら分かりそうなキャラクターがいると思いますが、白鳥隆士の場合は後者なのではないかと思います。

女装させられてる感の強さが妙にそそられます。(笑)

そういえば中の人は綾崎ハヤテと同じ白石涼子さんですが、それもあって女装が似合う男性キャラの役柄のイメージが一時期強かったような気がします。

ちなみに、白鳥隆士にも女装時にも綾崎ハーマイオニーほどのインパクトはありませんが、白鳥隆子なる名前があります。

8.漆原るか(STEINS;GATE

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タイムリープものの名作『STEINS;GATE』から、主要キャラの一人である漆原るかです。

女性よりも女性らしく、その女性らしさを褒められることが多いが、「だが男だ」と最後にオチを付けられるのがお約束のキャラクター。

ちなみに、本記事では紹介していませんが中の人は『まりあ†ほりっく』の衹堂鞠也というメイン級の女装キャラも演じている小林ゆうさんです。白石涼子さんもですが、女装キャラを演じる声優さんは他の女装キャラも演じるのが上手いのかもしれませんね。

7.不動権三郎(カイチュー!)

不動権三郎というなかなかお堅い名前の『カイチュー!』の主人公です。

神の子と呼ばれるほどの弓道の天才ですが、その才能ゆえに実家の道場から破門されてしまい真面目に弓道できなくなったが、その後紆余曲折あり弓道への情熱を取り戻していく・・というスポーツ漫画に登場しそうな経歴のキャラクターではあるのですが、漆原るかと同じく男をドキドキさせてしまうほどの女装男子で、「だが男だ!」とツッコミたくなるほどです。(笑)

ちなみに、そんな不動権三郎という女装男子がヒロインという変わった作品ですが、この『カイチュー!』は弓道を描いたスポーツ漫画としても普通に面白い作品なので興味を持った人は読んでみて欲しいです。

6.國崎出雲(國崎出雲の事情

いわゆる歌舞伎の女形である『國崎出雲の事情』より國崎出雲です。なるほど女装男子や男の娘という言葉がありますが、女形というもっと歴史のある呼び名もありましたね。(笑)

役者として物心つく前の幼少から女形をしてきたのですが、ある日自分が女形をさせられていることに気付いてそのことに拒否感を持っていて、男の中の男に憧れています。

ただし、役者としての才能は抜群で、その上努力も惜しまない性格です。

そんな國崎出雲が主人公だからでしょう。『國崎出雲の事情』は役者を描いた作品としての完成度が非常に高い作品であるとも言えます。

5.波戸賢二郎(げんしけん

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オタクの感情表現がちょっと古臭くはありつつもリアリティのある『げんしけん』より波戸賢二郎です。

もともとは腐女子と一緒にBLを楽しみたいがために女装しているという建前を持って女装していたが、本当にそれだけなのか恐らく本人すら分かっていなさそうなところが面白いキャラクターです。

女装キャラは、あくまでもノーマルな男子が何かしらの理由で無理に女装しているか、心に女性的なところがあるか、あるいは普通の男だけどファッション的に女性のファッションを好んでいるだけか、大きくはこの三つに大別されると思います。

波戸賢二郎の場合、一つ目の要素は薄めですがこの三つの間を揺れているような雰囲気があって、その不安定な感情が妙にリアルに感じられます。

4.小鳥遊練無(Vシリーズ)

森博嗣先生の『Vシリーズ』より小鳥遊練無です。

登場する作品の傾向が本記事で紹介している他の作品とは少し違うので、本記事の読者にはもしかしたら知らない人も多いかもしれませんが、個人的には女装男子と聞いて真っ先に思い浮かぶキャラクターの一人なのでピックアップしました。

内面はあくまでも普通の男(といってもぶりっ子っぽい感じだが)だが、スカートがヒラヒラ広がるようなファンシーな服装を好んでいて、小柄でもあるので女装が気付かれにくい系男子である。

しかし、少林寺拳法の心得もあって荒事にも対応できる男らしい一面もあります。

本記事で紹介している中では唯一の活字の女装キャラだが、それだけに原作である『Vシリーズ』の一冊目となる『黒猫の三角』がコミカライズされた際には小鳥遊練無がどのように描かれるのかにかなり興味がありました。

3.大空ひばり(ストップ!! ひばりくん!)

暴力団の組長の長男で、頭も良く運動神経も良い優等生・・だが、一部の関係者を除いて男であることを知らないという『ストップ!! ひばりくん!』の大空ひばりです。

女装男子のキャラクターには、女装しているという一点を除けば非常にハイスペックなキャラクターが多いと思いますが、その元祖なのではないかと思われます。

子供の頃、テレビアニメ版の再放送を見たことで知った作品ですが、大空ひばりというキャラクターには当時衝撃を受けた記憶があります。(笑)

『ストップ!! ひばりくん!』は本記事で紹介している中では圧倒的に最古の作品であり、有名な打ち切り作品でもありますが、大空ひばりはとても中毒性のあるキャラクターになっていて、女装男子の可能性を示した作品なのではないかと思います。

2.二鳥修一(放浪息子

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放浪息子』より主人公の一人である二鳥修一です。

放浪息子』はかつてこれほどまでに自らの性別に疑問のあるトランスジェンダーについて真摯に描いた作品があったかと思わされるほどに特徴的な作品となります。

二鳥修一は女の子になりたい男の子で、同じく男の子になりたい女の子であるヒロインが傍にいます。そんな二人を取り巻く周囲の視点も含めてトランスジェンダーに向き合っているところが興味深くも面白い作品なのですが、それだけに二鳥修一の女装には他の女装男子キャラとは違った興味深さがあると思います。

二鳥修一本人以上に、その周囲が二鳥修一のことをどう捉えていて、それがどう変化していくのか。そんなところに面白さがあります。

1.南野のえる(ミントな僕ら

男が主人公という珍しい少女漫画『ミントな僕ら』から主人公の南野のえるです。

吉住渉先生の少女漫画の舞台は基本的に普通の日常という感じのものが多いですが、その中によくよく考えるとぶっ飛んだ設定が多いのが特徴で、『ミントな僕ら』ではシスコン気味の南野のえるが双子の姉の転入先の学校に女装してまで追いかけていくという物語になっています。

女装男子が主人公の作品は癖が強いことが多いですが、昔ながらの恋愛もの少女漫画が好きな人でも楽しみやすい割と普通の少女漫画であるところも興味深い作品で、そういう意味では南野のえるはそこまで癖が強いわけではないのに強烈なアクセントになっている主人公であると言えるのではないかと思います。

一番の支え!魅力的な母親キャラが登場する漫画・ラノベ・アニメ作品10選

フィクション作品において、殊更2次元作品においては母親という属性のキャラクターがメインで活躍することはほとんどありません。
何でなんだろうと考えてみれば、やっぱりフィクション作品で描かれるのは未来に向けての話であって、そこに親子関係が描かれているのであれば子供の側がメインになるのは当たり前といえば当たり前の話なのかもしれません。
そういう意味では父親という属性のキャラクターも同じような扱いに感じられます。
しかし、良い意味でも悪い意味でも子供にとって親の影響力ほど大きいものはありません。 だからだと思いますが、物語の主人公の両親について主人公自身にスポットを当てるためにあえて触れない(ほとんど触れない)ようにしている作品も少なくありません。もちろん、そういう作品で主人公の両親が登場しない理由はそれだけではないかもしれませんが、そういう一面もあるのではないかと僕は考えています。
逆にメインキャラ級に両親が登場する作品の場合、かなりその影響力が大きいように感じられがちな気がします。
本記事では、そんな両親の中でも母親属性のキャラクターの中から個人的に魅力的だと感じるキャラクターを紹介したいと思います。

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10位.浦飯温子(幽遊白書

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幽遊白書』の主人公である浦飯幽助の母親であり、息子と同じく破天荒な性格をしています。その言動は一見するとあまり良い母親には見えないところもあり、いわゆる毒親のように感じられるところもあるのですが、息子への愛情は息子である浦飯幽助本人が想像もしていなかったほどに深く、事故死した際に泣き崩れていた姿は浦飯幽助が自分が死んだことを悲しみ人間がいると自覚するキッカケにもなりました。

そういう意味では、当初は浦飯幽助が生き返るための物語であった『幽遊白書』という作品の重要なキーパーソンでもあるのですが、アニメ版では大幅に出番を削られるなど不遇なところもあります。

その理由も、主人公の母親が傍にいると影響力が強くて浦飯幽助を思うように動かせないというところにあったらしく、まさに母親という属性の影響力の強さを再認識させられるエピソードでもあると感じます。

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9位.野原みさえ(クレヨンしんちゃん

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クレヨンしんちゃん』の主人公は幼稚園児の野原しんのすけですが、そういう意味では全く自立していない上に狭い世界観の中にいる主人公なので両親の存在感が強くても違和感が無い珍しい作品なのではないかと思います。

どちらかといえば、時折素晴らしい言動を見せる上に実は意外と格好良い父親の野原ひろしにスポットが当たることが多いですが、母親の野原みさえもまた愛情深い良い母親だと思います。

近年の劇場版では、ヒロインどころかほとんど主人公クラスの活躍を見せたこともありますが、まさに母親の愛情が溢れた作品になっていました。

余談ですが、アニメ版放送開始時に野原しんのすけと同世代だった子供も今や野原みさえよりも年上になっています。そういう意味では今の世代の母親に母親の姿を教えてきたキャラクターであるとも言えるかもしれませんね。

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8位.工藤有希子(名探偵コナン

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フィクション作品に登場する母親キャラクターには一種の格好良さがあることが多いような気がしますが、『名探偵コナン』の工藤有希子もまた非常に格好良いキャラクターですよね。

怪盗のような変装の技術を持っていたり、探偵のような推理力も持っていたり、『名探偵コナン』に登場するキャラクターの中でも意外とハイブリッドな能力の持ち主でもあります。

主人公の工藤新一(江戸川コナン)の母親なわけですが、息子が命の危機に瀕して幼児化したことを聞いて心配して自身の元へと連れて帰ろうとするものの、しかしそれが息子の意思とは違うことを知ったらその意思を尊重しようとします。

少々浮世離れした母親ではありますが、息子とのことを心配はしつつも信頼している姿は母親のお手本のようでもあって興味深いと思います。

7位.坂井千草(灼眼のシャナ

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灼眼のシャナ』の舞台は普通の現代社会ですが、その裏側では異能力者と異世界の住人との戦いが行われているという作品となります。

主人公の坂井悠二はその裏側に巻き込まれていくタイプの主人公ですが、その母親である坂井千草はあくまでも普通の現代社会の住人であり、普通であれば存在こそするものの物語上はあまり関わってこないタイプのキャラクターなのではないかと思います。

しかし、坂井千草の場合はあくまでも一般人であるにもかかわらず坂井悠二を通してそれとは知らずに裏側の世界の住人とも関わることがあります。そして、あくまでも普通の一般人の母親らしさを損なわない範囲で、そうした裏側のキャラクターへも影響を与えていく所があるのが興味深いキャラクターなのではないかと思います。

母親という属性の影響力が邪魔になることもあるから多くの作品で母親はモブキャラになっているのではないかとは思っているのですが、モブキャラのまま実は物語に大きな影響を与えているという意味で珍しいキャラクターなのではないかと思います。

6位.野比玉子(ドラえもん

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遊んでばかりいて勉強しなかったりしたら母親は怒るものであるということを、のび太のママこと野比玉子から学んだ人は多いのではないでしょうか?(笑)

昭和後期から平成にかけての小学生の子を持つ母親のイメージとして、これほどしっくりくるキャラクターも逆に珍しいですね。いや、個人的に自分の母親と比較すると似ても似つかないのですけど、どうにも野比玉子には母親のイメージとイコールになるところがあるような気がするのです。

現代においてはあまりこのように怒る母親は珍しいような気もしますが、そもそも怒るという行為はもの凄く疲れるもの。のび太を繰り返し叱ることの労力は想像に難くありませんが、それを思うとこのママの怒りの度合いはそのままのび太への愛情であるとも捉えられます。

・・なんてことは子供にはなかなか理解できない所なのだと思いますが、そう考えると野比玉子もまた素敵な母親なのではないかと思います。

5位.ベルメールONE PIECE

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ONE PIECE』における麦わらの一味の航海士ナミの義母であるベルメールは、娘とも大人げなく喧嘩することもある子供っぽいところがあって、それに要領の悪いバカと言われてもしようがない性格をしているのですが、そんな不器用な愛情がとてつもなく格好良いキャラクターです。

長い『ONE PIECE』の連載の中では刹那的にしか登場していないキャラクターであるにもかかわらず、そんな不器用な格好良さがその他の個性的なキャラクターの数々を差し置いて印象に残っている人は少なくないのではないでしょうか?

「口先だけでも親になりたい」と、ナミやその姉のノジコの母親を名乗るために命を賭した姿は、あまりにも哀しくて感動的でした。

4位.天羽雅音(ウィッチブレイド

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母親という属性のキャラクターは物語への影響力の大きさからあえて存在感を薄くされがちとは前述したところですが、『ウィッチブレイド』の場合はその母親自身が主人公という珍しい例となります。

天羽雅音には記憶障害がありある時期より前の記憶が無いのですが、記憶喪失時に持っていた母子手帳から天羽梨穂子が娘であると認定されていました。しかし、実はこの母娘には血縁関係が無いことが後々明らかになるという複雑な関係だったりします。

実の娘だと思っていたら違ったことに葛藤はあったものの、最後に天羽梨穂子のために戦う姿は本物の母親と同じ愛情が含まれていたような気がします。

3位.チチ(ドラゴンボール

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ギャグ系から始まったバトル系少年漫画『ドラゴンボール』ですが、作中での時間経過が非常に長くキャラクターの年齢的な成長が地味に興味深い作品だったりします。

最初ははねっ返りでお転婆な小娘というキャラクター性で登場したチチも、その後は美しい女性へと成長したかと思えば、意外にも子供の教育に熱心な母親へと転身し、最後には孫ができておばあさんになるという歴史の感じられるキャラクターです。

年齢を重ねるごとに年相応の性格に変わっていくのに、しかしちゃんと根本のところは同じチチなのだということが分かるのが興味深いところですね。

息子の孫悟飯の将来が何より大切で、父親の孫悟空孫悟飯を修行に連れて行こうとする時は大抵何かしらの危機があるのですが、渋々修行を許可することもあるものの、それでも基本的には孫悟飯の将来の方が危機的状況よりも優先度が高いという息子大好きお母さんです。

2位.陽炎/影法師(烈火の炎

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烈火の炎』における主人公の烈火の母親である陽炎は、母親という属性のキャラクターの中では他にあまり例がないほど重要な役割を担っています。

最初は敵として登場した上で烈火たちを物語の主軸へと巻き込んでいく役割を担っているかと思えば、そもそも物語の主軸である火影の因縁の中心に近いところにもいて、母親でありながらヒロインの一人くらいのレベルで活躍することになります。

また、肉体年齢はかなり若いものの400年以上生きてきたこともあり、若い女性らしい可愛らしい一面を見せることもあるかと思えば、基本的には妖艶さのある面白いキャラクターでもあります。

赤ん坊だった息子が高校生になってから、しかも敵として再会したことで最初は親子関係がぎこちない感じなのですが、徐々に距離感が変わっていくところが見所です。

1位.本田今日子(フルーツバスケット

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フルーツバスケット』は様々な親子が描かれているのが特徴的な少女漫画ですが、そんな中でも最も心に残る親子はやはり主人公である本田透とその母親の本田今日子だと思います。

とはいえ、本田今日子は物語の最初から既に故人なのですが、であるにも関わらずその影響力が娘である本田透にあまりにも深く根付いていて、本田透を通して本田今日子とはどのような人物だったのかがひしひしと伝わってくるのが興味深いところです。

若い頃は伝説的なヤンキーだった本田今日子の影響を強く受けた娘が良心の塊のような人間に育っていることに妙な納得感があるのも面白いところで、その納得感の正体は本田今日子が娘によく言っていたという「人は良心(やさしさ)を持って生まれてこない」「良心は体が成長するのと同じで自分の中で育てていく心」というセリフにあるのだと考えられます。

本田今日子の良心が育つまでには本田透の父親との出会いをキッカケとした経緯があるわけなのですが、それで良心は育つものだと気付いた本田今日子は最初から自分の娘には良心が育つように育てたのだと思います。

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二次元キャラと自分の年齢を比較してみて感慨深くなる話

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アニメ、漫画、ライトノベルに登場するいわゆる二次元のキャラクターの中には現実にはあり得ないような能力や個性を持っていたりと、多かれ少なかれ浮世離れしたところがあります。

しかし、そんな彼らにも当然年齢は存在します。(不詳の場合もありますが)

なんて当たり前すぎる前置きをしてみましたが、僕はこの二次元キャラの年齢というものと自分の年齢を何となく比較してしまいがちなことがあって、ふとそのことを書き記してみたいと思った次第です。

例えば、ずっと年上だと思っていたキャラクターの年齢にいつの間にか追い付いていて、面白いと思うよりも感慨深くなったような経験をしたことがある人は少なくないのではないでしょうか?

そんな二次元キャラと自分の年齢を比較してみて感慨深くなる感覚に共感してくれると嬉しいです。

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サザエさん時空の長寿アニメ

キャラクターと自分の年齢を比較しがちなのはやっぱりサザエさん時空の長寿アニメなのではないかと思います。中でも主要な登場人物の年齢にバラツキがある作品で考えてみるのが面白いです。

個人的には『クレヨンしんちゃん』や『名探偵コナン』あたりで年齢比較してみることが多いのですが、ここで試しに比較してみましょうか。

クレヨンしんちゃん』の場合

原作開始:1990年

アニメ開始:1992年

野原しんのすけ:5歳

野原みさえ:29歳

野原ひろし:35歳

野原ひまわり:0歳

近年では親子二世代でのファンが多い長寿アニメの一つですが、ごくごく一般的な家庭(と言っても野原ひろしは中々の勝ち組ですが)が描かれているということで、自分の家族と比べて見ているような人も多そうですよね。

劇場版の作品も人気ですが、本記事のテーマで語る上で外せないのが2010年に公開された超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁という作品。

これは未来のしんのすけの花嫁を名乗るタミコという女性が、未来のしんのすけを救うために5歳児のしんのすけの力を借りに来るという物語なのですが、そういうわけなので未来のしんのすけや春日部防衛隊にひまわりが描かれているのが興味深い作品なのです。

公開時期的に、『クレヨンしんちゃん』の原作やアニメが始まった頃にしんちゃんと同世代だった子供が成人を迎えて数年後になる作品であり、そういう意味でも大人になったしんちゃんが登場する作品という所に何かしらの意図を感じずにはいられません。

そして、そんな作品ですら今から10年前の作品になるわけで、時間の流れとは怖いものです。(笑)

ちなみに、しんのすけの生年月日は原作開始時点をリアルタイムと仮定すると1985年生まれということになります。1985年生まれの人にとっては一緒に成長してきた同級生というわけですね。

まあ、しんのすけは永遠の5歳児ですが。

本記事の筆者である僕も丁度1985年生まれなのですが、なんと今年でひろしと同い年になります。怖い怖い・・

しんのすけからオバサン扱いされるみさえよりは完全に年上で、みさえくらいの年齢の女性は普通に若くて可愛らしく見えるオジサンです。

元はしんのすけと同い年であったことを考えると、いかに『クレヨンしんちゃん』が長命な作品であるかが伺えますね。

名探偵コナン』の場合

原作開始:1994年

アニメ開始:1996年

少年探偵団:6~7歳

工藤新一:16歳

毛利小五郎:38歳

阿笠博士:52歳

少しズレがありますけど、『クレヨンしんちゃん』と似たような感覚を持てるのが『名探偵コナン』です。

個人的には工藤新一や毛利蘭と同い年になった時に少し大人になったように感じたのを覚えています。今思えば16歳くらいだとまだまだ子供ですが。(笑)

小さくなった名探偵のコナン君と連載開始時に同い年だった人は、2004年に工藤新一と同じ16歳、2020年現在は32歳でそろそろ毛利小五郎が見えてきています。

そう考えるやっぱり時間の流れって怖い怖い・・

さすがに阿笠博士はまだまだ先ですが、多くの人がそう感じるように大人になってからの時間の流れの感じ方は凄いスピードですし、それもあっという間なのかもしれませんね。

それまでには『名探偵コナン』もさすがに完結しているような気もしますが、連載開始時から『名探偵コナン』を読んでいた子供が阿笠博士と同い年になってもまだ読んでいる姿を想像すると感慨深くなります。

『弱キャラ友崎くん(8.5)』パーフェクトヒロインの内面も描かれる短編集の感想(ネタバレ注意)

 

Lv6.5に続き弱キャラ友崎くんにおける2冊目の短編集となります。

魅力的なキャラクターが多数登場するようなラノベが巻数を重ねると短編集が増えてくるのはひとつの特徴だと思いますが、弱キャラ友崎くんもそういった特徴を備える作品になってきました。

また、こういった作品の中には短編集は退屈だと感じさせれるようなタイトルもあったりしますが、早く本編を読みたいという思いは確かにあるものの短編集は短編集で魅力的で面白いと感じさせれれる作品も少なくありません。

僕は、弱キャラ友崎くんの場合は後者なのではないかと感じています。

Lv6.5の場合は、大きな分岐点となる7巻に繋がる内容になっていましたし、そして今回のLv8.5は主にその7巻、あるいは8巻を補完するような内容になっていました。

7巻自体が下手したら2冊分はありそうな相当なボリュームでしたが、考えてみればそんな7巻を補完しているような短編も相当数あることになります。

作者の屋久ユウキ先生がいかにこの7巻を重要なターニングポイントであると捉えているのかが伝わってきますし、それだけの納得感のあるエピソードであったことは否定のしようがありません。

・・とまあ、長々と述べてみましたが端的に言うと「今回も面白かった!」の一言に尽きます。

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本作の概要

中くらいの目標である彼女を作ることを達成した友崎君ですが、そこに至るまでには様々なことがあり、その後が気になるところが多かったと思います。

彼女が出来た友崎君もですが、彼女となった菊池風香はどう感じているのか?

彼女になれなかった七海みなみは?

彼女になるキッカケとなった脚本を書いた菊池風香はどこまで日南葵の内面を見透かしていたのか?

そんな気になるところが補完されるような内容の短編集なのだと感じました。

本作の見所

ファースト・クリスマス

友崎君の立ち回りが既に下手なリア充よりもリア充っぽいような気がしますね。(笑)

下手なリア充というのが我ながらよく分からない言葉ですけど、言わんとするところは何となく伝わるのではないかと思います。

要は、リア充を目指しているからこそ自身のことはリア充では無いと思っているだけで、傍から見たら完全にリア充であるという・・ね。

まあ、あまり作中ではリア充という言葉は使われていないような気もするというか、既に死語になっているような気もしますが、弱キャラ友崎くんを読んでいるとリア充という言葉を何故だか思い出しがちになります。

今何回リア充って書きましたっけ?

・・なんて前置きは置いておいて、これは時系列的に7巻直後くらいのエピソードになるのでしょうか。つまり、菊池風香が友崎君の彼女になった直後、その帰り道の二人の初々しい感じが読んでいてくすぐったく感じられます。

最初のデートの約束というある意味では最初のデート以上に楽しいかもしれないイベントが見所だと思います。

名もなき花

メインヒロインでありながら、あえて表面的な部分ばかりが描かれていると思われる変わったキャラクター。パーフェクトヒロイン日南葵に深入りした短編となります。

最初からある程度化けの皮を被っていることが明らかなキャラクター性が判明している上に、本編は基本的に友崎君の視点で語られているので当然の帰結といえば当然の帰結なのですが、裏側の存在が最初から明らかなのに分からないというのが興味深いキャラクターではありますよね。

そんな日南葵の妹の存在は仄めかされていましたが、この短編ではそんな二人の妹が初めて描かれています。

誰でもある程度は友人に対する顔と兄弟に対する顔は違ったりするもので、だからこそ妹に対する日南葵がどのように描かれるのかは興味深いところです。

また、日南葵のアタファミとの、そしてnanashiとの出会いについても描かれているのですが、何より興味深いのが日南葵の中くらいの目標が明らかになる点。

中くらいの目標という言葉自体は、日南葵が友崎君に課している課題の中間到達点を指す言葉で弱キャラ友崎くんの読者としてはおなじみの言葉ですが、考えてみれば日南葵が自身に対してもそんな目標を課していてもおかしくないですし、日南葵のキャラクター性からも非常に納得感のあるところです。

「nanashiを超える」

日本最多人口を誇る個人競技の覇者なら自身の孤独を共有できるのではないかという思いから立てたそれが日南葵の中くらいの目標で、確かに中の人の友崎君はともかくとして日南葵がnanashiに対して何かしらの尊敬の念を持っているであろうことは1巻の時点で分かっていたことだと思いますが、まさかそれが中くらいの目標だとまでは思っていませんでした。

しかし、本編での日南葵はご存じの通り常に友崎君に課題を出し続ける上位者のような立ち位置で描かれています。

本編における日南葵が自身の中くらいの目標に対してどのように考えて取り組んでいるのか、そもそも変わったりはしていないのか、その辺がかなり気になるところではありますよね。

好きな人のカノジョ

七海みなみと菊池風香。

友崎君に告白してフラれた少女と、友崎君に告白されて彼女になった少女。

あまり空気を読まないことでお馴染みの夏林花火ですら空気を読む二人のやり取りが興味深い短編です。

ちなみに、日南葵に対してはかなり聡いと思わされる言動のあった菊池風香でしたが、七海みなみが友崎君のことを好きだった、まして告白までしていたということは知らなかったようです。

この短編で本人から暴露されていますが。(笑)

まあ、この二人のキャラクター性からすると険悪になったり気まずくなりすぎたりすることは無さそうだとは思ってはいたので方向性としては予想の範疇という内容でしたが、それでも中々に興味深い内容でした。

七海みなみの心情としては恐らく、自身の気持ちを菊池風香にも伝えることでスッキリしたかったのだと思います。

あまり褒められた行為ではないものの、だからといって止めることも微妙なラインの行為ではありますが、それを真摯に受け止めて会話しているのは菊池風香らしいと感じました。

「ありがとね。ほんとに」

これは恐らく菊池風香にとっては不要だけども、七海みなみにとっては必要な会話だったからだと思いますが、七海みなみは二度も礼を言っています。

しかし、ここで七海みなみと菊池風香の二人は随分と分かり合っているような気がしますが、何となく今後本編で友崎君がこの二人に何かしら怒られるような事態が起きそうな予感があったりもしますね。(笑)

嘘と朝焼け

何だか友崎君の周りをかき回していくことになりそうなレナのことを描いた短編となります。

レナは8巻で登場したばかりでまだよく分からないところのあるキャラクターなので、正直なところ短編で深掘りされていってもあまりピンとこないところがある上に、あまり弱キャラ友崎くんらしくないエピソードでもあるので感想に困るところがあったりします。

とはいえ、こうして短編の主人公にまでなるということは今後本編でもかなり重要な立ち回りを見せることが予想されますし、注目しておくべきキャラクターなのかもしれませんね。

みんなのうた

こういう短編ではカラオケのエピソードってひとつの定番ですよね。

アニメ化するらしいですし、アニメ化作品でも定番のエピソードという気がします。すこし古い定番な気もしますけど。(笑)

カラオケは特性上どうしても会話が少なくなりがちですが、選曲や歌い方なんかで性格が出るので面白いですよね。

炬燵の天使

菊池風香が主人公の短編です。

どうやら菊池風香の弟は姉と違って活発な性格らしく、彼氏ができたことを揶揄われて恥じらうという珍しい菊池風香が見られます。クラスメイトとの間柄ではあまりいじられたりするキャラクター性ではありませんからね。

まあ、そんな菊池風香が描かれているだけでも十分なのですがそれはあくまでもこの短編の導入部。

文化祭の打ち上げの際の日南葵とのやり取りを回想しているところがメインとなります。

菊池風香が日南葵の内面にかなり気付きかけているのは7巻の時点で明らかだっただけに、ただでさえ珍しい組み合わせのやり取りが非常に興味深いです。

なんというか、日南葵が菊池風香の目を通して自分自身のことを知ろうとしているような、そんな印象を受けました。

勇者友崎の冒険 VR体験版

ボーナストラックということなので一言だけ感想を言うと、竹井って実はメッチャ愛されてるキャラクターなのではないかと思いました。(笑)

総括

いかがでしたでしょうか?

菊池風香や七海みなみといった7巻で渦中にいたキャラクターが目立つ印象がありましたが、それ以上にパーフェクトヒロイン日南葵の内面にかつてなく踏み込んでいるのが興味深かったような気がします。

主人公である友崎君の視点からだと内面が未だよく分かっていないパーフェクトヒロインと一言で片づけられるキャラクターの特性上、本編ではその表面的な部分が強調して描かれているところがありました。

しかし、人の内面にかなり聡いところのありそうな菊池風香視点の短編で、かな~り日南葵の内面に踏み込んでいます。なんだかんだメインヒロインなのだとは思うので、今後はこの日南葵というキャラクターを詳らかにしていくことになるのではないかと僕は予想しています。

8巻の時点でその予兆はありましたしね。

そういうわけで友崎君が中くらいの目標を達成するまでのエピソードは一区切りなのだと思いますが、だからこそ今後の展開が読みづらいところがあります。

早く9巻を読んで、その答えが知りたいところですね!

『りゅうおうのおしごと(12)』限定版の小冊子の感想(ネタバレ注意)

 

りゅうおうのおしごとの12巻は本編も面白かったですけど、限定版の小冊子も銀子ファンには嬉しい内容でしたね。

作者の白鳥先生による銀子というキャラクターについての解説。

人気イラストレーターによる銀子のイラストギャラリー。

そして八一と銀子がただただイチャついているだけの短編小説。

こちらは時系列的には八一が帝位戦の挑戦者決定戦に挑む前のエピソードですね。

限定版とはいえ比較的求めやすい価格でこの内容はなかなかお得な気がしませんか?

とはいえ、限定盤は限定版を購入した人の特典のはずなので、そこまで極端に内容を詳らかにしてレビューするつもりはありませんが、オススメしないのももったいない内容だと感じたので本編とは別にレビューしてみたいと思います。

あっ、良かったら本編のレビューの方も読んでみてくださいね!

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空銀子というキャラクターについて

こちらでは空銀子というキャラクターの設定について、作者の白鳥先生が自ら執筆して語られています。

主人公の八一やメインヒロインの雛鶴あいを差し置いて語られるほど銀子が人気キャラクターであるということが分かりますね。

実際、最近の銀子の活躍ぶりには目を見張るものがあります。というか、11巻と12巻では銀子以外のヒロインの存在感が随分と薄れてしまっていますからね。

それに、作者自身も6巻以降は銀子がほぼ主役になっていることに言及しています。

まあ、銀子以外の彼女たちにも今後活躍の場はあるのでしょうけど。

また、各巻における銀子の役割の変化についても語られていますが、それもまた実際に読んで感じていた通りでした。ただ、もともと5巻で終わる予定だった作品が続くことになったことで、本来のプロットに添った展開にした結果が今の銀子の状況でもあるようなので、もしかすると序盤の銀子は意図的に本来の役割を歪めて・・は言い過ぎにしても表には出さないように描かれていたのかもしれませんね。

結果論ですけど、そのことが空銀子というキャラクターにギャップを与え、より魅力的なキャラクターに押し上げることに繋がったのではないかとも思います。

更に、銀子のモデルについても言及されています。

りゅうおうのおしごとには現実の将棋界にあったエピソードを参考にしたようなお話が多々あったり、現実の棋士を思わせるようなキャラクターも多いので、当然誰がモデルなのだろうかという考察は多くの人がしてきたことなのではないかと思いますし、僕も将棋界には疎いものの空銀子というキャラクターは現実に存在しそうなギリギリのライン上のキャラクターなので、自分が知らないだけでモデルはいるのだろうと勝手に思っていました・・が、どうやらそれは間違いだったようですね。(笑)

この小冊子を読んで「えっ、そうなの?」と思った人も多いのではないでしょうか?

空銀子イラストギャラリー

全てのりゅうおうのおしごとのイラストを知っているわけではないので既出なのかは判断できませんが、しらび先生によるものとゲストイラストレーターによるものとで空銀子のカラーイラストが大量に掲載されています。

個人的には、しらび先生の描いた幼い頃の銀子が将棋盤の横でリラックスして寝転がっているイラストが気に入りましたけど、他のイラストも時間を掛けてジックリ眺めたくなるようなものばかりでした。

ちなみに、ゲストイラストレーターには『処刑少女の生きる道』のニリツ先生、『天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~』のファルまろ先生のお二方がいました。

ファルまろ先生の銀子は本家に近い雰囲気ではあるものの、本家にありそうで無さそうな感じが良いイラストでした。そして、ニリツ先生の銀子はただただ格好良かったです。

銀子とただイチャイチャするだけの話

12巻の本編の内容は奨励会編のクライマックスということもあり、三段リーグを戦うメインキャラクター以外のキャラクターにもスポットが当たっており、その内容も将棋に命を賭ける人生の断片が垣間見えるようなものだったり、リーグ終盤の激闘が中心に描かれていました。

11巻の封じ手の続きをはじめてとした八一と銀子のラブコメも描かれてはいましたが、表紙から受ける印象に反して11巻ほどラブコメ成分はありません。

従って、将棋ラノベとして読んでいる人にとって12巻は激闘の連続で読み応え抜群のクオリティだったと思いますが、ラブコメの続きが読みたい人にとっては少々物足りなさを感じる内容だったのではないかとも思います。

しかし、そんな物足りなさを補完しているのがこの短編小説になっているようです。

ハッキリ言って、ビックリするほど内容はありません。まあ、本編じゃないのにそこに重要な内容が含まれていても困りますけど。(笑)

なんとタイトル通り、約40ページにも渡って八一と銀子がイチャイチャしているだけの短編小説になっています。

八一が帝位戦の挑戦者決定戦に挑む前なので、時系列的には12巻の本編に照らし合わせると序盤のエピソードとなります。

本編の帝位戦の挑戦者決定戦で八一は名人にアッサリ勝利していますし、銀子も三段リーグで好調を保っていたタイミングですが、なるほどその裏でこんなことをしていたわけだと思わされます。

読んでいて恥ずかしくなるバカップルぶりを二人が発揮している上に年齢のことを考えたらかなり際どいイチャイチャぶりでもあるので、読んでいて相当お腹いっぱいになります。(笑)

そういえば本編では、八一が銀子にコスプレをさせたりと八一の性癖が垣間見えるようなシーンはありましたが、銀子のそういう所はあまり描かれていた記憶がありません。

しかし、この短編小説ではむしろ銀子のかなり特殊かつ意外な性癖が明らかになっていて、その辺が本編のみを読んでいる人には分からない見所なのかもしれません。

引かれるかもと思いつつその性癖を暴露してしまって、八一に身体が目当てだったのかと言われてしまうという、いつもとは立場が逆転していそうな会話が面白かったです。

『りゅうおうのおしごと(12)』かつてないほど人生が描かれているラノベの感想(ネタバレ注意)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

奨励会編のクライマックス。三段リーグを争う命を賭けたキャラクターたちに心が震える12巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

奨励会編が佳境なので11巻から引き続きメインヒロインである竜王の弟子たちの出番は少なく、表紙からお察しの通り空銀子にかなりのスポットが当たった内容になっています。

とはいえ、描かれているのは表紙の初々しいバカップルっぽいエピソードではなく、最後まで気の抜けない奨励会編のクライマックスとなります。

そういうわけで空銀子一色に染まった内容というよりは、むしろ三段リーグでしのぎを削って戦う空銀子の対戦相手達を深く掘り下げていった内容という印象ですね。

即ちメインキャラクター以外にスポットが当たっているシーンが多めなのですが、それでも退屈するような部分は一切なくて、むしろメインキャラクターに頼らずともここまで高クオリティの作品になっているのはさすがの一言です。

あとの無い年長者である鏡州飛馬。

盤外戦術に長けているけど実は・・な辛香将司。

空銀子に負けて自身の才能に疑問を持つ椚創多。

そして将棋の星の王子様に追い付きたい空銀子。

読んでいて、最後にはその誰もに昇段してほしいと思わされるほど感情移入させられますが、そういうわけにもいかない厳しい勝負の世界が描かれています。

しかし、散々波乱を起こしまくる展開になっているのに、その結果に後味の悪い部分が無いのが素晴らしいですね。

また、見所は奨励会編だけではありません。

その裏(というか本来的にはこちらが表なのでしょうけど)では九頭竜八一が二冠を賭けて於鬼頭曜帝位に挑んでいて、主人公としての存在感を遺憾なく発揮しています。

また、あとがき後の感想戦では以前より伏線の貼られていた「九頭竜八一が関東でなんと呼ばれているのか?」という答えが出てきます。

そして、将棋だけではなく恋愛面での勝負(?)にも進展があります。

八一と銀子の関係性は随分と順調のようですが、そのことを一番弟子に伝えられずにいる八一。

そのことを察している様子ではあるものの同時に避けている節のある雛鶴あい。

そういうわけで12巻でのメインヒロインさんは大人しかったですが、代わりに二番弟子の夜叉神天衣が強制封じ手を敢行します。(笑)

小さなヒロインたちに巻き返しはあるのか?

その辺も今後の見所のひとつになってくるかもしれませんね。

ピックアップキャラクター

空銀子一色だった11巻とは打って変わって、12巻では非常に数多くのキャラクターにスポットが当てられています。

これまでの奨励会編の対局では、どうしてもメインキャラクターの一人である空銀子に感情移入してしまいがちでしたが、人生を賭けて戦う奨励会三段リーグ編のクライマックスにふさわしく他のキャラクターの視点でも深堀りして描かれていることで、12巻ではどのキャラクターにも感情移入できてしまいました。

なので、12巻のレビューではここで特定のキャラクターをピックアップしたりはしませんが、要はそれだけ濃密に脇役すらも描かれているということであって、それがこの1冊の最大の魅力なのではないかとも思います。

それにしても、雛鶴あいのような子供がメインヒロインだったり、時には清滝鋼介のようなおじさんがメインを張ったり、そして12巻のように多種多様なキャラクターが活躍したり・・

それでいて全く違和感なくりゅうおうのおしごと!らしさを崩さない作品。

将棋というゲームがそれだけ多くの人に愛されるものだからこそ、それに触れるキャラクターを選ばないということなのかもしれませんね。

ネタバレ含む感想

封じ手の練習がしたい

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空銀子

「誰か! 誰か早くあのバカを止めてっ!」

帝位への挑戦を決めた八一へのインタビューを配信で見ていた銀子が青ざめながら発したセリフですが、なんだかりゅうおうのおしごと!という作品の中においては・・というか八一と銀子の間においては、封じ手という言葉が二つの意味を持つようになってしまいましたね。

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八一

前回の封じ手は緊張しすぎて、味わう余裕が全くありませんでしたから

はて、八一が味わう余裕が無かったのは名人との竜王戦のことでしょうか?

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八一

まだまだ経験値が足りません! もっともっともっと封じ手をしたいです!

はい。明らかに違いますね。(笑)

幸いにも八一が何を言っているのかは銀子にしか分からないハズなので問題がないといえばないわけなのですが、画面越しに焦る銀子が可愛らしいシーンでしたね。

というか、わざとなんじゃないかとすら思ってしまいます。(笑)

とまあ、本作品では意外と珍しい11巻でのラブコメの続きも12巻では見られますが、実際に真面目な意味で封じ手がポイントとなる展開になっているのが面白いです。

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八一

ええ。一晩考えられるアドバンテージは大きすぎます。敢えてやるなら一日目は定跡部分で止めるしかないでしょうね……

帝位戦の1局目は、二日目が始まって僅か15手で終わってしまいます。

そして、その理由は八一が封じ手した後の一晩を使って局面を読み切ったからなのですが、本当にそれが可能なら確かに封じ手というシステムの使い方は勝敗に直結してきます。

まあ、それが勝敗に直結するほどの実力者であればという前提は当然あるのでしょうけど。

それにしても、八一が最後に読みを入れる瞬間が、さながら雛鶴あいが終盤力を発揮する時の姿に重なるのも良かったですね。

そんな感じで5巻の名人戦以降、努力や苦労を重ねつつも常に強くなっていっている印象のある八一ですが、そんな八一が関東の棋士から恐れを込めて何とか呼ばれているらしいことが以前から伏線として貼られていましたが、それが12巻の感想戦で明らかになります。

それは、西の魔王

少し安直な気もしますが、名人が神なので竜王が魔王というのは発想としては面白いですね。それに、こういうのは安直な方が分かりやすくて良い意味もありそうです。

もし、あいつの視点で書かれた物語なんてものがあったら、それはきっと……どんな壁でも努力で越えられるとかいう、さぞ希望に満ち溢れたお話なんでしょうね。でも書いてる本人は気付いてないんだ。一番高い壁が自分自身だってことに。最高の喜劇ですよ。最高に残酷な

これは、まさにりゅうおうのおしごと!という作品そのものを示したセリフなのだと思いますが、なるほど本作品には九頭竜八一を主人公とした視点とは別に、九頭竜八一をラスボスとした作品の一面もあるのだと言っているような気もしますね。

例えば、空銀子はまさしく八一に追い付こうとしているのが動機のキャラクターの筆頭ですし、もしかしたら作者の白鳥先生はりゅうおうのおしごと!のクライマックスを他のメインキャラクターの誰かによる九頭竜八一への勝利にしようとしているのかもしれないと僕は推測します。

三段リーグの終盤戦

この辺、あまりにも多くが描かれていて見所が多すぎるので、各キャラクターについて一言ずつコメントしていきたいと思います。

空銀子

11巻で立ち直りはしたものの、既に喫した黒星が消えるわけではないので常にギリギリの戦い強いられることになります。

やはり勝った方がプロとなる最終戦。しかも相手はずっとお世話になっている鏡州飛馬という戦う前から精神的にツライ相手の対局が見所となります。

完治しているとはいえ不安は拭えない心臓を抱えて、それをも自分自身で叱咤しながら戦う姿が熱いです。

最後の決め手に雛鶴あいから出された詰将棋の問題が役立つという奇跡的な展開も素敵ですが、そういえば何だか12巻では空銀子と雛鶴あいの絡みがかなり多かったですよね。

もともと相性の良くないキャラクター同士が良好になっていく展開が個人的には好きなので、この二人の関係性がどうなっていくのかって個人的にはかなり気になるポイントだったりします。

それにしても、空銀子の対局シーンは二面的なところがあって興味深いです。

女流棋戦に絶対王者として君臨する風格のある姿と、歯を食いしばって将棋星人に追い付こうとする挑戦者としての姿。

本作品の序盤では前者の姿が主に描かれていたので、この奨励会編では空銀子というキャラクターへの印象が随分と変わったような気がします。

あと、本編では三段リーグに臨む凛々しい姿が主に描かれていて、11巻のラブコメの続きは控えめな印象でしたが、限定版の小冊子がそんな不足を補う内容になっているので、空銀子ファンなら限定版の方をオススメします。

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椚創多

天才とは何故天才なのか?

そんなことを12巻の椚創多からは考えさせられますよね。

空銀子や辛香将司は天才ではありませんが、天才であるはずの椚創多はその二人に敗れてしまっています。

自分は本当にまだ天才なのかと悩む姿も見られたり、いくら将棋が強くてもまだ小学生なのだろうと思わされるメンタルの弱さが露呈してきます。

もともと才能の無い相手にはハッキリそう言って挑発する小生意気なキャラクターでしたが、どうやらそんな態度には天才である自分に本気になってくれない相手を本気にさせたい意図があったらしいことが分かったり、そこそこ古株のキャラクターのわりに実はその内面まであまり触れられていなかったのだということがこの12巻で分かりました。

鏡州飛馬との対局では勝利してしまうことすら躊躇ってしまったり、新たな一面が見えたりして良い意味で印象の変わったキャラクターだと思います。

また、以前から何故かやたらと八一に懐いていた理由も明らかになっています。

坂梨澄人

女性の奨励会三段に初めて負けた奨励会三段になってしまい、それを引きずって連敗をしていたキャラクターです。三段リーグの序盤で人目もはばからず泣いている姿が描かれていたのが印象的で、まさか3人目の昇段者になるとは思いませんでした。

最初に連敗したことで他の奨励会三段からの警戒が薄れ、精神的にも開き直ったのか連勝を続けたことが結果に繋がったわけですが、本人も自分が合格したことを知らず奨励会を去ろうとしているところに昇段の連絡があったとしても、ちょっと想像しにくい感情になってしまいそうですよね。

鏡州飛馬

椚創多が空銀子に敗れて以降ずっとトップを保ってきたにも関わらず、最後は椚創多と空銀子に連敗して昇段には至りませんでした。

・・と、これだけ書くと単なる敗北者でしかありませんが、椚創多と同じくこちらも随分と好感度を上げてきたキャラクターなのではないかと思います。

特に、椚創多との対局のラストは良かったですね。

周囲の誰もが鏡州飛馬の勝ちで、椚創多が投了を躊躇っていると認識していたシーンで、ただ一人実は椚創多が躊躇っているのは投了ではなく、詰みがあるのにそれが鏡州飛馬の首を斬ることに繋がると感じて躊躇っているのだと気付いて、それを指すように促したシーンは素敵でしたね。

椚創多も鏡州飛馬も本作品においては名前のある脇役くらいのキャラクターですが、このシーンにおいては完全に主人公になっていました。

清滝鋼介が鏡州飛馬に託したネクタイ。それを鏡州飛馬の意思を継いでプロ棋士になると宣言した椚創多に託していく展開も良かったと思います。

辛香将司

番外戦術ばかりであまり良い印象のないキャラクターでしたが、こちらも意外な過去が明らかになって随分と印象が変わってきました。

というか、空銀子は当初から辛香将司のことを相当苦手に感じている様子でしたが、それが苦手でなくなった理由が素敵すぎる。

なぜか空銀子の病気のことを知っていて、しかも明石先生からリークされたわけでもないらく、本当に完治しているのかと脅してくる自分の二倍以上の年齢の中年男性。

言葉にすると女子高生からしたら怖すぎるキャラクターですが、考えてみれば明石先生の同期なのだから単に昔から空銀子のことを知っていた可能性はあったわけですね。

実は、空銀子こそが辛香将司が一度やめた将棋の世界に戻ってきた理由だったりするのです。

辛香将司は病院で子供たちに将棋を教えていて、その中に幼い空銀子もいたようなのですが、そんな辛香将司を慕って将棋を指す子供たちは次々と亡くなっていってしまいます。

そのことをツラいと感じていた辛香将司は、しかし空銀子のように元気に今でも将棋を指している姿を見て再び再起する決心をしたわけなのですね。

そんな背景を知ると、不気味で悪質に見えたキャラクターが一気に違うものに見えてくるから不思議です。

また、何かと悪ぶった言動の中に実は空銀子への気遣いが含まれていたというのも衝撃です。

しかし、その悪意のない本質を空銀子に知られてしまったことで敗北してしまったのは少々皮肉かもしれませんね。

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空銀子

私は強くなった。もう『かわいそう』な私じゃない。だから──」 銀子は辛香を睨みつけると、吠えた。全身から闘志を剝き出しにして。「だから! つべこべ言わずに本気でかかってこいッ!! 辛香ッッ!!

対局中の空銀子と辛香将司の会話は、とても温かい気持ちになれる素敵なものだったと思います。

空銀子の感謝

前述しましたが12巻では空銀子と雛鶴あいの絡みが今までより少し多めです。いや、メインキャラクター同士にしては今までが少なすぎたのかもしれませんけど。

小童と見くびるようなことを言ってはいても、どうやらしっかり八一と同じ将棋星人の枠に雛鶴あいを入れているらしいことが12巻では分かります。

将棋星人の中でも破格の翼(さいのう)を持つあいつら

鏡州飛馬との対局の中で、なかなか打開できない局面を前に考える「あいつら」とは、どうやら八一と椚創多と雛鶴あいのことのようです。

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空銀子

真っ直ぐ伸びて行きなさい。私には必要ない長手数の詰将棋だって、あんたには必要なものなのかもしれない。私では吸収しきれない八一の発想も、あんたなら吸収できるかもしれない。生まれた時から将棋の星にいる、あんたなら

この辺の雛鶴あいとの会話の背景には辛香将司の番外戦術に不安になっているところもあるのだと思いますが、それだけに雛鶴あいに対する本音でもあるのだと思います。

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空銀子

強くなった雛鶴あいと、もう一度…………盤を挟んでみたかったわ

そして、空銀子と雛鶴あいのカードは今後読んでみたいカードの筆頭でもありますよね。

ともかく、この時に雛鶴あいから渡された詰将棋が空銀子の四段昇段を決める最後の決め手になるという奇跡があまりにも素敵すぎます。

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空銀子

小童にお礼、言わなきゃ……

もちろん、確かに雛鶴あいは負けず嫌いを発揮して空銀子に詰将棋を渡しただけのことでしたが、それでもそれが起こした奇跡であることには違いありません。

雛鶴あい以外にも、月夜見坂燎に女流棋士室を使わせてもらったことに感謝の言葉を示したり、ある意味では今までの空銀子っぽくないセリフも12巻には多いです。

どちらかといえば、本当は感謝をしていたとしても照れ隠しにツンとした態度をしてしまうタイプのキャラクターですからね。

逆に言えば、この三段リーグを乗り切ったということは、そんな照れを遥かに凌駕するくらいの喜びがあるということの裏返しなのではないかと感じました。

俗っぽい言葉を使えば空銀子が色々なキャラクターに対してデレたということなのかもしれませんけど、その状況が最高すぎると思います。

シリーズ関連記事リンク

『このライトノベルがすごい 2020』2010年代を振り返る令和最初のこのラノをチェックしよう!

 

2010年代最後の、そして令和時代初のこのラノとなるこのライトノベルがすごい 2020が発売しました!

長く、人気のある作品が上位を占めていてファンとしては嬉しい一方で、今年度の新作が相当数上位に食い込む新鮮さもあるランキングになっていると思います。

また、2010年代最後の年ということで、2010年代の10年間の総合ランキングも掲載されていて、例年にはない楽しみもありますよ!

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文庫部門のランキング上位

1位‗七つの魔剣が支配する

2020年度の1位は、『天鏡のアルデラミン』でお馴染みの宇野朴人先生の新作『七つの魔剣が支配する』となりました。

最近の流行系とは異なるタイプの古典的なファンタジーで、作者本人も公言している通り、まさに「児童文学ではないハリーポッター」といった雰囲気の作品となります。

魔法学園モノにダークさが加わったような、読み応えのある非常に面白い作品ですね。

しかし、正直ランキング1位は意外でした。

前述したとおり最近の流行系ではない上に、まだ新しい作品なので人気が出るとしてももっとジワジワと人気が出てくると思っていたからです。

やっぱり、前作の評価が高かった宇野朴人先生の作品ということで、最初から注目度が高かったのもあるのかもしれませんね。

天鏡のアルデラミン』に劣らずポテンシャルは非常に高い作品なので、確かに今後が最も楽しみなライトノベルのひとつではあると思います。

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2位‗りゅうおうのおしごと!

近年の上位常連『りゅうおうのおしごと!』が、去年に引き続き今年も2位となりました。

個人的には今最も好きなラノベなので1位に返り咲いて欲しいとも思っていたのですが、さすがに人気のピークは過ぎても良さそうな時期なのに2位は十分凄いですよね!

今年は10巻、11巻の2冊が発売していますが、巻を増すごとに面白さが増していってるのも素晴らしい作品。

いくら面白くても、二桁巻も続くとどこかで微妙だと感じて飽きてしまうような作品、いわゆる失速する作品も多い中、新刊が発売するたびに新刊が一番面白いと思えるのは凄いと思います。

将棋というラノベにおいてはコアなジャンルを扱っているとは思えないポテンシャルですね。

ちなみに、前述したとおり『りゅうおうのおしごと!』は本当に好きな作品なので、かなり熱の入ったレビュー記事を全巻分書いております。興味があったらそちらも読んでくれると幸いです!

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3位‗弱キャラ友崎くん

2位に引き続き3位も去年と同じ顔触れの『弱キャラ友崎くん』でした。

上位に同じ作品が並ぶのは新鮮さに欠けると思う人もいるかもしれませんが、それだけその作品が面白いということの証明のようで、ファンとしては嬉しいものです。

他の作品の方が好きって人にとっては「またかよ~」という感じでしょうけど。

弱キャラ友崎くん』は人気もあるしアニメ化向きなのにそうなる気配が無いと思っていたら、最近になってついに発表されましたし、物語もどんどん進展していって見所も多く、まだまだこれから盛り上がっていきそうな作品です。

ストーリー、キャラクター、イラスト、それに文章も重すぎず軽すぎず絶妙で、どこを見てもマイナスポイントの無いバランスの良い名作ラブコメなので、今年は3位でしたがまだまだ上がる可能性はある作品だと思っています。

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単行本・ノベルス部門のランキング上位

1位‗Unnamed Memory

文庫部門の上位は大抵個人的に既知の作品でしたが、単行本・ノベルス部門はあまり新規開拓してないこともあって上位3作品中2作品が初めて聞く作品でした。

でも、「こんな面白い作品があるんだよ」と教えてくれるキッカケになるのがこのライトノベルがすごいの良いところですよね。

1位になった『Unnamed Memory』は今年の新作で、どうやら最近はやりの異世界ものではなく王道ファンタジーの作品みたいですね。

そういえば文庫部門1位の『七つの魔剣が支配する』も王道ファンタジーですし、もしかしたら異世界ものから王道ものへの原点回帰のタイミングがきているのでしょうか?

個人的には、異世界ものも軽快に読めるので好きではあるのですが、もっと深く楽しめるのは王道ものという気がするので、そういう流れがくるのもそれはそれで良いなぁと思います。

とりあえず、調べてみたら『Unnamed Memory』も面白そうなので、これは読んでみたいと思います。

2位‗本好きの下克上

もしかして3年連続1位なるかと期待された『本好きの下克上』ですが今年は残念ながら2位でした。

いや、2位なら残念でもなんでもないのかもしれませんけど、個人的には文庫部門、単行本・ノベルス部門ともに最も推している作品が2位だったので、ちょっとだけ残念って思ってしまいました。(笑)

本好きの下克上』は、今年もジュニア文庫化されたりアニメ化されたり話題に事欠きませんでしたね。

2019年11月現在絶賛アニメ放送中ですが、原作ではだいぶ昔の印象がある第一部の物語に久しぶりに触れて、改めて『本好きの下克上』って面白いなぁと感じています。

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3位‗陰の実力者になりたくて!

3位の『陰の実力者になりたくて!』も個人的には初めて知った作品でした。

というわけで調べてみたら、あらすじ読んで一発で「面白そう!」と感じました。

毎年このライトノベルがすごいを読んだ直後には数作品、今まで見過ごしていた作品に触れることが多いのですが、今年真っ先に興味を持ったのは『陰の実力者になりたくて!』でした。

どうやら主人公は適当なことを言っているだけなのに偶然それが悪役の陰謀を言い当てるのですけど、主人公はそれに気付いていないため周囲とは温度差があるというコミカルなところのある作品になっているようです。

少なくとも、それだけ聞いたら個人的には相当好きなタイプの作品だったので、とりあえず1巻を読んでみようと思います。

キャラクター女性部門

御坂美琴が3位と、さすがに人気が落ち着いた(といっても3位)のかという印象の結果でした。まあ、御坂美琴に関してはまた『とある科学の超電磁砲』のアニメがありますし、来年あたりまた盛り返していそうな気もしますけど。(笑)

また、手堅く登場作品の人気も高いキャラクターがランクインしています。

りゅうおうのおしごと!』の空銀子が2位。やはり直近11巻で今まで以上に素の表情を見せたところが大きかったのでしょうか?

そして『弱キャラ友崎くん』からは七海みなみがランクイン。原作では少々悲しいことになってしまいましたが人気は不動のようですね。

その他は『ようこそ実力至上主義の教室へ』『青春ブタ野郎シリーズ』のキャラクターが多くランクインしている印象でした。

キャラクター男性部門

男性部門も上位陣は例年顔触れが似通っていますが、女性部門と同じく『ようこそ実力至上主義の教室へ』『青春ブタ野郎シリーズ』のキャラクターは人気みたいですね。

個人的には10位の『弱キャラ友崎くん』の友崎文也に注目したい。

登場作品がにアニメ化されてもっと知名度が上がれば、上位に食い込む可能性の高いキャラクターだと思っています。

2010年代のランキング

昨年のこのライトノベルがすごい2019では、このラノ15周年ということで何かあるかと思ったけど何もありませんでした。

残念だなぁと少しばかり思ったものですが、なるほど2010年代の締めくくりとして今年のこのライトノベルがすごい 2020で10年の振り返りをやるためだったわけですね。

まあ、今までの結果からある程度想像可能な結果ではあったものの、改めて自分の好きな作品がランクインしているのを見ると嬉しいものです。

そして例年のランキングでは、さすがにベスト10位以内の作品でも既読の作品は3割、あっても5割というところでした。

しかし10年、長く人気の続いた作品ばかりということもあってほとんど知っている作品だろうとは思いましたが、さすがに15位以内が全て既読の作品だとは思いませんでした。ビックリ!

本記事を読んでいるような人にはランクインしている作品の予想はある程度付くでしょうし、上位に至っては順位まである程度言い当てられるような気がするので、ここではあえてどんな作品がランクインしているかには触れません。

好きな作品が何位なんだろうとワクワクしながら読むのが楽しい振り返りだと思いますしね。

特に1位から3位には作者メッセージが添えられているので、これもファンには嬉しいポイントだと思います。

ただ、一つだけ感じたのが3年連続1位になって2015年度に殿堂入りしてしまった『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の存在の扱い。

殿堂入りしているのでランキング外ではあるのですが、2010年代後半にはポイントが入っていないにもかかわらず4位に入る水準でした。

もし殿堂入り後もランキングの対象だったらどういう結果になったのか、それが少しばかり気になりますね。

ランキングに新鮮さを出すための殿堂入りという制度なのだと思いますが、そんなものは廃してもっと純粋なランキングにしてみても面白いのではないかと思いました。

いや、殿堂入りしているのは1作品だけなのでそれほど気にするほどのことではないのかもしれませんが、今回のランキングの3位までも殿堂入りってなってたので、もしかしてこれらの作品も来年度から消えてしまうかもと考えた時に、ちょっと寂しいのではないかと思った次第です。

何とは言いませんがメッチャ好きな作品も含まれていたので、殿堂入りして嬉しい反面「もしかして来年以降は・・」とも感じてしまったわけですね。

『エロマンガ先生(12)』山田エルフの逆転ストーリーの感想(ネタバレ注意)

 

今一番恥ずかしいたタイトルのエロマンガ先生。10か月ぶりの最新巻です。

11巻ではサブヒロインとしてもなかなかに微妙な扱いを受けていたエルフがラストで言っていた「このわたしが、逆転しにきてやったわ!」というセリフ。

12巻はそんな伏線めいたセリフを一冊かけて回収するような内容になっています。

実は個人的にはエルフのようなタイプのキャラクターはそんなに好きな方ではなく、少なくともエロマンガ先生のキャラクターの中では下から数えた方が早い感じなので、エルフがメインの話ということが分かったことであまり期待していなかったのですが・・

蓋を空けたら想像以上に面白かったです。

エルフの提案で始まる商業作家とイラストレーターによる同人誌作成が、互いのイラストレーターを入れ替えて行われるという発想も面白いですね。

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本作の概要

いつも突然やってくるエルフは、今回もまた自分が勝利するための秘策を用意してやってきました。

その秘策とは、紗霧を更に可愛い女の子にするため女子力を上げる手伝いをすることだったり、マサムネと紗霧の創作者としてのレベルを上げるために同人誌作成を提案することだったり、なぜかマサムネと紗霧のプラスになることばかり。

いったいエルフにどのような思惑があるのか、その辺が12巻の見所となります。

本作の見所

ブコメの肝

12巻は、11巻ラストで電撃のように登場したエルフの宣戦布告のようなゴリ押しから始まります。

「マサムネ! この大先輩が教えてあげる! ラブコメの肝は! 配置したキャラクターの人間関係が、ダイナミックに変動していくところなのよ!」

そして、ゴチャゴチャ色々と言っているもののこの時点でその真意は分かりませんけど、要するに固まりかけた人間関係に一石を投じることで自分が付け入る隙を作ろうってことなのかと思いました。

しかし、エルフのセリフが何だか自然にメタく感じられるのが面白いですね。

エルフはラノベ作家であり、そんなエルフがラノベ的ラブコメになぞらえて自分がどういうことをしようとしているのか宣言しているわけですから、結果的にメタいのに自然に今後の展開を示唆することになっているわけです。

「ラブコメはパズルゲームとよく似ている。・・わたしはね、現実の恋愛もそうだと思うの。恋愛って、人間関係を、自分の望むように変化させていくことだもの」

一方でそれを現実的な考えにもなぞらえている。少なくとも僕はエルフのセリフには一定の説得力があると感じました。

「私も兄さんも、ラノベのキャラじゃない。作者の思ったとおりになんて、動かないもん」

いや、ラノベのキャラだろってツッコミは横に置いておいて、紗霧の立場からすれば今のマサムネとの関係を壊されたくない思いがあるでしょうから、当然エルフの発言を否定します。

しかし、あくまでも現実だとしたら、"作者"の思った通りには動かなかったとしても"他の誰か"の思った通りに動いてしまうことはあるのではないかと思います。

ある特定の人間関係を変えるキッカケになる人は、現実にはいくらでもいますからね。

そして、あくまでも『エロマンガ先生』という世界の中においては現実の人間であるエルフは、"作者"ではなく"他の誰か"なわけで、つまりは紗霧のセリフは否定されていることになるわけです。

エルフがラノベ作家だからか、メタいのかそうじゃないのかの境界が曖昧なやり取りから始まるわけなのですが、個人的にはこういうの結構好きでした。

エルフの策略

しかし、エルフがマサムネに好意を持っているからこそ今回のような言動をしていることは間違いないと思うのですが、そのためにやっていることが「何でそれがエルフの勝利に繋がるのだろう?」と疑問を呈さずにはいられないようなことだったりします。

エルフがしようとしたことは、紗霧と一緒に暮らして付きっ切りで紗霧の女子力向上のための協力をするということ。

冗談なのか本気なのか、一時的にマサムネと紗霧のイチャイチャを阻止できるみたいなことも言っていましたが、それでも紗霧のメリットの方が大きそうですよね?

実際、その後のエルフの行動に紗霧とマサムネの関係を壊すと予感させるようなものはなく、むしろプラスになることの方が多かったような気がします。

同人誌作成のエピソードも、互いの書き手とイラストレーターを入れ替えて作成することによって生じる変化を投じたという感じで、確かにアメリアと組んだことによっていつもとは違った作品作りをするマサムネに紗霧は嫉妬したりもしていましたが、これだってエルフにとってプラスにはなっていないですし、嫉妬こそあれマサムネと紗霧にとってもプラスの方が大きかったと思われます。

一体エルフの行動の目的は何なのか?

その答えが分かるまでずっとエルフの言動の理由を考えさせられるのが12巻の肝になっています。

そして、僕は・・というか多くの人がそうだと思うのですが、ずっとエルフの勝利条件をずっと誤認したまま読み進めることになったため、だからこそエルフの目的が最後まで分からなかったのだと思います。

恐らくマサムネに好意を持っているエルフの勝利条件は、マサムネが紗霧ではなくエルフを選ぶこと。

僕は最初そう思っていましたが、それが違っていたわけですね。

というか、この勝利条件ならマサムネと紗霧の二人にとってプラスになることだけをやり続ける意味がマジでわかりません。(笑)

そして、エルフが想定していた勝利条件とは、エルフがマサムネと恋人同士になることではなく、三人で仲良く一緒に暮らすことでした。

なるほど、だとしたらマサムネと紗霧の両方のプラスになる言動を取っている理由になりますが、これはさすがに分かりませんね。(笑)

外に出る紗霧

最初は部屋から出ることすらできなかった紗霧ですが、エルフの家にお泊りするために少しだけ外に出ます。

それだけなら、以前も少し外に出たことがあるはずなので大きな成長とまでは言えないかもしれませんが、母親に連れていかれたエルフを追いかけるためにタクシーに乗って移動し、エルフたちの前に現れたシーンは少々驚きました。

一気に成長したものだなぁと。まあ、こういう変化って最初の一歩以降は急激なものなのかもしれないと感じたエピソードでした。

総括

いかがでしたでしょうか?

エルフの発想が想像の右斜め上でビックリしましたね。

若干エルフに策略に乗ってしまいそうな雰囲気のある紗霧と、絶対に乗らない強い意志を持っているマサムネ。

この辺のエルフの揺さぶりが今後の見所のひとつになっていくのかもしれませんね。

『冴えない彼女の育てかたFine』エピローグまで目が離せない劇場アニメの感想(ネタバレ注意)

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saenai-movie.com/

 

ブコメライトノベルって毎シーズンいくらかアニメ化されるくらい人気のジャンルではあると思うのですが、アニメ化される作品って大抵の場合その時点で結構長くシリーズが続いていたりするものです。

下手したら単行本10冊近いか、超えている場合もありますね。

だからアニメ化される場合って途中のキリの良い部分で区切りを付けるのが普通なのだと思います。

それは『冴えない彼女の育てかた』の場合も例外ではありません。

人気作なら二期、三期と続くケースもありますが、最後まで綺麗に描かれているということは稀だと思います。

それには人気作の場合、完結自体なかなかしないからという事情もありそうですけど。

そういう意味では、短編込みで20冊近い大作である『冴えない彼女の育てかた』が、アニメで原作のラストまで丁寧に完走したのはとても珍しい出来事なのではないかと思います。

しかも、そのラストを飾る劇場版『冴えない彼女の育てかたFine』のクオリティが想像以上に高かった。

実は、『冴えない彼女の育てかた』は原作1巻から読んでいますけど、個人的には面白いとは思うものの「超名作だっ!」と感じるほどの思い入れはありませんでした。

どのキャラクターも魅力的で、特に加藤恵は数あるラブコメのヒロインの中でも断トツのヒロインだと思っていて、しかし単純な面白さならもっと上の作品が少なからず存在するだろうというのが、個人的に『冴えない彼女の育てかた』という作品に感じていたことです。

ただの消費系オタクが偉そうなこと言うなって感じかもしれませんが、この感想はアニメの1期2期を観た後も変わりませんでした。

なので今回の劇場版『冴えない彼女の育てかたFine』も特別大きな期待をしていたわけでもなく、最後だし取り合えず観るかってノリで観ただけだったのですが・・

何コレ、めっちゃオモロイやん!

原作のラスト3冊分くらいを詰め込んだ内容なわけですが、とても綺麗にまとまっている・・というか、見所をギュッと濃縮しまくって、それでいてストーリーを破綻させない素晴らしい映画になっていました。

良い意味で、観ていて休まるタイミングがありません。

あっ、ちなみにまだ観ていない人には一つ警告しておきます。

エンドロール後のエピローグが結構長いので、エンドロールで帰っちゃダメですよ!

僕の隣の人はエンドロールが始まった後そそくさと帰ってしまいましたが、エピローグが結構面白いので見逃したら勿体ないです。

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本作の概要

加藤恵をモデルとしたメインヒロイン・巡璃のシナリオを書くのにスランプに陥ってしまった安芸倫也は、キモくすらある個性を武器にその方向性を確信します。

そんな安芸倫也に呆れながらもついて行く加藤恵との距離縮まり、いつの間にか名前で呼び合う仲へと進展していくのですが、紅坂朱音の入院をキッカケに安芸倫也は、英梨々と詩羽の携わるゲーム『フィールズ・クロニクル』において紅坂朱音の代わりを務めようとします。

しかし、それは即ち自分たち『blessing software』の作業を一時中断することを意味するため、加藤恵を怒らせてしまうことになりました。

そして、そんなゲーム『フィールズ・クロニクル』の制作過程がひとまずの成功したその後の加藤恵との仲直りが最大の見所になっています。

原作における最後の盛り上がりである11~13巻がきれいに一本の映画に纏まりました。

本作の見所

内緒で名前を呼び合う関係性

考えてみれば主人公である安芸倫也のことを名字呼びしていたのは加藤恵だけで、他のヒロインは下の名前かあだ名で呼んでいました。

だから安芸倫也が名前呼びされること自体は今さらという感じなのですが、もともと名字呼びだったところから変化するという所に特別感がありますよね。

つい口を吐いたように自然に名前で呼んでしまってハッとする加藤恵がとても可愛らしかったです。

その後も二人でいる時は名前で呼び合うようになるのですが、他に人がいる時に唇の動きだけで名前を呼び合うシーンがもの凄くむず痒い。

もし名前で呼び合うようになったことを知られたくないのであれば、人がいる時は今まで通りにしていれば良いとも思うのですが、一方でこういうことがしてみたくなる気持ちも分からなくもない。

みんなには内緒にしていることを、しかしバレるかバレないかギリギリのラインで仄めかしてみたくなることってあると思います。

僕の場合は単にこういうことに対して秘密主義なだけですが、照れがある状態でこういう行動をしてしまう人って可愛らしいと思います。

紅坂朱音が脳梗塞で倒れた影響

冴えない彼女の育てかたFine』においては安芸倫也加藤恵の関係性の進展って意味合いでの見所が多かったような気がしますが、本作品のストーリーの本筋は安芸倫也を主体としたゲーム作りにあります。

紅坂朱音に自身が書いたシナリオを読んでもらって安芸倫也はスランプから脱し、遅れていた『blessing software』のゲーム作りは軌道に乗り始めます。

しかし、紅坂朱音が脳梗塞で倒れたことで安芸倫也は英梨々と詩羽の携わるゲーム『フィールズ・クロニクル』に関わることになってしまい、その間『blessing software』の作業を中断することになってしまいます。

そして、『blessing software』の作業の進捗と加藤恵の機嫌がシンクロしているのが面白いんですよね。

普通の女の子である加藤恵がいつの間にか安芸倫也のゲーム作りに凄く真剣になっていくのは作品通しての見所だと思いますが、それが単にゲーム作りにハマっただけなのか、安芸倫也に惹かれてしまったからなのかがよく分からない微妙なラインも観る人を揺さぶります。

ともあれ、そういうわけで紅坂朱音というキャラクターが倒れたことが『blessing software』にとっても安芸倫也加藤恵の関係性にとっても波乱を起こす中心になっているわけですね。

メインキャラクターの中では比較的サブに近いキャラクターである紅坂朱音が最後のエピソードでキーになっているわけですが、よくよく考えたらそうしないと英梨々と詩羽を蚊帳の外にしてしまった上でラブコメが進展してしまうわけなので、彼女らをストーリーに巻き込むためにはちょうど良かったってことなのかもしれませんね。

安芸倫也の告白シーン

もちろん最大の見所!

ブコメ、ラブストーリーにおいて男女が引っ付くのは普通のことです。

そこには何の意外性もありません。

なんならいつの間にか引っ付いていて告白シーンらしい告白シーンが存在しないラブストーリーだって少なくないと思います。

それは、そんじょそこらの告白シーンにはみんなある程度慣れてしまっていて、かといって奇をてらうようなシーンでもないからなのかもしれませんね。

そして、安芸倫也加藤恵に告白するシーンも、その情景を説明しただけならありふれた告白シーンになるのかもしれません。

しかし、その演出がとても素晴らしかった。

本当に短いはずのシーンが結構な尺を取って丁寧に描かれていたという印象です。

安芸倫也が作ろうとしているゲームのように、観る人を最高にキュンキュンさせるキモオタ全開の告白シーンでした。(笑)

映画館って公の場で大の大人が頻繁に泣いてしまうある意味では特殊な場所だと思っていて、僕も映画館で多少泣いてしまうくらいのことを恥ずかしいと思ったことはありません。

むしろ、そういう時に我慢してしまわない方が楽しめるものだと思っているからです。

しかし、安芸倫也の告白シーンは観ているだけで身悶えするほど恥ずかしかった。

映画を観ていて恥ずかしいと感じたことはあまり・・というかほぼ無いはずなので、これは新鮮な体験でした。

安芸倫也があまりにも恥ずかしくて、思わず目を瞑ってしまいそうになったり、気まずさから「いやいやいや・・」みたいな感じで声に出して思わずツッコミを入れてしまいそうになるほどでした

なんでこのシーンがこんなに観ていて恥ずかしいのかって、それは恐らく安芸倫也があまりにも恥ずかしそうだったからなのだと思います。

映画は人を共感させるもので、あんな安芸倫也に少しでも共感してしまった日には悶え死にして当然というわけですね。(笑)

総括

いかがでしたでしょうか?

実は僕がこうして映画のレビュー記事を書いている時、ある程度観る前から「この映画は観た後にレビュー書くぞ!」って決めていたりします。

まあ、内容があんまりだったり難解だったりしたら書かないことも多いのですけど。(笑)

そういう意味で『冴えない彼女の育てかたFine』はレビュー記事を書くつもりが全くなかった映画でした。

前述したとおり、そこまで熱烈に好きってわけではなかったし、ライトノベル原作の劇場アニメに対して、例えば映画用に作られたオリジナルアニメほどの期待はしていなかったというのが大きいです。

そもそも、ラブコメ系のライトノベルは好きですけどアニメ化されると冷めてしまうことも多いので。

しかし、『冴えない彼女の育てかたFine』には不意打ち気味に、想像以上に感動させられてしまったのでこうしてレビュー記事を書いてみたわけです。

もちろん1期2期から続く作品なのでコレだけを観ても微妙かもしれませんが、この劇場版『冴えない彼女の育てかたFine』を観るためだけに1期2期をおさらいするのは正直アリだと思いました。

実は、僕も観た後すぐに原作を読み返したくなって電子書籍版を再購入してしまいました。(笑)

なんというか、アニメに限らず良い映画を観た後ってその余韻にいつまでも浸っていたくなりたい気分になることがありますが、僕の場合それが原作を読み返したり、同じ作品に関連する何かに触れることだったりするわけです。

「終わり良ければ全て良し」と言いますが、この劇場版『冴えない彼女の育てかたFine』があったからこそ僕の中で『冴えない彼女の育てかた』という作品は名作フォルダに振り分けられたような気がします。

あっ、ただ劇場版で観る上で一つだけ注意点があります。

それはマジで身悶えしてしまいそうになるほど、そして目を逸らしたくなるほど観ていて恥ずかしいシーンがあること。

というか、僕は実際に身悶えしていたかもしれないし、誰も見てないのに思わず目を閉じてしまったりもしていました。(笑)

上述した本作の見所を読めばどのシーンのことか想像つきますかね?

『氷川先生はオタク彼氏がほしい。(1)』年上彼女が可愛いラノベの感想(ネタバレ注意)

 

氷川先生はオタク彼氏がほしい。は、主人公が春休みに偶然知り合った理想の女性が、実は”雪姫”と恐れられる鬼教師で新学期から担任教師として現れるという物語となります。

生徒と教師の禁断の恋というのは古風な少女漫画でありそうな展開という気もしますが、それとは男女が逆になっている感じでしょうか?

なんとなく、最近読んで結構好きな作品でもあるちょっぴり年上でも彼女にしてくれますか?と似た雰囲気の作品かと思って読んでみた次第です。

ちなみに、この二作品には共通点が多いですが、それぞれにそれぞれの良さがあってどちらも面白いと僕は感じました。ちょっぴり年上でも彼女にしてくれますか?のコミカライズ版もレビュー記事を書いているので良かったら覗いてみてください。

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本作の概要

オタク少年はオタク少女に恋をするもの。

オタク高校生の霧島拓也は春休みのある日、大量に肌色成分多めのライトノベルを購入しているオタク少女と出会います。

とても話の合う理想的な少し年上の少女に恋をした拓也は、順調に関係を進展させていきます。

そんな充実した日々の中迎えた新学期。拓也のクラスの担任は"雪姫"と恐れられる鬼教師だったのですが、初めて近くで見た"雪姫"は拓也が恋したオタク少女・氷川真白にそっくりで・・

というか、そのもの本人でした。

そういうわけで、男子高校生と女教師の恋模様を描いた物語となります。

本作の見所

オタク少年の理想の彼女

こういうラノベや漫画のレビュー記事を書き続けていることからも、僕がそこそこのオタクであることはお察し頂けることと思いますが、オタク男子にとって趣味を同じとする女性はひとつの理想です。

その点は本作品の主人公である拓也に、大いに共感できるところ。

というか、オタクかどうかに関わらず、それに男女を問わずとも最も惹かれる異性って結局のところ『共感』と『尊敬』の二つがある人だと思うので、結果的にオタク少年が惹かれるのは同じオタク趣味のある女性になる可能性が高いというのは必然なのだと思います。

それだけに、とても綺麗で可愛らしい氷川真白に出会った霧島拓也が、少々舞い上がっている様子ながらも真白と楽し気に会話している物語の出だしはとても幸福感に満ちていたように感じられました。

可愛らしかったり美人だったりする女性って実は珍しくもありません。

『尊敬』できる女性なんてその辺にごろごろいます。

しかし、会話していて本当に楽しいと感じられる『共感』できる女性となると、グンと数が減るような気がします。

もちろん、女性と共感しやすい趣味嗜好をしている男性も世の中にはいるでしょうけど、いかにも男性的な趣味嗜好の人にとっては『共感』の部分が大きなハードルになりがちで、だからこそオタク少年(霧島拓也)はオタク女子(氷川真白)に、飛びつくように惹かれたのだと思います。

教師と生徒の禁断の恋愛

拓也は氷川真白のことを少し年上の女性だと思っていたようですが、実際には二十四歳と高校生の拓也にとってはかなりの年上。社会人同士であれば、まああり得る年齢差ではありますが、高校生から見た二十代半ばの女性は限りなく大人なはずです。

僕が高校生の時、古典の先生が二十三歳で結構美人な女性教師でしたが、当時の感覚だと自分よりも遥かに大人に感じたのを覚えています。今思えば相当可愛らしい女性でしたが、当時はハッキリ恋愛対象にはならないというか、そんなことを考える対象ですらありませんでした。

それに、年齢差云々を差し引いても倫理的に教師と生徒の恋愛というのは基本的には許されないものです。

個人的には、恋愛なんて結局は当事者の問題でしかないので本人たちが良ければ許すも許されないもないのではないかとも思うのですが、教師という仕事が周囲に与える影響はそんな浅はかな考えでは測れないほど大きいのかもしれませんね。

そして、少し年上のお姉さんだと思っていた氷川真白が、新学期に担任教師として登場した際には霧島拓也は本当に驚いたことだと思います。

しかし、名前も知っていて遠目からとはいえ姿を見たことがあったのに気付かなかったというのも面白いですね。大人って女性に限らず仕事の時とプライベートでは性格が違ったり、冴えないイメージだった人がオシャレだったり、意外な趣味を持っていたり、そもそも結構ギャップがあることが多いと思うのですけど、そう考えると気付かないこともまああるのかなぁという感じです。

つまり、恋愛ごとにおいて重要な要素のひとつであるギャップがこの時点で既にできあがっているわけですね。

鬼教師という触れ込みの氷川真白ですが、そういえばあまり鬼教師っぽい一面は見せていなかったような気がするので、今後は霧島拓也の前で鬼教師らしさを出さなければいけない状況に陥ってアタフタしてしまうようなエピソードがあったりすると面白そうだと思いました。

氷川先生が可愛すぎる!

往々にして恋愛中の女性は魅力的に見えるモノです。

素敵だなぁ~と感じた人が大抵彼氏持ちなのも、それが原因なのかもしれません。(笑)

・・で、なんでいきなりこんな一般論をぶつけたのかというと、本作品の氷川真白の描かれ方が、恋愛をしてどんどん魅力に磨きがかかっていく女性の姿そのもののように感じられたからです。

殊更ライトノベルのヒロインって、キャラクターとしてはとっても魅力的だし、可愛かったりもするものだけれど、それはあくまでも女性的な魅力や可愛さというよりはキャラクター的であるものだと思います。

もちろん、氷川真白もそういうヒロインと同じ部分はあると思うのですが、大げさに表現されているもののどこか現実的な女性の反応に近い部分がある気がして、そういう所が魅力的なキャラクターだと感じました。

何故なんでしょう?

中高生くらいのヒロインだとよりキャラクター的になりがちなのに、大人のヒロインってどこか現実的な女性に近い部分があったりするのって。

恐らくですが、中高生くらいのヒロインが主流のライトノベル業界においてあえて大人のヒロインを描こうとしているわけだから、そこに入り込むのはキャラクター属性的な魅力ではなく現実に近しいものになりがちになるということなのかと思っています。

だから僕はこういう大人のヒロインが登場する作品が殊の外好きなのかもしれません。

総括

いかがでしたでしょうか?

最近・・というか以前から僕はこういう年上女子が魅力的な作品群って結構好きで、例えばこういうのと似た状況の恋愛を描いたコミックエッセイのような書籍とかも読んだりするのですけど、現実の女性の好みは昔からずっと年下だったりするので自分でも不思議に思います。

最近ではフィクション作品で描かれる年上キャラそのものが自分よりは年下になってきているのも、もしかしたらこういう作品を面白いと思い始めた理由なのかと考えてみると少し時間の流れの速さが怖くなってきます。(笑)

なんというか、大人の女性をヒロインに据えているライトノベルって、中高生がヒロインのライトノベルとは違った新鮮さがあるような気がしていて、氷川先生はオタク彼氏がほしい。はまさにそういう作品。

女性が可愛く見える瞬間を上手く描いている作品だなぁという印象で、続きが楽しみな作品のひとつになりました。

『りゅうおうのおしごと(8)』感想戦の2人が雅に活躍する一冊です(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

山城桜花。親友同士の三番勝負を描いた8巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

春はプロ棋士も春休み。八一は女流棋士になった一番弟子の雛鶴あいを連れて京都に行きます。

しかし、その目的は観光ではなく女流タイトルの山城桜花戦の観戦でした。

八一はそこであいに、アマチュア時代のあいに教えていた礼儀とは違う、たとえ相手の心を傷つけることでも少しでも勝利に繋がることであれば積み上げていくプロとしての覚悟を教えようとします。

そんな山城桜花戦のカードは、タイトルホルダーであり永世称号であるクイーン山城桜花がかかる供御飯万智と、同じく女流玉将のタイトルを持つ挑戦者。供御飯万智の親友でもある月夜見坂燎となります。

親友同士でありながら、相手の心を痛めつけあうようなタイトル戦。

華やかで雅やかな公開対局でありながら、互いに葛藤しながらも意地をぶつけ合う熱戦が繰り広げられます。

特に三局目の、互いを認め合っているからこそ互いの得意戦法を用いる展開が素晴らしいと思います。

また、8巻は供御飯万智と月夜見坂燎による山城桜花戦。対局者の二人の心情を描くと同時に、二人と仲の良い八一から対局者への景気付けのような過去の面白いエピソードが語られるという短編集の側面もあります。

ピックアップキャラクター

7巻が大人の男の渋みを描いた内容だったのに対して、8巻では雅やかな女流タイトル戦の模様が描かれています。

そのカードは、1巻からあとがきの後に描かれていた感想戦の2人。

作者によるとメインで登場させるつもりは無かったキャラクターだそうですが、あまりにも人気が出たためこうして登場してきたようです。

月夜見坂燎

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(「りゅうおうのおしごと!(8巻)」より)

通称「攻める大天使」。口や態度は悪いが、自戦記という形で対戦相手である供御飯万智や九頭竜八一への素直な尊敬を示したり、意外な一面をのぞかせます。

供御飯万智

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(「りゅうおうのおしごと!(8巻)」より)

通称「嬲り殺しの万智」。観戦記者の鵠としてはおなじみですが、観戦記者の時とは違った勝負師の顔を見せてくれます。

ネタバレ含む感想

短編3つ

やきにく将棋

一日中練習将棋を指して疲れている八一とあいは、何か外食をと焼き肉に行くことになりました。そして、二人だけでは寂しいということで他の棋士を誘うことになったのですが・・

同席することになったのは八一の姉弟子の銀子。

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空銀子

今年も竜王戦の賞金が入って来るから、対局に全部負けても年収四千万以上は確定だし。タイトル失冠しても番勝負に出るだけで千五百万くらいもらえるんだっけ? いいわよねーお金持ちで。そりゃあ家で小学生を飼おうって気にもなるわよねー

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あい

・・おばさんには聞いてないんですケド

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空銀子

誰がおばさんやコラ?

相対するたびに喧嘩腰になるあいと銀子ですが、個人的にはこの二人の関係性が地味に好きだったりします。

焼肉屋さんでのこのやり取りも、険悪ではありつつもなぁ~んか後々良好になっていくんじゃないかって空気を感じるからです。

険悪な二人の間にいるのは八一であることは恐らく間違いなく、だとすればある意味で似たもの同士だとも言えますからね。

それにしても、八一にある種の好意を持っているであろう二人が言い争うことで、何故か当の八一の評判が著しく下がっていく展開は面白いと思います。

将棋アイドル

近年、現実でも将棋の世界の注目度は高まっています。

どんな世界でも一人のスターが飛躍的にその世界の注目度を上げることはよくあることで、そんな時期だからこそそのスターだけではなく業界全体の理解者(ファン)を増やそうという考え方はある意味自然なことだと思います。

注目されているからこそのテコ入れって感じでしょうか?

そして、作中でも語れるように最近では観る専の将棋ファンや囲碁ファンってのも増えてきているようですね。

昔ながらのファンは普通、自分自身もプレイヤーであるのが常だと思いますが、そうではない人もいるというのはそれだけ裾野が広くなり、多様的になってきたとも言えます。

マイナー競技であればあるほど、それに関わるのはプレイヤーに偏ってくるのはある意味当然の帰結ですからね

そういうわけで、というわけでもないのかもしれませんが、八一は月光聖市の秘書の男鹿ささりの指示で、あいを中心とするJS研のメンバーを将棋アイドルとして売り出すことになります。

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あい

でも師匠。それでどうして、わたしたちがアイドルになるんです?

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八一

要するに、関西でも将棋ブームを起こしたいと。その起爆剤として女子小学生のみんなに女流棋士を目指す将棋アイドルユニットを結成してもらいたいっていうのが、上層部の意向なんだね

・・とまあ、こんな感じの経緯で結成され分けなのですが、いくら可愛くてもアイドルにはそれなりの才能が必要でしょうし、いくら将棋が強くてもアイドルのプロデュースがまともにできるわけではありません。

アイドルなのに曲も無い。

準備する時間も無い。

そんな状況で行われたライブは、まさかの公開目隠し将棋。

なんといいますか、将棋イベントと考えたら割と盛り上がりそうだとは思いつつも、アイドルのライブとしてはシュールこの上ないですね。(笑)

ゲームの監修

将棋のプロ棋士が将棋以外の仕事をしていることもあるのは、意外といろいろな所で名前を見かけるので知っている人も多そうですね。

将棋以外のイベントに登場することもありますし、漫画やゲームの監修なんてのも定番だと思います。

そして、八一にもついにゲームの監修の仕事が舞い込んできました。

依頼者は夜叉神天衣の付き人の池田晶。夜叉神天衣も小学校に通っていたりと、常に付き人できるわけではないので他の仕事もしているようですね。

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八一

それで今回は将棋ゲームを作る・・ということですね? もちろん力を貸しますよ! 俺にできることなら何でも言ってください!

将棋ゲームの監修。プロ棋士にとってそれが嬉しい仕事であることは想像に難くないですが、八一もかなり嬉しそうで、かなり食い気味に協力姿勢を見せるのですが・・

結論からいえば池田晶の作ろうとしているゲームは将棋ゲームではありませんでした。

どうやら八一の幼女を育てる手腕を買って、割と危険な発想の幼女ゲームを作ろうとしていたようです。

巧妙(?)な説得で篭絡されていく八一が面白いエピソードとなります。

山城桜花戦

閑話として過去の短編やドラマCD脚本を小説化したエピソードが語られる短編集の側面もある8巻ですが、基本的には山城桜花戦一色の内容となります。

りゅうおうのおしごと!で一つのタイトル戦が余すところなく描かれているといえば、やはり名著である5巻が思い出されるところです。

九頭竜八一竜王に最強の名人が挑戦する竜王戦は最高峰で激熱の素晴らしいタイトル戦でした。

そして、8巻における山城桜花戦もそれに劣らない・・いや、別種の熱さがあったように思います。

八一の竜王戦の場合、八一はタイトルホルダー側であったもののまるで挑戦者であるかのような一面があったと思います。二回り以上年上の目指すべき大棋士が相手だったのでそりゃあそうって感じでしょうか?

一方の山城桜花戦は、互いに女流タイトルを一つずつ保持する同格・同世代の、しかも幼い頃から付き合いのある親友同士のタイトル戦となります。

そういう意味ではまったく別種の魅力があるカードとなりますし、雅やかな雰囲気は竜王戦には無かった魅力となります。

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八一

二人とも自分の得意戦法を捨てて、むしろ相手の得意な形を採用してるようにも見えます。長年にわたって戦い続け、相手を深く研究してきたからこそ・・相手のことを尊敬し、その指し手に価値を認めたからこそ、こういうことになっているんだと思います

山城桜花戦の第三局を解説する八一のコメントですが、勝負の世界でこのように相手を認めてしまうようなことは本来あまり良くないような気がしますし、そのようなことでは強くはなれないという意味もあると思われます。

しかし、そんな中でも互いに認めることのできるライバルが存在して、ここ一番で勝利するために使った戦法が相手の得意戦法という展開は素敵すぎると思います。

とはいえ、これが例えば八一と神鍋歩夢。雛鶴あいと夜叉神天衣といったキャラクター同士であれば若干説得力に欠ける展開だったような気もします。

供御飯万智と月夜見坂燎。

長年の親友同士のカードだったからこそ、ある意味では勝負師の世界においては違和感のある展開が素敵に感じられたのではないかと思います。

自戦記

8巻の要所では、山城桜花戦の対局者による自戦記が記されています。

なるほど山城桜花戦一色の8巻には相応しい幕間ではあると思うのですが、それがりゅうおうのおしごと!においては珍しいミスディレクションになっているのが興味深いところ。

そのミスディレクションとは、この自戦記が一見すると供御飯万智によるものだと思わされてしまうのですが、実際には月夜見坂燎によるものだということです。

りゅうおうのおしごと!の幕間では、頻繁に鵠(観戦記者でもある供御飯万智のペンネーム)による観戦記が描かれています。

つまり、普段は観戦記を書いている本人が対局者なので8巻では自戦記になっているということかと、恐らく多くの読者が勝手に納得・理解させられたのではないかと推察します。

少なくとも、僕はそのように思っていました。

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月夜見坂

穴熊を採用することは最初から決めていた。

しかも、この自戦記の書き出しがコレでした。

穴熊という戦法に対する愛に溢れているような、そんな内容だったのですが、そもそも穴熊は供御飯万智の得意戦法であり、この自戦記の筆者である月夜見坂燎の棋風とは反するものとなります。

その点もこの自戦記が供御飯万智によるものだという説得力を高めていました。

とまあ、これだけを聞いた人はもしかしたら「ミスディレクションするために無理やり月夜見坂燎に穴熊愛を語らせているのは卑怯だし、不自然では?」みたいに感じる人もいるかもしれません。

しかし、8巻を最後まで読んだ人にはこの自戦記がすんなりと受け入れられる。どころか素敵なものに感じられるのではないかと思います。

ライバル同士である対局者が、互いを認めているからこそ相手の得意戦法で戦うという展開は激熱でした。

それに対して月夜見坂燎は、インタビュー時にそれはただの奇襲だったと答えていますが、なんとなく本心ではないような雰囲気も醸していました。

そんな月夜見坂燎が、実は相手の得意戦法に対して大きな敬意を持っていたということが、実は8巻の初っ端から語られていたのがこの自戦記となります。

ちなみに、僕は初めて8巻を読み終えた直後、つい自戦記の部分だけ読み返してしまいました。

最後の自戦記のみ、明らかに筆者が月夜見坂燎であることが分かるように書かれていますが、それを読んだ後に他の自戦記を読むと、そこから受ける印象がかなり変わるのでとても興味深いです。

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月夜見坂

だが、それよりも、私は穴熊という囲いや、穴熊の将棋を指す棋士に、憧れてきたという理由の方が大きい。

最初の自戦記の中に、第三局へと続く伏線が含まれていたことにも気付くはずです。

そもそも最初の「穴熊を採用することは最初から決めていた」という一文も、実際に一番の要所で穴熊に組んだのは月夜見坂燎でしたし、憧れてきたという「穴熊の将棋を指す棋士」とは恐らく供御飯万智のことだったのであろうことも伺えます。

8巻において一番大事なところが、実は一番最初に描かれていたということに、最後に気付くことができるような構成になっているのが面白いです。

ちなみに、僕は気付きませんでしたが、聡い人なら山城桜花戦第三局で月夜見坂燎が穴熊に組んだ展開になった時点でこの自戦記の筆者に気付いたかもしれませんね。

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本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

将棋界の重鎮たちという、ラノベキャラとしてはかなり年配のキャラクターの活躍が珍しい7巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

7巻は主人公の九頭竜八一の物語でも、メインヒロインの雛鶴あいの物語でもありません。

いや、それは言い過ぎかもしれませんが少なくとも7巻の主人公を一人挙げるとして、それは九頭竜八一や雛鶴あい。それに夜叉神天衣や空銀子ですらありません。

間違いなく、7巻は清滝鋼介の物語なのだと思います。

まあ、長期間続いているライトノベルにおいては各巻でサブキャラがピックアップされて特定の巻の主人公のように描かれていることは少なくないので、ここまで大げさに紹介するほどのことではないのかもしれませんけど、さすがに50歳オーバーのキャラクターがライトノベルでここまで格好良くメインで描かれることは珍しいので強調してみました。

まして、りゅうおうのおしごと!ロリコンという単語が頻出するライトノベルです。

そんな中で清滝鋼介のようなおじさんの活躍をメインで描くとはなかなかに挑戦的な一冊だと思います。

清滝鋼介は八一の竜王防衛の祝賀祭で、八一が伝統的な戦法であり清滝鋼介も愛用する矢倉を馬鹿にするような発言をしたことをキッカケに、自分が届かなかったタイトルを持つ八一への嫉妬や振るわない成績の影響が根底にあったのか、大勢の前で八一に対してキレてしまいます。

清滝鋼介本人にしても、ひとたび冷静になれば後悔しかない言動だったようでしたが、名人挑戦者になって以降とどまることなく落ち続ける成績に苛立っていたのは間違いないようです。

AIを使う若手の研究にも着いていけず、気付けば自らが若い頃に「こうはなるまい」と考えていたようなプライドだけは高い老害のようになっていて、棋士室では奨励会員からも相手にされずに打ちのめされてしまっていました。

しかし、それで目が覚めた清滝鋼介はプライドを度外視し、奨励会員に頭を下げて教えお請い、劇的な復活を果たします。

その後、順位戦での八一と並ぶ若手強豪である神鍋歩夢との対局が、若い棋士たちの対局シーンとはまた違った魅力と熱さのある素晴らしいものになっています。

挑戦者であり、上の世代に挑んでいく側のキャラクターが主に描かれているりゅうおうのおしごと!ですが、下の世代に引きずり降ろされ、何とかしがみ付きながらも将棋を指す重鎮の苦悩がとても新鮮です。

ピックアップキャラクター

ライトノベルで活躍するキャラクターの大半は中高生。珍しいところでもっと年長者の場合もありますが、せいぜいが20代というところだと思います。

当然もっと年上のキャラクターだって登場しますが、その多くは目立った活躍をすることはありません。

そういう意味でりゅうおうのおしごと!の7巻における清滝鋼介の活躍は異質だったのではないかと思います。

清滝鋼介

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(「りゅうおうのおしごと!(7巻)」より)

九頭竜八一や空銀子の師匠。清滝一門のトップで、関西将棋界の重鎮の一人でもあります。

今まで長く積み上げてきた将棋と現代将棋の違いに苛立ち、弟子の八一と竜王防衛の祝賀会という大切な場所で喧嘩してしまいます。

しかし、これには単なる弟子との喧嘩というだけではない意味があり、元名人挑戦者というプライドに反して振るわない成績への苛立ちが根幹にありました。

7巻では、そんな清滝鋼介の挫折と再出発が描かれています。

ネタバレ含む感想

清滝鋼介の苛立ち

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清滝鋼介

名人になりたい

りゅうおうのおしごと!の7巻は、そんな簡素で、しかし思いの詰まった一言で始まり、そして終わります。

かつて幼い弟子の前で挑戦した名人に再び挑戦し、そしてなりたいという思いは、しかし清滝鋼介を苛立たせる原因にもなっているようでした。

次々と成果を上げる弟子への嫉妬。

振るわない自身の成績。

それらからくる焦りが苛立ちの原因で、しかもそれを竜王防衛の祝賀会という弟子の晴れ舞台で、祝われるべき弟子に対してぶつけてしまいます。

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清滝鋼介

何で、あんなことを言ってしもうたんや・・。

しかし、八一への怒りはすぐさま後悔へと変わります。

誰にでも大なり小なり経験あるものだと思いますが、ふと感じた怒りを誰かにぶつけてしまい、早ければその怒りをぶつけている最中にでも始まる後悔ってありますよね。

こういう苦さはなかなかに後を引くものだと思いますが、清滝鋼介がもともと感じている衰えへの不安も相まって、順位戦の大事な対局では大ポカして敗北してしまいます。

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清滝鋼介

大丈夫・・大丈夫やな

それに対局中の心理描写に、八一やあいなどの若い棋士のそれには無い特徴があるのが印象的でしたね。

竜王である八一ですら、自分の指す戦法に対して不安を抱えて将棋を指しているシーンは多数存在します。

しかし、それは自分の考え方に疑問を持っているだけでミスそのものを恐れているわけではないのだと思います。

一方で清滝鋼介の対局シーンでは、本当の意味でのミスを恐れている描写があるのが特徴的でした。

過去への栄光があるからこその現在への不満が苛立ちへと繋がっていく一連の流れが感情豊かに表現されている点は7巻の見所のひとつです。

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清滝鋼介

若々しさ、解き放つ

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八一

解き放ちすぎだろ・・。 若さ以外にも・・色々と・・。

そして、そこから清滝鋼介が立ち直る・・というよりも開き直って開眼するまでの流れも素晴らしい。

清滝鋼介には相当世話になっているはずの奨励会員である鏡州飛馬にも、棋士室での真剣な勉強の場では相手にされず、気付かない内にかつて「こうはなりたくない」と思っていた老害のような存在に自分がなってしまっていたことに気付いた清滝鋼介。

そこから開き直ってプライドも押し殺し、頭を下げて奨励会員たちに教えを請うシーンには胸が熱くなります。

とりあえず革命は起こした

5巻では最強の名人を相手に竜王防衛を果たし、6巻では手が見えすぎて不調になりかけていたものの、7巻では絶好調の八一。

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八一

とりあえず革命は起こした

これは7巻で何度か繰り返される八一の印象的なセリフですが、革新的な新手を繰り出して連勝を続ける八一の、まだまだ先はあると思わせる格好良いセリフですよね。

「革命は起こした」ではなく「とりあえず」を頭に付けているあたりが憎いと思います。

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八一

俺もそこまでバカじゃないです。人間は機械じゃない。ソフトが使う戦法の全てを人間が完璧に指しこなせるなんて思ってません。ただ、現時点での俺の演算力を使えば、他のどのプロ棋士よりソフト発の戦法を上手に指しこなすことはできる。とは思ってます

AIが人間を超えた時代、その戦法を誰よりも上手に使えるということは自分が誰よりも強いと言っていることと同意。それが分かっていて、同門の身内相手とは言え発現するあたり自分に対して大きな手応えを感じていることが窺えますね。

しかし、将棋とは無関係の(ゲン担ぎという意味ではあながち無関係ではないのかもしれませんが)シーンでもあえて同じセリフを言わせているあたりが面白い。

それは・・

銀子ちゃんのコスプレ研究会

八一の竜王防衛、銀子の奨励会三段昇級の前に訪れた桜ノ宮のラブホテルにて、ジンクスやルーティンを重視するために行われている研究会。

その場でも八一は同じことを言います。

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八一

欲張りすぎか? いや! 姉弟子という素材があればギリギリ成立しているはず・・!! とりあえず革命は起こした

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(「りゅうおうのおしごと!(7巻)」より)

簡単に言えば、こんな(↑)感じの研究会です。

そこで八一は新手どころではない革命を起こしました。(笑)

可愛らしい女の子が数多く登場する作品ですが、意外とここまで攻めたシーンは珍しいですよね。まあ、メインヒロインが小学生なので当然と言えば当然でしょうか。

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空銀子

クッ! は、恥ずかしすぎて・・頓死しちゃう・・!!

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八一

いや! いい!! これはイイですよッ!! もっと! もっと……こう! 指を丸めて猫っぽく!

銀子の普段のクールさとのギャップも相まって、テンションが上がりまくって少し壊れている二人が、可愛い以上に面白すぎますね。(笑)

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八一

あ、チョロい。 俺はそう思った。薄々気付いちゃいたんだが姉弟子は押しに弱い。基本的には壁がある感じなんだけど、その壁を強引に破ってしまえばあとは豆腐。

現役竜王で、しかも非常に調子が良い八一の深い読みに丸裸にされた銀子という構図・・なんていうと穿ちすぎかもしれませんが、将棋の勝負で敗北した銀子がコスプレしている形なのであながち的外れでもなさそうなのが面白い。

7巻は清滝鋼介がメインで活躍することもあってオッサン率高めなので、いつもよりサービスシーンを強烈にしたということなのかもしれませんね。

そういう意味では、りゅうおうのおしごと!における実質的なヒロイン層の小学生たちの活躍がほぼ皆無なのも特徴的だったような気がします。

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八一

弟子やJS研のみんながうちでパーティーを開いてくれるって言ってて。よかったら姉弟子も一緒にどうかなって

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空銀子

いいの? 参加者の平均年齢が上がっちゃうけど

銀子のセリフを借りると、まさに平均年齢のかなり高い一冊と言えますね。(笑)

敗北と十四分の才能

何度も繰り返しますが7巻は清滝鋼介のためにある一冊だと思います。

とはいえ主人公の八一の活躍も目覚ましい。

主人公なだけあって登場する際には基本的に八一の視点になることが多いと思いますが、7巻には八一の視点ではない、周囲から見た九頭竜八一が語られることが多かったような印象があります。

竜王防衛以降、革新的な新手を武器に連勝を続ける八一のことが例えば神と呼ばれる名人のように常識外の将棋指しのように見られている感じが伝わってきました。

しかし、そんな中八一は手痛い敗北を経験します。

上げるだけ上げて落とされたような印象もある対局でしたが、それでも今後の八一のためには必要な対局だったような感じで描かれているのが良かったと思います。

ナニワの帝王こと蔵王達雄九段との順位戦での対局。

八一にとっては自力での昇級への、蔵王達雄にとっては引退前の最後を飾る大事な一戦となります。

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八一

綺麗に介錯して差し上げたいが・・。

八一と蔵王達雄とのレーティングの差は500近いらしいです。

よくは知りませんが、このレーティングは恐らくプロ棋士のみを対象としたイロレーティングでしょうか?

だとしたら計算上の八一の勝率は約95%となり、実質ほぼ負けることはあり得ないほどの差となります。

レベルも競技も違いますが、僕も囲碁を打つ時にレーティングが500も下の相手に負けることはまずあり得えないので、八一の勝利を確信しているような様子にもかなり納得感があります。

また、将棋や囲碁をよく知らない人にはベテランの老棋士の方が風格もあり、実力も高いように見えるようですが、実際はスポーツと同じで年齢とともに衰えていくものです。

つまり、例えば八一と蔵王達雄の対局を野球に例えてみれば、20代で最高の成績を収めるトップ選手と40半ばまで現役で頑張ってきた偉大な選手だけど若い頃のようにはいかない選手とが対決しているようなものです。

しかし、蔵王達雄はここで八一を負かすのが自分の役割と言わんばかりの将棋を見せつけます。

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蔵王達雄

すぐに投げるようなら見込みは無いと思っとった。わしもタイトルを獲った直後は負ける気がせんかった。他人の将棋を見ても『なんでこんな弱い将棋ばっか指すんやろ?』と思ったもんや。特に、年の行った先輩棋士にはな。せやけど絶対に負けんと思っとったベテランにコロリと負かされた・・わしだけやない。聖市もや

自身を含むかつての強豪がぶつかった壁。八一にとってのそれに自分自身がなるのだという執念が格好良いですよね。

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蔵王達雄

わしは三分粘って投げた。聖市は七分。九頭竜八一は十四分か・・大器と呼ぶべきか、それとも単に投げっぷりが悪いだけか? この先も壁はいくらでもある。盤上でも盤外でもな。心が折れそうになることもあるやろ。その時は、今日の棋譜を見返しなさい。最後の最後まで苦しむことを止めなんだ十四分間が、お前の才能の証明や

決して諦めないこと。

それこそが才能であるとりゅうおうのおしごと!では繰り返し語られています。それこそ八一が雛鶴あいに見出している才能もそれですよね。

調子が悪い時期もあったものの、最年少で竜王になった八一の才能がずば抜けていることは否定のしようがありませんが、そんな八一をあいてに大金星の勝利をあげることで才能を証明するというのが熱いと思います。

なるほど。人は壁を乗り越えて強くなるものですが、だからこそ大きな才能の壁になり得る人は少ないはずで、引退前に自らがその役割を果たすという考えは興味深いですね。

オッサン流

さて、7巻のハイライトはなんといっても清滝鋼介と神鍋歩夢の対局ですよね。

神鍋歩夢は八一のようにタイトルこそ持っていないものの、その挑戦者決定戦に登場したり、順位戦ではずっと無敗で八一よりもかなり先に行っていたり、そもそもレーティングでも八一よりも格上の若手の強豪です。

そこで清滝鋼介の見せた強さは、例えば若い人間の憧れるような強さとは別種のものではありますが、それでも大人の男の渋みの溢れた、泥臭い格好良さのある強さだったと思います。

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清滝桂香

そのつらさがわかる? そんなみじめな状態で将棋を指す苦しさや情けなさ・・あいちゃんや八一くんみたいに『勝って当たり前』な人達にわかるわけないわよね・・?

そんな大一番に、対局者以上に苦しんでいるようにも見える清滝桂香も印象的でしたが、若々しさを解き放った清滝鋼介は前向きな気持ちで対局に臨みました。

しかし・・

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清滝鋼介

な、なんちゅう・・なんちゅうポカを・・ 桂馬にばかり気を取られて・・角の存在を忘れるとは・・!

神鍋歩夢を相手に良い勝負を繰り広げていたのに、どうやらプロ棋士なら普通はしないような大ポカをやらかしてしまったようです。

普通ならあきらめて投了するような絶望的な形勢。

しかしそこから清滝鋼介は怒涛の粘りを見せます。

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清滝鋼介

それこそが・・オッサン流ッ!!

相手を惑わせる手を繰り出し、相手の緩手が出るまで徹底的に粘り続ける。

この泥臭さは決してスマートなものではありませんし、かつて名人挑戦者だったプライドのある清滝鋼介には耐えられるようなものではなかったかもしれませんが、この時の清滝鋼介は既にそのようなプライドを度外視しています。

考えてみれば、最初に竜王になった後に不調に陥った八一と状況が似ていますね。

八一の不調の原因は竜王らしい将棋を指そうとするあまり、自分らしさと棋譜を汚すような粘りが無くなってしまったことにあります。

そして、そこから立ち直るキッカケは雛鶴あいを弟子にしたことと・・

神鍋歩夢を相手に泥臭い粘り勝ちを収めたことでした。

清滝鋼介もそれと同じ相手、同じ展開で立ち直っていくのが良いと思います。

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『りゅうおうのおしごと(6)』将棋とAIの付き合い方がテーマの一冊です。(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

AIが将棋に与える影響が特徴的で、AIが育てた将棋という新しい世界を見せてくれる6巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

八一がなんとか竜王を防衛したことでりゅうおうのおしごと!がタイトル詐欺にならずに済みました。(笑)

しかし、壮絶なタイトル防衛戦を制した八一は思考のオンオフが効かないようになってしまい眠れぬ夜を過ごします。

そんな八一の弟子二人。あいと天衣もついに・・というにはあまりにも早く女流棋士になりました。

大盤解説の聞き手をしてみたり、女流棋士らしいお仕事もこなします。

荒ぶって連れ帰られたあいに対して、普段はかなりつっけんどんな・・だけど割と真面目な性格な天衣が意外とうまく聞き手をこなしているのが意外だったりします。

そんな感じでメインキャラクターの立場は大きく変化したりしなかったりする6巻ですが、大きく二つのテーマがあって、それぞれのテーマの象徴として空銀子と椚創多がいるという印象があります。

それがどのようなテーマなのかといえば、一つ目は『女流棋士の挑戦』だと思います。将棋や囲碁の世界においては男性の方が優位とされていますが、そんな中で女性初の奨励会三段に挑戦する空銀子の姿が意外な内面とともに描かれています。

二つ目は将棋とAI(ソフト)との関係性。将棋にしろ囲碁にしろここ数年でAIが人間を上回っていくという事件が発生していますが、それに伴い多くの棋士の勉強の仕方にも変化が生じています。

そして、AIはただ強いだけではなく人間とは異なる感覚・・とは違うかもしれませんが、そう見える何かを持っているものです。

そんな感覚を自分のものにしていくような棋士がいたりするのも面白いですが、そもそもAIが師匠といっても過言ではない子供が登場してくるのも、未来の将棋界や囲碁界を予見させる感じがして面白いですね。

そして、6巻で最年少のプロ棋士が期待される奨励会員として登場するのが椚創多こそが、そんなAI的な発想に育てられた将棋指しとなります。

いつもの激熱な展開とは一味違うけれども非常に興味深い空銀子と椚創多の対局が最大の見所になっています。

ピックアップキャラクター

5巻が大きな区切りだったと思われるりゅうおうのおしごと!ですが、意外とメインで描かれる機会の少ない空銀子をはじめ、既刊で活躍していたキャラクター以外が目立ってきている印象がありました。

空銀子

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(「りゅうおうのおしごと!(5巻)」より)

最強の女流棋士としてメインヒロインの雛鶴あいや夜叉神天衣の目指すべきところとして描かれているキャラクターだと思いますが、そんな空銀子の挑戦者としての一面が6巻には描かれています。

その内面が読みづらいキャラクターではありますが、女性初の奨励会三段を目前に気弱に構えてしまっている意外な一面をのぞかせます。

椚創多

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(「りゅうおうのおしごと!(5巻)」より)

若干十一歳で奨励会二段の天才で、史上初の小学生プロ棋士の期待すら掛けられている逸材です。

人間とは異なるAIの将棋に育てられた世代で、まるでコンピューターのような独特な感覚を持っています。

ちなみに、6巻で初登場かと思いきや実は既刊にも八一の対局の記録係として登場していたりします。

本因坊秀埋(天辻埋)

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(「りゅうおうのおしごと!(5巻)」より)

将棋のおとなり囲碁の世界で三大タイトルのひとつであり最も歴史のある本因坊を保持する女性となります。

酔うと下ネタを連発する痴女ですが、あまり人には懐かない性格の空銀子からも尊敬されています。

ちなみに、おそらくモデルは藤沢秀行名誉棋聖でしょうか?

ネタバレ含む感想

女性の活躍

6巻には将棋のおとなり囲碁の世界のトップの一角に君臨する女性棋士本因坊秀埋が初登場します。

本因坊秀埋というのは、本因坊のタイトルを持つ棋士が名乗る雅号で本名は天辻埋といいます。

しかし、将棋ラノベであるりゅうおうのおしごと!にどうして囲碁棋士が、どうしてこのタイミングで登場したのか?

囲碁ファンである僕としては嬉しいところですが、その理由は気になるところ。

恐らくですが、ただ近い世界のキャラクターを登場させてみただけとか、そんな浅い理由ではないのだと推察しています。

6巻では八一の弟子二人が女流棋士になったり、空銀子は女性初の奨励会三段が目前に迫っていたりと、誤解を恐れずに言えば男性優位とされる世界で奮闘する女性が描かれていたと言えます。

そんな中で目標というか、指標になりそうな存在として近しい世界で女性でトップに立つキャラクターを登場させたということなのかと、僕はそう思っています。

例えば、空銀子にとっても将棋の世界に目標とする人物の一人や二人いるでしょうけど、その中に女性はいないのではないかと思います。

最強の女流棋士として描かれているキャラクターなので、当然といえば当然ですね。

だからそんな空銀子にとっても尊敬の対象となるような女性を登場させるなら、それは将棋以外の世界で活躍する女性である必要があったからこそ、囲碁の世界で活躍するキャラクターを登場させたということなのだと思います。

本記事でもそんな本因坊秀埋のセリフを紹介したりしてみたいのですが、その大半はGoogle先生に怒られそうなの内容なので自重しておこうと思います。下ネタが過ぎる・・っ!(笑)

酔うとそんな自重をせざるを得ないほどの下ネタを連発する本因坊秀埋ですが、囲碁ファンでなければラノベ的に誇張したキャラクター性なのだと思われるかもしれません。

しかし、そんな言動のモデルが明らかに実在のとある囲碁棋士だというところがまさに事実は小説より奇なりという感じで、こんなことでそんなことを思わせる人物が実在したというのがちょっと面白いと思います。尊敬すべき大先生なんですけどね。

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秀埋

いいか銀子。女というのは男よりも弱い。体力的に明らかに劣るし、長時間の対局ではそれが思考を鈍らせることにもなる。女は男より弱いんだ。その弱さを克服するには努力しかない・・強烈な努力

とはいえ、前後の文脈で若干台無しにしてしまっているとはいえ、将棋界の女性のトップとして男性に混じってプロ棋士になろうと努力している銀子に向かって放つセリフからは、女性ながらにトップに立った本因坊秀埋の努力が垣間見えます。

だからこそあまり人には懐かない銀子ですら尊敬しているのでしょうね。

ちなみに、「強烈な努力」というのはまさに本因坊秀埋のモデルになっているであろう藤沢秀行名誉棋聖の言葉そのもの。

藤沢秀行名誉棋聖も非常に破天荒な性格ながら多くの人に親しまれた人格者で、実は現在中国や韓国が囲碁の世界トップに立つほど成長したキッカケを作った自分つでもあるほど凄い人。

そんなキャラクターがモデルになっていると知っているからか、一見ただの痴女に見えるのに尊敬されているキャラクターというものが自然に受け入れられました。

本記事の筆者である僕が囲碁ファンということもあって本因坊秀埋のことを語りすぎてしまった感じがありますが、まありゅうおうのおしごと!をここまで本因坊秀埋に着目して読んでいる人は珍しいと思うので、こんなところに着目する人もいるんだぁ~くらいに思っていただけたら幸いです。

女流棋士になった二人のあい

6巻ではりゅうおうのおしごと!のメインヒロインである八一の弟子二人は、将棋の対局的な意味での活躍はありません。

あいはいろんな意味で荒ぶっていましたけど。(笑)

しかし、女流棋士になった二人が棋士室デビューしたり、大盤解説の聞き手をしたり、八一に連れられて道具屋筋の碁盤・将棋盤の店で太刀盛りを見学したり、新たな世界に触れる姿が見られます。

特に4巻5巻と目立った活躍の無かった夜叉神天衣の新たな一面が見られるのは見所のひとつだと思います。

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天衣

あの於鬼頭って人、今じゃ人間相手の研究会も全部辞めてソフト研究に没頭してるんでしょ? それで勝率も急上昇してるから若手も注目してるし。負けてよかったんじゃない?

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八一

お、おいっ! 何もそこまで・・

初めての聞き手をやりやすいようにと八一が気を使っているのに荒ぶるあいと比較して、意外にも天衣が聞き手の才能を発揮するのですが、最後はなかなか大きな爆弾を投下するあたりが忌憚なき子供という感じです。

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天衣

へぇ・・食品サンプルを自作できるのね。ちょっと楽しそうじゃない・・

あいに比べるとかなり大人びているというか、大人ぶっているところのある天衣は、それでも今まではあまり隙を見せない感じでしたが、6巻では結構子供っぽい一面をのぞかせているのも見どころだと思います。

空銀子vs椚創多

りゅうおうのおしごと!が刊行されている現在はまさに囲碁や将棋の世界におけるシンギュラリティの真っただ中であると言えます。

今まではAI(ソフト)が人間に勝つのはまだまだ先のことだと言われていましたが、この数年でAIは人間に追い付く・・どころか一足飛びに追い越していきました。

それは囲碁や将棋の世界の在り方そのものに大きな影響を与えています。

将棋でいえばAI(ソフト)を使ったカンニングの問題が広く話題になったりしていましたね。

僕は囲碁ファンなので囲碁の世界の動向の方が詳しいですが、AI(ソフト)の影響が随所に現れていることは間違いありません。

対局内容そのものに影響を与えているのはもちろん、AI(ソフト)を使って検討するプロ棋士の先生方が例えばニコ生の放送などに映し出される姿にも既に慣れ始めています。

形成判断に今までとは違う『勝率』という概念が持ち込まれ始めているのもAI(ソフト)の影響ですね。

・・とまあ、これは囲碁の世界の話ですが将棋の世界でも似たようなことが起きているのだと認識しています。

とはいえ、こういう変化が数年の短期間の間に起きることはそこまで意外なことではありません。

ターニングポイントというか、どんな世界でも急激な変化が起こるタイミングというのはあるものだと思うからです。

しかし、ジワジワとした変化もあるはず。そして、この場合のジワジワとした部分といえば大きく変わった世界で育った子供の存在です。

人間よりも強くなったAI(ソフト)の感覚を幼い子供の頃に身に着けることができた世代の台頭が、将棋や囲碁の世界における未来への大きな関心どころのひとつであることは間違いありません。

前置きが長くなりましたが、6巻でそんな世代の最初の子供として描かれていたのが椚創多だったのだと思います。

既存の感覚とは全く異なる天才。

例えば、脳内に映し出せる将棋盤の数が才能のバロメーターになるみたいなことを八一が過去に言っていて、それに当てはめれば十一面もの将棋盤が脳内にあるあいは天才もいいところなのだと思いますが、意外にも最年少でプロ棋士になることすら期待される天才の椚創多には脳内に将棋盤は見えないようです。

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椚創多

ぼくは頭の中に将棋盤なんてありません。全て符号で思考しますから

その代わりにあるのは盤面ではなく符号。

AI(ソフト)の影響を受けているどころか、AI(ソフト)そのものといっても過言ではないほどの特殊な感覚を持っているのが椚創多となります。

恐らくですが、こういう感覚が特殊ではなく普通になるような時代も、現実にやってくるのかもしれませんね。

椚創多はそういう未来を予見させるようなキャラクターなのだと思います。

そして、今回は空銀子が勝利して史上初の女性の奨励会三段になったものの、どう考えても実力は椚創多の方が上で、勝利した空銀子自身が最もそれを自覚してしまっているのが印象的でした。

空銀子と椚創多の対局は、今までりゅうおうのおしごと!で描かれたことのある対局の中でもかなり独特な決着の仕方を迎えます。

追いつめられている空銀子が時間に追われて適当に指してしまった手。

銀子自身それで終わったと思った手なのですが、それがたまたま逆転に繋がる好手になっていたようです。

それだけなら指運というか、ままあることなのかもしれません。

しかし、ここで面白いのが銀子が自らの好手に気付いた理由なのです。

その理由とは、銀子に指された手を見て椚創多の方が動揺してしまったから。

椚創多の方が強く、手が読めるがゆえに銀子自身も気付かなかった好手に気付いてしまい、気付いてしまったが故にそれが銀子に伝わってしまった。

もしかしたら椚創多の方も銀子の好手に気付いていなかったら、銀子の心は折れて何を指されても投了していたかもしれません。

しかし、椚創多が自らの詰みに気付いてしまったが故に、つまり椚創多が強かったが故に銀子は格上である椚創多に勝利できたのです。

そういう結末は確かに現実にもありそうなものですが、銀子からしてみれば試合に勝って勝負に負けたようなもの。

勝利はしたものの来たる三段リーグに向けては不安を残す結果となりました。

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